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ヴェリズモのリアル。リアルと美しさのバランス。 [2009]

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ロッシーニ・ルネサンスが引き金になったか?ベルカント・オペラへの関心は高まり... "ピリオド"全盛を受けて、バロック・オペラが人気を集め... そうしたブームに、オペラの定番は霞みがち(ま、"クラシック"の東の辺境では、そんな心配、ほっとんどないが... )。録音ともなれば、霞むどころの騒ぎではない。と、嘆くかと思いきや、喜んでしまう!おかげで、より多くの目新しい作品に触れることができ、エキサイティングなここ数年... なのだが、そんなブームも、また一巡し、次なる波は、ヴェリズモ・オペラか?
そんな期待を抱いてしまうアルバム、ルネ・フレミングの最新盤"VERISMO"(DECCA/478 1533)。イタリア・オペラの爛熟期、19世紀末から20世紀前半にかけてのアリアを、ヴェリズモの二枚看板、マスカーニ、レオンカヴァッロはもちろん、プッチーニや、その同時代の作曲家まで、丁寧に拾い集めたアリア集を聴く。

ヴェリズモ・オペラというと、マスカーニ(1863-1945)に、レオンカヴァッロ(1857-1919)... というイメージがまずあって。それも、痴情殺人事件、『カヴァレリア・ルスティカーナ』(1890)と、『道化師』(1892)のイメージばかり?となると、「サングエッ!」(血)とか、「モルトッ!」(死)とか、血の気の多いイメージ。ヴェリズモ=現実主義。生々しい描写で、オペラ史に大きなインパクトを与えたのがヴェリズモ・オペラ。だが、フレミングが丁寧に拾い集めた「ヴェリズモ」は、リアルがひたひたと音楽となって打ち寄せてくるような、そんな感覚。極端な展開よりも、坦々とした日常が紡ぎ出す、静かなるドラマ(でもないものもあるのだけれど... )。というのか、それぞれの人生が垣間見える瞬間を、センシティヴなアリアで聴かせる。となると、名アリア集とは一味違う。そこに、フレミングのこだわりのセレクションがあって、興味深く、また絶妙。
マスカーニならば、『カヴァレリア・ルスティカーナ』ではなく、『イリス』を... レオンカヴァッロならば、『道化師』でなく、『ラ・ボエーム』(プッチーニの翌年に初演された、もうひとつの『ラ・ボエーム』)を... それも、プッチーニの『ラ・ボエーム』で挟んでみたり、なかなか凝った構成。さらに、カタラーニ(1854-93)、チレア(1866-1950)、ジョルダーノ(1867-1948)、ザンドナイ(1883-1944)と、普段は、ヴェルディ、プッチーニで片付けられてしまうイタリア・オペラの爛熟期を、より多くの作品を並べて、ヴェリズモ・オペラの多様な表情を見せてくるあたりが新鮮。アルバムの最後は、プッチーニの『つばめ』で、軽やかに締め括るあたりも、ヴェリズモのステレオ・タイプに、変化球を投げてよこすようで...
圧巻は、レオンカヴァッロの『ザザ』(track.10)。愛する男のこども(トト、この子がなんとも愛らしく... )と出会い、その母であり、男の妻とも遭遇してしまう、不倫から抜け出せない女、ザザ... その音楽に耳を傾ければ、イタリア語であることなど関係なく、どういう状況なのか、手に取るよう。ザザの複雑な、何とも言えない心境が、シーンの背景(トトとの対話と、トトが弾くかわいらしいピアノ)を前に、見事に描かれ。何気ないシーンだが、まるで映画のワン・シーンように瑞々しく物語を捉える。だからこそ、切な過ぎて... フレミングの好演(歌を聴かせる以上に、ザザのリアルな姿を見せてくる... )もあって、惹き込まれずにいられない。
やはり、フレミングは、19世紀末から20世紀前半の、オペラ爛熟期の作品が合う!ドイツならばリヒャルト・シュトラウス、イタリアならばこのアルバムで取り上げた作品の数々... だろうか。濃厚で、艶やかで、それでいてやさしげな声で、丁寧にロールと向き合い紡がれていくドラマは、落ち着きを見せながらも、常に瑞々しい。そうした、フレミングならではの立ち位置から見つめるヴェリズモ・オペラは、等身大のリアルを見せつつ、ヴェリズモの生々しさとは裏腹に、美しい音楽を遺したヴェリズモの作曲家たちの巧みなあたりを紐解いて、ヴェリズモのセンセーショナルさではなく、ヴェリズモ自身のリアルな姿を詳らかにしていくよう。そこには、アルミリアートの指揮、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ響のすばらしいサポートもあり。さらに、アリアばかりにこだわらず、シーンを取り上げて、カウフマン(テノール)をはじめとする、歌手陣のアンサンブルもすばらしく、それぞれの作品の全曲盤を聴きたくなってしまう。何より、ヴェリズモ・オペラに魅了される... そのリアルと美しい音楽の絶妙なバランスが、酔わせてくれる。

RENÉE FLEMING VERISMO Orchestra Sinfonica di Milano Giuseppe Verdi/Marco Armiliato

プッチーニ : オペラ 『修道女アンジェリカ』 より 「母もなしに」
マスカーニ : オペラ 『イリス』 より 「ある日幼い頃、お寺に行って」
プッチーニ : オペラ 『つばめ』 より 「甘美で神聖な時を」
マスカーニ : オペラ 『ロデレッタ』 より 「ああ、彼の名が... フラメン、許して」
カタラーニ : オペラ 『ワリー』 より 「もう安らかではいられない」
プッチーニ : オペラ 『ラ・ボエーム』 より 「私の名はミミ」
レオンカヴァッロ : オペラ 『ラ・ボエーム』 より "Musette svaria sulla vocca viva"
レオンカヴァッロ : オペラ 『ラ・ボエーム』 より 「金髪の可愛い女の子を真似たピンソン」
プッチーニ : オペラ 『ラ・ボエーム』 より 「さようなら、あなたの愛の呼ぶ声に」
レオンカヴァッロ : オペラ 『ザザ』 より 「まるで天使のよう... あなたのお名前は?」
プッチーニ : オペラ 『マノン・レスコー』 より 「ひとり寂しくすてられて」
ザンドナイ : オペラ 『コンチータ』 より 「工場の人々」
チレア : オペラ 『グローリア』 より 「ああ、私の花のゆりかごよ」
ジョルダーノ : オペラ 『フェドーラ』 より 「すべての夕暮れ」
プッチーニ : オペラ 『トゥーランドット』 より 「氷のような姫君の心も」
ジョルダーノ : オペラ 『シベリア』 より "No! Se un pensier...Nel suo amore rianimata"
プッチーニ : オペラ 『つばめ』 より 「私はあなたの冷たい微笑を受け容れます」

ルネ・フレミング(ソプラノ)
マルコ・アルミリアート/ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団、同合唱団
ヨナス・カウフマン(テノール)、他...

DECCA/478 1533




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サンフランシスコ人

ルネ・フレミングをサンフランシスコ歌劇場で観ました...

http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id319.pdf
by サンフランシスコ人 (2016-02-03 08:51) 

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