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モーツァルト、輝かしき1780年代の幕開け、『後宮からの誘拐』。 [before 2005]

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18世紀のオペラというと、まずナポリ楽派の存在が大きい。それから、ヨーロッパ中から才能を集めた音楽の都、パリ!そうした場所に比べると、ウィーンはローカル?が、そのローカル性が思い掛けないケミストリーを生む。丁寧に見つめると、18世紀のウィーンのオペラ・シーンは、なかなか興味深い。まず、ヨーロッパの世俗権力の頂、神聖ローマ皇帝の威光により、イタリアから第一級の才能を迎えた贅沢さ... そのアイコンが、台本作家の巨匠、メタスタージオ。これにより、より上質な本場の伝統が移植される。一方で、ヴェルサイユを擁する宮廷文化の王様、フランスの影響も受ける。これには、フランス王家と近しいロレーヌ公(フランツ1世の大伯父は太陽王!)が、マリア・テレジアの婿に迎えられたこともあるかもしれない。そうして、フランスにインスパアされた革新が生まれる。それが、グルックによるオペラ改革... とはいえ、ウィーンのオペラ改革は、イタリアの上質な伝統を研ぎ澄ませたものとも言え、絶妙なバランスを見せるのが特徴。また、そのバランスこそ、古典主義を体現していたか... そんなウィーンのオペラ・シーンの魅力は、妙なる国際性。それは、ローカルな場所なればこそ出現したオペラのアルカディアと言えるのかもしれない。そこに激震が走る!マリア・テレジアの長男、ヨーゼフ帝による、劇場改革... ウィーンのオペラは、啓蒙専制君主により、ドイツ語のオペラに塗り替えられてしまう。
ということで、ヨーゼフ帝の劇場改革の集大成とも言える作品にして、1780年代のモーツァルトの活躍の端緒とも言える作品... ジョン・エリオット・ガーディナー率いる、イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏、モンテヴェルディ合唱団のコーラス、リューバ・オルゴナソヴァ(ソプラノ)らによる、モーツァルトのジングシュピール『後宮からの誘拐』(ARCHIV/435 857-2)を聴く。

