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ウィンナー・オペレッタの夢。 [before 2005]

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突然ですが、ここのところ嫌な夢を続けて見ておりまして... 普段、変な夢(けど、ラヴリー!)は、よく見るのですが、嫌な夢は、ほとんど見ない。だから、自分、どーなってしまった?と、うっすら不安に... そおしたら、コロナ禍により、悪夢を見る人が増えているというニュース(ナショジオの記事!)を見つけて、自分だけじゃなかったんだと、ちょっと安心(何でも、ステイ・ホームで、外からのインスピレーションを得られなくなっているのが原因らしい... )。いや、今、世界中で、悪夢が見られていると考えると、結構、恐い。もちろん、今現在、コロナ禍こそが悪夢ではあるのだけれど、そうした現実から逃れた先の夢の中でも悪夢は広がっていたわけで、そういう悪夢が地球を覆っている図を想像してみると、ますます恐い。集合意識としての悪夢... 無くは無いような気がする。ならば、みんなが悪夢を断ち切ることができたなら、コロナ禍は過ぎ去るのかも。そんな気もして来た。
ということで、いい夢を見るための、とびっきりドリーミンな音楽... バーバラ・ボニー(ソプラノ)が歌う、ウィンナー・オペレッタ、"Im Chambre séparée"(DECCA/473 473-2)。別室へ行きましょう... 現実と悪夢から離れて、ウィーン、わが夢の街へ!

始まりは、ホイベルガー(1850-1914)の『オーパンバル』(1899)から、「別室に行きましょう」。で、"Im Chambre séparée"、このアルバムのタイトルとなっているナンバー。ということもあってか、この、別室に行く... が、このアルバムの鍵?オペレッタが上演される劇場とは違う部屋で、オペレッタを聴いてみない?という、ボニーからのお誘い... ボニーは、ピアノ伴奏で、サロンで歌う風に、オペレッタからのナンバーを取り上げる。これにより、時としてお涙頂戴的な、あるいはドタバタ劇的な、ウィンナー・オペレッタに纏わり付くちょっと垢抜けないドラマ性(ハプスブルク帝国の東方性を反映する?)を排して、作曲家たちが書いた愛すべきメロディーを、より軽やかに捉え、その音楽としての魅力を、ふわりと大気に放って見せる。すると、人懐っこいウィーンの音楽が、キラキラっと輝き出して... おもしろいのは、その輝きに、かつてのウィーンで活躍した、モーツァルトの天真爛漫が放った輝きを思い起こさせる瞬間があるところ。やっぱり、ウィーンは、いつもウィーン、か... もちろん、モーツァルトを得意とするボニーの澄んだ歌声もあるのだけれど、なればこそすくい上げられる、ウィーンらしさもあるかもしれない。で、ボニーによるウィーンは、とにかくお洒落!それは、オペレッタであることを忘れさせるほど... サロン風のようでいて、サロン特有の親密さから来る濃密さは控え目で、よりライトで、どことなしにポップで、端々からウィットがこぼれ出し、そよ風が吹き抜けるが如く、さわやか。また一貫してどこかウブな感覚も残していて... 素朴ではないけれど、必要以上に飾らないところからのお洒落感、そうして生まれるナチュラルさは、とても心地良いもの。こういう絶妙さは、ボニーならでは... 一方で、その選曲、実は、骨太だったり...
オペレッタの名曲を並べるのではなく、ウィンナー・オペレッタとガチで向き合うようなこだわりを見せるボニー。何しろ、ホイベルガーなんてマニアックなあたりから始めるわけでして... 全18曲中、ウィンナー・オペレッタの代名詞、ヨハン・シュトラウス2世(1825-99)のナンバーは、3曲、ウィンナー・オペレッタ、最後の輝き、レハール(1870-1948)のナンバーは、4曲と、半数以上が、コアなナンバー。始まりのホイベルガーを筆頭に、ミレッカー(1842-99)、ツェラー(1842-98)、シュトルツ(1880-1975)、ベナツキー(1884-1957)、ドスタル(1895-1981)と、ヨハン・シュトラウス2世、レハールばかりではなかったウィンナー・オペレッタの多彩な作曲家たちを網羅して、ウィンナー・オペレッタの全体像を示す。で、ヨハン・シュトラウス2世、レハール以外にこそ、ウィンナー・オペレッタの真髄を掘り起こす?オペレッタの枠組みを越えて人々を魅了する、ヨハン・シュトラウス2世、レハールとは違う、標準的なウィンナー・オペレッタの素の姿... 魅惑的な三拍子の、ちょっともったりとした佇まい、弾けるような二拍子の、何かおかしみを含むような表情、その良い具合のチープに、これぞウィーン!を感じてしまう。で、味があるのだよねぇ~ そうした中、おもしろいのが、ひとり、ベルリンの作曲家が混ざっているところ... 1921年、ベルリンで初演されたキュンネッケ(1885-1953)の『どこかのいとこ』(1921)から、「輝く月」(track.13)を聴くと、ウィーンとは違うベルリンの、より都会的というか、さばけたトーンが感じられ、なかなか興味深い。そんなベルリナー・オペレッタに触れれば、またウィンナー・オペレッタの性格が際立つ。
しかし、オペレッタであることを忘れさせるニュートラルさを見せながら、そのニュートラルさを以って真髄を突くボニーの鋭さたるや!聴き入れば、聴き入るほど、感服。一方で、そのニュートラルさが生む、まるで重力を感じさせない、軽やかさ!蝶が、花から花へと羽ばたくようなボニーの歌声は、理屈抜きで惹き込まれる。ヨハン・シュトラウス2世のお馴染み、アンネン・ポルカから派生した『ヴェネツィアの一夜』の「ほろ酔い気分」(track.8)の、愛らしさ!あの楽しげなメロディーを、ほろ酔い感を織り込んで、はははっと、うっかり笑ってしまうところなんて、もう... レハールの代表作、『メリー・ウィドウ』から、ヴィリアの歌(track.14)の、郷愁漂うメロディーを伸びやかに歌えば、うっとり... 最後、ジーツィンスキーの「ウィーン、わが夢の街」(track.18)の、ムーディーな中に、ノスタルジーも広がって、まるで、それまでを、夢の中のウィーンでの出来事のように締め括って、ため息... 別室に誘って、聴き手に夢を見させていたか、ボニー?で、その夢に欠かせないのが、シュナイダーのピアノ!控え目だけれど、徹底してクラリティの高いサウンドを響かせて、宝石のよう。だから、アルバム全体がキラキラと輝く。そう、ボニーの歌声だけではない"Im Chambre séparée"。2人がいて、夢のような音楽は、本当に夢になる。そして、夢の中にある街、ウィーンへ、しばし、逃避...

