Amazing Spain ! [2007]
この間、テレビ(NHKのBS プレミアムでやっている、『Amazing Voice』... )で見た、フラメンコ(踊る方ではなく、歌う方... )が凄かった!声帯から発せられるというよりは、魂が震えて発せられるかのような、ただならないパワー、圧倒的な存在感(最後の、エレディア父娘の歌には、ちょっと放心状態... )。日本人がぼんやりと期待する、安っぽいエキゾティシズムをブチ壊す、本物のフラメンコの姿に驚愕させられる。恐るべしスペイン!
それにしても、スペインというのは、ヨーロッパにして、ヨーロッパというイメージには納まり切らない、独特さがある。フラメンコがヒターノによる文化であったとしても、それもまたスペインという地で花開いたもので、あらゆる文化が交差して育まれる、その独特さに、改めて興味深いものを感じてしまう。そして、その独特さの下、育まれるスペインの古楽界の個性的なあたりも興味深く... ということで、2007年にリリースされた、エドゥアルド・パニアグア率いる、ムジカ・アンティグアの、ケルトのカンティーガ集(PNEUMA/PN 820)と、エスペリオンXXIなどでも活躍するギタリスト、シャビエ・ディアス・ラトーレが主催する、ラベリントス・インヘニオソスによる、ガスパル・サンスの『スペイン式ギター指南曲集』(Zig-Zag Territoires/ZZT 061002)を聴き直す。
それにしても、スペインというのは、ヨーロッパにして、ヨーロッパというイメージには納まり切らない、独特さがある。フラメンコがヒターノによる文化であったとしても、それもまたスペインという地で花開いたもので、あらゆる文化が交差して育まれる、その独特さに、改めて興味深いものを感じてしまう。そして、その独特さの下、育まれるスペインの古楽界の個性的なあたりも興味深く... ということで、2007年にリリースされた、エドゥアルド・パニアグア率いる、ムジカ・アンティグアの、ケルトのカンティーガ集(PNEUMA/PN 820)と、エスペリオンXXIなどでも活躍するギタリスト、シャビエ・ディアス・ラトーレが主催する、ラベリントス・インヘニオソスによる、ガスパル・サンスの『スペイン式ギター指南曲集』(Zig-Zag Territoires/ZZT 061002)を聴き直す。
レオナルド・ダ・ヴィンチをフィーチャーした最新盤(PNEUMA/PN 1320)は、彼らならではのセンスで、イタリアのルネサンスを捉え直し、とてもおもしろかった。が、エドゥアルド・パニアグア+ムジカ・アンティグアというと、やっぱりカンティーガ... ということで、カスティーリャ王、アルフォンソ10世(在位 : 1251-82)の編纂による『聖母マリアのカンティーガ集』を、地道に取り上げている、"コレクシオン・カンティーガス"から、ケルトのカンティーガ集を聴き直してみる。のだけれど、まずは、カンティーガについて...
13世紀のスペイン、聖母マリアの奇跡や逸話を歌ったものがカンティーガ。トロバドゥールたちの歌の流れを汲み、キリスト教支配下に暮らすイスラム教徒たち、ムデハルの影響を受け、ただならずエキゾティック。そこに、中世のアンダルシア、イスラム系王国の宮廷を彩った音楽もレパートリーとするムジカ・アンティグアのセンスがもたらされれば、ワールド・ミュージック的な音楽世界が繰り広げられることに。
さて、カンティーガには、いろいろな地方や国にまつわるものがある。これまでも、"コレクシオン・カンティーガス"には、フランドル、ドイツ、イングランド、ピザンツなど、様々なカンティーガ集が登場している。で、そこに、ケルトのカンティーガ集もあるのだが... 「ケルト」そのものが個性的であるのに、その個性がどうカンティーガに反映されるのだろう?というより、ケルトとカンティーガという組合せはあり得るのか?と、多少、懐疑的に、興味津々で聴き始めたのを覚えている。恐いもの聴きたさ?で手に取った1枚だったが、これが、見事!ケルトにして、カンティーガ... 想像が付き難い組合せは、思い掛けない不思議サウンドに昇華されてしまう。
ハープやバグパイプといった、ケルトをイメージさせる音色に導かれて歌われるケルトのカンティーガ集。ケルトも対応できてしまうムジカ・アンティグアの器用さにも驚かされるのだが、北の爽やかな素朴さと、南の濃厚な素朴さが、ぶつかることなく自然につながってしまうのも驚かされる。そこに、地中海文化圏を強く感じさせるムジカ・アンティグアならではの歌声が乗っかると、素朴さに艶っぽさが加わって、多国籍にして無国籍のような、これまで味わったことの無い魅惑的なおもしろさに、どきどきしてしまう。
いや、当時のスペインというのは、こんな感じだったのかもしれない。多くのユダヤ人が、アラブ系の人々が暮らし、北からはアイルランドの修道士たちが、ピレネー山脈の向こうからはサンティアゴ・デ・コンポステーラに向かう巡礼者たちがやって来て、南にはイスラム系王国、アフリカ出身の王朝も勢力を誇り、まさに文化の坩堝そのもので。改めてこのアルバムを聴き直してみると、そのミクス・カルチャーな姿に、衝撃を受ける。そして、そのミックスされたあたりがめちゃくちゃカッコよくもあり... 36番のカンティーガ、「ブルターニュの船」(track.5)なんて、アフリカの太鼓のリズムで、アイルランドのステップ・ダンスが始まりそうな、見事なノリの良さ!
