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ワーグナー、ピアノ・ソナタ。 [2013]

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やっぱり、"コロナ疲れ"、出てきたかも... で、考えた、コロナの何に疲れている?ステイホームじゃなくて、ステイホームによって視野に飛び込んで来る、メディアやツィッターに躍る血圧高めのワードの数々。目の前の話題にパっと飛び付いて、ギャァーッ!とやるやつ、アレ... ま、シャットアウトするまでの話しなのだけれど、やっぱり目に入る。目に入って、振り回されて、疲れるんだなと... もちろん、コロナ禍という目の前のことから逃れることはできないのだけれど、より広い視野を持って、先を見据えて、そろそろアフター・コロナのことも考えつつ、ギャァーッ!ではなくて、建設的にならないといけないように思う(ギャァーッ!で、解決できたためし無し... )。一方で、これまで変わることができなかったことが、あっさり変わることができたり、新しい動きもいろいろ見受けられて、そういうトピックには救われる。いや、今、我々は、時代の変わり目に立っているのだなと... ある意味、ギャァーッ!は、旧時代の終わりの断末魔の叫びなのかもしれない。なればこそ、新時代の芽にこそ注目したい!で、そんな気持ちを補強するために(?)、新時代を切り拓いた大家の若芽の作品を聴いて、リフレッシュ!
ということで、ワーグナーが、18歳の時に書いた、ピアノ・ソナタ... 1852年製、エドゥアルト・シュタイングレーバーのピアノで、トビアス・コッホが弾く、Op.1のソナタに、「大ソナタ」、Op.4(cpo/777800-2)を聴く。しかし、あのワーグナーが、ソナタですよ!

ワーグナーは、如何にしてワーグナーとなったか... そのこども時代、若い頃を見つめると、当然ながら、いつものイメージとは異なる姿(いつものイメージがあまりに押し出しが強いものだから、特に... )が浮かび上がり、なかなか興味深い。というワーグナーは、ナポレオン戦争の真っ只中、1813年、ライプツィヒにて、下級官吏で、音楽好きで、芝居好きだった父(その影響により、ワーグナーのみならず、兄たち、姉たちも、俳優や歌手として劇場で活躍した... )の下に生まれる。が、間もなく、その父が世を去り、母は、父の友人で、俳優だったガイヤー(ワーグナーの実父説あり... ジャケットの1841年のワーグナーの肖像が、実はガイヤーの肖像によく似ておりまして... )と再婚。ドレスデンに移る。で、この義父(ドレスデンの宮廷歌劇場の音楽監督だったウェーバーの友人で、ガイヤー家には、そのウェーバーが、よく訪ねて来たとのこと... )を通じて、劇場の世界を知ることになるワーグナー少年だったが、モーツァルトベートーヴェンのように、早くから才能の片鱗を見せるようなことはなく、極一般的に学校に通う、普通のこどもだった。そんなワーグナーに、音楽への道を決定付ける、衝撃が訪れる。1821年、義父、ガイヤーが世を去り、1827年、一家はライプツィヒへ戻ると、翌、1828年、14歳のワーグナーは、ゲヴァントハウスで第九を聴き、感動。音楽こそが目標となる。さらに、その感動に突き動かされ、ベートーヴェンを研究し、1830年、17歳の時には、第九をピアノ用にアレンジ!出版まで試みている(が、実現には至らなかった... )から、凄い。翌、1831年、18歳、ワーグナーは、ライプツィヒ大学に入学。哲学、音楽を学びながら、聖トーマス教会のカントル(かつて、バッハも務めた... )、ヴァインリヒ(後のシューマン夫人、クララも教えている... )に付いて、きちんと作曲を学び... そうして作曲されたのが、Op.1のピアノ・ソナタ(track.11-14)。いや、ワーグナーの"Op.1"が、ピアノ・ソナタだったとは... 後の姿を思えば、まさに意外であり、おもしろくもある。
という、Op.1のピアノ・ソナタ。1楽章(track.11)、いきなりの和音の強打は、ベートーヴェンちっく!なのだけれど、直後、軽快に流れ出すメロディーは、民謡調。そのあたり、ウェーバーに通じる感覚があるか?ロマン主義をしっかりと意識させられる。が、しかーし、後のワーグナーの片鱗は、一切、聴こえません。いや、何とも健康的な、若々しい音楽が織り成されて、さわやか!続く、2楽章、ラルゲット(track.12)では、ベートーヴェン風でもありつつ、より古い古典主義へと還るような感覚もあって... 3楽章、メヌエット(track.13)では、それは、より明確となり、アンシャン・レジームを象徴するメヌエットの上品な性格もあって、まるでハイドンやモーツァルトのよう。てか、そんなワーグナーが、新鮮過ぎる!からの、終楽章(track.14)では、ベートーヴェン風の音楽が繰り広げられて、もうね、対位法なんかが、微笑ましいくらいにベートーヴェンで、若きワーグナーの楽聖へのリスペクトがビンビン伝わって来る。いや、その、若さゆえの、素直な姿勢に、何だか心洗われるよう。そんなOp.1から、1832年に作曲された、Op.4のピアノ・ソナタ(track.1-3)、「大ソナタ」を聴けば、作曲家、ワーグナーの成長っぷりが、耳に鮮やか!音楽は、よりしっかりと構築され、響きは、より重厚感を増して、「大ソナタ」というタイトルも伊達じゃない!かつ、おもしろいのは、そうなって、よりベートーヴェンに近付いているところ... 堂々たる1楽章(track.1)に始まって、2楽章(track.2)のアダージョでは、しっとり、ベートーヴェンの緩叙楽章を思わせる情感の豊かさが広がり、魅了されずにいられない。続く、終楽章(track.3)では、ちょっと雰囲気を変えて、雄弁な序奏こそベートーヴェン風なのだけれど、その後に聴こえて来る朗らかさは、シューベルト?というあたり、新時代を担うロマン主義者としての自覚が覗くのか。しかし、若きワーグナーの音楽に触れていると、その初々しさにキュンキュンしてしまう。音楽に対して、真っ直ぐ!あのワーグナーにもこういう時代があったわけだ。
という、18歳のワーグナーを、瑞々しく響かせる、コッホ... そのクリアなタッチから生まれる粒立ちの良いサウンドがまず印象的で、18歳という若さが軽やかに弾み、小気味良い。また、1852年製、エドゥアルト・シュタイングレーバー(バイロイトでピアノ作製会社を立ち上げ、後にバイロイトへと移住したワーグナー家とも縁が深い... )のピアノの、どこか素朴で、温もりを感じさせる音色を活かし、その音色でワーグナーの青春をやわらかく包み込み、若さゆえの青さを巧みに味わいに昇華してみせる。だから、2つのピアノ・ソナタが、後のワーグナーに引けを取らない。それでいて、後のワーグナーには見え難くい、音楽に対する真っ直ぐな姿勢、その素直な魅力をきちんと形にする。すると、そこからは、若いからこその音楽への自負が溢れ出し、それが、また何とも微笑ましく... でもって、その真っ直ぐさ、ピュアなワーグナーにハっとさせられる。若いって、小っ恥ずかしさもあるけれど、人生経験を経ないからこその、色に染まっていない透明感は間違いなくあって、掛け替えのない魅力になり得るのだよね... いや、ピュアなワーグナーに触れれば、後の楽劇の印象もまた変わる気がする。というより、ピュアなワーグナーを知ってこそ、あの壮大な楽劇の深淵が覗けるような気さえする。そういうワーグナー像の再発見を促すのが、このコッホによるアルバムなのだろう。若さが軽やかに弾んで、キラキラと輝く音楽は魅惑的... だけでない、実に感慨深く、味わいもまた深い1枚となっている。

