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川の流れに身をまかせれば... [2009]

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現代音楽のイメージって、ますます広がりを見せている... ような...
そんな思いが募る、今日この頃。難解で、わからなくて当たり前... な"ゲンダイオンガク"。"ゼンエイ"という錦の御旗も、まだまだはためいて(吹く風は弱くなったとしても... )いるけれど、そんな、ステレオ・タイプの向こう側に、また一味違う現代音楽が、様々なスタイルで、いつも沸き上がっていて。21世紀も、最初の10年が過ぎようとしている中、前世紀的なエリート主義の現代音楽は、古めかしくなり、より大きな視野で、現代の音楽が捉えられつつある?で、現代音楽のイメージは、ますます広がりを見せ... そのあたりが、今、とてもおもしろい気がする。のだけれど。どうだろ?どーなんだろ?
ということで、ヴィオラ界の異才、キム・カシュカシアンの最新盤を聴く。
近現代のエキスパートでもある彼女だが、その視点は、常にステレオ・タイプに囚われることなく、一味違うものを聴かせて、魅力的。で、この最新盤でも、そうした視点、際立っていて。現代音楽のフィールドから、「悲歌」をテーマに、20世紀、苦難の道を歩んだ民族の音楽にそっと寄り添うアルバム"NEHARÓT(川よ)"(ECM NEW SERIES/476 3281)。現代音楽のイメージ、ますます広がる感覚あり。

ヴィオラの世界を代表する音楽家のひとり、キム・カシュカシアン。アメリカ人だが、アルメニア系の家庭に生まれ... そうしたルーツを大切に、音楽と向き合う彼女の存在は、常に異彩を放っている。そして、他のヴィオリストとは一味違うセンスで、よりこだわりを感じさせる構成で、魅力的なアルバムを届けてくれる。最新盤、"NEHARÓT"も、やはりそうした1枚で... ベティ・オリヴェロ(b.1954)、エイタン・スタインバーグ(b.1955)というイスラエルの現代の作曲家の作品に、これまで、カシュカシアンが丁寧に紹介してきたアルメニア人の現代の作曲家、ティグラン・マンスリアン(b.1939)と、アルメニアの近代音楽の礎を築いたという、コミタス・ヴァダペット(1869-1935)の作品を取り上げる。
ユダヤの人々とアルメニアの人々は、よく似た歴史を持つと言われる。ともに長い歴史を歩んできた民族であり、常に大国に翻弄された経験があり、世界各地へと離散し、20世紀、ジェノサイドの悲劇にも見舞われる。そうした苦難の歴史が紡ぎ出す響きというのは、単なるエキゾティシズムに終わらない、苦楽を知り尽くした響きというのか、他では味わえない独特の魅力があるように感じる。そして、"NEHARÓT"に収録された作品にも、そうしたトーンは広がる。それはまた、カシュカシアン・ワールドでもあり、現代音楽にして、また違うヴィジョンを持つ1枚に仕上げてくる。
その、1曲目。オリヴェロの「川よ、川よ」から、何とも言えない心地に... 何なのだろう、この感覚?暗く重く、悲しみに充ちた弦楽アンサンブルによる序奏から、霧が晴れていくように、やわらかなアコーディオンの響きに導かれて、懐かしくてたまらないメロディをヴィオラが歌い出す... そんな流れに、早速、抗し難く、強く、アルバムに惹き込まれてしまう。で、カシュカシアンのヴィオラも印象深いのだが、ラスキンのアコーディオン、シュロコウスキのパーカッションがとても印象的。絶妙にヴィオラに寄り添いながら、遠い遠い、幸せだった時代の夢を見せてくれるような、ファンタジックなサウンドを生み出す。が、やがて音楽には不安が滲み、テープによるアラベスクな力強い女性の歌が入り、モンテヴェルディのオルフェオのラメントが引用され、ワールド・ミュージックとクラシカルなテイストが交差し、興味深いサウンドを紡ぎ出しつつ、このアルバムのテーマである「悲歌」を、強く印象付ける。
続く、マンスリアンの"Tagh for the Funeral of the Lord"(track.2)、3つのアリア(track.4-6)、そのマンスリアンがピアノを弾く、コミタスのオロール(track.3)では、アルメニアの民俗的なテイストが、下手にくどくなることなく、ナチュラルに綴られて、その郷愁を誘うようなメロディは、"クラシック"であること、現代音楽であることを忘れて、ピュアに音楽と向き合わせてくれるよう。
そして、アルバムの最後、スタインバーグのラヴァ・デラヴィン(track.7)は、また一味違う音楽を聴かせて... まず印象的なのが、クス・クァルテットが紡ぎ出す、ノン・ヴィブラートで研ぎ澄まされたハーモニー。それは、まるで笙のような響きを生み出していて、"ピリオド"とは違う場所で、徹底して生み出されるその透明感に、魅了されずにいられない。で、そこに、カシュカシアンのエモーショナルなヴィオラが乗っかってくるのだが、同じ弦楽器でありながら、クス・クァルテットとカシュカシアンが生み出すコントラストがおもしろく。音楽は、やがてミニマルな表情も見せ、民俗的なトーンばかりでないあたりも見せる。
それにしても、カシュカシアンのヴィオラの深い味わいに、ただただ魅了されるばかり。アルバムは、強いメッセージ性を含みながらも、カシュカシアンのヴィオラは、どこかやさしさに溢れ、温かなサウンドを紡ぎ出す。民俗的... というあたりに、よりヒューマンな感性を見出すからだろうか?また、その民俗的なテイストに、ヴィオラという楽器が、より共鳴するようなところもあって、興味深く。
世界がグローバルになればなるほど、「地域」が炙り出されてくる21世紀。前世紀の近代的(時として画一的... )な民族主義とは違う、もっとセンシティヴにルーツを辿って、オーガニックな感覚を呼び覚ます、カシュカシアンの奏でる音楽。そこには、川の流れに身をまかせるような、どこか達観した感覚も漂い。人生も、歴史も、大河の流れになぞらえるようで... その、滔々と流れてゆく中、苦難もまた、受け入れよう。"NEHARÓT(川よ)"を聴き終えれば、知らず知らず、深い感慨と、感動が、静かに心の中に広がるよう。

KIM KASHKASHIAN NEHARÓT

ベティ・オリヴェロ : 川よ、川よ 〔ヴィオラ、アコーディオン、打楽器、2群の弦楽合奏とテープのための〕 ****
ティグラン・マンスリアン : Tagh for the Funeral of the Lord 〔ヴィオラと打楽器のための〕 **
コミタス・ヴァダペット : オロール 〔ピアノのための〕 *
ティグラン・マンスリアン : 3つのアリア **
エイタン・スタインバーグ : ラヴァ・デラヴィン 〔ヴィオラと弦楽四重奏のための〕 **

キム・カシュカシアン(ヴィオラ) *
アン・ラスキン(アコーディオン) *
ロビー・シュロコウスキ(パーカッション) *
ティグラン・マンスリアン(ピアノ) *
アレクサンダー・リープライヒ/ミュンヘン室内管弦楽団 *
ギル・ローズ/ボストン・モダン・オーケストラ・プロジェクト *
クス・クァルテット *

ECM NEW SERIES/476 3281




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