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シャリーノ、ピアノ作品集。 [2013]

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大寒、です。改めて、その字面を見つめると、インパクトある!で、この間の土曜日、雪、降りました、関東平野... ほんの少しだけれど、それでも、雪が降る情景に、スペシャル感、感じずはいられないのは、雪降らない圏の住人の性。冬、大いに寒いのはイヤだけれど、冬らしい情景を目の当たりすると、人知れずテンション上がってしまう。もちろん、積もったりすると、目も当てられない状況に陥るのが、雪降らない圏の脆弱さでありまして、テンションなど上げてる場合じゃないのだけれど、それでも、真っ白な冬、降り積もった雪に、世間の音が雪に吸収されて生まれる静寂は、ファンタジー!またそんなファンタジーに包まれたい... とは言え、温暖化が進めば、それは伝説になってしまうのだろう。大いに寒いのは苦手だけれど、ファンタジーが消えうせてしまうのは、やっぱり寂しい。さて、冬はピアノ... ファンタジーではない、クリアな冬の空気感の中、ピアノのクリアな響きを味わおうという今月、再び、"ゲンダイオンガク"の研ぎ澄まされたピアノに触れてみようかなと...
アメリカの戦後「前衛」世代、フェルドマンの抽象に続いて、イタリアの"ゲンダイオンガク"のアウト・ロー、シャリーノ(b.1947)による不思議な音楽世界。フロリアン・ヘルシャーのピアノで、シャリーノのピアノ作品集(NEOS/NEOS 11124)を聴く。

