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リスト、ノルマの回想。 [2009]

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何だか、世の中そのものが肺炎になってしまったような、そんな息苦しさを感じてしまう今日この頃... ニュースに登場する専門家たちの見解は、それぞれに違うようで、話しを聞けば聞くほど、現在の状況がクリアに見えて来ない(裏を返せば、"新型"に対して、みんな、憶測で語っているのだろう... )。だから、不安ばかりが掻き立てられる。そんな不安に煽られて、噂は蔓延し、疑心暗鬼に覆われる。それをチャンスとばかりに、煽り、炎上させるメディア、ネット... そして、まあ見事な足の引っ張り合いを始めた政治家たち... 我々が欲しているのは、説明と対処!新型コロナ・ウィルスは、まるで、社会そのものにも感染するかのよう。そして、現代社会の脆弱さを思い知らされる。なんて言っていると、免疫力が下がりそうなので、何か、キラキラとした音楽を聴いて、気分を上げる!陽気も春めいて来たし(温暖化の時代の春の訪れは、早い!てか、これも、問題... )、ふわふわふわっと、あえて、花々しいサウンドを!いや、暗くなってばかりでは、新型コロナ・ウィルスに負けそうなので...
その選曲にお洒落を感じさせるピアニスト、ヨーゼフ・モークの、音楽史を飾ったヴィルトゥオーゾたち、リスト、フリードマン、ゴドフスキー、ブゾーニ、モシュコフスキによるトランスクリプション集、"metamorphose(n)"(claves/50-2905)で、気分を変えるよ。

