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"spaces & spheres"、直観の音楽。 [2013]

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フリー・ジャズって、"ゲンダイオンガク"みたいな印象を受けるのだけれど、それっておもしろいなと思う。ジャズたらしめて来た型枠からフリーになると、"ゲンダイオンガク"っぽく響くというね... そもそも、現代音楽が、難解な"ゲンダイオンガク"の様相(もちろん、一概には言えない... )を呈するのは、音楽史が積み上げて来たロジックをひっくり返したり、何したり、より高度に複雑怪奇になったがためであって、つまり、フリーの対極にあるわけで... それが、フリーとなったジャズに似ているとは、一周回って、極めて近い場所に音楽が成立しているということか?改めて、フリー・ジャズと現代音楽を並べてみれば、ロジックを極めることと、フリーであることの表裏一体感が、もの凄く刺激的に感じられる。それでいて、その表裏一体に、音楽の本質が窺えるようで、感慨すら覚えてしまう。だったら、この際、フリー現代音楽をやってみたら、どうなるだろう?ロジックを介さず、フリーに、インプロヴィゼーションで、現代音楽というフィールドで、新たな音楽を創出する。てか、ロジックを手放した現代音楽は、もはやフリー・ジャズか?いや、もはや何物でもないのかもしれない... そう、現代音楽の、その先にあるサウンドは、突き抜けたニュートラル。そんなアルバムを聴いて、お正月気分を浄化してみようかなと...
マルクス・シュトックハウゼン(トランペット/フリューゲル・ホルン)、タラ・ボウマン(クラリネット)、ステファノ・スコダニッビオ(コントラバス)、ファブリツィオ・オッタヴィウッチ(ピアノ)、マーク・ナウシーフ(パーカッション)によるインプロヴィゼーションを、ワルター・クインタスが編集したアルバム、"spaces & spheres intuitive music"(WERGO/WER 67642)を聴く。

