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ウィーン、天才の歩み、モーツァルトのピアノ協奏曲... [2013]

9月、新シーズンの開幕!ということで、クラシック、な気分を盛り上げたく、普段、あまり聴かない?クラシックど真ん中な音楽を聴いてみようかなと... ベートーヴェンを準備体操に、ブラームスの交響曲、第1番シューベルトの歌曲に続いての、モーツァルト!いや、散々マニアックなあたりを彷徨っている当blogにとって、モーツァルトは、ある意味、還って来る場所なのです。そこは、無心になれる場所(モーツァルトの無邪気な音楽は、いろいろ聴き過ぎて溜まった耳垢を取り去ってくれる... )であり、また、勇気付けられる場所(あの無邪気さの背景を丁寧に見つめれば、天才、モーツァルトが、如何に努力家であったかを思い知らされ、自分もがんばらな、となる... )でもあって、特別。特別だけれど、気安さがあって、還って来ると、妙に懐かしい感じがする(のは、普段、あまり聴かないからだけではないと思う... )。こういう感覚、モーツァルトでしか得られないような...
そんな、モーツァルト!ロナルド・ブラウティハムが弾くピリオドのピアノ、マイケル・アレクサンダー・ヴィレンズ率いるケルン・アカデミーの演奏で、モーツァルトのピアノ協奏曲、19番と23番(BIS/BIS-1964)、20番と27番(BIS/BIS-2014)を聴く。


天真爛漫、19番から、飛躍的な成長を遂げて、23番...

BIS1964.jpg
えっ?!というくらい、ラヴリーなメロディーで始まるモーツァルトの19番のピアノ協奏曲(track.1-3)。それは、まさに、天真爛漫なモーツァルトのイメージそのもの... オーケストラが奏でる序奏、その飄々と展開されるテーマは、クラシックのアカデミックさを忘れさせてしまうほど朗らかで、楽しげで、「ピアノ協奏曲」なんて意気込んで聴き始めると、拍子抜けしてしまう。いや、もう、その屈託の無さたるや!21世紀、我々を取り巻くあんまりなリアルを前にして、今、改めて、そのラヴリーに触れれば、もはや神々しい!という19番、モーツァルトが、ウィーンに移り、ピアニストとして花々しく活躍していた頃、1784年の作品。試練のパリ苦行のザルツブルクを経て、とうとう自由を得たウィーンでのモーツァルトの解放感が底なしに響き出し、聴いていると、思わず笑みがこぼれてしまう。一方で、自由を得ての作曲家生活の充実も聴き取れて、終楽章(track.3)の、思いの外、重厚なフーガなどは、十分に聴かせる。一見、屈託が無いようで、実は、巧みに、しっかりと音楽を展開し、構築して来るあたりに、単なる神童とは異なる、モーツァルトの作曲家としての成長が見て取れて、興味深い。いや、この二重性こそ、モーツァルトの醍醐味なのかも... 19番は、モーツァルトのピアノ協奏曲でも、特にラヴリーな音楽を聴かせてくれるわけだけれど、そのラヴリーさが、確かなロジックによって支えられていることに気付かされると、もう、唸ってしまう。で、そのあたりを、丁寧に響かせるヴィレンズ+ケルン・アカデミーの演奏... ブラウティハムの軽やかにして、確かなタッチに寄り添いながら、モーツァルトの音楽の充実をしっかりと奏でて、19番のラヴリーを地に足の着いたものとし、心地良い聴き応えもたらしてくれる。だから、ますます輝く、19番のラヴリー!
の後で取り上げられるのが、23番(track.4-6)。19番の2年後、1786年の作品なのだけれど、それは「ピアノ協奏曲」という風格を見せて、19番からは、ちょっと隔世の観すらある。いや、すでにベートーヴェンを予感させるスケール感を漂わせ、ピアノという楽器の魅力をしっかりと引き出して、流麗。特筆すべきは、やっぱり2楽章、アダージョ(track.5)。27番まであるモーツァルトのピアノ協奏曲の中でも、白眉のパートのひとつ... 短調の物悲しさに包まれ、センチメンタルなメロディーを、ピアノがしっとりと歌う表情は、どこかショパンすら遠くに見えるようで... そして、最後、終楽章(track.6)の華麗にして堂々たる音楽!わずか2年ではあっても、19番から23番への飛躍は、ちょっとただならない。裏を返せば、神童、モーツァルトにも、明確な成長の跡が窺えるということ... このあたり、もっと強調されていいように思うのだけれど、どこか、モーツァルトのピアノ協奏曲はどれも同じ、そんな印象をもたれがちなことがもどかしい。のだけれど、19番と23番で、それぞれの魅力をしっかりと強調しながら、明確に成長を響かせるブラウティハムの雄弁なピアノが見事!1795年頃の製作、アントン・ヴァルターのレプリカの、アンティークながら凛とした音色を活かし、自信を以って繰り出される揺ぎ無いタッチは、モーツァルトの音楽に確かな存在感をもたらし、今一度、音楽としての魅力を再確認させられる。「モーツァルト」というイメージではなく、確かに息衝く音楽を体感させてくれる。

