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ワールド・ミュージック、換骨奪胎! [2009]

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フランスの女声合唱団、カリオペのアルバム、"MÉTISSAGES/CROSS-CULTURAL INFLUENCES"(CALIOPE/CAL 9406)が、かなり、おもしろい。現代の女声コーラスのための作品集なのだが、タイトルにある"MÉTISSAGES"という言葉がキーワードになってくる...

métissages  混血; 《生物》 交雑, 異種交配

仏和辞典を引くと、こんな単語が並ぶ... アルバムのタイトルにしては、ちょっと刺激的なニュアンス... だが、まさに!の内容。現代における"CROSS-CULTURAL INFLUENCES"な作品、ステレオタイプなオリエンタリスムを越えた、異文化(あるいは、"クラシック"では拾いきれない文化... )への関心と共感を、素直に形にした作品の数々は、女声コーラスとワールド・ミュージックのハッピーな結婚?なんても言えそう。それでいて、極めつけの一妻多夫なのである。まさに、世界中の響きを集めて、圧巻!

さすがはフランス、レヴィ・ストロースを生んだ国、ケ・ブランリ美術館を作った国。異文化への関心は、他の国より強いのかもしれない... カリオペの"MÉTISSAGES"を聴いていると、つい、そんなことを考えてしまう。「現代音楽」であることは間違いないのだけれど、"ゲンダイオンガク"的な難解さとは違う場所にある音楽の数々。フォクーロワであること、プリミティヴであることを、ポジティヴに受け止めて、"クラシック"とは一線を画しつつ、ヨーロッパが生んだ音楽のシステム上に、堂々、再現した小品の数々。それをまとめたアルバムは、ちょっとした文化人類学の音楽カタログ?
1曲目、イロコイ族(ネイティヴ・アメリカン)にインスパイアされた、サーレット(という読み方でいいのか?)によるミステリアスでムーディー?な"Watane"。2曲目、リンコラの"The ritual Dance"(track.2)のプリミティヴにして軽やかな歌声を聴けば、このアルバムの世界観はすぐに呑み込めるはず。そして、その魅力的で刺激的な世界に、早くも虜になってしまう... しかし、3曲目で、日本人は驚かされることに... 「さくら、さくら... 」が聴こえてくるではありませんか!
日系アメリカ人、ドワイト・オカムラによる"Sakura"(track.3)は、お馴染みのメロディに、夏目漱石、村上鬼城らの俳句を散りばめて、日本情緒を膨らませ、やわらかな表情を描き、印象的。また、カリオペならでは?フランス訛りで歌われる「さくら、さくら... 」が、言葉の輪郭をぼかして、よりポエティックに響くようで、まさに「かすみか雲か... 」。桜のイメージをより音楽に乗せることに成功しているあたり、なかなか興味深い。そうして、聴こえてくるのは、作曲家の、自身のルーツへの憧憬というのか、その淡い感情が何とも言えない雰囲気を漂わせ、お馴染みのメロディはまた違った表情を見せてくれる。
さて、音楽のみならず、作曲家たちもまた、実に多様なアイデンティティを持っていて、そのあたりもおもしろい。カナダのサーレット(b.1952)、ハットフィールド(b.1956)。アメリカのオカムラ(b.1959)、ラーセン(b.1950)。オーストラリアのリーク(b.1959)。フィンランドのリンコラ(b.1955)、ヒョッキ(b.1946)。エストニアのトルミス(b.1930)。チェコのマーハ(b.1922)。スロヴェニアのレビッチ(b.1934)。そして、モロッコ生まれのユダヤ系フランス人、オアナ(1913-92)だ。初めて聴く作曲家から、合唱界の巨匠、トルミスに、まさに"CROSS-CULTURAL INFLUENCES"なオアナまで、見事なセレクション。
自国のメロディを素直に音楽として、フォークロワな表情を見せる北欧、東欧の作曲家たち。大胆に、異なる文化へと乗り込んで行く北米、オーストリアの作曲家たち。それぞれの視点の違いもなかなかおもしろく、だからこそ、想像以上に多様な音楽が詰め込まれて、まさに"ワールド"ミュージックな仕上がり。また、その"ワールド"を、見事、歌い上げてしまうカリオペの器用さも特筆すべき点... 何より、その"ワールド"なあたりをフルに楽しむ彼女たちの姿も印象的。やがて、その楽しさは聴く側にも伝染して。時に、パーカッションも加わって、手拍子に、足を踏み鳴らし、ノリよく、フォークロワに、プリミティヴに...
ハットフィールドの"Tjak"(track.5)ではケチャ(フランス訛りからか?若干の歯切れの悪さは愛嬌か?)をやってしまうし... ダンサブルでラヴリーなリンコラの"The joiku"(track.13)。ホヤヤホヤヤ... とユーモラスに歌うマーハの"Oh ja ja"(track.14)など、どれも飽きさせることなく、本当に、楽しませてくれる。それでいて、"クラシック"のフィールドで活躍する女声コーラスだからこその洗練があって、彼女たちが紡ぎ出す"ワールド"ミュージックのオーガニックさは、楽しむことと共に、耳に心地良くすらあり、癒しですらあるよう。このバランス感覚、ただならない。
これは、ちょっと稀有な輝きを放つアルバム。他では望めない感覚に充ちている!

MÉTISSAGES / CROSS-CULTURAL INFLUENCES

マーク・サーレット : Watane
ユッカ・リンコラ : The ritual Dance
ドワイト・オカムラ : Sakura
マッティ・ヒョッキ : On Suuri
スティーブン・ハットフィールド : Tjak
モーリス・オアナ : Neige sur les orangers
ユッカ・リンコラ : The Sunrise
ロイゼ・レビッチ : Urok
ヴェリヨ・トルミス : Lauliku lapsepõli
モーリス・オアナ : Mayombé
リビー・ラーセン : I just lightning
モーリス・オアナ : Nuées
ユッカ・リンコラ : The joiku
オトマル・マーハ : Oh ja ja
モーリス・オアナ : Carillon
スティーブン・リーク : N'gana

レジーヌ・テオドレスコ/カリオペ(女声コーラス)

CALIOPE/CAL 9406




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