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ルーセル、生誕150年、フランスにて、硬派に交響曲と向き合う。 [before 2005]

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幻想交響曲(1830)、フランスの山人の歌による交響曲(1886)と聴いて来て、ふと思う。フランスの交響曲には、7番とか、8番とか、9番が無い... つまり、シンフォニストと呼べるほど、多くの交響曲を書いた人がいない(えーっと、12番まで書いた、ミヨーという多作家は、ちょっと別枠扱いとしまして... )。誇り高きフランス人にとって、ドイツ語圏が得意とする交響曲を書くのは、やっぱり、邪道?そもそも、フランス人は、ロジカルに交響曲を構築するより、ヴィジュアルを音楽に落とし込むことが得意な人々と言える(フランスの芸術性は絵画的?)。印象主義などは、フランス人の音楽性を示した最たるもの!それでも、交響曲と格闘したフランス人の交響曲は、かえって個性派揃いで、ドイツ語圏の交響曲よりおもしろいところも。幻想交響曲は、その最右翼だし... って、イロモノとして聴いている、フランスの交響曲?いやいやいや、なかなか硬派に、交響曲と向き合った作曲家もいます。そんなひとりが、今年、生誕150年を迎えたルーセル。前回、聴いた、ダンディ門下のひとり...
ということで、ドビュッシー、ラヴェルと同時代を生き、4つの交響曲を残した、フランス人にしてはシンフォニスト、ルーセルに注目!シャルル・デュトワの指揮、フランス国立管弦楽団の演奏で、ルーセルの交響曲全集(apex/2564-64349-2)を聴く。

アルベール・ルーセル(1869-1937)。
フランス北部、ベルギーとの国境の街、トゥールコワンのブルジョワの一族に生まれたルーセル。幼くして両親を亡くし、トゥールコワンの市長をしていた祖父の下で過ごした後、裕福な叔母夫妻に引き取られ、不自由することなく成長... そうした中で、音楽にも触れ、才能の片鱗を見せたようだったが、当の本人は、すっかりジュール・ヴェルヌの小説に入れ込んでしまい、海への憧れを抱き、海軍士官を目指す。その準備のため、パリの名門校、コレージュ・スタニスラスに進む(一方で、聖アンブロワーズ教会のオルガニスト、ストルツに付いて音楽も学び、作曲家、ルーセルの下準備がなされる... )。1887年、18歳の時、海軍兵学校に入学。1889年、卒業すると、フリゲート艦に乗り込み、憧れの海へ!仏領インドシナに着任し、やがて少尉となり、数年間をアジアの海で過ごす。一方で、音楽への関心も高まり、軍務の傍ら作曲を試みるように... 1894年、25歳の年に退役、聖オーギュスタン教会のオルガニスト、ジグーに師事。1898年には、ダンディが新しい音楽教育を目指し創設したスコラ・カントルムに入学。1902年には、在学中(ダンディが設定したカリキュラムは、10年に及ぶため... )に対位法の教授に就任(サティヴァレーズらを教える... )。そして、プロフェッショナルとしての音楽の道を歩み出した頃に書かれたのが、1906年に完成した1番の交響曲、「森の詩」(disc.1, track.1-4)。
海軍から音楽へ... 29歳で音大に入り、本格的に作曲家として歩み出すのが30代ともなれば、ルーセルの初期の作品には、習作的な青さが無い。だから、最初の交響曲も、思いの外、充実している。というより、フランクダンディと来ての、第3世代とも言えるルーセルによる交響曲は、先人たちの試行錯誤の上に立ち、ドイツのロジックと、フランスの響き、印象を重視する音楽性を見事に融かして、確かなひとつの音楽が成されている。で、「森の詩」というタイトルにある通り、森の瑞々しさ、仄暗さが全体に漂い、そこには、ドイツ・ロマン主義の記憶が感じられるのか... 一方で、構成される4つの楽章には、冬に始まる四季を描き出し、季節のうつろいを印象主義的にも響かせ、絶妙!おもしろいのは、そこにドイツ・ロマンティックな気分と印象主義に親和性が感じられるところ... そして、その2つが融けると、表現主義を思わせる濃さが顕われるところ!1番、「森の詩」は、シェーンベルクが、ウルトラ・ロマンティックから次の段階へと移行しようとしていた頃に符合する音楽と言えるのかも... 続く、2番(disc.2, track.1-3)では、より表現主義的な不穏なトーンの中から始まる。というのも、この交響曲、第1次大戦中に構想(作曲が開始されるのは、終戦の翌年、1919年で、完成されるのは1921年... )されたからか?ルーセルは、第1次大戦に砲兵隊の将校として従軍しているのだけれど、そこでの経験が2番に反映されているように感じる。戦争の重苦しさと、どこか戦争の現実から逃避するような夢想が重なって、スクリャービンの象徴主義を思わせるところも... これはルーセルの戦争交響曲なのだろう、深く骨太な音楽を聴かせます。
そして、3番(disc.1, track.5-8)!ルーセルの交響曲と言えば、やっぱり、この曲... 1929年、大恐慌が起こった年に作曲が開始され、ナチスがドイツ政界で存在感を見せ始めた1930年に完成した交響曲なのだけれど... 1920年代、近代音楽が様々な実験を繰り広げ、そうした動きも成熟されつつあった頃の交響曲ということで、交響曲の伝統と、ドイツとフランスと、さらにモダニズムが加味され、ますます充実した音楽が繰り出されるのが3番。その冒頭、1楽章(disc.1, track.5)のシンプルなリズムを豪胆に刻んで生まれるパワフルにしてマッドな音楽は、まるで戦車が攻め込んで来るかのよう。いやー、カッコいいーッ!!!一度、CMとかで使われたりすると、クラシックの枠を越えてブレイクしそうな、そういうキャッチーさのある音楽。マニアックな位置付けにあるのが、凄く残念な作品。で、そういうキャッチーさばかりでない、3番のおもしろさ... いい具合に1920年代を吸収しての盛りだくさんさ... 1番、2番と、幾分、真面目だったルーセルが、教え子世代となるフランス6人組たちの軽佻なテイストを引き込んで、3楽章(disc.1, track.7)、終楽章(disc.1, track.8)では、サーカスや遊園地に迷い込んだような楽しさを繰り広げる!けど、どこかで1楽章のマッドさは残っていて... これが、全体主義に覆われて行く1930年代への予兆だったか?楽しいのだけれど、どこか自棄っぱち... 大恐慌により世の中から輝きが消えた風景を目の当たりにしてのルーセルの心境?だから"楽しさ"が泣ける...
そんなルーセルの交響曲を、デュトワが率いていたフランス国立管で聴くのだけれど、フランスものをお洒落に指揮するデュトワのイメージ(モントリオール響とのイメージ?)とは一味違う、デュトワ本来の、モダニスティックで鋭いアプローチが効いていて、クール!3番の1楽章(disc.1, track.5)の、スパっと臆することなくリズムを刻む俊敏さは、痺れます。もちろん、3番ばかりでなく、他の交響曲も、それぞれの個性、成熟、洗練を、的確に捉えて、スキっと響かせる妙!その雰囲気に流されない指揮ぶりが、フランスにして、独立独歩であったルーセルのテイストを際立たせる!そんなデュトワに応えるフランス国立管... フランスのオーケストラにして、また一味違う瑞々しさを放ち、シャープにして、ドイツ的なしっとり感もあるのか?1番、「森の詩」(disc.1, track.1-4)などは、その特性がより活きて来るよう。しかし、何と言っても、3番(disc.1, track.5-8)!明晰かつパワフルなフランス国立管の演奏で、この交響曲を体験してしまうと、ちょっと他は聴けないくらい... だからこそ、ますます刺激的で、魅力的な3番、そして、ルーセル!