Richard Wagner ・ Piano Sonatas & Lieder ・ Tobias Koch

ワーグナー : ピアノ・ソナタ イ長調 Op.4 WWV 26 「大ソナタ」
ワーグナー : ゲーテの『ファウスト』のための7つの歌 Op.5 WWV 15 ****
ワーグナー : ピアノ・ソナタ 変ロ長調 Op.1 WWV 21

トビアス・コッホ(ピアノ : 1852年製、エドゥアルト・シュタイングレーバー)
マグダレーナ・ヒンターフドブラー(ソプラノ) *
マウロ・ペーター(テノール) *
ペーター・シェーネ(バス) *
ミュンヘン音楽演劇大学マドリガル合唱団男声二重カルテット *

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さて、ピアノ・ソナタの他に、現存するワーグナーの最も古い歌(だと思うのだけれど... )の作品(Op.1のピアノ・ソナタが作曲されたのと同じ年、1831年の作品... )、ゲーテの『ファウスト』のための7つの歌曲(track.4-10)も取り上げられる。で、それは、ピアノ伴奏による、ゲーテの劇詩を歌う歌曲、「蚤の歌」(track.7)や「糸を紡ぐグレートヒェン」(track.9)と、馴染みの詩によるものもあって、なかなか興味深く、何より、ピアノ・ソナタ同様、初々しい!ゲーテが綴る表情をしっかりと汲み取ろうと、何だか一生懸命... となると、楽劇はまったく遠い... それでも、「菩提樹の下の農夫たち」(track.5)では、ソプラノとテノールが歌い交わし、男声コーラスが合いの手を入れて、オペラ的な情景を織り成しており、片鱗は表れているか?また、バス=メフィストフェレスが男声コーラスを率いて歌う「蚤の歌」(track.7)を聴けば、グノーの『ファウスト』を思い起こしたり... ソプラノによる「糸を紡ぐグレートヒェン」(track.9)では、ドラマ性をしっかりと織り込み、真に迫っていて、ワーグナーの劇的なセンスの早熟を見出す。何より、ロマンティック!新時代への確かな一歩を記している。
そんな、ゲーテの『ファウスト』のための7つの歌曲(track.4-10)を歌う、歌手陣がすばらしい!ヒンターフドブラーのロマンティックなソプラノ、ペーターの誠実なテノール、そして、シェーネの表情に富むバス... その力を存分に発揮できるナンバーとは言えないかもしれないけれど、彼らの力演があって、若きワーグナーの拙さもまた、表現となってしまう。いや、伴奏のコッホの好演もあり、思いの外、それぞれ伸びやかに歌い上げていて、若きワーグナーの歌を楽しませてくれる。




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