1776年、ウィーンからイタリア・オペラを追放した劇場改革は、ブレイクして間もないサリエリに暗雲をもたらす。1774年に、世を去った、師、ガスマンから、宮廷作曲家のポストを受け継いだばかりのサリエリは、活躍の場を求めイタリアへ... すると、ミラノを皮切りに、ヴェネツィア、ローマと、次々に大成功!国際的な名声を確立することに... サリエリにとっての劇場改革は、怪我の功名となるのだったが、ウィーンにとっては優秀な人材の流出となった。が、そもそも、なぜ劇場改革だったのか?それは、母、マリア・テレジアが贔屓としたイタリア・オペラに対抗して、息子、ヨーゼフ帝がドイツ語によるオペラを開花させようとした世代間闘争であり... プチEUとも言える連邦国家、ハプスブルク帝国を、中央集権国家に脱皮させるにあたり、ドイツ語による言語統一を目指してのイタリア・オペラの追放であり... イタリア人スターをキャスティングする莫大な費用をカットするリストラでもあり... 親子、政治、財政、様々な要因が重なっての劇場改革は、ウィーンのオペラにネガティヴに働いた。宮廷作曲家として、サリエリも、不得手なドイツ語によるジングシュピール『煙突掃除人』を作曲。1781年、ブルク劇場で上演し、見事、失敗している。で、サリエリに限らず、劇場改革によるドイツ語のオペラは、あまりパっとした成果を生まずにいたのだったが、そこに水を得た天才が現れる。ドイツ語話者、ザルツブルク人、モーツァルト!
ザルツブルクで燻っていた天才は、サリエリがジングシュピールで苦戦した年、仕えるザルツブルク大司教に呼ばれ、ウィーンへと向かう。大司教お抱えの才能ある音楽家として、大司教が帝国の首都で見栄を張るために仕事=コンサートをするわけだが、そんな状況に我慢ならない天才は、大司教と罵り合う喧嘩を起こし、見事に解雇を勝ち取る!そんな天才をウィーンは放っておかない... 早速、ジングシュピールが委嘱され、誕生するのが、ここで聴く『後宮からの誘拐』。フリーとなったモーツァルトが、ウィーンで手掛ける最初のオペラは、溢れ返りそうなくらいの意気込みに充ち溢れていて、改めて聴くと圧倒されるばかり... いや、ザルツブルクでの鬱憤を晴らすかの如く、その才能の全てを出し切り、見事過ぎるほど見事な音楽を構築して来る。それはまるで、全てのナンバーが交響曲かというほどの力の入れようで... また、ジングシュピールならではの性格、レチタティーヴォでナンバーをつながず、台詞が音楽を断ち切ることが、否が応でも音楽の存在を際立たせ、モーツァルトの音楽の見事さが、これでもかと迫って来る。ジングシュピールというと、軽い歌芝居といった印象があるけれど、『後宮の誘拐』は、そうした軽さとは一線を画し、一曲一曲がただならない。ヨーゼフ帝が音が多過ぎると言ったのも納得。
そうした中で、特に印象深いのが、2幕、コンスタンツェのアリア「どんな責め苦があろうとも」(disc.1, track.19)。まず、驚くほど立派な序奏があり、それがまた協奏交響曲のようにソロの楽器が大活躍!なかなか歌が始まらないもどかしさもありつつ、歌が始まる前にたっぷりと魅了して来る。そうして歌が始まると、ほとんど歌付き協奏交響曲!何だかもったいないほどの盛りだくさんさ... それでいて、ソプラノが歌うメロディーは流麗で、盛り上がって来るとパワフルで、夜の女王のアリアを予感させる部分もあり、惹き込まれる。それから、2幕、幕切れの四重唱(disc.2, track.8)... 再会を喜び、後宮からの逃亡を企てる2組のカップルが織り成す音楽は、それそのものが協奏交響曲のよう。オペラとしての展開よりも、音楽としてしっかりと構築されてしまうところが凄い。そうしたあたりに、モーツァルトの音楽に対する真面目さが表れているよう。一方で、『後宮からの誘拐』ならではのトルコ風、序曲や太守を賛美する合唱(disc.1, track.9)、華やかなフィナーレ(disc.2, track.17)は、エキゾティックさがスパイスを効かせ、聴く者を魅了する。1782年、ブルク劇場で初演された『後宮からの誘拐』は大成功だったとのこと... 聴き応え十分の音楽に、キャッチーなトルコ風は、鬼に金棒だったろうなァ...
そんな、モーツァルトの音楽をさらにさらに際立たせるガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツ。彼らならではの端正にして、しっかりとした響きが、モーツァルトの真面目さを引き立て、天真爛漫なモーツァルトのイメージを吹き飛ばし、手堅さからモーツァルトを輝かせる!見事なアリアや、重厚な重唱ばかりでなく、ちょっとしたナンバーまで、驚くほど立派に響いて、若きモーツァルトのただならない本気を、徹底して鳴らして来る。だからか、オペラにして交響曲を聴くような、不思議な聴き応えがある。そこに、端正な歌声を乗せて来る歌手たちの歌いがすばらしく... 特に、コンスタンツェを歌うオルゴナソヴァ(ソプラノ)の瑞々しさ!そして、トルコ風で盛り上がる合唱曲を景気良く歌うモンテヴェルディ合唱団も聴きどころ... エキゾティックでキャッチーなメロディーを活き活きと歌うのを聴いていると、テンション上がる!

MOZART
Die Entführung aus dem Serail
John Eliot Gardiner


モーツァルト : オペラ 『後宮からの誘拐』

セリム : ハンス・ペーター・ミネッティ(語り)
ベルモンテ : スタンフォード・オルセン(テノール)
コンスタンツェ : リューバ・オルゴナソヴァ(ソプラノ)
ブロンテ : シンディア・ジーデン(ソプラノ)
ペドリッロ : ウヴェ・ペパー(テノール)
オスミン : コーネリアス・ハウプトマン(バス)
モンテヴェルディ合唱団

ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

ARCHIV/435 857-2

モーツァルト、悪戦苦闘の1770年代から、輝かしき1780年代へ...
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