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チェスティ、没後350年、バロック・オペラ確立前夜のナチュラル... [2013]

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刻々と年の瀬が近付いております。でもって、例年通り、いろいろせっつかれるような状況となりつつありまして、若干、気が滅入って来るような、今日この頃... そうした中、当blog的には、2019年にメモリアルを迎えた作曲家たち、まだ取り上げていない面々を駆け込みで取り上げます(って、これも、例年通りなのだけれど... )。別に、メモリアルなんて意識しなくたって、いつでも取り上げればいい話し... なのだけれど、普段、なかなか視野に入って来ないマニアックな存在は、やっぱり"メモリアル"が絶妙な玄関口に... ということで、今回、取り上げるのは、没後350年のチェスティ!ポスト・モンテヴェルディの時代、バロック・オペラが、よりしっかりとした形を獲得して行く頃に活躍したオペラ作家。つまり、普段、あまり顧みられることのない、バロック・オペラは如何にして全盛期を迎えるのかを窺い知ることのできるチェスティのオペラ... 黎明期と全盛期をつなぐ存在だけに、どうしてもインパクトに欠ける位置にあるのだけれど、間違いなく、オペラ史にとって、かけがえのない存在...
ということで、チェスティに注目!ラケル・アンドゥエサ(ソプラノ)と、ヘスス・フェルナンデス・バエナ(テオルボ)が結成した、スペインの古楽アンサンブル、ラ・ガラニエによる、チェスティのアリア集、"ALMA MIA"(ANIMA e CORPO/AEC 003)を聴く。

アントニオ・チェスティ(1623-69)。
イタリア中部、トスカーナ地方の古い街、アレッツォ(ペトラルカ、ヴァザーリの出身地で、ドレミの発明者として知られるグイド・ダレッツォが活躍した街... )に生まれたチェスティ。アレッツォ大聖堂の聖歌隊(中世、グイド・ダレッツォが率いた... )で幼い頃から歌い、そこで音楽を学び始めた後、1637年、フランチェスコ会の門を叩き、修道士への道を歩み出す。そして、この頃、ローマで活躍していたアバッティーニ(アレッツォから程近いチッタ・ディ・カステッロの出身で、ちょうど故郷に戻っていた... )に師事。1644年、21歳で、トスカーナ西部の街、ヴォルテッラの大聖堂のオルガニストに就任。この頃から、トスカーナ大公家、メディチ家とのつながりを持って、1647年には、大公国、第二の都市、シエナ(大公の弟が知事を務める... )の新しい劇場の柿落としのためのオペラを作曲。さらに、1649年、26歳の年、オペラ都市として急成長を遂げていたヴェネツィアで、オペラ『オロンテア』を大成功させ、一躍、注目を集める。が、修道士であるチェスティのオペラでの成功はスキャンダラスなもの... 教会か?劇場か?作曲家として悩ましい状況に陥る。一方で、ヴェネツィアでは、オペラ作家としてますます人気を集め、その名声はアルプスを越え、1652年、29歳の年、チロルの領主、前方オーストリア大公、フェルディナント・カール(神聖ローマ皇帝、フェルディナント2世の甥、ハプスブルク・チロル家の2代目で、母も、大公妃も、メディチ家の大公女... )のインスブルックの宮廷の楽長として招聘され、活躍。1655年、元スウェーデン女王、クリスティーナ(三十年戦争の新教側の盟主、スウェーデンの女王だったが、退位し、カトリックとして生きるため、聖都、ローマを目指す。その途中、インスブルックに立ち寄り、ここで、改宗している... )を歓迎するオペラ、『ラルジア』を作曲。1666年には、神聖ローマ皇帝、レオポルト1世(フェルディナント・カールの従兄甥にあたり、後に婿となる... )の婚礼(ベラスケスの絵画で有名なあのマルガリータ王女との... )のために宮廷オペラの総決算とも言える『金のリンゴ』(3日掛かりで上演!)を作曲(初演は、いろいろあって1668年まで待つことに... )。メディチ家、ハプスブルク家からの厚い信任を得て、早くから巨匠として数々の栄誉(修道院長にもなっている!)にも浴していたチェスティだったが、1665年、ハプスブルク・チロル家が断絶(領地は、ハプスブルク本家に吸収... )、宮廷楽長のポストを失ってしまう(インスブルックの音楽家たちはウィーンへ... )。その後、ヴェネツィアのオペラ・シーンに復帰しようとするも上手く行かず、トスカーナへと帰り、1669年、46歳、フィレンツェにて、世を去る。
という、チェスティのアリアを聴くのだけれど、1曲目、『ラルジア』のアリア「私の魂よ」から、早速、魅了されてしまう。その得も言えず耳に心地良いメロディーのやさしさ... で、このやさしさが、チェスティのアリアを特徴付けているように思う。初期バロックのオペラのストイックさとも違う、盛期バロックのオペラの華麗さとも違う、中庸の美とでも言おうか、ある意味、過剰にも思えるバロック性だけれど、その過剰さを排したナチュラルな在り方が、とても素敵!そして、このナチュラルさが、アルカイックに感じられ... 何だか、ルネサンス期のフロットラのような軽やかさを生み出して、不思議。もちろん、それは、初期バロックから盛期バロックへの過渡的な音楽であって、切って捨てられてしまいかねないインパクトの弱さもあるかもしれない。が、もう少し複雑な背景も感じさせてくれる音楽であって... その鍵となるのが、ローマか... チェスティの前の世代になる、ローマの巨匠、カリッシミのオラトリオや、チェスティの後の世代になる、ローマで活躍したアレッサンドロ・スカルラッティのオペラに通じるアルカイックさを見出し、師、アバッティーニを通じて学んだローマのスタイル、ルネサンス以来の古様式が息衝いていたローマならではの、新旧の感性の融合が、チェスティのアリアからは聴こえて来る。だからフロットラのようで、それでいて、その後のダ・カーポ・アリアのような形式が確立されたアリアより音楽的なふくよかさを持ち得ているように感じられて、そのあたりにナポリ楽派を予感させる流麗さも見せるのか... この古くて新しい感覚が、モンテヴェルディの延長線上にあったヴェネツイアのオペラ・シーンには新鮮で、新旧のバランスの取れた音楽の洗練が、宮廷でも受けたのだろう。そして、今、我々の耳には、それらが、思いの外、ポップに響く。
そんな、チェスティのアリアを歌うのが、スペインのソプラノ、アンドゥエサ。フェルナンデス・バエナ(テオルボ)と、古楽アンサンブル、ラ・ガラニアを創設、自らレーベルまで立ち上げ、意欲的なプログラムを繰り出す注目の存在なのだけれど... いや、舞台を飾る花としてのソプラノではなく、自らが主体となって、意欲的なアルバムを次々に繰り出して来るアンドゥエサのアグレッシヴさに感服。そういうアグレッシヴさがあってこそのチェスティのアリア集でもあって、普段、顧みられない存在に対する思いが、このアルバムからは窺える。だから、濃密... スペインならではのクリーミーなトーンがあって、花々しさがありながらも、ドスも効いていて、ふわっとしそうなチェスティの音楽から、深い表情を引き出して印象的。特に、『オロンテア』のアリア「来て、アリドーロ」(track.4)の、恋人への狂おしさが滲む呼び掛けや、『ラルジア』のアリア「地獄の門を開け」(track.15)の諦めに滲むマッドさなど、複雑な表情をしっかりと歌い上げ、チェスティのおもしろさをきっちり引き出す。そんなアンドゥエサをサポートするフェルナンデス・バエナ+ラ・ガラニアの演奏も、また魅力的で、小さい規模ながら、それぞれが確かな音を奏で、重みのあるアンサンブルを紡ぎ出す。それでいて、アンドゥエサと絶妙にやり取りし、単なるアリアを越えた、より親密な音楽を紡ぎ出し、また密度を上げて来る。そうして生まれる、何とも言えない刹那... 軽やかで輝かしいのだけれど、どこか翳も帯びるチェスティの音楽、魅惑的。

