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ヴェルディ、オベルト。 [2013]

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ワーグナー(1813-83)と、ヴェルディ(1813-1901)が、同い年って、凄くない?歴史を見つめていると、時として、何か、大いなる意志が介在しているように思える瞬間がある。ドイツ・オペラの怪物、ワーグナーと、イタリア・オペラのアイコン、ヴェルディが、ともに、1813年(ちなみに、ロッシーニがブレイクを果たす年... )に生まれたということが、まさに!ワーグナーとヴェルディ、2人のライヴァル関係が、19世紀のオペラを大いに盛り上げたし、その盛り上がりは、オペラ史上、最大のピークを形成していることは間違いない。また、音楽の新たな中心となったドイツと、伝統国、イタリアという配置も効いている。そう、2人の活躍には、イタリアからドイツへ、という音楽史上のパラダイム・シフトが背景にあるわけで、何とも宿命的な2人... 一方で、伝統的であるヴェルディが、革新的だったワーグナーより長生きしたというのも、なかなか興味深い。それを、歴史が用意したある種の捻りと捉えるならば、下手な小説よりずっとおもしろく感じてしまう。事実は小説より奇なり。だなと...
ということで、若きワーグナーが初めて完成させたオペラに続いて、若きヴェルディのオペラ作家デビューに注目!ミヒャエル・ホフシュテッター率いる、ドイツ、ギーセン州立劇場によるライヴ盤で、ヴェルディのオペラ『オベルト』(OHEMS/OC 959)を聴く。

