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ラモー、アルカイック、"LE GRAND THÉÂTRE DE L'AMOUR"。 [2013]

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台風19号... まず、亡くなられた方にお悔やみを、被災された方にお見舞いを申し上げます。そして、一日も早い復興を祈っております。それにしても、言葉を失う週末でした。エリアメールのアラームが夜中まで鳴り響く緊迫の一夜... 我が家の周辺の堤防は何とか耐えくれたものの、次第に明確になって来た洪水の被害。その恐るべき規模。これが、温暖化を生きる我々のリアルなのだと、向き合う覚悟を迫られているようで、戦慄せずにいられなかった... いや、戦慄しているばかりではない!ここから、何か、新しい形が模索される様な気もする。というより、そうあらねばならなくなるのだろう。新しい環境に対応した、新しい時代の始まり... 奇しくも、ラグビー日本代表が決勝トーナメントに進出!大きな壁を前にしても、しっかり準備をし、結束し、臨機応変、縦横無尽の創意を以って乗り越えたブレイヴ・ブロッサムズの姿は、困難に立ち向かう勇気のみならず、我々に新しい時代を生きる大きなヒントを与えてくれているような気がするのです。今、改めての"がんばろう日本!"だなと。前に進むことを恐れずに... そして、当blogは、"show must go on"、イタリアからフランスへ...
斜陽のヴィヴァルディ、上げ潮、ナポリ楽派と、18世紀、イタリア・オペラの諸相を聴いて来てからの、フランス・オペラ、遅れて来た巨匠、ラモーに注目してみようと思う。アレクシス・コセンコ率いるレザンバサドゥールの演奏で、サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)が歌う、ラモーのエール集、"LE GRAND THÉÂTRE DE L'AMOUR"(ERATO/2564637284)を聴く。

