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ロマンティックが走り出す、メンデルスゾーン姉弟の弦楽四重奏... [2013]

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先日、マーラーの未完の交響曲、10番を、AIが完成させたというニュースに、おおっ?!となった。ま、完成させるにあたって、結構、いろいろ手掛かりのある(だけに、すでにいろいろな版があって完成されている... )、マーラーの10番だけに、作曲家、AI氏の腕前を知るには、かえって、窮屈なのでは?てか、そもそも、蛇足?なんても思うのだけれど... AIが作曲をすること自体は、とても刺激的なものを感じてしまう。そもそも、作曲という行為が、プログラミングであって... 連綿と引き継がれ、進化して来た音楽言語を用い、また新たな作品が生み出されて来た音楽史の歩みを振り返れば、作曲家の仕事と、AIによる情報処理と創作は、極めて親和性が高いはず... かのモーツァルトですら、父の音楽をベースとし、当世風を模倣し、過去に学び、自らの音楽を形作っている。そういう作業は、AIが、最も得意とするところ... ある意味、極めている!からこその、人間とは違う作曲を追求できる気がする。例えば、究極的に整理された音列音楽とか、精緻を極め切ったミニマル・ミュージックとか、超絶的に複雑な対位法とか、おもしろい試みがいろいろできそうな気がする。いや、聴いてみたい!
は、さて置きまして、どこかAIに通じる?もの(手堅い情報処理を経ての創作... )も感じさせる作曲家、音楽史上切っての優等生、メンデルスゾーンを聴いてみようかなと... エベーヌ四重奏団の演奏で、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲、2番と6番、さらにメンデルスゾーンの姉、ファニーによる弦楽四重奏曲も取り上げる一枚(Virgin CLASSICS/4645462)を聴く。

