SSブログ

パパ。ハイドン。の、真実。 [2009]

88697388672.jpgjhmps.gif
1010.gif
ハイドンの、没後200年である...
だからこそのリリース、と言うのか、ハイドンの、もう一つの一面(?)に迫るアルバム"Arie per un'amante(恋人のためのアリア)"(deutsche harmonia mundi/88697388672)。スペイン発の新たな"ピリオド"系ヒロイン、ヌリア・リアル(ソプラノ)をフィーチャーしての、ハイドンの恋人、ルイジャ・ポルツェッリのために書かれたアリアの数々... を、聴いてみる。が、少し調べてみれば、「恋人」というより、それは「愛人」というイメージで、ちょっと驚いてみる。そんな、いつもと違う視点は、やはりメモリアルの賜物。

ハイドン(1732-1809)には、エステルハージ侯爵家に仕える前、1760年に結婚した、マリア・アンナ・ケラー(1729-1800)という妻がいた。が、音楽史に名を残す(?)悪妻で... その結婚は、最初から破綻。そんなこんなで、ハイドンは、よその美しい人に、常に関心があったよう...
エステルハージ侯爵家の副楽長に就任(1761年/1766年に、前任者の死に伴って楽長に... )してから18年目、1779年、ヴァイオリン奏者のアントニオと、歌手、ルイジャ(ca.1760-1830)の、ポルツェッリ夫妻が、イタリアから、エステルハージ侯爵家にやって来る。そうして始まる2人の関係。歳の差、おおよそ28歳の、妻ある楽長と、夫あるその歌手という、なんだか、とても生々しく、ドラマ(昼過ぎの時間枠... )のようなハイドンとルイジャ(2人の間には、何人かのこどももいたのとのこと... )。「交響曲の父」、「古典派の巨匠」、どこかで、そういう教科書的なイメージがしっかりと植え付けられていると、ちょっと衝撃的だったりする。
しかし、そんなハイドンが、ルイジャのために書いたアリアの数々... は、また違った雰囲気がある。
「交響曲の父」、ハイドンも、オペラをいろいろ残しているわけだが、エステルハージ侯爵家では、そうしたハイドン作品に限らず、当時、ヨーロッパを席巻した話題作も取り上げられ、上演された。しかし、そこに少し問題が... 楽長、お気に入りの歌手では、手に負えないアリアがあったようで、そうした障害を取り除くために、ハイドンがオリジナルに換えて、ルイジャ用のアリアを書いたとのこと。そこには、どうも、娘の身の丈に合わせて、ぴったりの服を用意してやろう... というような、"パパ"目線を感じ、なんだか憎めない。また、ルイジャが歌う役が、そんな、娘役(モーツァルトで言うならば、スザンナのような"soubrette")ばかりで... もちろん、時代はオペラ・ブッファ全盛、エステルハージ侯爵家でもそうしたオペラが好まれたからだろうけど... ルイジャのためのアリアはどれも愛らしく、気の置けないものばかり。そうしたあたりに、2人の関係性が透けて見えそうで、興味深い。また、似た様なメロディもいろいろあり(いや、最初の3つなどは、使い回している?)。けれど、そんなメロディこそが、きっとルイジャのテーマで... なんても想像すると、パパ・ハイドンの愛情を感じるようでもあり、印象的。

さて、"Arie per un'amante"の中身だが... まず、ミヒ・ガイック率いるロルフェオ・バロック管弦楽団の、威勢のいいシンフォニア(81番の交響曲の1楽章... )で始まる。それを序曲に、ヌリア・リアル(ソプラノ)が歌い出すわけだが... ルイジャの声域はメッゾ・ソプラノでもあったらしく、収録された13のアリアの内、4つが、リアルに替わり、メッゾ・ソプラノのマルゴット・オイツィンガーにより歌われる。で、興味深いのが、リアルとオイツィンガーの声がよく似ていること。ルイジャ仕様のアリアを歌うからなのか、あまりに違和感なく並べられて、少し驚かされる。けれど、メッゾ・ソプラノの音域が低い分、オイツィンガーの方が艶っぽく、また、オペラ・ブッファならではの"遊び"を、さり気なく聴かせて、なかなか魅力的。一方、リアルは、やさしげで落ち着いたトーンが印象的で。かわいらしく、なんとも甘い... 何やら、ジャケットのポートレートのイメージ、そのもの?一つ一つのアリアを、丁寧に、美しく歌い上げる。が、わずかに優等生的な帰来も。とはいえ、「18世紀」のイメージにぴったりとはまる彼女の声には、魅了されずにいられない。
そんな、21世紀の2人のルイジャを支える、ガイック+ロルフェオ・バロック管も、"ピリオド"ならではの快活さで魅了してくる。とにかく、最初のシンフォニアがエキサイティング!スキャンダラスな臭いはゼロの、溌剌としたサウンドは、これまで、ハイドン、モーツァルトばかりでない、古典派の様々な交響曲を好演してきた彼らならではのもの。が、アリアとなると、そうしたあたりが、わずかに硬くも感じられる?
しかし、なんと凝った1枚だろう!アンフォッシ、ガッツァニーガ、チマローザ... その当時、一世を風靡した作曲家たちの名前を横目に見ながら、ハイドンの愛にまつわるアリアの数々を聴くわけで...