まるで星が瞬くように、キラキラ、キラキラと、高音で、下降音形をひそやかに奏でる、1番の夜想曲。のっけから、不思議なシャリーノ・ワールドに包まれる。その、繊細にして、何とも言えない色彩、おもしろい響き... 数々の特殊奏法を用い、独特の音響を生み出して来たシャリーノが、ピアノというマシーン、特殊奏法が叶わない場(プリペアド・ピアノというのもあるけれど... )で繰り出す響きには、明らかな制約がある。が、クリアなピアノを以ってしても、シャリーノらしさは失わない。いや、どこか魔術師めいた手腕に驚かされる。ちょっと打鍵がもつれるような感じで音を連ねて、ピアノのクリアな響きを重ね、滲ませ、新たな色彩を創り出し... 時に激しく打鍵して、残響を溢れさせることで音響の広がりを醸し出し... ピアノの、マシーンとしてのクリアさを逆手に取って、特殊奏法じゃない中で、真新しい響きを生み出そうとする試みは、なかなか刺激的。また、そうあって、美しい音響を紡ぎ出し、聴こえて来るのは、まさに夜想曲!澄み切った冬の夜空を見上げて、そこに某かのサウンドをイメージしようとするならば、こんな音が聴こえて来るんじゃないか、という音楽。いわゆる、伝統的な、ロマンティックな夜想曲とは違う、高解像度カメラで、夜空をつぶさに撮らえて、在りのままのその姿にポエジーを読み解くような、リアルな夜想曲とでも言おうか... いや、あまりに夜空を見つめ過ぎたせいか、やがて、星々の煌めきを纏った漆黒が渦巻き始め、まるで、ゴッホの『星月夜』のような、うねりが生まれ、最後、怖ろしげな表情を見せる。そうか、ロマンティックでこそないものの、夜の持つ摩訶不思議さは、きちんと描き出して、夜想曲、か... 続く、3番の夜想曲(track.2)でも、控え目なピアノのタッチと、印象的な間が、夜のしじまを表現しつつ、不穏さも漂わせて... その、どこか夜に潜むような感覚がスリリングで、1番とはまた一味違ったホラーっぽいテイストが、おもしろい。
特有の静けさを湛えるシャリーノの音楽。それは、音楽を構築するというより、静けさの中に音を浮かべるような、そんな印象がある。浮かべた音は、今にも静けさに溶けてしまいそうで、おぼろげなのだけれど、静けさの中に浮かぶからこそ、一音一音が持つ色彩が、ふわっと引き立ち、おもしろい。4曲目、「永遠に持続された水上都市」(track.4)は、まさに!ピアノが奏でる、ポツリ、ポツリという響きを追っていると、まるで、水面に雨粒が落ちる様子を見つめるようで、アンビエントなのだけれど、その一音一音には、表情が窺え、色彩が浮かび、一見、同じように見える雨粒が、またひとつひとつ違った波紋を作り出すように、静けさの中に散りばめられた音の数々は、思いの外、多彩。一転、最後の1番のピアノ・ソナタ(track.5)は、より前面に色彩が打ち出され、めくるめく鮮やかな音響の波が打ち寄せる。それまでの作品が、1990年代の作品だったのに対し、1番のピアノ・ソナタは、1976年の作品。シャリーノ、20代最後の作品ということで、何とも若々しく、まだ個性が確立し切らない音楽... だからか、その鮮やかさには、はっきりと印象主義の名残があって、そう言う点で、かえって興味深く、魅力的。ピアノのゴージャスな響きを素直に活かして繰り出される響きは、ラヴェルの延長線上にあって、スペクトル楽派を思わせるようで、アグレッシヴに音響を織り成す。それまでの静けさとは好対照を成し、また惹き込まれる。しかし、シャリーノによる音楽、改めてピアノで味わってみると、色彩に対する鋭敏な感性が際立ち、印象深く... "ゲンダイオンガク"のエリートたちとは一味違う経歴(ほぼ独学で音楽を習得し、若い頃には美術にも関心を寄せていたのだとか... )を持つシャリーノなればこその、通り一辺倒の"ゲンダイオンガク"とは一味違う感覚、また、そこはかとなしに見受けられるイタリアならではのヴィヴィットさ、伊達っぷりも効いていて、素敵。
そんな、シャリーノを聴かせてくれるのが、現代音楽を得意とするドイツのピアニスト、ヘルシャー。動きは少なく、音の数も少な目で、静かな音楽を織り成しながらも、けして平易にはできていないシャリーノの音楽。5番のピアノ・ソナタ(track.3)を初演したポリーニは、そのコーダをもう少し易しいものに書き換えて欲しいと要求したのだとか... いや、わかる!その独特な色彩感を生み出すために、なかなか難しいタッチを要求してくるシャリーノのピアノ作品。が、ヘルシャーはその難しさをまったく意識させない。揺ぎ無く、スコアの在りのままを響かせる。それでいて、そこはかとなしに響きの可能性に迫るようで... 「永遠に持続された水上都市」(track.4)の、訥々とした、一見、味気ないような音符にも、確かな表情が籠められて、聴き入るほどに、その味わい深い響きに驚かされる。現代音楽を得意とする、となると、難曲をスパっと弾きこなして、ちょっと冷たい印象があったりするのだけれど、ヘルシャーのピアノには、弾きこなした上で、何かしっとりとした雰囲気が存在していて、"ゲンダイオンガク"の難解に、また違った感触をもたらしてくれる。最後、1番のピアノ・ソナタ(track.5)では、まさにそれが活きて、ヴィルトゥオージティすら漂う華麗なるピアノを前面に押し立てて、ラヴェルのようで、スクリャービンを思い起こさせるミステリアスさも響かせて、見事。なればこそ、ますます魅惑的なシャリーノ・ワールド!この不思議な音楽世界は、一度、はまり込んでしまうと、抜け出せなくなりそう。

Salvatore Sciarrino Piano Works Florian Hoelscher

シャリーノ : 夜想曲 第1番
シャリーノ : 夜想曲 第3番
シャリーノ : ピアノ・ソナタ 第5番
シャリーノ : 永遠に持続された水上都市
シャリーノ : ピアノ・ソナタ 第1番

フロリアン・ヘルシャー(ピアノ)

NEOS/NEOS 11124




タグ:ピアノ 現代
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