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フランス、いともオシャンティーなサン・サーンスのコンチェルト。 [2013]

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ハロウィンのひと騒動が終わり、気が付けば、秋も深まっていて、昨日は立冬でした。今年も、そろそろ終わりが見えて参りましたね... 秋の夜長に、読書の秋、芸術の秋だと、まったり気分にひたるのも束の間、年の瀬へと追い立てられて行くわけです。でもって、今年は、いつまでも夏日が続く中、ラグビー・ワールドカップの熱狂の日々が始まり、スーパー台風に打ちのめされ、即位の礼の虹に某かの希望を見て、上がったり、下がったりのジェット・コースターに乗せられたような、ドラマティック過ぎの秋です。秋っぽく、センチメンタルな気分に染まる余裕など無かった... だから余計に急かされているようで、精神的に息が上がってしまいそう... てか、大晦日まで、走り切れるだろうか?なので、ちょっと立ち止まり、深まりゆく秋をしっかり味わうような音楽を...
リオネル・ブランギエの指揮、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏、ルノー(ヴァイオリン)と、ゴーティエ(チェロ)のカピュソン兄弟による、サン・サーンスの3番のヴァイオリン協奏曲と1番のチェロ協奏曲(ERATO/999934134)を聴く。

交響曲に弦楽四重奏曲といった硬派な音楽から、華麗にヴィルトゥオージティが溢れ出す数々のコンチェルトに、『動物の謝肉祭』みたいな砕けた作品、『サムソンとデリラ』のようなエキゾティックな音楽まで、何でもこなせる万能の人、サン・サーンス... いや、フランス音楽切っての優等生、そんなイメージすらある。一方で、その音楽、とても華やかでございまして... このあたりがドイツの優等生とは一味違う、フランスの優等生ならではかなと... 例えば、代表作、3番の交響曲、「オルガン付き」(1886)。オルガン、付かなくとも、十分に立派な交響曲を構築しながら、パイプ・オルガンの煌びやかなサウンドをそこにぶつけて(ドイツ人はしないよなァ~ )、絶対音楽=交響曲の気難しさを、パイプ・オルガンという楽器が持つスペクタキュラーさで、煙に巻く?こういう、サービス精神旺盛なあたりが、サン・サーンスの音楽を特徴付けている気がする。つまり、見事なスコアを書き上げる(までなのが、ドイツ人?)のではなく、コンサートでの"映え"を意識した音楽を創り出すのが、サン・サーンス。"映え"にこだわるからフランス音楽は安っぽい... なんて言われそうだけれど、そういう安っぽさこそが19世紀の真実(成り上がりのブルジョワたちが、かつての王侯貴族"風"を気取って、わちゃわちゃしていた時代!)であって、サン・サーンスの華やかこそ大正解だったのだと思う。また、そういう華やかさは、時代を越えて聴き易く... 現代から見つめるかつての安っぽさ(とか言うと、叱られそうだけれど... )は、どこかポップにも思えて... 極めてクラシカルだけれど、気難しさとは一味違う「華やかさ」に彩られた音楽は、ズバリ、オシャンティー!で、素敵。
いや、オシャンティーなんて、随分とチャラついた今風の形容詞を用いてしまいましたが、けしてサン・サーンス自身が軽佻浮華であったわけでなく... 1870年、35歳の時、普仏戦争が勃発した際には、一兵卒として従軍もしており... 戦争は呆気無く負けてしまうも、ドイツに敗戦したことが大きな刺激となって、1871年に帰還すると国民音楽協会を創設。劇場一辺倒だったフランスの音楽に器楽曲復興を促し、ナショナリズムにも煽られ、器楽曲大国ドイツに追い付け追い越せと、精力的に活動(ドイツを越えて行くフランスらしさを追求する、ガリアの芸術=アルス・ガリカを標榜!)。そうした最中に作曲されたのが、1番のチェロ協奏曲(track.5-7)。短調による劇的なテーマを、まるで慟哭するが如くチェロが奏でる1楽章、冒頭... その厳しい表情に触れると、作曲家の戦争の記憶だったかなとイマジネーションを掻き立てられる。で、興味深いのは、そのドラマティックさと、短調による雄弁なフレーズには、シューマンのチェロ協奏曲を思い起こさせるものがあって... 敗戦後、サン・サーンス自身も、極めてナショナリスティックだったわけだけれど、ドイツに追い付くためにはドイツ風であることも厭わない?チェロという楽器の渋さもあるのだけれど、華やかなサン・サーンスの音楽とは一味違う味わい深さが、このチェロ協奏曲にはある。いや、それだけドイツに打ちのめされていたということか... 一方、終楽章(track.7)の技巧的なあたりは華やか!存分にヴィルトゥオージティが繰り出され、コーダではフランスらしさにも包まれ、魅力的。
さて、戦争の傷はすっかり癒えた?1880年に作曲されたのが、3番のヴァイオリン協奏曲(track.1-3)。それは、作曲家、サン・サーンスの脂が乗った頃(「オルガン付き」が作曲されるのは、6年後... )。1番のチェロ協奏曲からすると、響きの充実度は明らかに増している!ドイツに負けないオーケストラ・サウンドを織り上げながら、アルス・ガリカ、フランスにおける器楽曲の方向性もしっかりと定まった印象があり、何より、かのサラサーテのために作曲された作品だけあって、ヴィルトゥオージティに溢れ、ドラマティックで、輝かしい!いや、改めて聴いてみると、その音楽、実に充実しており、華やかさと構築感が絶妙!1880年というと、フランスにおけるベル・エポック=美しき時代の始まりとされる年... サン・サーンスのみならず、19世紀、フランスも脂が乗って(革命に次ぐ革命で、グタグダだった政治体制が、とうとう落ち着きを見せ始める... )、輝かしかったのだろう。そうした雰囲気が、音楽からもこぼれ出す。2楽章(track.2)、アンダンティーノ・クワジ・アレグレットの穏やかさ、麗しさには、どこか古典へと還るような表情もありつつ、ゆったりと歌うメローなあたりには、フランスらしさが感じられ、魅了されずにいられない。一転、切れ味の鋭いテーマ(サラサーテをイメージさせる!)が印象的な、終楽章(track.3)では、ヴァイオリンがますます輝きを見せ、コンチェルトの醍醐味をたっぷりと味合わせてくれる。
という、ヴァイオリン協奏曲とチェロ協奏曲の間で取り上げられる「ミューズと詩人」(track.4)が、なかなかおもしろい。ヴァイオリンとチェロとオーケストラによる二重協奏曲のような形を採るのだけれど、派手にヴィルトゥオージティを競うようなことは控え、ヴァイオリンとチェロが対話するように展開される。つまり、ミューズと詩人の対話か?と思うのだけれど、そのタイトル、出版社による後付けらしい。けれど、絶妙なネーミング!たおやかにして、マイペースなヴァイオリン(ミューズ?)に対し、そのマイペースに少し振り回されるようで、様々な表情を見せるチェロ(詩人?)... そこには、チェロとヴィオラがドラマを繰り広げるリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」(1897)を思い起こさせるものがあり... 単にコンチェルトなのではない、ソロにキャラクター性を持たせ物語を綴る、交響詩的な性格を見出せる。そこに、優等生、サン・サーンスの進化を見出せるようにも思うのだけれど... この作品、すでに20世紀に入った1910年の作品。かの『春の祭典』(1913)が初演される3年前の作品であることに目を向ければ、オールド・ファッション?もちろん、リヒャルト・シュトラウスも健在だった時代、誰も彼もが近代音楽に踏み出していたわけではないけれど、やはり、サン・サーンスの華やかさは19世紀のもの... 20世紀にその華やかさは、どこか老いを感じさせる。