ALMA MIA RAQUEL ANDUEZA & LA GALANÍA

チェスティ : オペラ 『ラルジア』 より アリア 「私の魂よ」
チェスティ : オペラ 『ラ・ドーリ』 より 第5場のシンフォニア
チェスティ : オペラ 『オロンテア』 より アリア 「私の悲しみよ」
チェスティ : オペラ 『オロンテア』 より アリア 「来て、アリドーロ」
チェスティ : オペラ 『ラ・ドーリ』 より プロローグのシンフォニア」
チェスティ : オペラ 『ラ・ドーリ』 より アリア 「愛は私に何を勧めるのか」
チェスティ : カンタータ 「もう愛を語るな」
チェスティ : オペラ 『イル・ティート』 より アリア 「ベレニーチェ」
チェスティ : オペラ 『オロンテア』 より アリア 「私の熱愛する人のまわりで」
チェスティ : オペラ 『ラルジア』 より アリア 「陽気に戯れよう」
チェスティ : オペラ 『ラルジア』 より プロローグのシンフォニア
チェスティ : カンタータ 「おお、どれほど集まり競り合うのか」
チェスティ : オペラ 『ラ・ドーリ』 より アリア 「愛よ、残忍な勝利を求めるならば」
チェスティ : オペラ 『ラルジア』 より 第4場のシンフォニア
チェスティ : オペラ 『ラルジア』 より アリア 「地獄の門を開け」
チェスティ : オペラ 『オロンテア』 より アリア 「眠れ、愛する人よ」

ラケル・アンドゥエサ(ソプラノ)
ヘスス・フェルナンデス・バエナ(テオルボ)/ラ・ガラニア

ANIMA e CORPO/AEC 003




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