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ベートーヴェン、7番の交響曲、そして、ウェリントンの勝利... [2016]

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5月です。ゴールデン・ウィークです。そして、ステイ・ホーム・ウィークです。何たることだ!と、嘆くべきところでしょうが、振り返ってみると、毎年、ステイ・ホーム(で、音楽!)だったなと... いや、人混みが苦手でして、そんなワタクシにとりまして、最も出歩きたくないウィーク。つまり、緊急事態宣言も何も関係無く、ステイ・ホーム・ウィーク、例年通り。か... 例年通りのはずなのだけれど、何となく寂しく感じてしまうのが不思議。こういう人間の心理って、何なのだろう?ここ数年、外で遊ぶこどもがめっきり減った、と、現代っ子たちに対し、ネガテイヴな言いようがなされて来たはずが、いざ緊急事態宣言が出てみると、こどもたちが、思いの外、外にいる、公園で遊んでいる、と、苦言が呈されるという... そう、人間とは勝手なもの。そして、今、勝手なもの言いに満ち充ちていて、本当に辟易してしまう。てか、コロナ禍が炙り出すよねェ~ いろいろなことを... もはや、えげつないくらいに... 一方で、どんどん新しい動きも見えて来て、学校の始まりを9月にしようとか、凄い!良し悪しはともかく、こうもあっさり新しいヴィジョンが語られている状況に、興奮を覚えます。何たって、失われた云十年、変えられない、変えたくない、による停滞が続いて来たわけです。ポスト・コロナの時代は、間違いなく、新時代だぞ!
は、さて置きまして、前回に引き続き、ベートーヴェン... マルティン・ハーゼルベック率いるウィーン・アカデミー管弦楽団の"RESOUND BEETHOVEN"のシリーズから、7番の交響曲を中心に、「ウェリントンの勝利」など、ナポレオン戦争に因んだ作品を取り上げるVOL.2(Alpha/Alpha 473)。それは、劣勢だった戦況に、明るい兆しが見え始めた頃の音楽で...

ところで、ベートーヴェンの9つの交響曲、どれも個性が際立っている。って、今さら?いや、改めて、全9曲を振り返れば、それぞれに、それぞれのカラーがしっかりとあることに驚かされる(やっぱ、楽聖の創意は、ただならない... )。が、そうした中にあって、7番の一種異様なテンションには、ひとつ抜きん出た独特さがあるように感じる。なぜだろう?これまで、漠然と不思議に思っていたのだけれど、ナポレオン戦争の戦況を重ねると、腑に落ちるのかもしれない。初めこそ、ナポレオンに心酔していたベートーヴェンだったが、「英雄」のエピソードが物語るように、ナポレオンが皇帝に即位すると翻って不支持に回り... さらに、フランス軍によるウィーン包囲戦を経験、戦争のリアルを目の当たりにすれば、ナポレオンは明確な敵となった。いや、どこか怖いもの無しに見えた楽聖も、ナポレオンを前にしては慄いたか?それほどにナポレオンは強かった。次々に結成される対仏大同盟を、その都度、蹴散らし(第7次まで結成され、内、第5次まで、ナポレオンの強さを前に崩れ去っている... )、フランスの東の国境は、エルベ川の河口に始まり、ライン河を下って、ローマの南にまで押し広げられる。それは、フランス史上、あり得ない拡張であった。さらに、ポルトガルからポーランドまで、スカンジナビア半島からイタリア半島南端までを影響下に置くに至り... いや、これほどまでにヨーロッパを手中とした軍人は、カエサル以来かもしれない。が、その破竹の勢いも、やがて風向きが変わる。1812年、ロシア遠征(チャイコフスキーで、お馴染み!)が大失敗に終わると、1813年、スペイン、バスク地方、ビトリアの戦いで、ウェリントン公爵(当時は、まだ侯爵... )率いる、イギリス、ポルトガル、スペインの連合軍に、敗北。当然、これまで、いいようにやられて来たヨーロッパ各国は、にわかに沸き立った!という頃、作曲されたのが、ここで聴く、7番の交響曲(track.1-4)。
夜が明けるような期待感が漂う序奏に始まり、まるで勝ち戦を思わせる勇壮な音楽がとめどなく繰り広げられる1楽章... ワーグナーは、ベートーヴェンの7番を、"舞踏の聖化"と呼んだわけだけれど、これは、間違いなく、バトル・ミュージック!ナポレオン戦争という背景を意識して聴けば、軽快に軍馬が駆けて行くのが見えるようで、また、もつれ合う両軍の行方に手に汗を握るような展開も... 続く、2楽章(track.2)は、最初の戦闘を終えた後の光景だろうか?ゆったりとしたリズムによる悲愴的な音楽は、犠牲者の葬送のよう。そうして再び始まる戦闘、3楽章(track.3)、敵陣と自陣の間を砲弾が飛び交い、こちら側に砲弾が落ち、炸裂すれば、あちら側にも砲弾が落ち、遠くにその様子が窺えて、両軍譲らず... そして、終楽章(track.4)、戦闘は最終局面に突入!もはや両軍入り乱れてのアドレナリン大放出!味方優勢が伝えられるかと思えば、劣勢にもなり、ヤケクソで突っ込んで行って、また戦況を切り拓いての一進一退。が、やがて勝利が見えて来る!切羽詰まった「運命」、厭戦的だった「田園」からすると、ベートーヴェンを取り巻く空気感が一気に明るくなったことを知らしめる7番の音楽。それでいて、まだまだ騎兵が花形だった頃の、近代戦とは違う牧歌性が広がって、全体をヒロイックに引き立たせるのか... となると、プロパガンダを含んだ戦況を伝えるニュース映画のようでもあり、単に交響曲=絶対音楽として聴くより、劇画的で、おもしろく感じられるのかも... また、ハーゼルベックが、そういう方向へと持って行き... ウィーン・アカデミー管による演奏は、聴き知った音楽に描写性を掘り起こして、7番の独特さの解題を提示するかのよう。で、それを補強するのが、その後に取り上げられる、ナポレオン戦争に因んだ作品...
1813年、7番が初演された時、一緒に初演されたのが、「ウェリントンの勝利、あるいはビトリアの戦い」(track.7, 8)。で、この作品が最後に取り上げられる(初演時に迫ろうとする"RESOUND BEETHOVEN"ならでは!)のだけれど... 締めに、"戦争交響曲"とも呼ばれる「ウェリントンの勝利... 」を聴けば、7番が、ベートーヴェンの戦争交響曲であることを再認識させられる。そして、普段、イロモノ的印象(鉄砲やら、大砲やらも鳴らされて... )の強かった「ウェリントンの勝利... 」が、十分に魅力的であったことに気付かされる!いや、7番と「ウェリントンの勝利... 」は、セットが正解かも... で、そう思わせてくれる、ハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管の演奏であって... 7番の独特さを劇画調に展開して、より表情を引き出せば、見事、「ウェリントンの勝利... 」へとつながって、また「ウェリントンの勝利... 」の音楽で描く戦闘のパノラマを引き立てる。そこに来て、最後に勝つ!というベートーヴェンの得意とするパターンがより活きて、ベートーヴェンの戦争を盛り上げる!で、初演において、聴衆は、7番よりも「ウェリントンの勝利... 」に熱狂したとのことだけれど、それも、納得。ルール・ブリタニア(プロムスでお馴染みの... )が、フランス民謡「マールボロ将軍は戦争に行く」と対峙し、最後は、ゴット・セイヴ・ザ・キングが輝かしく聴こえて来るという、解り易い展開は、戦況に一喜一憂していただろう当時の人々にとって、胸空くものがあったと思う。そういう感情の記憶をしっかりと引き出して来るハーゼルベックの妙。このリアリティが、ベートーヴェンの音楽を息衝かせて、魅了されずにいられない。

