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ベートーヴェン、8番の交響曲。 [2018]

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2020年は、ベートーヴェン・イヤー!ではありますが、コロナ禍は、物の見事に祝祭気分を吹き飛ばす... けど、吹き飛ばされっぱなしじゃ悔しいよね。ならば、当blogは、ステイ・ホームで、ゴールデン・ベートーヴェン・ウィーク!難聴に苦しむ中、ベートーヴェンに新たなインスピレーションを与えただろうエラールのピアノで弾いた、リュビモフによる「月光」に始まって、ハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管の"RESOUND BEETHOVEN"(ピリオド・アプローチで、初演時の響きを再現しようという... )のシリーズから、戦時下、一喜一憂する中で書かれただろう「運命」と「田園」7番と「ウェリントンの勝利」を聴いて参りました。普段の、偉大な作曲家、楽聖、ベートーヴェンとしてではなく、ひとりの人間として注目する彼らの視点は、何か、音楽を生々しく息衝かせ、そうしたサウンドに触れれば、いつもより心は揺さぶられ、これまでになく共感を覚えてしまう。というのも、コロナ禍における新たな感覚かもしれない... いや、2020年のベートーヴェン・イヤーは、特別...
、 ということで、ベートーヴェン!マルティン・ハーゼルベック率いるウィーン・アカデミー管弦楽団の"RESOUND BEETHOVEN"のシリーズから、VOL.6、8番の交響曲とヴァイオリン協奏曲のピアノ版(Alpha/Alpha 477)を聴く。5、6、7、そして、8!

