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モーツァルト、春、 [2019]

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この間、買い物の帰りに、桜の木の下を通ったのだけれど、足元には、まだたくさんのガクが残っていて... それが、とても寂しげで... 毎年、みんなから、綺麗だねぇ~ っと、見上げられる桜が、今年は、愛でられることなく、散ってしまった。桜の木は、いつもと違う、この状況を、どんな風に感じているのだろう?朝からの花見の陣取りに、無粋なブルーシート、アルコール臭漂う夜桜と、例年の騒々しさが、パっと消えてしまった春。何だか、狐に抓まれたかのようで、ウイルスのニュースを知らなければ、薄気味悪いかもしれない。もちろん、これまでにない穏やかな春にもなったのだけれど、賑わいのない春が、思いの外、寂しいことに気付かされる春だったなと... 足元の桜のガクを目にして、そんなことを思う。一方で、桜の木を見上げると、もうすっかりと青々とした葉に覆われていて、すでに前に進んでいる!いや、当たり前なのだけれど、その青々とした姿を見上げて、くよくよしない春のパワフルさに感動を覚える。勇気付けられる。ということで、パワフルな春を聴く。
フランスの新鋭、ヴァン・カイック四重奏団の演奏による、モーツァルトの弦楽四重奏曲、14番、「春」と、15番、それから、K.138のディヴェルティメント(Alpha/Alpha 551)。春の陽気を思わせる、モーツァルトの無邪気なサウンドに触れて、前を向こう!

まず、1曲目、「春」と呼ばれる、14番(track.1-4)の弦楽四重奏曲、最初の一音にビックリさせられる。何か、知らんけど、圧が凄い... 思わず、おおっ、と、仰け反ってしまいそうになるほど... それは、ウィーン古典派の上品さ、弦楽四重奏の理知的な佇まい、そういうステレオ・タイプが、一瞬にして吹き飛ばされるほどの圧で... いや、モーツァルトの音楽で、弦楽器の音色で、そういう圧が生み出せるものかと、耳を疑う。が、間違いなくモーツァルトだし、弦楽四重奏であって... 「春」の1楽章の冒頭というと、まさに"春"を思わせる、麗らかさが溢れ出すフレーズが印象的なのだけれど、そこから、凄い圧を放つヴァン・カイック四重奏団の演奏。それは、ただ音が大きいとか、そういうものではなくて、音響攻撃すら思わせる音圧とでも言おうか... 裏を返せば、それほどの密度を持ったサウンドを響かせてしまうヴァン・カイック四重奏団の4人。何だろう、一音たりとも、何となくで奏でたりしない、スコアに対して、徹底して明晰。その明晰さは、彼らの演奏の癖の無さから来るものでもあり、そこから生まれる響きの純度の高さには、慄きすら覚える。なればこそ、4人の響きが、驚くほど均質で、弦楽四重奏ではあるのだけれど、まるでひとつの楽器で演奏しているかのようであり、また同時に、4人とは思えない規模が広がり、電気的に増幅されている?なんて錯覚すら覚えることも... 何より、4人が4人とも、誰に遠慮することなく、パキっと音を放って、目も眩むような鮮やかさが引き出される。そもそも色彩感に溢れるモーツァルトの「春」だけに、そこに溢れる一色一色が、さらに、さらに鮮やかさを増して、驚くべき目の詰まった鮮烈さへと至り、まさに高精細度の「春」!ウーン、これは、まさしく21世紀の「春」です。もはや、現代っ子、なんてレベルに無い、真に新しい感性で穿たれたモーツァルトであり、弦楽四重奏だわ... えーっと、正直に申しますと、モーツァルトの作品は、ピリオドで聴きたい派、なのでございますが、モダンの楽器の、その完成されたサウンドを徹底して活かしてのヴァン・カイック四重奏団の「春」には、脱帽であります。彼らの振り切った演奏は、いい意味で、モーツァルトっぽさ、弦楽四重奏っぽさを脱して、何物でもない、純然たる音楽に昇華されているように感じる。そんな音楽に触れていると、モーツァルトの音楽にブルックナーを思わせる堅固ささえを見出せて、興味深い。何より、刺激的だ。
とはいえ、モーツァルトならではの麗しさ、ウィットも、きちんと表現して来るヴァン・カイック四重奏団... 2曲目、K.183のディヴェルティメント、2楽章、アンダンテ(track.6)では、アンシャン・レジームならではの愉悦に満ち充ちたリリカルさを、彼らならではの鮮やかさで捉えつつ、そのリリカルな中に浮かぶセンチメンタルな表情を、思いの外、丁寧に描き込んで、息を呑む。一転、終楽章、プレスト(track.7)では、弾けてみせて... 1772年、モーツァルト、16歳の時にザルツブルクで書かれたディヴェルティメント、K.136、K.137、そして、ここで聴くK.138の3曲は、ザルツブルク・シンフォニーとも呼ばれ、モーツァルトを代表する作品に数えられるわけだけれど、そうしたイメージに囚われないのがヴァン・カイック四重奏団の演奏... アルプスに囲まれたザルツブルクの、帝都、ウィーンからは遠い田舎の、そのワイルドさを存分に強調したプレストは、とにかく活きが良くて、主君、ザルツブルク大司教とも喧嘩してしまう天真爛漫、若きモーツァルトのリアルが感じられて、ワクワクさせられる。その後で、ウィーンに出た2年後、1783年の作品、ディヴェルティメントからは10年を経た15番の弦楽四重奏曲(track.8-11)を聴くと、音楽はより複雑になり、短調という調性も効いて、大人となったモーツァルトを意識させられる。その前年に書かれた14番、「春」(track.1-4)からしても、深みは増していて... そうした音楽を、それまでとはまた少し違った趣きで奏でるヴァン・カイック四重奏団。振り切っていた14番、「春」、その振り切りから、若さを強調したディヴェルティメントがあっての、15番、大人となっての複雑さを、落ち着きの中に丁寧に収める器用さ... 14番、「春」だけを聴けば、新鋭弦楽四重奏団の、若さを極めた演奏で終わるのだけれど、そこに留まらないのが、彼らの大器を予感させるところ。「春」に圧倒されながら、気が付けば、深みに引き込まれるという展開は、最初の一音からは想像も付かない展開だった。いや、凄い。

MOZART QUARTETS K.387 & 421 DIVERTIMENTO K.138 QUATUOR VAN KUIJK

モーツァルト : 弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K.387 「春」
モーツァルト : ディヴェルティメント ヘ長調 K.138
モーツァルト : 弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調 K.421

ヴァン・カイック四重奏団
ニコラ・ヴァン・カイック(ヴァイオリン)
シルヴァン・ファーヴル・ビュル(ヴァイオリン)
エマニュエル・フランソワ(ヴィオラ)
フランソワ・ロバン(チェロ)

Alpha/Alpha 551




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