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遠い遠い世界の、遥かなる旅... [2008]

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サヴァールによる、"ドン・キホーテ"(Alia Vox/AVSA 9843)、"コロンブス"(Alia Vox/AVSA 9850)に続いての、豪華、ブック型シリーズ、第三弾は、"ザビエル"。イベリア半島を彷徨い(ドン・キホーテ)、大西洋を渡った(コロンブス)サヴァール一行が、とうとう日本へと到る(ザビエル)わけで、大いに興味をかきたてられる。異文化への関心を強く示すスペイン古楽界、その巨匠が手掛ける、日本までの道程、かつての音とは、どのように響くのだろう?"クラシック"の、ステレオタイプにしがみついていては、けして見えてこない世界を期待して、開く、サヴァールによる音の本、『フランシスコ・ザビエル―東洋への道』(Alia Vox/AVSA 9856)。

最初の、ショームの音が鳴り響いた瞬間、完全に、遠い遠い世界へと、トリップしてしまうような... 一曲目から、圧倒される。この人たちが紡ぎ出してくるサウンドは、一体、なんなのだろう?単に、古い時代の音楽を再現している、という次元にはない、圧倒的なるサウンド・スケープ。その当時の臭いが立ち込めて、聴いている者を包み込んでくるような。ただ音楽を聴く、ということでは割り切れないものが、ディスクに籠められていそうで、不思議。もちろん、そこには、ザビエルの生涯を、音楽で丁寧に追ったからこそのものもあろうが、サヴァールとアンサンブルの面々、一人一人の、深い共感からくるであろう、一音一音の深さ。そうして紡がれたサウンドの、どこか郷愁にも似た感覚に、聴く側の心も、共鳴してしまうのだろうか。遠い遠い世界の、遥かなる旅を、現代にいながら、喚起させられてしまう。
さて、そのザビエルの旅である。東洋への道... だけではなく、ザビエルの誕生から始まり、旅の途中、その死までを、ワールド・ミュージックの範疇にあるサウンドまで取り込んで、綴っていくことになる。が、全体を聴いてみると、ザビエルの人生は、“旅”そのもののようにも感じてしまう。そして、その旅の背景に見えてくる、西、東の、それぞれの情景。ルネサンスの終わり、近世に向けて大きく舵を取りつつあった頃... ザビエルの故国、歴史の古いナヴァラ王国は、そのほとんどの領土を、新たに誕生したスペインに飲み込まれ。またヨーロッパ全体を俯瞰すれば、新教、旧教が、同じ主への信仰をめぐって、恐るべき宗教戦争の泥沼へ突入していくことに。そうした西を後にして、東へとキリストの教えを広めようと旅立ったザビエル... その先には、それぞれに長い歴史を誇る文化や信仰がすでに息づいていて、当然のことながら、大きく立ちはだかるわけで...
「グローバリズム」という言葉が、重く圧し掛かる現代から見つめるザビエルの旅は、教科書で習う「偉業」よりも、どことなしの虚しさが漂う。サヴァールたち紡ぎ出すサウンドは、かつてが、遠い遠い世界となってしまった現代から、ザビエルとその時代を見つめ直すことで生まれるトーンなのか、言い知れぬやるせなさが迫ってくる。それは、サヴァールの"コロンブス"でも感じたトーンに共通するのが興味深い。
ザビエルの東洋への道は、西洋化という、近代における文明のリフォーマットの、最初の第一歩であり、その第一歩は大いなる挫折でもあり、その後の歴史、現代の情景を見渡せば、考えさせられるものがある。

しかし、アフリカへの到着を告げる太鼓(disc.1, track.24)のリズムが響けば、それまでの空気を瞬く間に換えて見せて、驚かせる!西から脱した瞬間というのか、アフリカのリズムは、とにかく鮮烈。一枚目の最後、マラッカへと到った「オ・グロリオサ・ドミナ」上のラーガ(disc.1, track.28)の、エスニックさは、ヨーロッパにはないしなやかさ、軽やかさ、陶酔を聴かせ、ルネサンス・ポリフォニーからの解放が、何とも言えぬ爽快感をも呼び起こして、圧巻。また、こうした音楽が、安易に、プリミティヴに響くことがないあたりが、サヴァールの意識の高さ、バランス感覚の凄いところ。東に到る各地の音楽が、洗練を持って西の音楽と並べられることで、西と東の同時代感が、しっかり聴こえてくるよう。
続く、二枚目、日本へと到り、最初の篠笛の音の、苔むしたような、湿度を伴う深さが、それまでのエスニックなサウンドから、また大きくジャンプし、東の果てを強く意識させる。また、改めて日本の音と向き合ってみると、その独特の肌触りに、ゾクっとさせられてもみたり(現代ニッポン、すっかりリフォーマットされてしまっているからこそ?)。一方で、その後に歌われる、モラレスのレクイエム(disc.2, track.2)は、篠笛とのギャップが衝撃的で。独特の単旋律の後に聴くルネサンス・ポリフォニーの、透明なる美しさ、やわらかさは、より際立ち、これまた圧巻。西と東の音楽が、大胆に並べられてこその、興味深い異化効果。ザビエルは、どんな感覚を持って、西と東の音楽を聴いたのだろうか?なんても思いをめぐらせてみたり。

それにしても、知っていそう(あの、ヘア・スタイルばかりに目がいっていたか?)で、実はあまり知らなかったザビエルという存在を、極めて深く、体験できたような気がする。インパクトのある音の本だった。で、実際に本でもあって、日本語訳は、多少、荒っぽいところもあるが、読み応え、十分。

FRANCISCO XAVIER ・ The Route to the Orient

disc.1 : 人文主義時代のヨーロッパ
I. 誕生と幼少期
II. 青年期
III. パリ大学での研鑽(1525-1536)
IV. イタリア―イエズス会の創設
V. リスボンから、アフリカとインドへ

disc.2 : 日本到達
VI. 新たな文化の世界―日本到達
VII. 中国の閉ざされた門へ

ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャ
ジョルディ・サヴァール/エスペリオン XXI、他...

Alia Vox/AVSA 9856


昨年、アントネッロがリリースしたアルバム、『天正遣欧使節の音楽』(Anthonello MODE/AMOE-10004)が忘れられないのだが... サヴァールの最新盤、『フランシスコ・ザビエル―東洋への道』は、東からのアントネッロに対し、まるで、西からのアンサー・アルバムのようでもあり...
こうした、東西を結ぶ音楽を集めたアルバムが、続けてリリースされたことも興味深く。21世紀における"クラシック"という枠組みの広がりに、感慨も。




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