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エルガー、チェロ協奏曲、ケラスが見据える、慟哭、諦念... [2013]

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グンと気温が下がって参りました。気が付けば、11月も下旬です。まさに、晩秋... そこに、しとしと雨に降られたりすると、寂寥感がひたひたと迫って来るようで、身に沁みます。何だか、冬より寂しい感じ... さて、この秋の深まりゆく中、秋はチェロ、あるいは、ヴィオラ・ダ・ガンバ... そんなイメージを持って、いろいろ聴いて来たのですが、それぞれに深い世界(バッハの無伴奏チェロ組曲の、そのミクロコスモスに見えて来る、マクロコスモス... )を味わい、広がる歴史(文明の枠組みを越えて求めることのできる、ヴィオラ・ダ・ガンバの起源... )を見出し、今、新たにその魅力に惹き込まれた。で、振り返ってみると、この季節だからこそ、より向き合えた、チェロであり、ヴィオラ・ダ・ガンバだったかなと... その低音が、より身体に響いて来る季節とでも言おうか... 秋の夜長に読書の秋、じゃないけれど、いつもより落ち着いた空気感の中で聴くからこそ、その存在を丁寧に、繊細に捉えることができるような気がする。音楽は、空気が在って、初めて成り立つもの、ならば、それぞれの楽器に合う空気感もあるのかもしれない。うつろいゆく季節の中で、それぞれに合った楽器を聴くというのも、乙なのかも...
ということで、晩秋、寂寥感を掻き立てるようなエモーショナルなチェロを聴いて、締めます。ジャン・ギアン・ケラスのチェロ、イルジー・ビエロフラーヴェクの指揮、BBC交響楽団の演奏で、エルガーのチェロ協奏曲(harmonia mundi/HMC 902148)。