ROUSSEL SYMPHONIES NOS.1-4

ルーセル : 交響曲 第1番 ニ短調 Op.7 「森の詩」
ルーセル : 交響曲 第3番 ト短調 Op.42

ルーセル : 交響曲 第2番 変ロ長調 Op.23
ルーセル : 交響曲 第4番 イ長調 Op.53

シャルル・デュトワ/フランス国立管弦楽団

apex/2564-64349-2



さて、最後、4番(disc.2, track.4-7)も、忘れるわけには... で、その4番、ルーセルの死の3年前、1934年に完成された作品。元々、身体が弱かったところもあって、1920年代には、健康が優れない時期が長く続いたルーセル。1930年、アメリカ、ボストンで行われた3番(当時、ボストン響の首席指揮者だったクーセヴィツキーの委嘱... )の初演に立ち合うため、大西洋を渡る長旅が祟ったか、急性肺炎に罹ってしまい、一時は生死の境をさ迷う事態(何でも、死亡説が流れたのだとか... )に!しかし、間もなく立ち直り、療養しながら、この4番に取り組む。いや、大した創作意欲である。とはいえ、3番に比べれば元気は無い。そして、どこか懐古的で゛もあって... 1楽章(disc.2, track.4)のロマンティックな表情は、ちょっと寂しげ... その寂しげなロマンティシズムは、2楽章(disc.2, track.5)にも続き、マーラーを思わせるところも... 一転、後半、3楽章(disc.2, track.6)では、擬古典主義風の軽快さを見せて楽しい!そして、終楽章(disc.2, track.6)は、パレードのようで、屈託無く花やか!けれど、その屈託の無さには、何だか厭世感も漂うようで... 第2次大戦の破滅が遠くに見え始めた頃、ルーセルは、人生の終わりを感じ取っていたのか?そんな風に思うと、切なくなる。
という4番がパリで初演された2年後、1937年、ルーセルは、フランス西部、大西洋に面した保養地、ロワイヤンを訪れた際、心臓発作でこの世を去る。奇しくも、ラヴェルが同じ年の年末に逝く。フランス近代音楽の黄昏を思わせる2人の死だったなと...




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