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"RESOUND BEETHOVEN"、戦時下のベートーヴェンを追って、 [2019]

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間もなく8月が終わります。いやはや、温暖化の夏の強烈さが身に沁みる日々でありました。それでいて、大気ばかりでなく、世界も、日本も、やたら熱くなって、炎上しまくった日々でありました。身体ばかりでなく、精神的にも夏バテを起こしてしまいそうな惨憺たる8月... こんな8月、早く終わっちまえ!の一方で、終わるとなると、何だか寂しさを覚えてしまうのが8月でもあって... 遠い夏休みの記憶は、未だに意識下で息衝いているのか、夕暮れ、たなびく雲に秋の気配なんかを見つけたりすると、センチメンタルが滲むような、滲まないような、8月末。このセンチメンタルが、いろいろな温度を下げてくれれば、いいなァ。そうして、落ち着いて、秋を迎えたい。いやいや、クラシックからすると、秋は落ち着いてなどいられない。9月はシーズン開幕!ということで、前回、シーズン・インに向けての準備体操として、ベートーヴェンの1番、2番3番の交響曲を聴いたので、勢い4番も!でもって、"RESOUND BEETHOVEN"の4番... この意欲的なシリーズの最新盤を聴く。
マルティン・ハーゼルベック率いるウィーン・アカデミー管弦楽団の演奏、ゴットリープ・ヴァリッシュが弾くピリオドのピアノで、ベートーヴェンの4番のピアノ協奏曲と、4番の交響曲(Alpha/Alpha 478)。ウィーンのベートーヴェンで、8月を締め括ります。