始まりは、リストによる、ベッリーニのオペラ『ノルマ』のトランスクリプション、「ノルマの回想」。17分にも及ぶそのトランスクリプションは、名アリア、カスタ・ディーヴァを、華麗にピアノで弾く... なんて程度のものではなくて、全幕を聴いての、まさに、回想。で、回想程度に終わらないのが、交響詩を創出した作曲家、リストの凄いところ... ベッリーニによるドラマを再構築し、新たな音楽を生み出す。だから、もはや、交響詩「ノルマ」。大胆にも、カスタ・ディーヴァの名旋律を使わなかったりと、ピアニストとしてより、作曲家としてのリストのこだわりがビンビン伝わって来る(カスタ・ディーヴァの前の、ノルマの登場のコーラスが幕開きに用いられ... 名旋律が無くとも、その冒頭で、しっかりと『ノルマ』であることを印象付ける巧さ!)。もちろん、ピアニスト、リストならではの、ヴィルトゥオージティにも溢れるのだけれど、「ノルマの回想」は、トランスクリプションを越えて、アルバムのタイトルにある通り、メタモルフォーゼ、変容... ピアノへのトランスクリプションというと、小洒落たアンコール・ピースを作り出すようなイメージがあるけれど、そのガチ感は、それまたオーケストラへとトランスクリプションしたくなるほど、音楽としての充実感が半端無い。のっけから、ガツンとやられる"metamorphose(n)"。という後で、トランスクリプションではない、ゴドフスキー(1870-1938)のジャワ組曲から、「ボイテンゾルグの植物園」(track.2)が、さらりと弾かれるのだけれど、これがまた絶妙な切り返し!ジャワ島を旅したゴドフスキーの回想ということで、ある種のトランスクリプションと解釈してもいい?いや、リストの後だと、かえってトランスクリプションっぽい軽るさが際立ち、その唯美的なピアノの響きに魅了されずにいられない!で、ここから、ピアノのトランスクリプションの真骨頂とでも言おうか、ヴィルトゥオージティを前面に押し出した、キラキラとした音楽が繰り出されて行く。
で、まずは、20世紀前半に活躍した、ポーランド出身のヴィルトゥオーゾ、フリードマン(1882-1948)による、ヨハン・シュトラウス2世のワルツ「春の声」(track.3)。そのトランスクリプションは、ちょっと毒を含むようなトーンで始まり、かえってウィンナー・ワルツのスウィートさを引き立てる?何より、ワルツ王の春の声の花々しさを存分に超絶技巧で飾って、最高にキラキラと輝き出す!そこから、再びのゴドフスキー、サン・サーンスの「白鳥」(track.4)。オリジナルのチェロで弾かれる優雅さをそのままに、やさしくピアノで表現するゴドフスキーの繊細なタッチ... チェロの落ち着きをピアノに落とし込んで生まれる得も言えぬ美しさたるや!続いて、ブゾーニ(1866-1924)の「カルメン幻想曲」(track.5)。それは、リストの「ノルマの回想」(track.1)同様に、全幕をダイジェストとしてまとめるのだけれど、リストとは異なり、オリジナルの気分を大切に、活き活きとドラマを綴り、最高のアンコール・ピースを織り成す。そんな小気味の良いカルメンの後で、またまたゴドフスキー、ショパンの「子犬のワルツ」(track.6)。ピアノ曲をピアノにトランスクリプション?いや、なかなか挑戦的というか、挑発的にすら感じるのだけれど、飄々とやってのけてしまうゴドフスキー... オリジナルのテンションを少し抑えて、ワルツっぽさを引き立たせ、よりお洒落な仕上がりに!このトランスクリプションに触れてしまうと、ショパンが少し青く感じてしまうほど... で、青く無い「小犬のワルツ」を聴いて、ゴドフスキーのピアノに対する熟成された視点、響きに対する抜群の感性に脱帽。で、ゴドフスキーによる「小犬のワルツ」、「白鳥」、「ボイテンゾルグの植物園」の3作品が、アルバム全体をひとつにつなぐ糊のような役割を果たしていることに気付かされる。元来、個性を前面に押し出して、灰汁の強いヴィルトゥオーゾたちだけれど、それとは一味違う、ピアノの美しさこそを押し出そうとするゴドフスキーの、少し引いた姿勢を、そっと引き立てるモーク。それが、静かに印象的で、全体をより魅惑的なものにする。
さて、最後は、始まりの「ノルマの回想」(track.1)と対を成すような、大作(13分!)、19世紀後半に活躍した、ドイツのヴィルトゥオーゾ、モシュコフスキ(1854-1925)による、ワーグナーのオペラ『タンホイザー』からバッカナール(track.7)。いやー、19世紀のヴィルトゥオーゾの堂々たるトランスクリプションは、まるでそれそのものがオリジナルであるかのように響いて、惹き込まれる。というより、オーケストラで聴くより、まとまりが良い?パリ、オペラ座で上演(1861)するにあたり、バレエ・シーンとして付け足されたバッカナール(オペラ座は、当時、グランド・オペラの専用劇場で、グランド・オペラにバレエ・シーンは必須だった... )は、どうも取って付けた感があるのだけれど、こうしてピアノによって抜き出されると、ワーグナーの、ロマン主義から象徴主義へと移行する、時代を先んずる新しさが強調され、その魅力を再発見させてくれる。で、このロマン主義から象徴主義へと移行する音楽が、ドビュッシースクリャービンへとつながるラインを浮かび上がらせ、実に興味深い。オペラとしては、なかなか気付き難い部分も、ピアノというマシーンに落し込めば、克明となり、その確かな魅力が炙り出されるからおもしろい。トランスクリプションによって掘り起こされる本質... なかなか刺激的だ。
という、モークの"metamorphose(n)"。2008年、モーク、21歳の時の録音なのだけれど、21歳とは思えない雰囲気ある響きに魅了される。そもそも、こんな風に凝った、それでいてセンスを感じさせるアルバムを編んで来ることに驚かされる。熟練のヴィルトゥオーゾにだって、ここまでこだわった構成はなかなか探せない。となとる、弾き手の思い入れが強くなって、どこかヘヴィーになってしまいそうな気もするのだけれど、けしてそうはならないモークの演奏。一音一音は実にクリアで、軽やかで... そこには、若さゆえのピュアな音楽性も反映されている。何より、その指回りの良さ... どんな超絶技巧も物ともせず、飄々と鍵盤の上を舞うモークの両手、なればこそ、過去のヴィルトゥオーゾたちによるトランスクリプションがキラキラと輝く!で、余計な力が入らないから、ギラギラとはせず、超絶技巧が嫌味にならない。それどころか、とにかくムーディー... ムーディーだけれど、若さが絶妙に抑制を効かせて、品が良い。だから、安っぽくならない。トランスクリプションを、ギミックなものとせず、一段上へとメタモルフォーゼさせたモーク、ただならない。

JOSEPH MOOG: Metamorphose(n) ・ Liszt, Godowsky, Friedman, Busoni, Moszkowski

リスト : ノルマの回想 S.394
ゴドフスキー : ボイテンゾルグの庭園 〔ジャワ組曲 第3巻 より〕
ヨハン・シュトラウス2世 : ワルツ 「春の声」 Op.410 〔編曲 : フリードマン〕
サン・サーンス : 『動物の謝肉祭』 から 「白鳥」 〔編曲 : ゴトフスキー〕
ブゾーニ : ソナチネ 第6番 「カルメン幻想曲」
ショパン : ワルツ 第6番 変ニ長調 Op.64-1 「小犬のワルツ」 〔編曲 : ゴトフスキー〕
ワーグナー : オペラ 『タンホイザー』 から バッカナール 〔編曲 : モシュコフスキ〕

ヨーゼフ・モーク(ピアノ)

claves/50-2905




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