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生まれる前と死んでから。 [2009]

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昨年の来日で、エイジ・オブ・エンライトゥンメントを率い、大胆にもバッハのヨハネ受難曲を演奏してしまったマーク・パドモア。今後、ヤーコプス(カウンターテナーから、"ピリオド"には欠かせない指揮者に... )のような存在に変容していくのか?そのあたり、ちょっと気になるイギリスのベテラン、"ピリオド"系、テノール歌手。だが、歌手としてのマーク・パドモアのイメージは、とにかく繊細なイメージで... そのクリアな声は、ボーイ・ソプラノの進化系?間違いなくテノールではあるのだけれど、ちょっと他のテノールとは違う感触がある。人生を積み重ねてきた大人の生臭さ(?)が抜けた、独特のトーン。というのか。そのルックスも、繊細で、神経質そうな?いや、どこか浮世離れしたような... が、彼の最新盤のジャケットを見て、驚かされた!
坊主、髭... これまでのイメージを覆すハードなルックス、その変貌ぶりに、びっくり。というインパクトに、ついつい手に取ってしまう、パドモアが歌うブリテンのアルバム"Before life & after(生まれる前と死んでから)"(harmonia mundi/HMU 907443)。ルックスのみならず、彼の歌にも何か変化があるのかと、聴いてみることに。

いや、それにしても、渋めの俳優。そんなイメージで...
これまで、万年青年のような雰囲気でいたけれど、彼も老けたか?が、間違いなくスタイリッシュに老けている!ジャケットにあるその姿は、風格を伴って、絵になっていて... "クラシック"の世界で、こういう老け方ができるのは奇跡?のような気がしてしまう(テノールといえば、メタボな顛末を迎えるのが常?)。何より、蔦の絡まる墓石を前に、人生を積み重ねてきた大人の深み見せつつ、アルバムのタイトルは"Before life & after"、「生まれる前と死んでから」となれば、どんなアルバムになっているのかと、興味津々。
その1曲目、"Oh my blacke Soule !"から、パドモアならではの、クリアな声が突き抜けてゆき、圧倒される。ルックスこそ老けたが、彼の声はまったく衰えを知らない... というより、そのクリアさは、より研ぎ澄まされていて、力強さを増しているような感触もあり。これまでは、限りなく美しい反面、どこかナイーヴ過ぎるようにも感じていたパドモアの声だったが、このアルバムで響く彼の歌声は、どこか超越した輝きを放つようで、時に神々しくすらある。それでいて、近代性と保守性がない交ぜの、一筋縄ではいかないブリテン特有の音楽を、器用に歌い、豊かな表情を紡ぎ出す。
パドモアによるイギリスの歌曲というと、テュークの絵画をジャケットに、ブリテン、フィンジ、ティペットの、危うげな世界を歌ったアルバム"Who are these children ?(この子らはだれか?)"(hyperion/CDA 67459)が印象に残る。あちらこちらで、その年の歌曲のアルバムのベストに選ばれる秀逸なものだったけれど、"Before life & after"では、さらに磨かれたイギリス歌曲の世界が広がるよう。イギリスならでは、ブリテンならではのフレッシュさや、ヴィヴィットさはまったく失われずに、落ち着いた、腰の据わった音楽が展開されて、その揺るぎない音楽の姿に、改めて魅了される。それでいて、アルバムのタイトルにもなっている"Before life & after"で締め括られる歌曲集『冬の言葉』(track.13-20)では、ブリテンならではのポップさを、じんわりと感じて。冬の匂いと、粋なセンスが、いい味を醸す。また、パドモアのハイトーンには、時折、"U.K."ロックな色合いが滲むようなところもあって、おもしろい。
さて、個性の強いブリテンの歌曲の一方で、ブリテンの編曲によるパーセル、イギリス民謡が、このアルバムにまたナチュラルなカラーを添えていて、アクセントに。"ピリオド"きっての歌い手、パドモアにとっては、そのあたりは、水を得た魚といったところ。オリジナルのアルカイックさ、素朴さを活かすブリテンの編曲に乗って、より伸びやかに歌い、イギリスの歌の伝統というのか、大陸とは一味違うヴィヴィットさを、さり気なく際立たせる。そこには、やはり、現在へと繋がる"U.K."のDNAを見出す思いも。
パーセル、イギリス民謡、ブリテンと聴いて、そこはかとなしに「イギリス」を感じ。パドモアの声に、ピーター・ピアーズ(ブリテンのミューズ)に連なるイギリスのテノールの伝統を感じ。アルバム"Before life & after"は、上質な歌とともに、イギリスの音楽の深淵に触れるような、そんな感覚もあり、興味深い。

BRITTEN 'Before life & after' MARK PADMORE – ROGER VIGNOLES

ブリテン : ジョン・ダンの神聖なソネット Op.35
パーセル/ブリテン : 朝課
パーセル/ブリテン : ヨブの苦難
パーセル/ブリテン : 晩課
ブリテン : 冬の言葉 Op.52
ブリテン : "I Wonder as I Wonder" 〔"Hill folk"の歌 より〕
ブリテン : "Sail on, sail on" 〔民謡編曲 第4集 より〕
ブリテン : "The Miller of Dee" 〔民謡編曲 第3集 より〕
ブリテン : "At the mid hour of night" 〔民謡編曲 第4集 より〕
ブリテン : "Theres none to soothe" 〔民謡編曲 第3集 より〕

マーク・パドモア(テノール)
ロジャー・ヴィニョールズ(ピアノ)

harmonia mundi/HMU 907443




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