SSブログ

「平和の街」の音楽憧憬。 [2009]

AVSA9863.jpg09em.gif
1010.gif
"ドン・キホーテ"(Alia Vox/AVSA 9843)、"コロンブス"(Alia Vox/AVSA 9850)、"ザビエル"(Alia Vox/AVSA 9856)と、音楽で旅して、綴った、サヴァールの豪華ブック型2枚組シリーズ。異なる文明との対話... を掲げ、見事、そうした歴史の数々を聴かせてくれたわけだが、ジョルディ・サヴァールの最新盤は、今、最も対話が必要とされる街、"イェルサレム"(Alia Vox/AVSA 9863)を訪れる。
それは、ある意味、旅の終結地?これまでの旅は、ここに至るための旅だったか?などとも思わさせる、壮大過ぎるほどのテーマ、イェルサレム。その長く、複雑な歴史を遡り、関わる、様々な民族、宗教の音楽を、サヴァール率いる古楽アンサンブル、エスペリオンXXIを主軸に、サヴァール夫人、フィゲーラス(ソプラノ)や、サヴァールのコーラス部隊、ラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャ、さらにイスラエル、パレスティナはもちろん、アルメニア、ギリシア、イラク、シリア、トルコ、モロッコ、アフガニスタンのトラッドな演奏家、歌い手が集められ、"イェルサレム"を奏で、歌う。

イェルサレム... その歴史を遡れば、とんでもなく古い時代に行き着くとのこと... そして、かの地を、ダビデ王が都としたのが、紀元前1000年頃?というから、気が遠くなる。やがて、キリストが誕生し、ユダヤの人々は追放され、離散し、イスラム勢力がやって来て、十字軍が侵攻して... そうした歴史を、丁寧に、順を追って、音楽で紡ぎ出すサヴァール。まず、サヴァール自身による作品、エリコのファンファーレ(紀元前1200年頃のイェルサレムをイメージした... )に始まるのだが、これが、生半可ではないイニシエ感を放ち、その瞬間、"クラシック"も、21世紀も吹っ飛び、ディープな世界へと迷い込んでしまう。そして、フィゲーラスが歌う「シビュラの預言」(disc.1, track.2)に導かれ、何か、祭祀でも始まるような、そんな雰囲気が漂い、これまでの音楽体験とは違う感覚を味わうよう。
全体は、7つのパートからなり、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教に因む音楽が並べられ、最初に天上の平和(I)を、そしてイェルサレムの歴史(II-VI)を奏で、歌い、最後に地上の平和(VII)を願う... という、古楽とワールド・ミュージックによる壮麗にして壮大なコラヴォレーション。それぞれの違い、それぞれの魅力を活かしながらも、サヴァールの恐るべきセンスで、巧みにつなげられ、改めて浮かび上がるイェルサレムの姿は、衝撃的ですらあり。
1つの街に、3つの宗教の聖地...
他にはなかなか見出すことのない稀有な場所、イェルサレムの性格は、ある種、異様でもあって。サヴァールと、様々な民族、宗教を背景とした音楽家たちによる"イェルサレム"を聴いていると、よりそうしたものが焙り出されてくる。それでいて、あらゆる音楽が層を成して歴史となり、それにプレスを掛けて、2枚組としてまとめられての凝縮感が、凄い。濃密過ぎるほど、濃密。次から次へと、違う言葉で歌われるインパクトも大きい。本当に、1つの街についての音楽なのだろうか?と、思うほど、多様。それでいて、1曲1曲が、とにかく魅力的。また、そうした魅力の共鳴が、3つの宗教を抱え込むだけの、ただならないパワーを秘めたマジカルな街としてのイェルサレムを強く印象付ける。聖なる街、というよりは、マジカルな街... 3つの宗教と、何の縁も無くとも、そのマジカルなパワーで、強く引き込まれてしまう。
そうした中、異彩を放つのが、アウシュヴィッツの悲劇を生き抜いたという、シュロモ・カッツの古い録音(1950)。カッツの歌う、アウシュヴィッツの犠牲者に寄せる歌(disc.2, track.12)には、それまでとはまた違って、圧倒される。オルガンを伴奏に歌われる、クリーミーな美しい声には、聴き入るばかりだが、ユダヤならではの嘆きのメロディは圧巻で、何より、真実を知る者だけが放つ、痛みが、深く、重く、心にズシリと響く。だからこそなのだろうか、考えさせられる。
21世紀、この痛みを忘れてしまったのだろうか?かの人々は... もし、その痛みを思い出したならば、虐げられる民族の思いを振り返ったならば、東地中海に、すぐにでも平和が訪れるような気がするのだが... 2枚組の最後、民族、宗教を越えて、平和を歌うこの"イェルサレム"。サヴァールが投げ掛けるメッセージの重さは、また、並々ならない。

イェルサレムという名前には、「平和の街」という意味があると聞いて、驚く。
3つの宗教の聖地だからこその攻防が、現代に至るまで、この街の歴史だというのに...

JÉRUSALEM
HESPÈRION XXI ・ AL-DARWISH ・ LA CAPELLA REIAL DE CATALUNYA ・ JORDI SAVALL


I. 天上の平和 : 黙示録と最後の審判の預言者たち
II. イェルサレム、ユダヤの都市、紀元前1000年-紀元後70年
III. イェルサレム、キリスト教の都市、326-1244年
IV. イェルサレム、巡礼の都市、383-1326年
V. イェルサレム、アラブとオスマン・トルコの都市、1244-1917年
VI. イェルサレム、避難と流浪の地、15-20世紀
VII. 地上の平和 : 義務と希望

ジョルディ・サヴァール/エスペリオン XXI、他...

Alia Vox/AVSA 9863




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。