ヴィヴァルディとナポリ楽派の対峙をつぶさに見つめると、同じイタリアにも異なる音楽性が存在していたことが強調される。いや、ヴェネツィアvsナポリばかりでなく、ヴェネツィア楽派の伝統と、ヴィヴァルディの革新の衝突も丁寧に紐解けば、ヨーロッパ切っての音楽都市として歩んで来たヴェネツィアが内包する、古典への篤さ(ルネサンス以来の伝統を引き継ぐ音楽性... 古代ギリシアが息衝いていた地域と直接的に関わりを持って来たヴェネツィア共和国の国是としての古典賛美!)と、 奇想への熱狂(東方貿易により持ち込まれたエキゾティックな産物の数々が醸成する空気感?)の二重構造も浮かび上がって... こうした差異と、異なったものの接触、あるいは衝突が、音楽史をよりダイナミックに動かし、今、我々に、刺激的な風景を見せてくれるわけだ。そんなイタリアの、ヴェネツィアの、ヴィヴァルディの奇想を孕んだ革新が、フランスに持ち込まれ、また新たな性格を纏わされた、シェトヴィル版、『四季』(1739)に触れた前回... 聴き知った『四季』が、こう変容するのかとおもしろく感じられる一方で、聴き知ったればこそ、その変容に、イタリアとフランスの差異がくっきりと浮かび上がり、その違いが、実に、実に興味深かった。そう、イタリアの中ですら、それぞれの都市に個性があるわけだから、国境を越えたなら、まったく異なる世界が広がるわけだ... で、国境を越えて広がる世界とは、どんなものか?
ドゥヴィエルの歌う、ラモーのエール集、"LE GRAND THÉÂTRE DE L'AMOUR(愛の大劇場)"は、まさに、その世界を見せてくれる。それは、単なるエール集ではなく、フランス・オペラならではのバレエ・シーン=管弦楽曲もふんだんに盛り込んで、トラジェディ・リリクオペラ・バレの区別無く、それぞれのナンバーを巧みにつなぎ、新しいもうひとつのオペラを再創造するかのよう。そうすることで、ラモーの成分は濃縮され、その音楽世界が、より明確に、確固たるものとして響き出す。また、それは、フランスの音楽性を感じさせるものでもあって... ヴィヴァルディのオペラ、ナポリ楽派のアリア集を聴いて来ての、ラモーは、よりフランスの音楽性を際立たせさえする。一方で、そこから感じられる当時のフランスの音楽のプリミティヴさ... 愛の大劇場の幕開け、『優雅なインドの国々』(1735)、第4アントレ『未開人たち(というのは、北米のネイティヴ・アメリカンの人々。って、ポスト・コロニアリズムからすると、問題になりそう... )』、6場のバレエ・シーンは、太鼓の力強いリズムに導かれ、まさしくプリミティヴ... なのだけれど、それだけではない、同時代のヴィヴァルディやナポリ楽派の音楽からすると、フランスにバロックがやって来る前、リュリ以前を思い起こさせるプリミティヴさ... その後に続く、シャルパンティエをアレンジしたブリュネット(18世紀にフランスで人気となった恋歌。牧歌的な表情が特徴的... )、「緑の葉よ、芽吹け」(track.2)は、まるで古謡。もちろん、そういう狙いがあってのものではあるのだけれど、このナンバーに限らず、"LE GRAND THÉÂTRE DE L'AMOUR"で取り上げられるエールには、どれも、オペラ以前の牧歌性が感じられ、作り込まれたイタリアのアリアとは別次元で存在しているかのように思えて来る。つまり、バロックではなく、アルカイック!その、ある種、作為の無さが生むナチュラルさが、思い掛けなく心地良く、癒されさえする。
イタリアの最新モードに対して、フランスの古風さは弱点でもあり、また魅力でもあり... いや、それは、モードに囚われない自由であって、その自由に、バロックのその先を予感させる新しさが浮かび、未来へとつながるフランスらしさすら見出せる。"LE GRAND THÉÂTRE DE L'AMOUR"を聴き進めて行くと、より深く、大きな世界が見えて来る気がする。プリミティヴと感じられたところには、豊かな色彩を見出し、間に漂う歌声の、様々な楽器の放つ音色の美しさに圧倒されさえする。例えば、『優雅のインドの国々』、第2アントレ、『ペルーのインカの人々』からのエール、「来て、結婚の神よ」(track.6)の、やさしいサウンドの中に籠められた繊細な色の広がり... 多くの音を重ねるのではない、ひとつひとつの音の伸びやかさから、ヴィヴィットな空気感を呼び起こす術は、遠く、スペクトル楽派に通じる感覚すら見出せる。フランスの音楽の響きに対する鋭敏な感性は、さすが... 一方で、『カストールとポリュックス』からの「哀しい支度」(track.19)では、リュリ以来の叙唱の伝統に、豊かな色彩が力を与え、ドラマにスケール感を生み、聴き入るばかり... きっちりと型を守って、音楽を構築するイタリアに対し、フランスの、ラモーのそれは、より大きな世界を見据え、響きを織り成して行くのか、その在り様は、ワーグナーぐらい先を見せるようで、ちょっと驚かされる。いや、古風が未来を呼ぶおもしろさ!何より、呼び出された未来は、イタリアでは味わえない、より大きな感動を沸き上がらせ、聴く者を懐深く包み込んで、見事。
そして、愛の大劇場の花、ドゥヴィエルの歌声に魅了されずにいられない!華麗なコロラトゥーラで圧倒する場面こそないものの、超絶技巧に頼らない美しさ、そのナチュラルを極めた佇まいに、ラモーの音楽世界が瑞々しく広がって、何だか、吸い込まれそうなくらい... 素直で、伸びやかで、ふわっと内から光り出すような歌声は、やさしく、ずっと聴いていたくなってしまう。そんなやさしさから、コミカルに歌う『プラテー』の「素晴らしいコンサートを」(track.21)が、また得も言えずラヴリーで、素敵!かと思うと、最後、『優雅なインドの国々』のフィナーレ(track.23)は、堂々と歌い上げ、深い感動すら呼び起こす。この、愛らしさと神々しさが同居する希有な存在感... ラモーの世界観とは、絶妙に合う。そして、その絶妙な歌声に、見事な背景を描き出すコセンコ+レザンバサドゥールの演奏!彼らならではの華麗なサウンドが、ラモーの色彩を存分に引き出し、愛の大劇場を壮麗に演出。またバレエ・シーンでは、小気味良くリズムを刻んで、キャッチーでもあり、ラモーの人懐っこさ、楽しさも、存分に響かせて... プリミティヴに音楽を紡ぎ出して生まれる、フランスならではの軽やかさも映える!という、エールとバレエと、美しさと楽しさを、巧みに織り成して、出現する"LE GRAND THÉÂTRE DE L'AMOUR"。劇場というより、もはや"ワールド"!圧巻です。

