SSブログ

パーヴォとソヴィエトの作曲家。 [2009]

CD80702.jpg
1010.gif
パーヴォ・ヤルヴィ のディスコグラフィを振り返ってみると、意外にも、ショスタコーヴィチの交響曲が無かったりする。N響定期に客演しての、5番の演奏(2004/2005年シーズン)を思い出したり、パパ・ヤルヴィが全曲を録音していたり、旧ソヴィエト(エストニア)の出身といったあたりから、すでにいくつか録音があるのだろう... なんて、ぼんやりと思っていたのだけれど。
そこに登場した、パーヴォと、彼が音楽監督を務める シンシナティ交響楽団 による、10番の交響曲(TELARC/CD 80702)。パーヴォ、独特の感性で奏でられるショスタコーヴィチとは、どんな感覚なのだろう?と、興味津々で手に取るアルバム。カップリングに、合唱王国エストニアを代表する作曲家、トルミスによる、管弦楽作品も収録されて。そのあたりも大いに気になって...

5番よりも10番... なんて、時折、耳にする、ショスタコーヴィチの交響曲。有名=人気作となると5番だろうが、10番も極めて充実した音楽を聴かせてくれる。そんな10番をチョイスしたパーヴォ。影を帯び、静かに、それでいて異様に盛り上がるその1楽章... パーヴォならではの繊細なアプローチが、ショスタコーヴィチのいつもの空気感を、微妙に変化させてくる。シンシナティ響の澄んだアンサンブルは、どこか、北欧の作品のような、瑞々しさすら湛えて、新鮮。20分を越える長大な楽章は、それひとつが、シベリウスの交響詩のような、そんな雰囲気を漂わせて、印象的。
そうした、繊細でナイーヴな表情から、一気に高まる緊張感... 2楽章(track.2)の、息つく暇なく疾走していく、強烈な4分間。それを、パーヴォが磨き上げてきたシンシナティ響のハイテクなサウンドで、さらりとまとめ上げられてしまうと、カッコ良過ぎてしまう?鋭くて、スタイリッシュで、スポーティーですらあって、クール!ソヴィエト社会の停滞と、狂気を炙り出すショスタコーヴィチ作品が、より感覚的な魅力でもって輝き出す。なんだか、ホルストの『惑星』のような、そんな鮮やかさも感じられて、おもしろい。
「ソヴィエトの作曲家」という強烈なイメージ... 暗くて、重くて、沈痛で。苦悩して、時折、狂気に染まり。あるいは、プロパガンダにもなり... そういう、20世紀の生々しい記憶から、スタンスを取り、もう一度、作品そのものと向き合おうと努める。いつもの、パーヴォならではの姿勢が、ショスタコーヴィチの交響曲でも感じられる。すると、10番の交響曲の端々から、ヴィヴィットな音がこぼれ出し、安易なイメージには流されないパーヴォ+シンシナティ響の志向が、ショスタコーヴィチの音楽でも功を奏し始める。
が、作曲家が音楽に籠めたヴィジョンは、より鮮明になるようでもあり。ニュートラルなパーヴォと、そのニュートラルさすら栄養源にしてしまうショスタコーヴィチの音楽の底知れなさ。そのパラドックスを孕みながらの関係性が、3楽章(track.3)、終楽章(track.4)と経て、共鳴し。クラリティの高いシンシナティ響のサウンドが、10番の交響曲の輪郭をくっきりと捉えれば、「ソヴィエトの作曲家」の異様な生き様が、異様なテンションをともなって、現れる。そのフィナーレの狂騒は、まさにカタルシス... パーヴォらしさを維持しつつ、ショスタコーヴィチに巻き込まれていくこの感覚、たまらないものがある。

さて、初めて耳にするトルミス(b.1930)の管弦楽作品... なのだが、どうしても、合唱作品のイメージが強いトルミスだけに、どんな音楽を聴かせてくれるのだろうかと、多少、不安もありつつ、興味津々だったのだけれど... その2番の序曲(track.5)、合唱作品とはまた一味違い、スタイリッシュなオーケストラ・サウンドを響かせ、驚かせてくれる。それは、北海からバルト海へとつながるテイストというのか、イギリス的なポップ感と、北欧的なヴィヴィット感を、絶妙にまとめ上げたような、カッコ良さがあって。パーヴォ+シンシナティ響のサウンドに、見事はまって、ショスターコヴィチの後を、新鮮な風が吹き抜けていく。
で、おもしろいのは、この作品が、ショスタコーヴィチの10番の交響曲と同じ、1950年代のソヴィエトの作品であること... 1953年作曲のショスタコーヴィチの10番の交響曲と、1959年作曲のトルミスの2番の序曲... このカップリング、ちょっと突飛なようで、実は、1950年代のソヴィエトの音楽シーンを垣間見せてくれる構成。そんな凝った視点、さすが、パーヴォ!

SHOSTAKOVICH: SYMPHONY NO. 10 / TORMIS: OVERTURE NO. 2
JÄRVI / CINCINNATI SYMPHONY ORCHESTRA


ショスタコーヴィチ : 交響曲 第10番 ホ短調 Op.93
トルミス : 序曲 第2番

パーヴォ・ヤルヴィ/シンシナティ交響楽団

TELARC/CD 80702




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。