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より自由に、スカルラッティ... [2011]

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リリースされて、かなり経ってしまったのだけれど、アレクサンドル・タローの弾く、スカルラッティ(Virgin CLASSICS/6420160)を聴く。
前作のショパン(Virgin CLASSICS/6420162)からは一転のバロック... いや、タローのバロックものを待っていました!ドビュッシーの「ラモーを讃えて」を最後に弾いてエスプリを効かせるラモー(harmonia mundi FRANCE/HMC 901754)に始まり、イタリアにインスパイアされたバッハ(harmonia mundi FRANCE/HMC 901871)、フランスのクラヴサンの伝統の最後を飾ったデュフリで締めるクープラン(harmonia mundi/HMC 901956)と、harmonia mundiからリリースされたバロックのアルバムは、タローのセンスに貫かれ、その瑞々しさが強く印象に残る。そして、Virgin CLASSICSからは、ストレートにスカルラッティ... ショパン・イヤーのショパンに続いての王道路線に、タローらしさが心配にもなるのだが... ストレートにスカルラッティもまたタローの手に掛かれば、おもしろい。

という前に、このアルバムを聴いて、ドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)が、バッハ(1685-50)と同い年であることを知る。って、今さらなのか... いや、てっきり、バッハの後の世代だとばかり思って来た。ナポリ楽派の隆盛に道筋を付けた巨匠、アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)を父に持つドメニコ・スカルラッティ。音楽史に置いては、父ほどの存在感は示せていないようにも... そんな、偉大な父を持つ... というイメージからか、バッハ家のこども世代に近いのかな?と、思い込む。何より、ドメニコの書いた膨大なソナタの、バロックにして、バロックよりもその後の時代を先取りするかのような瑞々しさ、キャッチーさが、厳めしいバッハの鍵盤楽器のための作品と同じ時代に生まれていたとは、今さらながら驚いてしまった。また、タローの手に掛かると、余計に時代感覚はぼやけて、よりイマジネーションを掻き立てる豊かな響きが広がるよう。
タローのバロックものは、本当におもしろい。ここ数年のクラシックは、バロックのレパートリーに関して、ピリオドだの、オリジナル主義だの、神経質なところがあるようにも感じるのだけれど、どこ吹く風と、近代のピアノで、弾きたいように弾く、囚われない、流されない、タローの自由な雰囲気に、とても心地良いものを感じる。そうすることで、バロックの作品も、活き活きと豊かな表情を次々に見せ、音楽史という堅苦しい枠組みを脱ぎ捨て、音楽そのものの魅力を雄弁に語り出すかのよう。そして、スカルラッティでは、よりそうした感覚が際立ち、時にモーツァルトのような、あるいはもっと先の時代を思わせるような... 一方で、しっかりとバロックを響かせるものもあり、ひとつの時代に納まり切らない、幅の広い音楽を展開する。いや、その幅の広さに、現代の作曲家(例えば、シルヴェストロフのような... )が、かつての時代をフレキシブルに捉え、今、新たにソナタを書いたのでは?というような、意図的な古さというか、かつてを懐古するようなトーンも滲むようで、いつの時代の作品を聴いているのか、惑わされるような思いも。そして、その惑わされるあたりがおもしろい!
ピリオド、オリジナル主義以前の、ロマンティックに重いクラシックに戻るのではなく、「今」という地点に立ち、音符のひとつひとつと向き合って、より自由に振舞う、タローの姿が、なかなかダンディ。やっぱり、フランスのピアニストと言うべきか... 粋の一言。これまでのタローのバロックものならば、ひとつ凝ったものが差し挟まって、用意周到に既存のクラシックから距離を置いてみせた。ドビュッシーの「ラモーを讃えて」だったり、バッハでありながら、それらはみなイタリアの作曲家にオリジナルが求められるものであったり、クラヴサンの時代の最後、デュフリをピアノで弾いたりと、他では聴けない、凝ったことができるのがタローだった。が、スカルラッティでは、何も差し挟むことなく、ストレートにスカルラッティを取り上げる。メジャー・レーベルに移ったからなのか?と、勘ぐってしまうのだけれど、その音に触れると、タローそのものの成長を感じる。ショパン・イヤーにショパンを弾いた時にも感じた、特に凝らずとも自由になれるタローの姿。あるがままを受け入れる姿。衒う必要の無い、自分のピアノをしっかりと見つけたような、一皮剥けたタローの紡ぎ出す音楽に、より魅了される。
しかし、素敵なスカルラッティだ。タローの両の手ですくい上げられた、スカルラッティの音符、ひとつひとつは、そのまま宙に放たれ。タローの魔法に掛かったか、重力を無視して、際限なくフワフワと自由に動き出すような、そんなスカルラッティ... あらゆることから解き放たれた音楽の、ナチュラルな姿、そこから得られる、シンプルな悦びは、理屈抜きに楽しく、ただただ素敵だ。

Alexandre Tharaud plays Scarlatti

ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.239 ヘ短調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.208 イ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.72 ハ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.8 ト短調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.29 ニ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.132 ハ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.430 ニ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.420 ハ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.481 ヘ短調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.514 ハ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.64 ニ短調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.32 ニ短調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.141 ニ短調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.472 変ロ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.3 イ短調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.380 ホ長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.431 ト長調
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ K.9 ニ短調

アレクサンドル・タロー(ピアノ)

Virgin CLASSICS/6420162




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