いやー、久しぶりに聴くと、揺さぶられます。チェロ・ソロによる冒頭のエモーショナルなフレーズ!のっけから、こうも揺さぶって来るかと... こういう始まり方、ちょっと他に無いような気がする。で、そんなイメージが強いものだから、もんの凄くエモーショナルなコンチェルト、という印象があったのだけれど、改めて全曲を聴いてみると、必ずしも、ずっとエモーショナルというわけではないのだよね... チェロならではの枯れたトーンとでも言おうか、そういうトーンを大切に、19世紀、ロマン主義の伝統にしっかり則って、チェロ協奏曲として、きちんとした音楽(冒頭の大胆さは、とりあえず置いといて... )を展開して行く。いや、第1次大戦、終戦の年、1918年に書き始められたという作曲年代を考えれば、ちょっとオールド・ファッションにも思えるのだけれど... この、ヨーロッパ大陸における最新モードとのズレ、つまり古臭さこそが、イギリス音楽の味わい(前回、聴いた、バロック期に入ってのルネサンス調のヴァイオル・コンソートでも感じた... )でもあるなと... そして、そこには、古き良きヨーロッパが崩れ去って行く、第1次大戦(1914-18)を目の当たりにしての、懐古もあるだろうか?第1次大戦があって生み出された音楽として聴くと、そのオールド・ファッションと、エモーショナルさに、より際立ったものを見出せる気がする。最も人の声に近いと言われる楽器、チェロだからこその深い表情が、慟哭、諦念といった、悲劇的な感情を淡々と鳴らして行く1楽章があって... 砲撃の音が止んだ戦場だろうか?草原を風が吹き抜けて行くような、そんな牧歌的な表情を見せてくれる2楽章(track.2)が続き... まどろみの中に、幸せだった遠い記憶が蘇るような3楽章(track.3)、民俗調のメロディーを軽快に、力強くも繰り出す終楽章(track.4)、その最後には、1楽章の慟哭が戻って来て... という展開、ストーリーを思い描かずにいられない。というより、映画を見るような感覚(こういう瑞々しさ、イギリス音楽ならではかと... )がある。で、そのストーリー、やっぱり第1次大戦の深い傷跡を辿るものだったかなと... だからこそ、聴く者を揺さぶるのか?ただエモーショナルなだけでない、丁寧にチェロが語り、オーケストラが雄弁に背景を描き、真っ直ぐに聴き手と向き合って、確かに揺さぶって来る音楽は、力強い。
という、エルガーの後で、ドヴォルザークのロンド(track.5)と、森の静けさ(track.6)、チャイコフスキーのロココの主題による変奏曲(track.7-14)が取り上げられるのだけれど、エルガーの力強い音楽とは、好対照!いや、より音楽的に感じられるから、おもしろい(裏を返せば、エルガーの音楽がストーリー性を持ち、まるで役を演じるかのようにチェロが感情的に表現していたか... )。で、それら、みな19世紀の作品で... そうした作品を前にすると、エルガーの音楽が、オールド・ファッションには感じられても、より感情を表現し得ていたことに、20世紀の音楽であったことを意識させられる。そして、19世紀の音楽の何とフォーマルなこと!ドヴォルザークの1曲目、ロンド(track.5)は、国民楽派らしい民俗性に彩られ、2曲目、森の静けさ(track.6)では、瑞々しい音楽を繰り出し、ロマンティック!19世紀ならでこその美しさってあるなと... さらに、チャイコフスキーのロココの主題による変奏曲(track.7-14)では、ロココの時代、18世紀へと還るわけだ。まさにロココ風の上品なテーマを、素直にチェロが奏でれば、ハイドンの2番のコンチェルトを思い起こさせる雰囲気... そこから、繰り出される変奏には、チャイコフスキーらしさが聴き取れて、微笑ましく... いや、これまたオールド・ファッション?チャイコフスキーは、近代音楽の到来を目の前にして、世を去るわけだけれど、ここで響く、オールド・ファッションは、チャイコフスキー流の擬古典主義だったかとも思う。そういう点で、先取りしていたか?改めて聴いてみると、興味深く感じる。一方で、ドライに過去を捉えるのではなく、センチメンタルに過去を見つめるあたりに、チャイコフスキーならではの感性が感じられ、その変奏にもまた、ストーリーが浮かぶよう... そこが、また魅力的...
という、ちょっと総花的だけれど、よくよく聴くとコントラストが効いていて、それによって、また新たなイマジネーションを擽る作品を並べてみせたケラス!やっぱり、センスを感じます(19世紀風、20世紀の作品から、19世紀、そして、18世紀風、19世紀の作品へと時代を遡るのも、おもしろい!)。もちろん演奏の方も見事... しっかりと余裕を以って全ての作品と向き合い、クリアにスコアを読み解くも、それが嫌味にならないのがケラス流。当然の如く見通しが良いけれど、視界の良さを売りにはしないナチュラルな歌いっぷり、音楽運びは、この21世紀のヴィルトゥオーゾの懐の大きさを思い知らされる。エルガーでの慟哭から、チャイコフスキーでの上品さまで、卒なく、あるがままに響かせる妙!けしてドヤ顔にならない、淡々と鳴り響くケラスのチェロは、いつもながら、本当に素敵です。凄い作品を、素敵に仕上げるのが、この人のただならぬ力量... そんなケラスを好サポートするのが、チェコのマエストロ、ビロフラーヴェクと、BBC響。ピエロフラーヴェクの手堅さと、真摯なアプローチは、ケラスの方向性にすっと寄り添い、また共鳴し、一見、似通った方向性を持つ作品の多彩さをしっかりと引き出して魅了してくれる。そんなマエストロに応えるBBC響!イギリスのオーケストラの本懐、エルガー作品では、その瑞々しいサウンドを存分に活かして、聴き入ってしまう。ドヴォルザーク、チャイコフスキーでは、彼らならではのニュートラルな音楽性が活き、それぞれの魅力を素直に引き立てる。

elgar cello concerto queyras

エルガー : チェロ協奏曲 ホ短調 Op.85
ドヴォルザーク : ロンド ト短調 Op.94
ドヴォルザーク : 森の静けさ Op.68
チャイコフスキー : ロココの主題による変奏曲 イ長調 Op.33

ジャン・ギアン・ケラス(チェロ)
イルジー・ビエロフラーヴェク/BBC交響楽団

harmonia mundi/HMC 902148




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