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ヴァインベルク、1番と7番の交響曲。 [2010]

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1980年代後半から1990年代前半に作曲された、ヴァインベルクの室内交響曲、1960年代に作曲された、ショスタコーヴィチの13番、14番の交響曲、1920年代に作曲されたモソロフの作品の数々、そして、1941年に作曲されたショスタコーヴィチの7番の交響曲、「レニングラード」... 改めて、ソヴィエトにおける音楽の歩みを追って来て、浮かび上がるのは、コワモテなばかりではなかったソヴィエトの各時代。そもそも、その始まりには、ロシア・アヴァンギャルドを炸裂させていたわけで、革命=前衛だった事実!が、スターリンの登場で空気は変わり、スターリンの死により"雪融け"を迎える。で、融け過ぎたとなれば再び冬がやって来て... "社会主義リアリズム"なる検閲を用い、体制の都合で緊張と緩和の間をフラフラするソヴィエトの音楽政策。その愚かしさには閉口するばかり。一方で、そうした政策に翻弄されながらも、自らの音楽を模索し、時には、体制に挑戦もした作曲家たちの気骨には感服させられるばかり... なればこそ、おもしろさがあるソヴィエトの音楽。
ということで、再び、ヴァインベルクです。トード・スヴェドルンドの指揮、イェーテボリ交響楽団の演奏で、ヴァインベルクの1番と7番の交響曲(CHANDOS/CHSA 5078)。"社会主義リアリズム"の模範解答と、"雪融け"を迎えての不思議な音楽を聴く。