Saint-Saëns: La Muse et le Poète

サン・サーンス : ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 Op.61 *
サン・サーンス : ミューズと詩人 Op.132 **
サン・サーンス : チェロ協奏曲 第1番 イ短調 Op.61 *

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン) *
ゴーティエ・カピュソン(チェロ) *
リオネル・ブランギエ/フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団

ERATO/999934134

でもって、それらサン・サーンスのコンチェルトを聴かせてくれるのが、カピュソン兄弟!兄、ルノーのヴァイオリンは、いつもながら真っ直ぐで、キラキラとしていて、王道。弟、ゴーティエのチェロは、深みを増し、ますます表情に富むようで... そんな2人が、手堅く響かせるサン・サーンスは、この作曲家の本質を丁寧に掘り下げるようなところがあって、表面的な華やかさばかりでなく、ナショナリストでありながら、ドイツとの親和性があった作曲家(だから、親独派みたいなレッテルを貼られて、度々叩かれもした... )の、ドイツに通じる骨太なあたりをしっかりと響かせて、聴き応えをもたらす。そんな兄弟が共演した「ミューズと詩人」(track.4)では、当然ながら息の合ったところを聴かせ... というより、兄弟、仲が良いことに驚かされもするのだけれど... いや、仲が良いというあたりに、カピュソン兄弟の素直さを見出すようで、それがまた演奏も感じられるのかなと... という2人を支えるのが、ブランギエ、フランス放送フィル。彼らもまた素直なのかもしれない。丁寧にサン・サーンスの音楽と向き合い、しっかりと音楽を構築し、単なる伴奏に終わらない魅力をしっかりと響かせて来る。なればこそ、いつもより一段深い、いや濃いサン・サーンスが実現しているようで、おもしろい!コンチェルトではあけれど、オーケストラの存在感もしっかりとしていて、大いに魅力となっている。




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