Im Chambre séparée BARBARA BONNEY THE OPERETTA ALBUM

ホイベルガー : オペレッタ 『オーパンバル』 から 「別室へ行きましょう」
ミレッカー : オペレッタ 『デュバリー』 から 「私が心を捧げる人」
ツェラー : オペレッタ 『小鳥売り』 から 「私は郵便配達のクリステル」
ツェラー : オペレッタ 『坑夫長』 から 「悪く思わないで」
シュトルツ : オペレッタ 『お気に入り』 から 「わが心の皇帝」
ツェラー : オペレッタ 『小鳥売り』 から 「桜の花の咲いた頃」
ヨハン・シュトラウス2世 : オペレッタ 『踊り子、ファニー・エルスラー』 から 「シーヴェリングのリラの花」
ヨハン・シュトラウス2世 : オペレッタ 『ヴェネツィアの一夜』 から 「ほろ酔い気分」
ヨハン・シュトラウス2世 : オペレッタ 『こうもり』 から 「侯爵様あなたのようなお方は」
ベナツキー : オペレッタ 『白馬亭にて』 から 「きっと素敵にちがいない」
ベナツキー : オペレッタ 『白馬亭にて』 から 「ザルツカンマーグートでは」
ドスタル : オペレッタ 『最愛の人』 から 「あなただけが私の幸せ」
キュンネッケ : オペレッタ 『どこかのいとこ』 から 「輝く月」
レハール : オペレッタ 『メリー・ウィドウ』 から ヴィリアの歌
レハール : オペレッタ 『フリーデリケ』 から 「野ばら」
レハール : オペレッタ 『ロシアの皇太子』 から 「きっと来る人」
レハール : オペレッタ 『ジュディッタ』 から 「熱き口づけを」
ジーツィンスキー : ウィーン、わが夢の街

バーバラ・ボニー(ソプラノ)
ロナルド・シュナイダー(ピアノ)

DECCA/473 473-2




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