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やがて訪れる新しい時代に先駆けて... ルジュヌ、モテトゥスと詩篇。 [before 2005]

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桜の開花のニュースが聞えて来たら、もう春ですね。
さて、前回、『王妃のバレ・コミック』を聴いてみて、ふと思う。リュリ以前のフランス音楽って、どんなだった?中世期、フランス音楽こそヨーロッパを主導し、まさに黄金期であったわけだけれど、百年戦争(1337-1453)による損失は大きく、音楽の中心はブルゴーニュ、フランドルへと移り、ルネサンス期を迎える。で、音楽の中心でなくなってからのフランス音楽の姿というのが見えて来ないように感じ... そこで、『王妃のパレ・コミック』(1581)にも楽曲を提供していたルジュヌの音楽を聴いてみようかなと... ルネサンスの音楽が爛熟期を迎えていた頃、初期バロック的な音楽を模索し始めていたフランスにおける先駆者に、フランス音楽史の"早春"を見出す。
オリヴィエ・シュネーベリ率いる、ヴェルサイユ・バロック音楽センター、レ・パージェ・エ・レ・シャントルによるコーラスをメインに、ルジュヌによる教会音楽を拾い上げる興味深いアルバム、"Muze honorons l'illustre & grand Henry"(Alpha/Alpha 032)を聴く。

宗教改革(1517)で、ヨーロッパが大きく揺れた頃、フランスもまた例外ではなく、16世紀後半、旧教と新教の対立は内戦にまで発展、派閥間の政治闘争まで絡み、極めて不安定な状況が続いた。そうした中、新教徒のルジュヌ(ca.1530-1600)は、旧教側の宮廷に仕え、巧みに生き残り、ルネサンスから初期バロックへとうつろう時代に、大きな存在感を示す。やがて、国王、アンリ3世が暗殺(1589)されると、新教側のリーダー、ブルボン家のアンリがアンリ4世(在位 : 1589-1610)として即位。旧教への改宗(1593)、さらには信仰の自由を保障するナントの勅令(1598)を発し、国内融和が図られ、フランスは、絶対王政の繁栄へと歩み出す。そして、この新教と旧教の融和を、ルジュヌによる教会音楽で綴るのがこのアルバム。
マニアック?いや、フランスの音楽史を丁寧に紐解いて、フランス音楽により広がりを見せてくれるシュネーベリならではの視点に貫かれた1枚は、新教の仕事も、旧教の仕事もこなしたルジュヌの、ラテン語で歌われる旧教のためのモテトゥスと、フランス語で歌われる新教のための詩篇を並べ、フランス史の1ページを、実に興味深い対比で聴かせてくれる。従来のポリフォニックなモテトゥスと、そうしたところから脱しようとするホモフォニックな詩篇... 旧い形を堅持しようとする勢力と、現実に見合った新しい形を模索しようとする勢力を見事に象徴していて、時代の鏡としての芸術を目の当たりにさせられる。一方で、ルジュヌの音楽の先進性というものも全体から滲み出ていて、旧さに浮かぶ新しさの絶妙さというのか、その不思議なカクテル感が魅惑的ですらある!
フランスにおいて、フィレンツェのカメラータのような活動を試みた、詩と音楽のアカデミー(1570-74)の主要メンバーであったルジュヌ。やはり、古代ギリシアの音楽の復興を目指し、ポリフォニーから脱する新しい音楽の在り方を模索し、フランスにおいて、いち早く初期バロック的な音楽に至ったわけだけれど、完全に舵を切ることは無かったようでもあり... イタリアのようにひとつのスタイルをストイックに貫くのではなく、実にフレキシブルにポリフォニーとホモフォニーを行き来し、ポリフォニックにふんわりと始まったかと思うと、やがてホモフォニックに歌い上げ、音楽が力強く響き出してインパクトを残す。そこに、フランスならではのメロディックさ、色彩感というものも見て取れて、時には軽やかにリズムが弾け、どことなしにポップでもあるというお洒落さすらあったり... イタリアの初期バロックの教会音楽のイメージを思い起こせば、ルジュヌの新旧を行き来する在り様に豊かさを見出して。特に、アルバム後半の新教側の詩篇の、タンバリンや太鼓にすら彩られて歌われる雰囲気は何だろう... 教会音楽の辛気臭さなんて微塵も感じさせることなく、春が香るようなのどやかさに充ちて、素敵!
そんなルジュヌの魅力を絶妙に引き出した、シュネーベリ+レ・パージュ・エ・レ・シャントル。古楽モノから18世紀まで、フランス音楽のエキスパートだけに、お手の物といったところなのだろう。で、そのこなれた感覚が生み出す雰囲気というのは、フランスらしさをより醸すのか... そして、レ・パージュ(小姓)の歌声の愛らしさ!こどもたちのコーラスの飾らない歌声が加わることで、ほのぼのとした表情が生まれて、印象的。一方、レ・シャントル(聖歌隊)、大人たちのコーラスは、程好く艶やかで、この2つが重なって生まれる、より人間的な温かみは、何とも言えない。そこに加わる5人のソリストたちの楚々とした雰囲気もまたいい味を醸していて。ソロとしての存在が際立つのではない、コーラスとナチュラルにつながって、綾なす感覚がすばらしい効果を出している。そんな歌声に寄り添い、瑞々しいサウンドを聴かせてくれる器楽アンサンブルもまたすばらしく、特にチュベリの吹くコルネットのふわっとした軽さが春めいて心地良い。

LEJEUNE Muze honorons...
Les Pages & les Chantres - Olivier Schneebeli


ルジュヌ : ミューズよ、いざ誇り高き歌を歌わん 〔アンリ4世を讃える歌〕
ルジュヌ : 詩篇 第33篇 「主に従う人よ、主によって喜び歌え」 〔バイフの仏訳による〕
ルジュヌ : マニフィカト
ルジュヌ : モテトゥス 「エルサレムのおとめたちよ、誓ってください」
ルジュヌ : モテトゥス 「悲しみの軍勢がわたしを捕え」 〔サヴォナローラの詩による〕
ルジュヌ : 詩篇 第88篇 「主よ、わたしを救ってくださる神よ」 ドービニェの仏訳による〕
ルジュヌ : 詩篇 第114篇 「イスラエルはエジプトを」/詩篇 第115篇 「わたしたちでなく、主よ」 〔バイフの仏訳による〕
ルジュヌ : 詩篇 第136篇 「賛美せよ、主の御名を」 〔バイフの仏訳による〕
ルジュヌ : テ・デウム 「主たるあなたを、わたしたちは賛美しよう」 〔ドービニェの仏訳による〕

オリヴィエ・シュネーベリ/レ・パージェ・エ・レ・シャントル
クレール・ルフィリアトル(ソプラノ)
ダモアン・ギヨン(アルト)
ブリュノ・ル・ルヴリュール(アルト)
ジャン・フランソワ・ロンバール(オートコントル)
ベルナール・アリエッタ(バス)

ジャン・チュベリ(コルネット)
ベルナール・フルテ(セルパン)
セルジュ・ギユー(サックバット)
マニュエル・ド・グランジュ(リュート)
バンジャマン・ペロ(アーチリュート)
シルヴィア・アブラモヴィッツ(バス・ヴィオール)
ジャン・シャンブー(パーカッション)
フレデリック・デザンクロ(オルガン)

Alpha/Alpha 032




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