フォークロワな視点から中世に迫ると、かえって現代的?何とも言えず、キャッチーな魅力に溢れているケルトのカンティーガ集は、当然、「クラシック」なんていう枠組みを超越して、「古楽」の自由さを最大限に展開し、おもいっきり楽しませてくれる。さらに、歌良し、演奏良しで、録音がまた良し... 何より、土に根差したサウンドの力強さに、早くも夏バテ気味の身体には、元気をくれる!
CANTIGAS CELTAS ・ ALFONSO X EL SABIO ・ EDUARDO PANIAGUA
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第386番 「漁師の王」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第108番 「マーリンのカンティガ」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第23番 「ブルターニュのワイン」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第101番 「小鳥」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第36番 「ブルターニュの船」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第85番 「イングランドのユダヤ人」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第86番 「モンサンミシェルの妊婦」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第226番 「グレート・ブリテンの修道院」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第285番 「修道女と騎士」- 第207番 「復讐」
エドゥアルド・パニアグア/ムジカ・アンティグア
PNEUMA/PN 820
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第386番 「漁師の王」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第108番 「マーリンのカンティガ」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第23番 「ブルターニュのワイン」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第101番 「小鳥」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第36番 「ブルターニュの船」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第85番 「イングランドのユダヤ人」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第86番 「モンサンミシェルの妊婦」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第226番 「グレート・ブリテンの修道院」
■ 『聖母マリアのカンティーガ集』 から 第285番 「修道女と騎士」- 第207番 「復讐」
エドゥアルド・パニアグア/ムジカ・アンティグア
PNEUMA/PN 820
まさに、スペインのイメージ!シャビエ・ディアス・ラトーレのギターに、ペドロ・エステバンのパーカッションが奏でるサンスの『スペイン式ギター指南曲集』。カンティーガの時代から4世紀が経ち、中世のミクス・カルチャーからは一転、スペインというイメージの中で響く音楽... それもまた、魅惑的。
カスティーリャ王国とアラゴン王国が統合(1469)され、レコンキスタ(キリスト教徒による対イスラム勢力、国土回復運動)も完遂(1492)し、今に至るスペインが初めて誕生する。それまで、様々に混在し共存していた文化も、「スペイン」の下、ひとつの文化に撚られてゆくのだが。その過程には、ユダヤ人の追放、モリスコ(イスラム教からキリスト教へ改宗したアラブ系の人々)の追放という比寛容も。しかし、中世のミクス・カルチャーの記憶は深く根を下ろし、スペインの音楽の際立った個性に表れる。ヨーロッパにして、ヨーロッパというイメージには納まり切らない、独特さ... 『スペイン式ギター指南曲集』もまたしかりで...
バッハ(1685-1750)の親世代、リュリ(1632-87)と同世代となるガスパル・サンス(1640-1710)。バロック期の作曲家にカテゴライズされるものの、『スペイン式ギター指南曲集』を聴いていると、そういう時代感覚が狂いかねない。初期バロック的な部分もあるのだが、いわゆるバロックらしさはあまり感じられないその音楽。何より、今に聴くスペインのフォークロワなサウンドのイメージに重なり、スペインに期待するエキゾティシズムを十分に満たしてくれる。もちろん、フォークロワそのままでなく、芸術音楽としての洗練された響きはとても美しく。またそこに、現代に通じるような感覚を見出し、クラシックの堅苦しさを脱するような瑞々しさも印象に残る。
そうした印象を巧みに引き出すのが、ディアス・ラトーレのすばらしいギター... 丁寧に作品を捉え、作品の持つキラキラとした輝きを繊細に響かせる。すると、全ての音が吹き抜ける風のように舞い、聴く者の耳を心地良く撫ぜてゆく。フラメンコ調の影を帯びるようなあたりも、下手に重くなることなく、さらりと美しく仕上げ、ガラス細工のようなメランコリーを見せる。となると、多少、薄味のスペインなのかもしれない。が、それはスタイリッシュなスペインであり、現代的なセンスを感じさせ、軽やか。そこに、絶妙に寄り添うペドロ・エステバンのパーカッションがまた最高で。控え目に、やさしく刻まれるリズムが得も言えず。ギターに対し、スパイスを効かせるのではなく、ギターの響きに深みを与えるかのような効果が興味深く。ひとたたき、ひとたたきに、魔法を籠めてしまうペドロ・エステバンの妙技に、感服するばかり。脇役に徹して、その存在は地味なのだけれど、やっぱりこの人はタダモノではない。
それにしても、爽快な1枚!改めて聴いて、このアルバムのセンスの良さに、魅了される。やっぱり、スペインの音楽というのは、独特... というものを噛み締めながら、その演奏は、どこかでスペインの独特さと距離を取るようでもあり、熱っぽいスペインの情熱を少し冷まして、様々な文化が通過して引き起こされた悲喜交々が生み出す情念の滴りのようなものを拭い、現代にカラリと響かせる。その温度感、湿度感の調節が見事... 理知的なクールさが、理屈抜きにカッコよく。この熱い日々に聴けば、一服の清涼剤にもなりそう。
Gaspar Sanz ・ Laberintos Ingeniosos Xavier Diaz-Latorre ・ Pedro Estavan
■ サンス : 『スペイン式ギター指南曲集』
ラベリントス・インヘニオソス
シャビエ・ディアス・ラトーレ(ギター)
ペドロ・エステバン(パーカッション)
Zig-Zag Territoires/ZZT 061002
■ サンス : 『スペイン式ギター指南曲集』
ラベリントス・インヘニオソス
シャビエ・ディアス・ラトーレ(ギター)
ペドロ・エステバン(パーカッション)
Zig-Zag Territoires/ZZT 061002
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