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二〇一〇、グラミー賞から... [overview]

さて、グラミー賞が発表された。そして、日本人が4人も受賞!
と、ニュースを賑わせているわけだが... その、クラシック部門はどうだったか?まずは、内田光子女史、"Best Instrumental Soloist(s) Performance (with Orchestra)"にて、モーツァルトの23番、24番のピアノ協奏曲(DECCA/478 1524)のアルバムが受賞!マエストラ・ミツコ、再びのモーツァルトで存在感を示したか。で、気になる"Best Classical Album"には、ムーティ+シカゴ響によるヴェルディのレクイエム(CSO・RESOUND/CSOR 9011006)... なのだけれど、その選出、ちょっとつまらない?
もちろん、おもしろい/おもしろくない、ではなく、すばらしいかどうかがクラシックなのだけれど、内田光子のモーツァルト、ムーティのヴェルディって、すでに十二分に評価されているわけで... 新鮮味に欠ける帰来も...
が、クラシック部門、他の賞の行方を見渡すと、ちょっと驚かされる。

"Best Orchestral Performance"には、マイケル・ドアティのメトロポリス・シンフォニーとデウス・エクス・マキナ(NAXOS/8.559635)。"Best Opera Recording"には、サーリアホのオペラ『彼方からの愛』(harmonia mundi/HMC 801937)と、かなり大胆に現代音楽に賞を贈っている。"Best Instrumental Soloist Performance (without Orchestra)"には、ポール・ジェイコブスのピアノで、メシアンの『聖体秘跡の書』(NAXOS/8.572436)。"Best Chamber Music Performance"には、パーカー四重奏団のリゲティの弦楽四重奏曲集(NAXOS/8.570781)と、20世紀後半の音楽が並び、一転、"Best Small Ensemble Performance"では、日本にはまだ入荷していないサヴァールの"Dinastia Borja"(Alia Vox/AVSA 9874)が早くも受賞。"Best Classical Vocal Performance"では、今頃?という気もしないでもないが、バルトリの"SACRIFICIUM"(DECCA/478 1521)が受賞。ルネサンスで、バロックで、なおかつマニアックな2タイトルに、それぞれ賞が渡ったのが印象的...
グラミーのクラシック部門というのは、ヨーロッパの各賞とは間違いなく毛色(アメリカのアーティストへの強いこだわりなど... )が違うわけだけれど... そもそも、クラシックにおけるグラミーの位置付けというのが、微妙?しかし、2010年はラディカルに攻めて来て、かなり興味深い。いや、これくらい掻き回すような選考があった方が、クラシックはおもしろくなるように感じる。これまでのクラシックとは違うクラシック像... というのが、21世紀のクラシックの鍵になるような気がする。