Mozart: Piano Concertos Nos 19 & 23 • Brautigam

モーツァルト : ピアノ協奏曲 第19番 ヘ長調 K.459
モーツァルト : ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488

ロナルド・ブラウティハム(ピアノ : 1795年頃の製作、アントン・ヴァルターのレプリカ)
マイケル・アレクサンダー・ヴィレンズ/ケルン・アカデミー

BIS/BIS-1964




それは未来の音楽、20番、そして、最期の年に、27番...

BIS2014
さて、23番から、時間を少し巻き戻しまして、19番の翌年、1785年に作曲された20番(track.1-3)を聴くのだけれど... 27番まであるモーツァルトのピアノ協奏曲で、2つしかない短調の作品のひとつにして、最も有名な作品... ということで、その存在感は際立っている。際立っているから、ちょっと嫌煙したくなってしまう。こういうところに、マニアックな方へ、方へと流れて行きたがる当blogの天の邪鬼さが表れるのでありますが、聴いてしまえば、虜... いや、1楽章の、実にドラマティックな始まりに触れれば、誰しもが魅了されずにいられないだろう。悲劇的で、力強く、聴く者の心を揺さぶるエモーシュナルさは、天真爛漫なモーツァルトらしさからは一線を画し、ロマン主義的ですらある。でもって、19番を思い起こしながら、この20番(track.1-3)を聴いてみると、23番を待たずに、作曲家として十分に飛躍を遂げていたことを思い知らされる。それがまた、19番が作曲されて、3ヶ月ほどで成されていたことを知ると、もはや震撼させられる(19番が作曲されのが1784年の12月で、20番が作曲されるのは1785年の2月... )。1770年代、疾風怒濤のドラマティックをリヴァイヴァルするようでいて、より洗練され、流麗なドラマティシズムを繰り出すのが20番の特徴... 緩叙楽章、2楽章にあたるロマンツェ(track.2)の愉悦に充ちた音楽は、モーツァルトの時代ならではの魅力に彩られるものの、全体としては、ショパンの仄暗さを予告し、ベートーヴェンのスケールを思わせる音楽を展開して、すでに18世紀から脱しようとしている。そういう点で、これは未来の音楽だったと言えるのではないだろうか?魅力的なだけでなく、刺激的な音楽... 作曲された頃に還ろうとするブラウティハムたちの演奏は、この"刺激的"であったことを意識させる、切っ先の鋭い演奏を繰り広げて、スリリング!最も有名な作品に、初見のような、先の見え無いスリリングさをもたらして、凄い。
という20番の後で取り上げられるのは、1791年、モーツァルト、最期の年に書かれた最後のピアノ協奏曲、27番(track.4-6)。最後だから、より刺激的?かと言うと、保守的... いや、何だか過去を懐かしく振り返るような感覚があるのか?刺激的ではないけれど、どっしりと構えて、安定的。そこに、ふと寂しげな表情が差して... 作曲家の死を知るからそう感じるのかもしれないけれど、切ない音楽である。2楽章、ラルゲット(track.5)など、まるで回想のよう... 19番の頃へと還るようなシンプルなメロディーをピアノが淡々と弾き、それが、かえって胸を締め付ける。そして、終楽章(track.6)。飄々と無邪気な音楽を紡いでいて、ちょっと浮世離れした観もあるのか?いや、これを、ピアニスト、モーツァルトの、ひとつの遺書として聴くと感慨深い。
そんなモーツァルトを聴かせてくれるブラウティハム、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンと、それぞれにピアノ作品全集を完成させて来たツワモノだけに、説得力が違う。それも、モーツァルトだけでなく、ウィーン古典派の全体像を捉える仕事をして来たからこそのモーツァルト像がそこにあって... 単に美しい音楽を響かせるのではない、モーツァルトの様々を反映させ、そうした背景があって生み出された響きをサルヴェージし、より瑞々しい音楽として、蘇生させる。すると、聴き知った作品も、より深く共感できる気がして... いや、今、目の前でモーツァルトが弾いているような錯覚を覚えてしまう。

Mozart: Piano Concertos Nos 20 & 27 • Brautigam

モーツァルト : ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K. 466
モーツァルト : ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K. 595

ロナルド・ブラウティハム(ピアノ : 1802年頃の製作、アントン・ヴァルター&ゾーンのレプリカ)
マイケル・アレクサンダー・ヴィレンズ/ケルン・アカデミー

BIS/BIS-2014




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