嗚呼、最初の一音から、ただならず惹き込まれてしまう。やっぱりエベーヌ四重奏団はただならなかった... 映画音楽を大胆に取り上げた"FICTION"の鮮烈な印象が今も残り... 楽器そっちのけで、スプリングスティーン(映画『フィラデルフィア』の主題歌... )を見事に歌ってのけた驚くべきフランスの弦楽四重奏団(スプリングスティーンを歌った、ヴィオラのエルツォグは脱退し、現在は新体制... )!良い意味でフランスっぽくない、まさに現代っ子な彼らの音楽性に、強く惹き付けられたのだけれど、クラシックだって難なくこなす。というより、十二分にジューシーに楽器を鳴らし、驚くほどヴィヴィット!大胆に映画音楽を料理したように、クラシックに対してもそういう大胆さで向き合い、自信に充ち溢れる演奏を繰り出す。で、その自信の源になるのが、メンバー4人の遠慮の無さ... つまり、ひとりひとりが自信満々!第1ヴァイオリンが全体をリードして、第2ヴァイオリンがそれを支えて、ヴィオラが少し遠慮がちに、けど確かにメンバーをつないで、チェロが下からみんなを押し上げて、みたいな、ありそうな役割分担を感じさせないのがエベーヌ四重奏団の興味深いところ。つまり、良い意味でフラット。で、4つの楽器が、屈託無く、マックスで響き合って生まれるヴィヴィットさは、ちょっと、ただならない。それこそが、彼らの現代っ子ならではの感覚なのだと思う。弦楽四重奏という、如何にもクラシカルな編成が持つ、独特な雰囲気(対位法装置のような編成が生み出すアカデミックさと、弦楽器ならではのグラマラスさが相俟って、スノッヴ?)に囚われず、我が道を走り抜けて行く爽快さ!走り抜けて、作品の魅力は、もう一次元引き上げられるよう。
その最初の作品、メンデルスゾーンの2番の弦楽四重奏曲(track.1-4)は、1827年、メンデルスゾーン、18歳の時に作曲された作品で、「2番」という番号が振られているものの、1番(1829)より先に作曲された、メンデルスゾーンにとっての実質、1番(の前、1823年に、習作としての番号無しの弦楽四重奏曲を作曲している... )。で、1番とは思えない充実度!てか、本当に18歳の作品?いや、本気で疑うレベルの見事な仕上がり... さすがは音楽史切っての優等生。優等生なのだけれど、そればかりでないのが、この2番=実質、1番の魅力!10代ならではの苛立ちのようなものが、全体を貫いていて... 疾走する1楽章のドラマティックさは、まさにロマン主義!2楽章(track.2)、アダージョ・ノン・レントは、緩叙楽章らしいしっとりとした表情、どこかアンシャン・レジームの古き良き時代を思わせるものの、中間部では熱を帯びてエモーショナル!3楽章(track.3)、インテルメッツォ、アレグロ・コン・モートは、まさにインテルメッツォ、飄々とした表情を見せてアクセントに... そこから一転、衝撃的に始まる終楽章(track.4)では、ますますロマンティックに染まり... という2番は、ウィーン古典派、最後の巨匠、ベートーヴェン(1770-1827)が逝った年に書かれているのだけれど、メンデルスゾーンは、ベートーヴェンにインスパイアされてこの作品を書いており、終楽章に至っては、ベートーヴェンの15番の弦楽四重奏曲(1825)を下敷きにしているとも... 抑え難く、とめどもなく、ロマン主義が溢れ出すようでいて、晩年のベートーヴェンの独特な雰囲気も間違いなく刻印される、何とも言えない揺さぶられようが、時代の転換点を象徴的に物語り、また揺さぶられて狂おしさを生み、その狂おしさが、ロマン主義を引き立てるところもあって、凄い音楽を聴かせる。で、優等生、メンデルスゾーンの本当に凄いところは、それらを全て、古典主義から受け継いだロジックの上で成り立たせていること... なればこそ、狂おしさが確固たるものとして迫って来る。恐るべし、メンデルスゾーン...
その後で取り上げられるのが、メンデルスゾーンの4つ年上の姉、ファニー・メンデルスゾーン・ヘンゼル(1805-47)の、1834年の作品、弦楽四重奏曲(track.5-8)。ピアニストとして、作曲家としても活動したファニー... どうしても、弟の影に隠れがちだけれど、ここで聴く弦楽四重奏曲の本格度を聴くと、間違いなく度肝を抜かれます。もう、弟の2番=実質、1番と伍すほどの内容... その1楽章(track.5)、古典主義の伝統にしっかりと則って、手堅く対位法を織り成して、弟の音楽からすると、幾分、保守的で、そのあたりがシンプルにも思えるものの、2楽章(track.6)、アレグレットあたりから、じわりじわりとドラマティックとなり、またキャッチーなメロディーにも彩られ、そうしたあたりにロマン主義がしっかりと感じられ、3楽章(track.7)、ロマンツェでは、さらにメローに... その少し裏寂しいメロディーは、どことなくクレズマーを思わせるのか?音楽に味わいを加えるのが印象的。そして、終楽章(track.8)、アレグロ・モト・ヴィヴァーチェは、花々しく始まるも、運命に翻弄されるようなドラマティックさも見せ、花々しさと宿命的な表情が錯綜し、一筋縄には行かない音楽を展開。弟に引けを取らない才能を持ちながら、女性であるがために、それを発揮できないもどかしさがそこに籠められているようで、何だか凄く印象的。というより、その複雑で力強い音楽は、まさに力作!圧巻で、聴き入ってしまう。
その姉、ファニーの死を受けて作曲された、1847年、メンデスゾーンにとっても最期の年に書かれた6番(track.9-12)を最後に聴くのだけれど... 2番=実質、1番(track.1-4)から20年を経ての、最期の年の作品は、さすがに洗練を極めていて、最初の一音から研ぎ澄まされている(そんなメンデルスゾーンのサウンドに触れ、ファニーの音楽へと戻れば、ちょっと表現主義っぽく思えたり... )。いや、まるで姉の死から逃げ出すような疾走で始まる1楽章(track.9)、アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ... その音楽、実にドラマティックで、ロマンティックに思えるのだけれど、姉を失った悲しみが、その音楽を、ますます鍛えるようでもあり、古典主義の構築性をその内部に秘め、独特の緊張感を生み出す(1770年代の疾風怒濤をリヴァイヴァルするような?)。何より、凄いテンション... まるで終楽章のよう。なのだけれど、続く、2楽章(track.10)、アレグロ・アッサイでは、さらに悲しみは強まり、慟哭するかのよう... 3楽章(track.11)、アダージョで、一端、落ち着くも、終楽章(track.12)で、再び、激しい悲しみに襲われ、これでは、悲しみ死んでしまうのではとすら思わせる。いや、メンデルスゾーンも姉の後を追うように死んでしまうのだけれど、そうした事の顛末を知るから、その音楽が痛切で... それをまた、エベーヌ四重奏団が容赦無く掻き立てるから、どこか劇画調でもあって、圧倒されつつ、惹き込まれる。音楽も音楽なら、演奏も演奏... 徹底して作品の全てを掘り起こして来る。

MENDELSSOHN FELIX & FANNY QUATUOR ÉBÈNE

メンデルスゾーン : 弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op.13
ファニー・メンデルスゾーン・ヘンゼル : 弦楽四重奏曲 変ホ長調
メンデルスゾーン : 弦楽四重奏曲 第6番 ヘ短調 Op.80

エベーヌ四重奏団
ピエール・コロンベ(ヴァイオリン)
ガブリエル・ル・マガデュール(ヴァイオリン)
マテュー・エルツォグ(ヴィオラ)
ラファエル・メルラン(チェロ)

Virgin CLASSICS/4645462




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