ベートーヴェンの交響曲というと、その音楽性が方向付けられた3番、「英雄」。ダダダダーン!のアイコン的な5番、「運命」。交響曲の枠組みを逸脱してしまう6番、「田園」。そうした全てを突き抜けて、交響曲=絶対音楽なのに歌ってしまった掟破り、まさに、交響曲のコロンブスの卵、第九... この4曲のイメージが前面に立つ。一方、そうしたヴァラエティに富む中に在って、独特な存在感を見せるのが、前回、聴いた、7番。「田園」や第九のような、交響曲の形や在り方に挑戦することこそないものの、他には無いテンションを見せて、浮いて感じられる。そういう点で、ベートーヴェンの交響曲、9曲中、実は、最も尖がっている?で、その反動だろうか、続く、8番は、思いの外、落ち着いた印象があって、ウィーン古典派の伝統へと還るよう。だから、第九を前に、箸休め的な8番?他に比べると、地味に感じられなくもない... が、かえって、そのあたり、尖がっているようにも思えたり... そんな8番(track.1-4)を聴くのだけれど、それは、7番と同じ、1812年に完成される。つまり、ナポレオン戦争の最中、作曲されていたことになる。が、前述の通り、2つの交響曲の佇まいは大きく異なる。7番のテンションが、ナポレオン戦争の戦況の好転を反映したものと捉えるならば、8番の伝統回帰には、ナポレオン戦争後の世界が予兆されるのか?恩師、ハイドンを思わせる端正さを見せるその音楽... 3楽章(track.3)では、アンシャン・レジームを象徴するメヌエットのテンポで、豪奢な雰囲気すら醸し出されて、これまた他には無いもの。ナポレオンが失墜すれば、王家が帰って来る。ウィーン会議(1814-15)後の保守反動の時代(ベートーヴェンにとっては悩ましい時代... )を、いち早く8番に見出すことができるのかもしれない。とはいえ、単に過去へと還るのではないベートーヴェン... ウィーン古典派の伝統を活かしながらも、それまで培って来たベートーヴェンらしいマッシヴさが全体を支え、ウルトラ古典主義とも言える様相を見せる。軽快だけどパワフル。お洒落だけど豪胆。18世紀へ還るようで、19世紀のスケール感を失わない、その一筋縄には行かない在り様。実は、7番よりも独特かも... 一見、地味に思えるものの方が、刺激的なのかもしれない。だから、ベートーヴェンの交響曲は、おもしろい!
という、8番の交響曲の完成から5年ほど遡る作品、ヴァイオリン協奏曲のピアノ版(track.5-7)も取り上げられる、"RESOUND BEETHOVEN"のVOL.6。1806年にヴァイオリン協奏曲として作曲され、その年の年末に初演されると、イタリア出身のピアノのヴィルトゥオーゾ、クレメンティに促され、1807年、ピアノ用に編曲... で、"RESOUND BEETHOVEN"で聴けば、このピアノ版のありのままをすくい上げて、ヴァイオリン由来であることを意識させられるところが、おもしろい。ヴァリッシュの弾く、1825年頃製作のバイヤーのピアノのアンティークなトーンが、ヴァイオリンのために書かれた叙情性を、思いの外、素直に引き出していて... ヴァイリッシュのタッチも無理が無く、どこか淡々と響かせるようであり、なればこそ、ベートーヴェンのスコアがすっきりと引き立ち、惹き込まれる。それは、ピアノ協奏曲でありながら、ピアノのマシーン性を前面に押し出して来ない魅力... ベートーヴェンの叙情性を丁寧に抽出する演奏... だから、5曲あるベートーヴェンのオリジナルのピアノ協奏曲とは、明らかに異なる雰囲気を醸し出していて... コンポーザー・ピアニストとしてのベートーヴェンとは違う、専門分野ではないヴァイオリン(ボン時代、ヴァイオリンもきっちり習ってはいるけれど... )のために書かれたコンチェルトだからこその、第三者的な視点を得たピアノ協奏曲の飾らなさが、ナチュラルに表現されていて、とても新鮮。またその飾らなさの中に、ベートーヴェンの作曲家としての力量がジワジワと沁み出していて、唸ってしまう。何より、ヴァイオリンの瑞々しさが、まだピアノの中に生きていて、それがただならず、魅惑的。てか、単に、編曲によってピアノ協奏曲がもうひとつ増えたくらいに思っていたピアノ版なのだけれど、いやいやいや... "RESOUND BEETHOVEN"ならではの発見がここにもある!でもって、これ、何気に、聴き所です。
さて、"RESOUND BEETHOVEN"、このVOL.6を以って、ベートーヴェンの交響曲、全9曲、聴き終えました(シリーズとしての締めは、最新盤、VOL.8、「運命」と「田園」... )。ウーン、おもしろかった!ピリオドでリストの交響詩のシリーズを展開し、再ブレイク(?)を果たしたハーゼルベックの、その経験を活かしたベートーヴェン、とでも言おうか... ピリオドによるベートーヴェンというと、ハイドン、モーツァルトをベースに、その次なる世代であるベートーヴェンに下りて来る、というイメージがあったけれど、過去である18世紀に軸足を置くのではなく、19世紀に軸足を置くハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管。古典主義の明瞭な世界観では割り切れない、それこそ、リストのロマン主義のようなマッドさ?新しい時代を迎えるにあたり、不安や不満が渦巻く、ベートーヴェンが生きた時代の生々しさを引き込んで、これまでになかったパースペクティヴを見せてくれたように思う。だから、スケールが大きかった!一方で、そういうスケール感から描き込まれる、ある意味、人間味あふれる表情も印象的で... そうして生まれる、ただピリオド楽器を用いるだけではない、時代に寄り添う感覚... 寄り添って、浮かび上がる、ベートーヴェンのリアルな姿。その姿に触れれば、ベートーヴェンの時代と我々の時代が交錯するようなスリングさがあり、そうあることで、これまでにない共感も覚え、何より、あの楽聖が、愛おしく感じてしまうという... "RESOUND BEETHOVEN"は、もうひとつ踏み込んでベートーヴェンに迫ったシリーズだったかなと... だから、これまでになく味わい深く魅力的なベートーウェンに出会える。

RESOUND BEETHOVEN VOL. 6 SYMPHONY 8 CONCERT FOR PIANO AFTER THE VIOLIN CONCERT

ベートーヴェン : 交響曲 第8番 ヘ長調 Op.93
ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 ニ長調 Op.61a *

ゴットリープ・ヴァリッシュ(ピアノ : 1825年頃製作、フランツ・バイヤー) *
マルティン・ハーゼルベック/ウィーン・アカデミー管弦楽団

Alpha/Alpha 477




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