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秋に聴くガンバ... へフラー、竪琴からとれた初物の果物。 [2013]

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春は曙、秋は夕暮れ、みたいに、四季を楽器で語ったら、どんな感じになるかな?と、この間、秋の夕暮れ間近、差し込む陽の光がこそばゆい電車のシートに揺られながら、何となく考えていた。秋はチェロ。あの少し枯れたようで艶やかな音色は、秋の陽の光に似て、やさしいから... というチェロと対になるのが、春はヴァイオリン。明るく、クリアな音色は、花々しい!けど、より春のふんわりとした空気感を響かせるなら、フルートかもしれない。じゃあ、夏は何だろう?近頃の酷暑を思うと、オンド・マルトノとか思い浮かぶのだけれど... それじゃあ、ちょっと、あれなので、初夏ならホルン。夏の夜ならトランペット。夏の終わりにトロンボーンとか、意外と金管のイメージ。で、冬はピアノ。もしくは、チェンバロ。冬の澄んだ大気は、鍵盤楽器の、ひとつひとつの音が独立して響く凛とした表情がしっくり来る。ということで、秋はチェロ。前回、バッハの無伴奏チェロ組曲を聴いて、ますますそんな思いに... そこで、より秋を深めるために、ヴィオラ・ダ・ガンバなんか聴いてみようかなと...
グイド・バレストラッチのバス・ヴィオールを中心としたアンサンブルで、バロック期、ドイツのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ヘフラーのヴィオラ・ダ・ガンバのための組曲、『プリミティアエ・ケリカエ』から、前半、6曲(PAN CLASSICS/PAN 10275)を聴く。