LE GRAND THÉÂTRE DE L'AMOUR

ラモー : オペラ・バレ 『優雅なインドの国々』 第4アントレ 『未開人たち』 から 第6場 「平和な森よ」
ラモー : シャルパンティエによる恋歌 「緑の葉よ 芽吹け」
ラモー : アクト・ドゥ・バレ 『ピグマリオン』 序曲
ラモー : コメディ・リリク 『レ・パラダン』 から 「彼は陽光のように美しいですか?」
ラモー : オペラ・バレ 『結婚と愛の祭典』 第1アントレ 『オシリス』 から 第7場 コントルダンス
ラモー : オペラ・バレ 『優雅なインドの国々」 第2アントレ 『ペルーのインカ人たち』 から 第2場 「来て、結婚の神よ」
ラモー : 英雄的パストラル 『ナイス』 から 「私を襲うこの不安は」
ラモー : トラジェディ・リリク 『レ・ボレアド』 から 「穏やかな地平線」
ラモー : トラジェディ・リリク 『レ・ボレアド』 第1幕 第4場 ロンドー形式のコントルダンス
ラモー : コメディ・リリク 『レ・パラダン』 から 「森の中を飛び回るため」
ラモー : トラジェディ・リリク 『イポリートとアリシ」 第3幕 第1場 リトルネル
ラモー : アクト・ドゥ・バレ 『アナクレオン』 から 「愛しい愛の神よ」
ラモー : トラジェディ・リリク 『ゾロアストル』 から 第4幕 第4場 バレエ・フィギュレ
ラモー : オペラ・バレ 『優雅なインドの国々』 第2アントレ 『ペルーのインカの人々』 から 「止まりなさい!」
ラモー : 英雄的パストラル 『ザイス』 から 「流れよ、私の涙」
ラモー : トラジェディ・リリク 『ダルダニュス』 から 「眠り」
ラモー : オペラ・バレ 『優雅なインドの国々』 から 第1アントレ 『寛大なるトルコ人』から 「闇が空を襲う」
ラモー : トラジェディ・リリク 『ゾロアストル』 から 第1幕 第3場 ロンドー形式の優しいエール
ラモー : トラジェディ・リリク 『カストールとポリュックス』 から 「哀しい支度」
ラモー : オペラ・バレ 『エベの祭典』 第1アントレ 『詩』 から 第8場 タンブーラン
ラモー : コメディ・リリク 『プラテー』 から 「素晴らしいコンサートを」
ラモー : オペラ・バレ 『優雅なインドの国々』 第4アントレ 『未開人たち』 から 第6場 シャコンヌ
ラモー : オペラ・バレ 『優雅なインドの国々』 第4アントレ 『未開人たち』 から 「君臨せよ 喜びと遊びの神よ」

サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)
サミュエル・ボーデン(テノール)
エミリ・ルフェーヴル(バリトン)
アレクシス・コセンコ/レザンバサドゥール

ERATO/2564637284




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