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トビアに、目を見開かされて... [2008]

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ハイドン、最晩年の傑作、二大オラトリオが誕生する四半世紀前に書かれていた、もう一つのオラトリオ、『トビアの帰還』(NAXOS/8.570300)。あの、『天地創造』、『四季』の他(『十字架上のキリストの最後の七つの言葉』も、もちろんあるが... )に、オラトリオが?と、驚きつつ、聴いてみれば、さらに驚かされる、すばらしいアリア、合唱曲の数々... また、アンドレアス・シュペリング率いるカペラ・アウグスティーナ(ピリオド・オーケストラ)、ヴォーカル・アンサンブル・ケルン(コーラス)がすばらしく、インヴェルニッツィ(ソプラノ)ら、ソリスト陣もすばらしく... で、NAXOSである。3枚組にして、このプライス... は、ある意味、奇跡だ。

で、物語自体も、奇跡の物語で...
トビア(と、その家族)の物語は、旧約聖書からのエピソード。だが、巨大な魚をやっつけたり、悪魔が出てきたり、ここぞというところで天使が助けてくれたりと、どこかバロック・オペラのような世界(ボッケリーニの弟、ジョヴァンニ・ガストーネ・ボッケリーニによる台本は、旧約聖書の物語を上手く編集し、よりドラマティックにしているとのこと... )。そうした世界に音楽を施せば、やっぱりオペラティック?もちろん、音楽的には、バロックの時代がすっかり過去となった、典型的なハイドン、モーツァルトらが活躍した時代のオペラの気分(やっぱり、オラトリオというより、オペラ... )。活き活きとした序曲にはじまり、次から次へと魅力的なアリアが続き、迫力の合唱、そつなく重唱も加えて、ドラマを盛り上げるレチタティーヴォ・アッコンパニャート... 意外なほどに聴かせどころが続き、3枚組みの長丁場を、緩むことなく、ドラマが紡がれていく。
が、世紀転換期、次なる時代の大規模な声楽作品に、新たな方向性を示した二大オラトリオ(『天地創造』が1798年初演、『四季』が1801年初演)に比べ、音楽史における『トビアの帰還』(1775年初演、この録音は1784年の改稿版)のインパクトは、弱いのかもしれない。二大オラトリオが誕生する四半世紀前... というタイム・ラグを考えれば、それも仕方ないのだが、これまで、省みられなかったのもわかる気がする。しかし、『トビアの帰還』の興味深い点は、その当時のオペラのモード(モーツァルトが、四大オペラを作曲する前... )の枠の中で、極めて高いクウォリティ、極めて充実した音楽を聴かせてくれること。そこが凄い。
ハイドンのオペラ再発見(再確認?)は、じわりじわり進んでいるわけだが、オペラ作家としてのハイドンの才能を、この『トビアの帰還』で思い知らされる(オラトリオだが... )。その当時のオペラのモードの発信元、ナポリ楽派の面々とは、また違う重厚感を響かせ、“交響曲の父”ハイドンだけに、歌のみならず、オーケストラまで、しっかりと音の詰まった、手応えのある音楽が繰り広げられ... もちろん、歌(こそ)もすばらしく... その当時のスタイルの、最上の形が、そこに並べられ、華麗なコロラトゥーラの装飾では、まさに、ブラブーラな時代の醍醐味を、しっかり楽しませてくれる。
またそこには、演奏者たちのすばらしいパフォーマンスもあって...
大天使ラファエルを歌う、ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ)の、宙を舞うように伸びやかな美声は、いつもながら魅了されずにはいられず... さすがは、ピリオド界、期待のディーヴァ。スペシャリストぶりを遺憾なく発揮してくる。また、トビアを歌う、若手、アンドレアス・J・ダーリン(テノール)が、クラシシズムの時代にジャスト・フィットなやわらかな声を聴かせてくれて、印象的(押しの弱さを感じるところもあるが... )。息子トビアよりも、魅力的なナンバーが多い?アンナを歌う、アン・ハレンベリ(アルト)も、落ち着きと、艶っぽさも備えた声で、ドラマティックに盛り上げてくれる。そして、登場こそ少ないが、要所要所で、アグレッシヴなコーラスを聴かせてくれるヴォーカル・アンサンブル・ケルンの存在も大きく... なにより、それらをまとめるアンドレアス・シュペリング(指揮)が凄い。一つ一つのナンバーを丁寧に仕上げ、隙のない音楽がすばらしく... 全体を通して、まったく、緩む瞬間がない。で、飽きがこない。そこからは、『トビアの帰還』への、彼の高い意識が、ガンガン伝わってくる。また、それに応えるカペラ・アウグスティーナ(ピリオド・オーケストラ)も、すばらしいソリスト陣の歌の向こうで、エッジの効いた、クールなサウンドを聴かせ、あらゆる場面の音楽を、表情豊かに描き上げてくる。こういうクウォリティで持ってすれば、これまで省みられることのなかったオラトリオも、俄然、輝いてしまう。その輝きに、目が見開かされる思い(トビトばかりでない... )。
そして、そのプライス含め、やはり奇跡。

HAYDN: Il ritorno di Tobia

ハイドン : オラトリオ 『トビアの帰還』 Hob.XXI-1 〔1784年版〕

ラファエッレ : ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ)
サラ : ゾフィー・カートホイザー(ソプラノ)
アンナ : アン・ハレンベリ(アルト)
トビア : アンドレス・J・ダーリン(テノール)
トビト : ニコライ・ボルチェフ(バス)
ヴォーカル・アンサンブル・ケルン(コーラス)
アンドレアス・シュペリング/カペラ・アウグスティーナ

NAXOS/8.570300


オラトリオ『トビアの帰還』は、1775年の作品。だが、アンドレアス・シュペリングによるこのディスクは、2つの合唱曲が追加された1784年版での録音とのこと。目一杯にオペラティックでありながらも、そんなコーラスが活躍するあたりに、二大オラトリオのイメージが聴き取れ、興味深く。オラトリオっぽさもあり。
で、『トビアの帰還』は、さらに、ハイドン、最晩年、二大オラトリオ完成後の、1806年にも、オーケストラの規模を大きくするために、手が加えられているのだが... それを手掛けたのが、ハイドンではなく、ジギスムント・ノイコム(1778-1858)。マルゴワールによる、モーツァルトのレクイエムの、ブラジル版(リオ・デ・ジャネイロでの演奏にあたり、ノイコムが補筆完成させた版... )で驚かせてくれた作曲家が、また、おもしろいところでその名前を見つけてしまった。なんでも、ハイドンの親戚筋らしいので、そうした仕事も、あるのかもしれないが、モーツァルトといい、ハイドンといい、当時のビッグ・ネームを相手にしているあたり、なかなか興味深く。ノイコム自身の作品も聴いてみたくなる。




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