バロック以来の音楽都市、ドレスデンでこども時代を送ったワーグナー。劇場人一家の中で、かのウェーバーが遊びに来るなど、恵まれた環境で育つも、音楽へと関心が向くのは、まだ先(音楽よりも芝居に関心があり、戯曲を書いたりと、文学的な才能を見せていた!)... 対して、ポー平原のど真ん中、長閑な田園地帯にあるレ・ロンコーレ村に生まれたヴェルディのこども時代は、素朴そのもの。一方で、早くから音楽の才能を開花させ、村の教会のオルガンを見事に弾き、評判となっていた。という風に、2人の生い立ちを並べてみると、なかなか興味深いものがある。で、今回は、若きヴェルディに注目するわけだけれど... ヴェルディの才能にいち早く注目したのが、レ・ロンコーレ村から程近い町、ブッセートの商人、バッレツィ(後に義父となる... )。1823年、10歳のヴェルディ少年に、きちんとした教育を受けさせようとブッセートに呼び寄せ、支援。さらに、その才能を見込んで、1832年、18歳のヴェルディをミラノへと送り出す(年齢制限によって、ミラノ音楽院への入学は叶わなかった... )。そのミラノで、ヴェルディは、ミラノ音楽院のソルフェージュの教師で、スカラ座のコレペティトゥア、ラヴィーニャに師事、しっかりと作曲を学び、またスカラ座にも通い、大都会、ミラノで、多くを吸収。その経験を以って、ブッセートの町でも活躍を始めたヴェルディは、1835年、ブッセートの音楽学校の校長に就任、翌、1836年、22歳の時には、バレッツィの娘、マルゲリータと結婚、順風満帆の人生を歩み出す。が、何か物足りない... そうした中、『ロチェステル』というオペラを作曲し始め、パルマ(イタリア統一以前、ブッセートやレ・ロンコーレ村があったパルマ公国の首都... )での上演を目指すも、実績の無い新人の新作が受け入れられるはずもなく... 新たに『オベルト』(『ロチェステル』を改作とも考えられている... )を作曲し、完成させると、一念発起、妻子を残して、再び、ミラノへ... 友人の伝手を頼り、スカラ座の劇場支配人、メレッリにスコアを見せる機会を得ると、その才能は見出された!『オベルト』は、1839年、スカラ座にて初演され、ヴェルディ、26歳、オペラ作家デビューを果たす。
という、『オベルト』、成功しました。他のオペラハウスからも上演の引き合いがあり、リコルディ社(19世紀、イタリア・オペラの黄金期の一翼を担った楽譜出版社... )から楽譜も出版、メレッリは、新作3作をヴェルディと契約するほど... うん、わかる。何しろ、みんな大好き、お馴染みの"ヴェルディ"が、デビュー作にして、すでにそこにあるのだもの!いや、我々にとってのお馴染みは、当時のオペラ・ファンにとっては、新鮮だったはず... 『オベルト』が初演される前、1830年代を振り返ってみると、ベッリーニドニゼッティが人気を博していたわけで、ベルカント・オペラの甘やかさ、麗しさに慣れていた当時の人々の耳には、ヴェルディならではの熱の籠った怒り、悲しみが、刺激的だったように感じる。また、1830年、七月革命(パリで起こった、フランスの復古王政を倒した革命... その機運は、瞬く間にヨーロッパ各地に波及... )が、保守反動に覆われていたヨーロッパを揺さぶり(ロマン主義が本格始動... )、人々の心はざわつき始めていた(特にイタリアでは、イタリア統一運動=リソルジメントが動き出し... また、オーストリア支配下にあるミラノでは、自治への欲求が高まりつつあった... )ことを考えると、ヴェルディの真新しい熱さは、時代の空気をがっしりと捉えたものだったろう。さらに、報われないオベルト親娘の物語... 戦いに敗れ、亡命を余儀なくされたオベルトと、その娘、恋人リッカルドにいいように利用され捨てられたレオノーラの悲しい顛末(娘を裏切った恋人に決闘を挑み、命を落してしまう老父。残された娘の哀れ... )は、ままならない時代を生きる人々に響いただろう。そうして、ヴェルディの時代の到来を告げたわけだ。
しかし、序曲からして、ヴェルディの魅力、全開です。第一作目にして、これほどまでに"ヴェルディ"かと、驚いてしまう。ジャジャーン!という宿命的な冒頭の後で、たっぷりとメローなパートが続いてからの急転直下、ドラマティック!そーです、そーなんです、ヴェルディって... という典型的なパターン。この典型的が、たまりません。もちろん、幕が上がっても、ザ・"ヴェルディ"!なのだけれど、最初の聴かせ所、レオノーラのカヴァティーナ(disc.1, track.4)では、まだまだベルカントな表情を残していて、その技巧的な歌わせ方は、ベッリーニを思わせる。けど、そういうヴェルディもまた魅力的... 続く、オベルト親娘が再会を果たす二重唱(disc.1, track.5)では、情け深い父に、可憐な娘という、後の名作(リゴレット親娘とか... )を予感させる形が表れていて、情感に富む2人のやり取りに聴き入ってしまう。さらに、クソ野郎、リッカルドの実態(恋人、レオノーラから、その父、オベルトの情報を得て、敵方に流し、挙句、その敵の妹と政略結婚!)が暴かれての1幕の佳境(disc.1, track.8, 9)では、登場人物たちの思惑を交錯させて、巧みに音楽を盛り上げる!というあたり、ロッシーニの幕切れを思い出させるも、ヴェルディならではの熱さがしっかりとあり、手に汗握る展開。2幕、リッカルドへの復讐を歌い上げるオベルトのアリア(disc.2, track.3)、娘への愛と、愛ゆえの怒りを雄弁に聴かせるところ、ヴェルディの醍醐味だよな... いや、登場人物たちの感情を、思いの外、丁寧に音楽に落とし込み、シェーナや重唱が巧みにドラマを織り成せていることに驚かされる。"ヴェルディ"ならではの押し出しの強さこそまだ薄いものの、かえって、スマートにドラマを展開できているのが興味深い。そういう点も含めて、若きヴェルディも侮れない。
そんな『オベルト』を、ホフシュテッター+ギーセン州立劇場のライヴ盤で聴くのだけれど... ウーン、ドイツのオペラハウスは、ビッグネームばかりでないなと、つくづく... で、まず印象に残るのは、ホフシュテッターならではの小気味良い音楽作り!ヴェルディの音楽のスパークする感覚を、しっかりと息衝かせ、ドラマをテンポ良く運び、聴き手をグイグイと引き込んで来る。そんなホフシュテッターに応えるギーセン州立劇場フィルの演奏が、またパリっとしていて、聴いていて気持ち良い!で、このパリっとした感じ、ちょっとドイツっぽくない?かと言って、イタリアっぽいわけでもない... 下手にドラマティックに捲くし立てるようなこともせず、絶妙にドライで、ちょっとクールにもヴェルディを見つめる感覚がおもしろい!で、何となくピリオドっぽい雰囲気(バロックものも得意とするホフシュテッターなればこそか... )もあって、クリアかつエッジが効いているのが特徴的。だから、若きヴェルディのフレッシュさが引き立ち、それでいて、若きヴェルディの音楽が、なかなかよく練られていたことも掘り起こす。いや、魅力的かつ実に興味深い演奏... そんな演奏に乗って、魅力的な歌声を聴かせてくれる歌手たちがまた盛り上げる!特に、タイトルロールを歌う、ガンス(バリトン)の雄弁さ、深みは、聴き入るばかり... それから、リッカルドを歌う、ラインハルト(テノール)の瑞々しさ!そのスコンと抜けた爽やかさに、かえってクソ野郎の自分本位っぷりが強調されるようで、はまっている。いや、絶妙にキャラの立った歌手たち。何とも救いの無い物語のはずが、これだけ魅力的に仕上げて来るのだから、凄い。だから、最高!

Giuseppe Verdi Oberto

ヴェルディ : オペラ 『オベルト』

オベルト : エイドリアン・ジャンス(バス)
レオノーラ : フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ(ソプラノ)
リッカルド : ノーマン・ラインハルト(テノール)
クニーザ : マヌエラ・カスター(メッゾ・ソプラノ)
イメルダ : ナロア・インチャウスティ(メッゾ・ソプラノ)
ギーセン州立劇場合唱団

ミヒャエル・ホフシュテッター/ギーセン州立劇場フィルハーモニー管弦楽団

OHEMS/OC 959




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