何と、ヴァインベルク(1919-97)は、交響曲を22番(は、1991年、ソヴィエト崩壊から5年、1996年の作品だから、ちょっと驚かされる... )まで書いている!凄い... けど、兄貴分、ショスタコーヴィチ(1906-75)も、15番まで書いたよな... で、ふと思う。何気に、交響曲大国だった?ソヴィエト... さすがに10番も20番も書いた作曲家は、そういないけれど、ハチャトゥリアン(1903-78)、カバレフスキー(1904-87)ら、ショスタコーヴィチ世代はもちろん、1936年にソヴィエトへ復帰したプロコフィエフ(1891-53)も、復帰後に、代表作、5番(1945)を作曲。さらに、シュニトケ(1934-98)や、ペルト(b.1935)といった次世代も交響曲に取り組んでいる事実。20世紀に入って、近代音楽、さらに現代音楽へと、加速度的に音楽が進化して行く中、これほどまでに、古典的形式、交響曲を量産した国は他に無い。それは、交響曲の最後の楽園か?いや、西側の最新の音楽が遮断されたガラパゴス... 何より、交響曲という古典的にしてアカデミックな形式が、ソヴィエトの権威主義にドンピシャではまり、一方で、絶対音楽たる交響曲の、ある種の人畜無害さが、作曲家たちの検閲に対するプレッシャーを軽くしたのだろう(もちろん、タイトル付きのプロパガンダ交響曲も量産されているわけだけれど... )。諸々勘案すれば、何とも皮肉な交響曲の最後の楽園だったと言える。それでも、音楽史上、まったく以って希有な楽園であることは間違いない。そして、楽園の最後の番人、ヴァインベルクの1番の交響曲を聴くのだけれど...
ワルシャワ音楽院のピアノ科を修了した19歳、1939年、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻(これを機に第二次大戦が勃発!)。ユダヤ系ポーランド人だったヴァインベルクはソヴィエトに亡命し、ポーランドの東隣り、ベラルーシのミンスク音楽院で作曲を学び始める。が、21歳、1941年、ナチス・ドイツは、ソヴィエトにも侵攻。ヴァインベルクは、さらに東へと逃げ、中央アジア、ウズベキスタンのタシュケント(当時、ソヴィエト産業界の疎開先となっていた... )に落ち着く。そうして、22歳、1942年、ヨーロッパから遠く離れた疎開先で書かれたのが、1番の交響曲(track.1-4)。となると、重苦しい音楽(ショスタコーヴィチの戦争交響曲、7番、「レニングラード」が作曲されたのは、その前年... )を想像してしまうのだけれど、びっくりするほどのどやかな1楽章に触れれば、まるで戦争など無かったかのよう... 一方で、その明るく朗らかなあたりには、"社会主義リアリアズム"が求める解り易さがきちんと反映されており、毒っ気が抜けたショスタコーヴィチ?いや、22歳の若者のポジティヴな心境が素直に展開されて、ユートピア的?そういう点で、まさにソヴィエトの音楽と言えるのかも... チャイコフスキーの延長線上に、ニールセンのヴィヴィットさ、ストラヴィンスキーのドライさを程好く引き込んで、当世風の匂いを漂わせながら、あくまで古典的な交響曲を織り成す、"社会主義リアリアズム"の優等生的な音楽。となると、体制に擦り寄った嫌味な音楽になるかと思いきや、そうはならないのが若さ、その素直さの上に成り立つ音楽だから... で、何気に凄いのが、初めて挑む交響曲に対して、気負いが無いところ。巧みに対位法を繰り出して、初々しくも、全4楽章、こなれた感じでまとめ、その卒の無さに、早くもシンフォニストとしての技量を見出す。
そんな1番の後で取り上げられるのが、7番(track.5-9)。ショスタコーヴィチに見出され、ソヴィエトの音楽シーンの中心で活躍するようになり、他のソヴィエトの作曲家同様、恐怖政治をサヴァイヴした後、迎えた"雪融け"の時代、38歳、1957年に作曲された作品。チェンバロと弦楽オーケストラ、という独特な編成による交響曲(晩年の室内交響曲を予告するのか?)は、その独特さに"雪融け"を印象付けられるのだけれど、音楽としては、特別、新しさは無く... チェンバロの古風さが、かつての擬古典主義を思い起こさせ、弦楽オーケストラの実直な響きには、オネゲルの2番の交響曲(1941年に完成した、弦楽オーケストラとトランペットによる交響曲... )に通じるものを感じたり... それでも、チェンバロと弦楽オーケストラによる独特なトーンが生む、ソヴィエトっぽさから離れる感覚が、とても、新鮮。1番の、"社会主義リアリアズム"の優等生的な音楽の後に聴くことで、それは、一層、際立ち、"雪融け"がもたらした、ある種の自由から生まれる瑞々しさが、とても印象的に響き出す。そうした中で、特に印象的なのが、終楽章(track.5)... 冒頭、チェンバロが、まるで電話のベルのように鳴らされ、映画のワン・シーンが始まるかのよう。で、しばらく進むと、チェンバロが、ベルの音を拡大し、まるでギター・リフっぽいフレーズを奏でたりして、びっくり!さらに、そのフレーズを、弦楽オーケストラが受け継げば、まるでハーマンによるヒッチコックの映画音楽のようなスリリングさが生まれて、惹き込まれる。いや、周回遅れが、思い掛けなく、先頭を走るような錯覚を引き起こす?ロックで、ヒッチコックなヴァインベルクは、刺激的!
という、ヴァインベルクの2つの交響曲を、トード・スヴェドルンドの指揮、イェーテボリ交響楽団の演奏で聴くのだけれど、CHANDOSのヴァインベルク担当、さすが板に付いております。ヴァインベルク特有の温度感というか、少し醒めたような雰囲気をしっかりと活かしながらも、そこに潜むおもしろさを卒なく拾い上げて、ショスタコーヴィチとはまた一味違うソヴィエトの交響曲の魅力をしっかり伝えてくれる。で、前半と後半のコントラストが絶妙に効いていて... 1番(track.1-4)では、"社会主義リアリアズム"の能天気さを、ちょっとポップに響かせて、ワクワクするような音楽に仕上げ、7番(track.5-9)では、弦楽オーケストラの瑞々しさを活かしながら、そこからより広がりのある音楽を展開し、チェンバロの響きも相俟って、いい具合に刺激的な表情を引き立たせる。で、そのチェンバロ!リスベルイが弾くチェンバロが、またいい味を醸し出す!いわゆる古楽器としてのチェンバロではない、近代の復刻のチェンバロの、無機質な金属音のシュールさ!古い時代の響きのはずが、妙に新しく聴こえて、不思議。しかし、ヴァインベルクは、素敵。ショスタコーヴィチには無い素直さ(そういう1番と7番ということもある... )が、ソヴィエトの音楽の人工的なサウンドを象徴するようでもあるのだけれど、ソヴィエトが過去となった今、それこそが、ツボ!この、何とも言えないヴィンテージ感は、クラシックにおけるシティ・ポップなんて言ってみたくなる。いや、ソヴィエトとは、やはり、希有だったなと...

WEINBERG: SYMPHONIES NOS 1 AND 7

ヴァインベルク : 交響曲 第1番 ト短調 Op.10
ヴァインベルク : 交響曲 第7番 ハ長調 Op.81

トード・スヴェドルンド/イェーテボリ交響楽団
エーリク・リスベルイ(チェンバロ)

CHANDOS/CHSA 5078




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木曽のあばら屋

こんにちは。
第7番は「弦楽とハープシコードのため」という編成から
バロックのチェンバロ協奏曲のようなものを想像すると
見事に裏切ってくれる痛快作ですね。
シュニトケあたりに影響を与えている気がしなくもありません。
この時期からショスタコーヴィチの影響を離れてヴァインベルク独自の語法が発展してゆくように思えます。
by 木曽のあばら屋 (2020-03-08 16:37) 

carrelage_phonique

いや、ヴァインベルクって、つくづく不思議というか、おもしろいなと...
7番は、ますます以って、そんな風に感じます。で、そこが、ツボ。
(シュニトケあたりに影響を... うんうん、わかります... )



by carrelage_phonique (2020-03-08 17:46) 

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