コンラート・ヘフラー(1647-1705)。
ドイツ中部、歴史ある商都、ニュルンベルク(マイスタージンガーでお馴染みの街は、クリーガーやパッヘルベルら、ドイツ・バロックに欠かせない作曲家を輩出... 何気に音楽都市だった?)で生まれたヘフラー。ちょうど大バッハの父親世代にして、大バッハらが花咲かせる盛期バロックを準備した世代にあたる。で、ニュルンベルクのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ガブリエル・シュッツ(かのシュッツとは親戚じゃないみたい... )に師事、クリーガーの兄、ヨハン・フィリップ(1649-1725)と一緒に学ぶ。やがて、ヨハン・フィリップ・クリーガーがオルガニストを務めていたバイロイト辺境伯(は、かつてのニュルンベルクの城主だったホーエンツォレルン家の一族で、プロイセン王家の分家... )の宮廷でヴィオラ・ダ・ガンバを弾くこととなり、音楽家としての第一歩を踏み出すも、1673年、アンスバッハ辺境伯(は、バイロイト辺境伯と同じホーエンツォレルン家の一族。後に、バイロイトを統合... )の宮廷からヘッド・ハンティング!が、ブラックな宮廷だったようで、1676年、マクデブルク大司教にしてザクセン・ヴァイセンフェルス公、アウグスト(かのシュッツが仕えたザクセン選帝侯、ヨハン・ゲオルグ1世の次男... )のハレ(かのヘンデルが生まれた街!で、生まれるのは9年後の1685年... ちなみに、ヘンデルの父もザクセン・ヴァイセンフェルス公に仕えていた... )の宮廷に移る(翌年には、ヨハン・フィリップ・クリーガーも移って来る。ふたり、仲良いのね... )。1680年、アウグスト公が世を去り、その長男、音楽好きのヨハン・アドルフ1世(少年ヘンデルの才能を最初にすくい上げた人物!)が公位を継承すると、宮廷はヴァイセンフェルスへと移り(ハレは、マクデブルク大司教領で、聖界諸侯の領地は、世襲ではなかったから... なのだけれど、アウグスト公の死去を以って世俗化され、プロイセンに併合されている... ちなみにヘンデルの父は、ハレからヴァイセンフェルスに通勤していた... )、ここが、ドイツ・バロックの拠点(ドイツ語によるオペラ制作に熱を上げたヨハン・アドルフ1世公!作曲したのは、ヨハン・フィリップ・クリーガー... )のひとつとなる。ヘフラーは、かの地のヴィオラ・ダ・ガンバのマエストロとして活躍し、1695年、ヴィオラ・ダ・ガンバの練習曲として、ここで聴く、『プリミティアエ・ケリカエ』を発表...
バッハの無伴奏チェロ組曲(1720)の後で聴く、ヘフラーのヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲は、通奏低音がもたらす威力に、まず圧倒されてしまう。もちろん、通奏低音無しに、あれだけの音楽を織り成したバッハにも驚かされる(いや、そっちの方が凄い!)のだけれど、通奏低音が生み出す、音楽としての揺ぎ無い安定感は、抗し難い魅力を生み出す。いや、通奏低音は、バロックが発明した魔法にすら思えて来る。主役であるヴィオラ・ダ・ガンバが、無理なく、のびのびと主旋律を歌い、豊かな音楽を紡ぎ出す。という、イタリア発のバロックの作法(舞踏組曲のスタイルは、フランス流だけれど... )を、見事に自らのものとして繰り出す、ヘフラー... 大バッハの登場を前にして、ドイツ・バロックも、盛期バロックへ向けて、しっかりと熟成されていたことを思い知らされる充実ぶりに感慨... で、その充実には、意外とイタリア的な明るさが感じられて、大バッハの仄暗さとは一味違うトーンがある(裏を返せば、大バッハが特異だったとも言えるのだけれど... )。ドイツ・バロックの素朴さもありつつ、ヴィオラ・ダ・ガンバのチェロより繊細にして鋭い音色が生み出すヴィヴィットさが活かされ... 1曲目に置かれた6番の、そのプレリュードの、ヴィオラ・ダ・ガンバが即興的に勢いよく奏でて生まれる鮮烈さは、目が覚める!このあたりに、ヘフラーのヴィルトゥオージティが、今に蘇るよう。続く、アルマンド(track.2)は、一転、穏やかにして、確かな舞曲のリズムを刻みながら、通奏低音が実直に対位法を織り成して、ドイツ的な手堅さも聴かせる。イタリアのフォーマットを用いながら、そこにドイツのロジカルさも見せるヘフラーの妙。『プリミティアエ・ケリカエ』は、単なる組曲集ではなく、ヴィオラ・ダ・ガンバを演奏するにあたって、その理論についても記され、まさに教科書のような組曲集となっている。で、ヘフラーは、これしか作品を残していないというから、ヘフラー芸術の粋を集めた集大成なのだろう。どの組曲からも、それまでの経験を経て辿り着いた上質さ、洗練をも感じられ、バッハとはまた違う端正さ、バッハほど煮詰まっていない透明感を湛えた響きが心地良く、大いに魅了される。
そんな『プリミティアエ・ケリカエ』を聴かせてくれるのが、イタリアのガンビスト、バレストラッチ。始まりの6番のプレリュードから、惹き込まれる!その鮮やかな弓捌きたるや... クリアかつ色彩が感じられるバレストラッチの演奏は、バス・ヴィオールの低音の味わい深さ、温もりも感じさせつつも、チェロとは違う、古楽器、バス・ヴィオールが持つ繊細さをきちんと聴かせて、明快。その明快さからは、明るさが見えて来るのが印象的。バレストラッチのこのタッチ、イタリアならではなのかなと... ピリオドではあるけれど、ヴィンテージ感は薄く、ある意味、とてもモダンに感じられるのがおもしろい。で、ドイツ・バロックを、イタリアから見つめるニュートラルさが、ヘフラーの音楽に真新しさをもたらすかのよう。そんな、バレストラッチを支える通奏低音、ダル・マソのヴィオローネ、ボナビータのアーチリュート、ロスキエッティのチェンバロ/オルガンが、また明快なサウンドを響かせて、心地良くアンサンブルを織り成す。で、オール・ラテン系のアンサンブル(南米、ウルグアイ出身のボナビータ以外は、みなイタリア出身... )だから生まれるカラっとした感覚(ちょっとステレオ・タイプ過ぎるか?)!ドイツ・バロックから湿気を取り除くことで、ヘフラーの、教科書にして集大成を、より際立たせるように感じる。そうして輝き出す、『プリミティアエ・ケリカエ』。そのタイトル、竪琴からとれた初物の果物... という意味らしいのだけれど、彼らの演奏は、初物の果物の初々しさ、瑞々しさが確かに感じられて、素敵。

Konrad Höffler suites for viola da gamba
Balestracci Dal Maso Bonavita Raschietti

ヘフラー : ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲 第6番 ト長調 〔『プリミティアエ・ケリカエ』 から〕
ヘフラー : ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲 第3番 ニ長調 〔『プリミティアエ・ケリカエ』 から〕
ヘフラー : ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲 第4番 イ長調 〔『プリミティアエ・ケリカエ』 から〕
ヘフラー : ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲 第5番 ニ短調 〔『プリミティアエ・ケリカエ』 から〕
ヘフラー : ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲 第2番 ロ短調 〔『プリミティアエ・ケリカエ』 から〕
ヘフラー : ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲 第1番 ヘ長調 〔『プリミティアエ・ケリカエ』 から〕

グイド・バレストラッチ(バス・ヴィオール)
ニコラ・ダル・マソ(ヴィオローネ)
ラファエル・ボナビータ(アーチリュート)
マッシミリアーノ・ロスキエッティ(チェンバロ/オルガン)

PAN CLASSICS/PAN 10275




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