RESOUND BEETHOVEN VOL. 2 SYMPHONY 7 WELLINGTON'S VICTORY

ベートーヴェン : 交響曲 第7番 イ長調 Op.92
プレイエル : 祝典行進曲 〔編曲 : トルセク〕
ドゥシェク : ブラウンシュヴァイク行進曲 〔編曲 : トルセク〕
ベートーヴェン : ウェリントンの勝利、あるいはビトリアの戦い Op.91

マルティン・ハーゼルベック/ウィーン・アカデミー管弦楽団

Alpha/Alpha 473



さて、「ウェリントンの勝利... 」(track.7, 8)なのだけれど、元々、自動演奏楽器のために書かれておりまして... ベートーヴェンも愛用したメトロノームの考案者、メルツェルが製作した、軍楽隊のサウンドを再現する自動演奏楽器、パンハルモニコンのために委嘱された作品。そういう雰囲気、前半から確かに窺えて... パンハルモニコンのための音楽をオーケストラで奏でるから、ユルく感じるところも... しかし、後半、ベートーヴェンらしい充実した音楽を耳にすれば、カラクリを以ってして、その充実を鳴らせたとしたら、凄い。パンハルモニコンでも聴いてみたくなってしまう。で、「ウェリントンの勝利... 」の前には、同じくメルツェルが製作したトランペットを吹くからくり人形=オートマタをソリストとした、プレイエルの祝典行進曲(track.5)、ドウシェクのブラウンシュヴァイク行進曲(track.6)が取り上げられるのだけれど、そのカラクリ感が最高!プッププー!みたいな、生身の人間では表現し得ない脱力感、ウケる。ものの、例えば、ブラウンシュヴァイク行進曲の"ブラウンシュヴァイク"とは、反仏義勇兵部隊「黒い軍勢」を組織した、"黒公爵"の異名を取るブラウンシュヴァイク公に因むのだけど... オートマタのぶっきら棒なトランペットだと、おもちゃの行進みたいで、"黒公爵"も形無し?それもまた味?しかし、ハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管の"RESOUND BEETHOVEN"は、マニアックなところを突いて来ます。いや、こういう視点があってこそ、ベートーヴェンの時代のリアルが蘇るというもの...




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