まるで聴く者にやさしく話し掛けるように始まるピアノのソロ... それに応えてオーケストラが響き出すと、牧歌的な風景に眼前に広がるようで、どこか6番の交響曲、「田園」(1808)を思い起こさせる。そんな、4番のピアノ協奏曲(track.1-3)の冒頭... とても長閑なのだけれど、その長閑さには、豊かな自然が窺えて、何と言うべきか、とても健康的なのである。前回、"RESOUND BEETHOVEN"の、3番、「英雄」の、どこかマッドな音楽に触れた後だと、それが余計に感じられるのかも... 難聴が悪化し、音楽家生命が危うくなった1802年、32歳になったベートーヴェンは、いわゆる"ハイリゲンシュタットの遺書"を書くまでに至るも、やがて危機を乗り越え、3番の交響曲、「英雄」、さらにオペラ『レオノーレ(後のフィデリオ... )』を作曲する。死を考える、という人生の底を見て、生まれた音楽を、そうした背景に思いを寄せながら聴いてみると、どこか無理(「英雄」)しているようで、自らを鼓舞(『レオノーレ』)するようで、ちょっと切なくなってしまう。もちろん、無理をし、鼓舞して生まれた傑作、「英雄」であり、力作、『レオノーレ』... 底があってこそ、作曲家、ベートーヴェンは、大きく成長したわけだ。が、底から這い上がる過程で生まれた音楽の、鬼気迫り、最後は異様なテンションに包まれるあたりには、ある種の狂気が滲む。一転、「英雄」、『レオノーレ』の後で生み出された4番のピアノ協奏曲は、肩の力が抜けていて、ナチュラル... 冒頭のピアノ・ソロのゆとりのあるやさしげなタッチに触れると、何だか、ほっとさせられる。
という、4番のピアノ協奏曲の作曲が始まるのは、「英雄」が初演された翌年、1805年。ちょうどナポレオン戦争(1803-15)の真っ只中、オーストリア軍はウルムの戦いでフランス軍に敗れ、帝都、ウィーンを明け渡すという事態に!そのフランス兵を観客に初演されたのが、ドイツ語によるジングシュピール、『レオノーレ』... 当然、失敗。という不運も、底を見たベートーヴェンにとっては、落ち込むほどのものでは無かったか、翌、1806年に完成した4番のピアノ協奏曲の晴れ渡る音楽!それと並行するように4番の交響曲(track.4-7)も作曲(よって、作品番号が近い2つの作品... ピアノ協奏曲が、Op.58、交響曲が、Op.60... )されていて、こちらは、さらに活力を増し、ますます元気!で、この2作品、1807年、ウィーンのロプコヴィッツ宮にて、一緒に初演(非公開)されているのだよね... というあたりに迫る"RESOUND BEETHOVEN"。いや、これぞ"RESOUND BEETHOVEN"の真骨頂!オーストリアが危機的状況に置かれる中で、どこ吹く風と、のびのびと音楽を繰り出す、実に健康的なベートーヴェンをすくい上げる。それは、ベートーヴェンにおける"4番"の季節、とか言ってみたくなるほどで... 不安定な春を乗り越えて、緑の茂る夏へと向かって力強く歩み出すかのような4番のピアノ協奏曲(track.1-3)から4番の交響曲(track.4-7)への展開が絶妙。背景を知らないと、ちょっと突飛にも思える組み合わせだけれど、真の意味で"ハイリゲンシュタットの遺書"を乗り越えた姿がそこにあるように感じる。
で、その演奏... まずは、4番のピアノ協奏曲(track.1-3)。ヴァリッシュの弾く、1825年頃、ウィーンで製作されたフランツ・バイヤーのピリオドのピアノの、温か味のある、まろやかな響きに惹き込まれる。ピリオドならではのトーンに彩られながらも、思いの外、軽やかで、ピアニストのタッチにより表情を加えることを可能とするようで... そうした特性を最大限に引き出し、のびのびとフランツ・バイヤーのピアノを奏でるヴァリッシュ!しっとりと落ち着いていながら、軽やかで、上品で、ウキウキとした気分も聴かせる。そんな演奏に触れていると、本当に「田園」に近付いて行くようで、興味深い。穏やかでありながら、実に表情に富み、ベートーヴェンの底を脱し、吹っ切れた心象を瑞々しく響かせるよう。それでいて、ウィーン生まれのヴァリッシュ、ハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管とは単に息の合った... というだけでない、同じ水(ドナウ川の?)を飲んで生まれるような、トーンまで波長を合わせて、古き良きハプスブルク帝国の優雅さのようなものを存分に盛り込んで、魅惑的ですらあって、ベートーヴェンの音楽をより麗しく聴かせてくれる。いや、改めて4番のピアノ協奏曲の麗しさを知らしめてくれる演奏... ハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管の演奏も相俟って、魅了されずにはいられない!
そして、4番の交響曲(track.4-7)。ハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管らしく、しっかりと、ベートーヴェンが綴った音符のひとつひとつを、一切、おろそかにせず、丁寧に鳴らす、じっくりの演奏。けれど、4番の交響曲の朗らかな性格を活かし、軽やかさもあるのが印象的。ピリオドによるベートーヴェンらしい颯爽とした佇まいがありながら、力強さも失わない。その力強さには、ウィーンらしいねばっこそも含まれていて、3楽章のメヌエット(track.6)など、ちょっと田舎趣味?というあたりは、フォークロワが滲むハイドンの交響曲を思わせて... 終楽章(track.7)の、わちゃわちゃと楽しいダンサブルなあたりは、よりそんな印象... "RESOUND BEETHOVEN"ならではの、ウィーンの系譜の内にしっかりとベートーヴェンを内包してみせて、味わいを引き出す。終楽章(track.7)の、ダンサブルにも、味があって、だから、表情にも富んでいて、単にテンションを上げて行くだけでない魅力たっぷり(だから、ハイドンに近付くのかも... あのベートーヴェンから、ウィットを引き出す妙)!そんな演奏に触れていると、本当に楽しくて、何より、元気をもらえる!

RESOUND BEETHOVEN VOL. 7 SYMPHONY 4 & PIANO CONCERTO 4

ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58 *
ベートーヴェン : 交響曲 第4番 変ロ長調 Op.60

ゴットリープ・ヴァリッシュ(ピアノ : 1825年頃製作、フランツ・バイヤー)  *
マルティン・ハーゼルベック/ウィーン・アカデミー管弦楽団

Alpha/Alpha 478




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