さて、当blogも2010年を振り返っている最中でして...
2010年、室内楽曲をあまり聴いていない... のだけれど、聴いた1枚1枚は、どれもおもしろかった室内楽曲。まず印象に残るのは、リンコントロの"QUARTETTI FUGATI"(Zig-Zag Territoires/ZZT 091003)。古典派の時代、18世紀、オーストリアにおける「フーガ」をテーマに、緻密な構成で、弦楽四重奏というストイックなスタイルで、まるで万華鏡のように音楽を展開してみせた希有な1枚。多分にアカデミックでありながら、頭でっかちにならなず、謎めいて魅力的だった。それから、18世紀、ロンドンにスポットを当てた、イル・ガルデリーノによるバッハ―アーベル・コンサートの室内楽作品集(ACCENT/ACC 24221)も魅力的な1枚。ヨハン・クリスティアン・バッハと、カール・フリードリヒ・アーベルによる伝説のコンサートを再現する1枚だが、その上質な室内楽作品と、何より、腕利き揃いのイル・ガルデリーノの演奏がすばらしく... 協奏曲で取り上げたベンダ兄弟の協奏曲集(ACCENT/ACC 24215)もあり、イル・ガルデリーノ、今、最も気になるピリオド・アンサンブルかも...
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そして、最も印象に残る室内楽曲のアルバムは... リノス・アンサンブルの新ウィーン楽派によるワルツ編曲集(CAPRICCIO/5004)。何だろう?このワルツ... パワフルで、音の芯から明るい。で、そんなワルツが掛け値なしに楽しくて... 新ウィーン楽派によるアレンジが、ヨハン・シュトラウスのワルツから、ウィーン情緒の曖昧さを洗い流し、音楽そのものの魅力をより引き立たせ。それを、リノス・アンサンブルの素直な音楽性が捉えると、健康的な3拍子を取り戻し。そんな3拍子に身を任せると、まるでメリーゴーラウンドで風を切るような爽快感!今の時代、絶対に必要だと思う。こういう楽しさ...
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さて、ピアノで最も印象に残るアルバムは... その薫り立つサウンドに、酔わされて、1曲目を聴き終わる前にノックアウト!ヨーゼフ・モークによる"Divergences"(claves/50-1005)。ジョンゲン、レーガー、スクリャービンという組合せの斬新さと、その組合せが生み出す、斜に構えてモダニスムのメインストリームを見つめる視線のセクシーさ... というのか、予想外の雰囲気に、クラクラしてしまう。ジャケットの、ソファーの革張りのヴィジュアルも、どこかフェティッシュでクール!トータルにそのセンスが良さを見せてくる。いや、この若い才能、俄然、目が離せなくなりそう。で、次も楽しみ...
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それから、ブラウティハムのフォルテピアノによるベートーヴェンのピアノ独奏曲全集... とうとうピアノ・ソナタが完遂。28番と、最後の3つのピアノ・ソナタを収録したvol.8(BIS/BIS-SACD-1613)も、すばらしい1枚だった。これまでも、ブラウティハムにベートーヴェンのピアノ・ソナタはすばらしかったわけだが、さらにさらに深化を遂げたvol.8は、ブラウティハムならではのクリアな響きと、ナチュラルな表情、そこから沸き上がる深い感動が印象的。シリーズは、これから変奏曲を取り上げることになるのだろうが、ディアペッリ変奏曲など、かなり楽しみに。
オペラに関しては、意外にいろいろと聴いた2010年。その中でもおもしろかったのは、アーノルドの『ポリー』(NAXOS/8.660241)。ヘンデルを窮地に陥れた伝説の『ベガーズ・オペラ』の続編ということで、興味津々で聴く。で、その軽さとキャッチーさが、なかなか魅力的。18世紀、古典派時代のロンドンのオペラを体験する貴重な機会にもなった。それから、時代を下って、ラフマニノフが卒業制作で書いたという『アレコ』(CHANDOS/CHAN 10583)も、なかなか興味深かった。いや、これが卒業制作だったとは!恐るべし、ラフマニノフ... ノセダ+BBCフィル、ロシア人歌手でまとめられたキャストの歌もすばらしかった。
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そして、最も印象に残るアルバムなのだが... ビオンディ+エウローパ・ガランテによる2つ目となるヴィヴァルディのオペラ全曲盤、『テルモドンテのエルコレ』(Virgin CLASSICS/6945450)。ビオンディの熱意と、それに応えるエウローパ・ガランテ、そしてゴージャス過ぎる歌手陣!オペラ作曲家、ヴィヴァルディの魅力ではち切れんばかりだった。で、同時期にリリースされたアントニーニ+イル・ジャルディーノ・アルモニコによる『離宮のオットーネ』(naïve/OP 30493)との競演も注目点で... 2010年の冬は、この2タイトルで、ヴィヴァルディ・オペラ・フェスティヴァル!と、すっかり楽しむ。
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それから、大きなインパクトを残したのが、ヤーコプスによるモーツァルトのオペラのシリーズ、6作目となる、『魔笛』(harmonia mundi/HMC 902068)。ヤーコプスも年を取って、近頃は出来不出来に、多少、波が出てきたかな?と思っていた矢先に、津波級の『魔笛』をもたらしてくれて、驚かされる。歌い手出身のヤーコプスだからこその、徹底して歌に貫かれた『魔笛』は、台詞までもが雄弁に歌い出すかのよう... そうして生まれる独特の生命感は、これまでの『魔笛』には無かったもの。そして、ただただ魅了されるばかり。マエストロ・ヤーコプスに、改めて脱帽。
ヴォーカル、まず印象に残るのは、ラトヴィア放送合唱団を助っ人に、リヒャルト・シュトラウスの伴奏合唱作品(naïve/V 5194)を歌った、エキルベイ+アクサンチュス。その美し過ぎる作品と、それをアンビエントに仕上げるエキルベイならではのセンスが絶妙に共鳴して、ちょっとクラシック離れした感覚を生み出すあたりが新鮮。で、このアルバムで、見事に助っ人を務めたラトヴィア放送合唱団だが、彼らのアルバム、ラフマニノフの聖ヨハネス・クリュソストムスの典礼(ONDINE/ODE 1151)も、ただならずアンビエント。まるでニュー・エイジのようなサウンドで... ア・カペラのヴィヴィットさを思う存分に発揮した美しいハーモニーは、合唱王国、北欧ならでは。
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そして、最も印象に残るのは... フロリレジウムとボリビアの音楽家たちによるコラヴォレーション、"Bolivian Baroque"のシリーズ、vol.3(Channel Classics/CCS SA 28009)。南米のバロックということで、vol.1(Channel Classics/CCS SA 22105)、vol.2(Channel Classics/CCS SA 24806)と、興味深い音楽を聴いてきたわけただが、vol.3にきて、その感覚は突き抜けたか?とにかくハッピー!フロリレジウムの演奏は、いつもながら端正だが、そこに軽やかに乗る、ボリビアの音楽家たちの歌声が、たまらなく心地良く。そのピュアでやさしげなサウンドは、ほんわかと温か。
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で、ハッピーなボリビアから一転、ドイツ・リートを歌う、アマコードの"RASTLOSE LIEB(憩いなき恋)"(RAUMKLANG/RK ap 10108)。シューマン、メンデルスゾーンを軸に、ドイツ・ロマン主義を丁寧に拾い集め、美しくもどこかシニカルに綴るこのアルバム。多彩な作品を盛り込んで、変幻自在に歌い上げるアマコードの器用さ、表情豊かなア・カペラは、ドイツ・リートに活き活きとした生命力を吹き込んで、どこか湿気っている(なんて言ったら叱られる?)ように感じたドイツ・リートのイメージを、変えてしまうかのよう。その歌声、ただならず新鮮!見事な1枚。

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