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音楽、漂泊... 地中海を巡って、アンダルシアヘ... [2009]

どこからが"クラシック"で、どこまでが"クラシック"なのだろう?
なんて、考えてしまうようなものばかり聴いている今日この頃... なのだけれど、またそんなアルバムを2枚。マリオ・ブルネッロ(チェロ)が地中海を旅する『オデュシア』(EGEA/SCA 138)と、スペインになる前のスペインに迫る、フェリペ・サンチェス・マスクニャーノ率いる、アヒビル・アルハミアの『ペルフーメ・ムデーハル』(PNEUMA/PN 1020)。異文化との対話を試みるアルバム『オデュシア』、異文化交流から生み出された音楽『ペルフーメ・ムデーハル』は、音楽を越えて考えさせられることもあって、刺激的...


21世紀、マルチカルチュラルに見つめる地中海。

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音楽と自然の融合を謳い、時に、富士山の山頂でもチェロを弾いてしまう、チェロ・トレッキング... ちょっと、エキセントリック?なんても思うのだけれど、イタリアを代表するチェロのマエストロ、マリオ・ブルネッロの音楽観というのは、なかなか興味深い。
そんなブルネッロの最新盤は、地中海を旅する『オデュシア(オデュッセイアのラテン語読みとのこと... )』。富士山でも弾いた、盟友、ソリッマの作品に、"クラシック"の枠にこだわらず、地中海の異なる文化のサウンドを拾い集め、サハラでのチェロ・トレッキングの演奏も加えて、21世紀の"オデュッセイア"としたアルバム。そこには、サヴァールの『イェルサレム』にも通じるテーマがあり、なかなか深い。
で、その音楽なのだが、まず柱になる作品として、ジョヴァンニ・ソリッマ(b.1962)の"Spasimo"(track.2-7)が、ブルネッロのチェロ、彼が率いるオーケストラ・ダルキ・イタリァーナの演奏で取り上げられる。時折、ピアソラを思わせるような感覚もあったり、ワールド・ミュージックとロックの間を行くようなエキサイティングさもあって、この作曲家ならではの、何物にも囚われない自由さ、汎地中海なサウンドは、いつもながら"ゲンダイオンガク"の堅苦しさを越えて、魅力的。が、"Spasimo"とは、「痛み」という意味なのだとか...
『オデュシア』には、文化をひとつにつなぐ地中海ではなく、対立の溝になってしまった地中海の「痛み」が、じわりと滲む。"Spasimo"の次に歌われる、サヴァールの『イェルサレム』でも収録されていた、ユダヤの祈りの歌、"El Mole Rhamim(慈悲深き神よ)"(track.8)が、深く、心に突き刺さる。ユダヤならではの嘆きのメロディが、虐げられた人々の悲しみを、増幅させるよう。だが、また次なる痛みが、地中海には存在するわけで... 何かを際立たせるのではなく、ただ、地中海沿海の音楽を丁寧に並べて、その多様な音楽を1枚のアルバムの中に響かせる... そして、安易に平和を訴えるのではない、音楽で「痛み」を探ろうとするマエストロの姿勢が、とても印象的。
それにしても、ブルネッロの器用さは、凄い。アラビックなパーカショッンのリズムに乗って、アラベスクに即興演奏を試みる"El Mida"(track.9)。トルコのトラッドなメロディ"11’LI"(track.11)など、オリエンタルな音階を巧みに捉えて、エキゾティックな気分を盛り上げてくる。"クラシック"のコアなレパートリーを流麗に弾きこなす一方で、このアルバムでのような、"クラシック"から逸脱していくサウンドに、恐れず挑むあたりがクール!変に巨匠然とするのではない、音楽そのものへの謙虚な姿勢は、リスペクトせずにはいられない。

odusia mario brunello

即興演奏 : Odusia
ジョヴァンニ・ソッリマ : Spasimo
ヘブライの歌 : El Mole Rahamim *
即興演奏 : El MIda
ファリャ : ナナ 〔『7つのスペイン民謡』 から〕
トルコ民謡 : 11'LI
アナ・ソコロヴィチ : VEZ
即興演奏 : Odusia

マリオ・ブルネロ(チェロ)
モニ・オヴァディア(ヴォーカル) *
オーケストラ・ダルキ・イタリアーナ

EGEA/SCA 138




15世紀、クロスカルチュラルなアンダルシア。

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スペイン古楽界の鬼才、エドゥアルド・パニアグアのレーベル、PNEUMAから、新たにスペインの古楽アンサンブルが登場。ということで、気になった、フェリペ・サンチェス・マスクニャーノ率いる、アヒビル・アルハミアのアルバム、『ペルフーメ・ムデーハル』。よくよく見れば、パーカッションに、ペドロ・エステバン(スペイン古楽界切っての異才!)。これは楽しみ!と、手に取ってみれば、期待以上!
さて、そのタイトル、『ペルフーメ・ムデーハル』にある"ムデーハル"とは?
8世紀、そのほとんどがイスラム勢力によって征服されたイベリア半島... だったが、レコンキスタ(国土回復運動)によって、再び、キリスト教勢力の支配は広がり... その過程で、キリスト教勢力下に残ったイスラム教徒を"ムデーハル"と言う。とのこと。そんな、ムデーハルの人々によるロマンセと、15世紀、アンダルシアのスタイルによる歌の数々が集められたのが、このアルバム。
カンティーガ(キリスト教世界)のパニアグアとは対照的な、アヒビル・アルハミアのムデーハルだが、そのサウンドには、カンティーガにも共通するクロスカルチュラルな、当時のイベリア半島のペルフーメ(香)があって、より魅惑的。そこに、フラメンコのカンタオール、ペドロ・サンスを招いての歌が、強いインパクトを残す。フラメンコならではのエモーショナルな歌声、生命感に溢れるその表情には、きちっと整えられてしまった西洋音楽=クラシックにはないパワフルさがあって、見事に中世イベリア半島のクロスカルチャーを、サウンドにしてくれている。ちなみに、ムデーハルによるロマンセは、フラメンコの源流のひとつでもあるらしいが、イスラム文化にスペイン情緒の原点を見つめるようでもあり、なかなか興味深い。
それにしても、カッコ良過ぎるサウンド!エキゾティックなパーカッションが刻むリズムに、フラメンコ的なパッション!で、ダンサブル!そこに、アラベスクとはまた違う中世ヨーロッパ的な素朴さもあって、スペインになる以前の、イベリア半島における"クロスカルチュラル"なおもしろさが詰まっている。やがてレコンキスタは完了(1492)し、スペインは統一、ムデーハルの人々は追放(1502)されてしまうわけだが、異なる文化が影響し合い、混ざり合い、生み出されるおもしろさは、ただならない広がりを見せるよう。

PERFUME MUDÉJAR ・ AXIVIL ALJAMIA

ロマンセ : Paseábase El Rey Moro
Ishbilaya 〔器楽合奏〕
ロマンセ : La Mañana De San Juan
カンシオン : Míos Fueron
La Mi Sola Laureola 〔器楽合奏〕
ロマンセ : De Antequera
カンシオン : Sospiros Rifkan
カンシオン : Tres Morillas

フェリペ・サンチェス・マスクニャーノ/アヒビル・アルハミア
ペドロ・サンス(カンタオール)

PNEUMA/PN 1020




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