JOSEF HAYDN ARIE PER UN'AMANTE NURIA RIAL

ハイドン : シンフォニア ト長調 〔交響曲 第81番 Hob.I-81 より 第1楽章〕
ハイドン : アリア 「言いたい人は言うがよい」 Hob.XXIVb-8 〔アンフォッシのオペラ 『試練に遭うやきもち』 のための〕
ハイドン : アリア 「ばらに刺がなくなったら」 Hob.XXIVb-3 〔アンフォッシのオペラ 『メティルデの再会』 のための〕
ハイドン : アリア 「あなたはご存じでいらっしゃる」 Hob.XXIVb-7 〔アンフォッシのオペラ 『偽りの結婚』 のための〕
ハイドン : アリア 「私の一番いいところは」 Hob.XXIVb-17 〔チマローザのオペラ 『金詰まりの興行師』 のための〕 *
ハイドン : アリア 「女房の機嫌がいい時は」 Hob.XXIVb-18
   〔チマローザのオペラ 『ジャンニーナとベルナルドーネ』 のための〕 *
ハイドン : アリア 「お嬢さん、ゆっくりお行きなさい」 Hob.XXIVb-12
   〔グリエルミのオペラ 『機知に富むクェーカー教徒の女』 のための〕
ハイドン : アリア 「アルチーナよ」 Hob.XXIVb-9(1786) 〔ガッツァニーガのオペラ 『アルチーナの島』 のための〕
ハイドン : アリア 「おお神よ、わが平安は失われました」 Hob.XXIVb-19 〔ガスマンのオペラ 『職人の恋』 のための〕
ハイドン : アリア 「私は運命に見放された不幸な女」 Hob.XXIVb-15 〔チマローザのオペラ 『2人の偽伯爵』 のための〕
ハイドン : アリア 「さあ、いい子にして」 Hob.XXIVb-23 *
ハイドン : アリア 「情け深い人は」 Hob.XXIVb-13 〔ビアンキのオペラ 『インドのアレクサンドロス大王』 のための〕
ハイドン : アリア 「薄幸な花嫁」 Hob.XXIVb-2 〔パイジェッロのオペラ 『フラスカーティの女』 のための〕
ハイドン : アリア "Son pietosa, son bonina" Hob.XXXII-1b *

ヌリア・リアル(ソプラノ)
マルゴット・オイツィンガー(メッゾ・ソプラノ) *
ミヒ・ガイック/ロルフェオ・バロック・オーケストラ

deutsche harmonia mundi/88697388672


ハイドンとルイジャ、2人のその後だが...
1790年、侯爵家の夏の離宮に、オペラ劇場まで建てたニコラウス・エステルハージ侯爵が亡くなり、侯爵家は代替わりし、まったく音楽に関心を持たなかった新侯爵によって、多くの音楽家たちが解雇される。すでに国際的な名声を得ていたハイドンは、ロンドンへと渡り。ルイジャは、夫、アントニオとウィーンへ。が、アントニオはすぐに亡くなり、ルイジャはイタリアへと帰国する。ハイドンは、将来、ルイジャとの結婚も考えたようだが、妻、マリア・アンナ・ケラーは健在で... ロンドンでは、レベッカ・シュレーターという新たな存在と出会い... 結局、1790年が、2人の破局の年に。
その後、2人の間には、いくつかの手紙のやり取りと、ハイドンからの経済的な支援が成されただけだったとのこと。一方、ルイジャの息子、ピエトロ(1777-96)は、その父、アントニオの死後、ウィーンのハイドン邸で、ハイドンの後見の下、音楽の手ほどきを受け、音楽教師になる。が、若くして亡くなる。その弟、ハイドンの息子だと考えられるアントニオ(1783-1855)は、再び音楽への関心を取り戻したエステルハージ侯爵家に、ヴァイオリン奏者として、仕えたとのこと。




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。