ジャズでも活躍するトランペッターで、現代音楽の作曲家として多くの作品を発表する、かのシュトックハウゼンの息子、マルクス・シュトックハウゼン(が、プロデューサーを務めている... )。そして、現代の作曲家たちからの厚い信頼を集めるオランダのクラリネット奏者、ボウマン。イタリアのコントラバス奏者で、作曲家としても活躍したスコダニッビオ(録音して間もなく急逝... このアルバムは、スコダニッビオに捧げられている... )。イタリアのピアニストで、現代音楽をベースとしながらも、ジャズとのコラヴォレーションもある、オッタヴィウッチ。ロックからスタートし、ジャズ、ワールド・ミュージックと幅広くこなすドラマーでパーカッショニスト、ナウシーフという、現代音楽のエキスパートかつ幅広い音楽に対応可能な面々による、"spaces & spheres intuitive music"。で、space=空間と、sphere=球体というワードを目にすると、やっぱり宇宙的なものをイメージしてしまう。で、そう、まさに、スペイシーなサウンドが繰り出され... それがまた、intuitive=直観によるものだから刺激的(マルクスの父、カールハインツが提唱した直観音楽=テキストによる方向性が示された上で即興を繰り広げる... が基にあるのだろう... )。5人のアーティストが、4日間に渡る直観のみのセッションを経ての"spaces & spheres intuitive music"。そこから聴こえて来るものは、作曲という行為を取っ払って生まれたスペイシーさ... つまり、演奏家たちを、作品という箍から解放して辿り着けるスペイシーさ、なのだと思う。現代音楽の際限の無い世界を巡って培われた楽器に対する鋭い感性を存分に活かし、また、そうしたサウンドが重なり、共鳴し合うことで生まれる新しいテクスチャーは、まるでエレクトリックに加工されたような独特なトーンを見せ、驚かされる。
ブーーーーーン、低く唸るコントラバスのドローンに導かれて始まる、1曲目、「アンゴーン」。かすかにクラリネットが聴こえ、ベルがこすれるような音がこぼれる中、フリューゲル・ホルンのやわらかな音が空間に放たれる。それは、まるで、初日のように出現し、アンビエントにして、圧倒的な情景を見せてくれる。おもしろいのは、音が鳴っているのに、圧倒的に静かな印象を受けること... 音響が創り出す"しじま"?音楽とは違う、静寂を表現するサウンドに吸い込まれそうになる。一転、2曲目、「銀の舌の」(track.2)は、トランペットの悩ましい歌いと、ワールド・ミュージックを思わせるパーカッションのプリミティヴな表情が響き合って、おもしろいトーンを醸し出すも、それとなしにフリー・ジャズの方へと寄って行き、続く、3曲目、「液状の恐怖」(track.3)では、より、ジャズっぽい雰囲気に... ベースが刻む渋いリズムが、ジャジーで、都会的で、後から加わるピアノの冷えた音色も、クールで、夜明け前のまだ誰も起きていない街中をそぞろ歩くよう。が、歩いている内に、何も無い野原に出てしまって、立ち止まる。そこは、街が立つ前の原野?いや、戦の終わった軍場の、鬼火がチラつく、恐ろしげな夜だろうか... いや、イマジネーションが掻き立てられる!5人のアーティストの直観に導かれ、流れて行く音楽に意識を集中すれば、不思議なドラマが浮かび上がるようで、おもしろい。そう、直観によるインプロヴィゼーションが織り成すからこそ、音楽が思わぬ方へと展開され、フリー・ジャズかと思うと、アンビエントとなり、次第にそこにワールド・ミュージックを思わせるテイストが滲んで... 聴き始めと聴き終わりとでは、違う曲を聴いているかのよう。けど、その変容は、知らず知らずの内で... だから、知らず知らずの内に異次元に迷い込んでしまったようで、その奇妙さが刺激的でもあり、怖くもあり... この変容して行く感覚、作曲された作品では絶対に味わえないもの...
一方で、5曲目、「彼女は空気を浄化した」(track.5)では、フュージョンを思わせるソフトなタッチを見せ、ハっとさせられる。それまでが、フリー現代音楽であったのに対し、ここで初めて音楽としての形を意識させられる。冒頭こそ不穏なグラデーションに彩られるものの、ピアノが明確な音階を以って、澄んだ音色を奏で始めれば、音楽が姿を表す。それはドビュッシーのような、いや、もっとシンプルで、ペルトのような... それもまた、直観によるものではあるのだろうけれど、ピアノという楽器のマシーンとしての性格が、それまでになく音楽としての存在感を強調し、ある種の安心感を聴き手にもたらす。ここまで、変容を続ける、おぼろげなイメージの中を漂って来たから、余計に、その音楽としての形が新鮮に感じられ、というより、初々しさすら感じられて、惹き込まれる。そうして、考えさせられる。フリーであることの解放感と、形があることの安心感。"spaces & spheres intuitive music"は、大胆にして、クールにして、どこか、真理に迫って行くようでもある。
しかし、現代音楽の名手たちのパフォーマンスが見事!で、まず耳を奪われるのは、マルクス・シュトックハウゼンのトランペット/フリューゲル・ホルン。その伸びやかさ、鮮やかさには、酔わせてくれる。そして、想定以上のスケール感を響かせるスコダニッビオのコントラバスが最高!コントラバスを恐るべきサウンド・マシーンに変身させてしまう魔法たるや... それから、様々な表情を自在に繰り出すボウマンのクラリネット、さらに自在なサウンドを創り出すナウシーフのパーカッションもただならない。からこそ、淡々としたオッタヴィウッチのピアノがアクセントとなり、絶妙。それにしても、この5人のみによる演奏なの?と、ちょっと疑ってしまうほど多彩で、スペイシーなサウンド... 現代音楽の底力とでも言おうか、特殊奏法やら、何やら、真正面から音楽を捉えるばかりでないからこそ切り拓ける地平が、"spaces & spheres intuitive music"にはある。何より、フリー現代音楽に可能性を感じてしまう。もっと、いろいろできそう!

Stockhausen | Bouman | Scodanibbio | Ottaviucci | Nauseef Spaces & Spheres

アンゴーン
銀の舌の
液状の恐怖
ライト・ブライト・ナイト
彼女は空気を浄化した
再び見えざるもの

マルクス・シュトックハウゼン(トランペット/フリューゲル・ホルン)
タラ・ボウマン(クラリネット)
ステファノ・スコダニッビオ(コントラバス)
ファブリツィオ・オッタヴィウッチ(ピアノ)
マーク・ナウシーフ(パーカッション)

WERGO/WER 67642




タグ:室内楽 現代
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