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古楽、エレクトロニック... [2009]

ボーダーライン上のエリア、というタグを作ってしまうほど、ジャンルの越境に関心あり...
ということで、ボーダーライン上を漂う2つのアルバムを聴いてみる。が、これがなんとも新鮮で鮮烈。ジョン・ポッターと、アンブローズ・フィールドによるコラヴォレーション、『ビーイング・デュファイ』(ECM NEW SERIES/476 6948)と、ヴォクス・クラマンティスと、ウィークエンド・ギター・トリオによるコラヴォレーション、『ステラ・マトゥティナ』(MIRARE/MIR 064)。古楽とワールド・ミュージックという取り合わせは、意外に多いが、古楽とエレクトロニックな2つのアルバムは、かなりラディカル?いや、なかなか心地よく。


電子の海に溶けゆく、デュファイ。

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"ダウランド・プロジェクト"では、ジャズとのコラヴォレーションを聴かせる、古楽界の異才、ジョン・ポッター(テノール)。彼の新たなプロジェクト、"ビーイング・デュファイ"では、エレクトロニックで、ニューエイジなサウンドを紡ぎ出す作曲家、アンブローズ・フィールドと組み、また新たな地平へと踏み出す...
フィールドによるエレクトロニックなサウンドに包まれて、ポッターが歌うデュファイの音楽。それがまた、フィールドによってサンプリングされ、コラージュされ、増幅され、ユニヴァーサルに広がっていく感覚は、完全に"クラシック"を超越していく。この超越感が、また、たまらなく魅力的で、その広がりに、ただならない心地良さを味わう。そして、その心地良さの中に、デュファイの古雅なメロディは浮かび... 当然ながら、これまでとはまったく違うデュファイに遭遇する。
ルネサンスと、現代のテクノロジー。その間にあるはずの、いわゆる「クラシック」が、すっぽり抜け落ちて出会った2つの時代。大きな隔たりがあるようで、実は近い部分もあるのかも?声で織り成すルネサンスのポリフォニー(それは当時のテクノロジー?)と、テクノロジーで紡がれていく音響世界(電子のポリフォニー?)。『ビーイング・デュファイ』で綾なし綴られる2つの時代は、その近い部分を巧みに寄り添わせるようで、おもしろい。デュファイのメロディは、ポッター独りで歌うことで、ルネサンスのポリフォニーから解放されつつ、フィールドによるテクノロジーが、新たな電子のポリフォニーを纏わせる。
いや、纏うというより、それはやがて、溺れていくような感覚もあって... デュファイは、電子の海に溶けていくようでもあり、その儚げなあたりが、印象的で。その儚げなあたりに、デュファイの音楽は、圧倒的なイニシエの気分を立ち昇らせてもいて、ポッターの素朴な声の佇まいもあって、印象的。そうして、様々に変容して、積み重ねられ、また断片的に現れて... それは、冥界で、デュファイの霊に出会ったような、不思議で、とても懐かしいような... エレクトロニックな世界に浮かぶルネサンスのメロディに、時間の感覚もぼやけて、聴いている側も、次元を飛び越えてトリップしてしまいそう。独特の体験を誘う。
それにしても、エレクトロニックな世界に飛び込むとは... ジョン・ポッター、まったくもってラディカル!そのチャレンジングな姿勢には、ただただ感服させられる。そして、次は、何をしてくれるのだろうか?

Ambrose Field Being Dufay John Potter

フィールド : 私の気高くも美しい人よ
フィールド : 私は嘆く
フィールド : ビーイング・デュファイ
フィールド : お願いです
フィールド : プルエスク・ケルク・ショーズ
フィールド : サンクトゥス
フィールド : ラ・ドルチェ・ヴィスタ

ジョン・ポッター(テノール)
アンブローズ・フィールド(ライヴ・アンド・スタジオ・エレクトロニクス)

ECM NEW SERIES/476 6948




エストニアから、夜明けの星

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エストニアのヴォーカル・アンサンブル、ヴォクス・クラマンティスと、エストニアのエレキ・ギター・トリオ、ウィークエンド・ギター・トリオによるコラヴォレーション"Stella Matutina(夜明けの星)"。ヒリアード・アンサンブルは、『オフィチウム』(ECM New Series/445 369-2)で、サックスに乗ってグレゴリオ聖歌を歌ったが、ヴォクス・クラマンティスは、エレキ・ギターに乗って歌うわけだ...
まず、ウィークエンド・ギター・トリオによる、アンビエントな心地よいサウンドがしばらく続き、浮かび上がるグレゴリオ聖歌。ヴォクス・クラマンティスの、やわらかなコーラスが印象的。その透明感、さすがは合唱王国エストニア!美しい中世の歌声に、聴き入るばかり。なのだが、グレゴリオ聖歌とエレキだ。その相性に、不安も... しかし、3本のエレキ・ギターが紡ぎ出すサウンドは、なんとも繊細。もちろん、「エレキ」ならではの魅力も盛り込まれてはいるが、その多彩な表情に、ちょっと驚かされる。
ゴシックの作曲家、ペロタンの"Beata Viscera"(track.2)では、オルガヌムのメロディの下で響くグレゴリオ聖歌と同化して、メロディの背景を静かに深く、それでいてエレキ的に繊細に織り成し、ヴォクス・クラマンティスの美しさを際立たせる。かと思えば、"Ave Maris Stella"(track.6)の後半では、アコースティックに持ち替えて、中世の素朴な気分をも漂わせ、ナチュラルに「ゴシック」が響いて印象的。"Litania"(track.8)では、リタニ=連祷の、ミニマルな性質に応えて、ライヒのような、ミニマルなサウンドを展開。また、"Sequentia I"(track.3)、"Sequentia II"(track.7)では、ギターのみで、たっぷりとウィークエンド・ギター・トリオの音楽世界を楽しませてくれる。
『ビーイング・デュファイ』での、フィールドに負けないユニヴァーサルな広がりを響かせたかと思えば、グレゴリオ聖歌の宗教性を、セイケデリックに増幅して、ポップ(?)な神秘性も醸したり。その多様さ、フレキシブルなセンス、可能性の広がりに、感服。ウィークエンド・ギター・トリオ、これはただならないトリオかも... ジャンルを超えて、彼らの音楽性には、リスペクトせずにはいられない。
それにしても、ペルトを生んだエストニアの、近未来系音楽とでも言うのか、コーラスとエレクトロニックによるアンビエントなサウンドは、想像以上に多彩に響き、なんと魅惑的な!

Vox Clamantis Stella Matutina

Psalmi
Beata Viscera
Sequentia I
Mandatum Novum
Miserere Mihi
Ave Maris Stella
Sequentia II
Litania

ヤーン・エイク・トゥルヴェ/ヴォクス・クラマンティス
ウィークエンド・ギター・トリオ

MIRARE/MIR 064




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