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カリフォルニアのアダムズのドライヴ、ROAD MOVIES... [before 2005]

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wikiで、「ジョン・アダムズ」を調べると、曖昧さ回避というページが出て来る。つまり、wikiには、ジョン・アダムズという名前の人が、複数いる、ということ... 例えば、2人のアメリカ大統領、バウンティ号の反乱の生き残り、海王星を発見した天文学者、R&Bの歌手まで、実にヴァラエティに富んだジョン・アダムズたちが並んでいる。英語圏では、極めてポピュラーな名前なのだろう(英語のページでは、さらにさらに、驚くほどの数のジョン・アダムズが並ぶ!)。だから、紛らわしい事態を引き起こしてしまう。ちなみに、2人のアメリカ大統領とは、アメリカ建国の立役者のひとり、第2代、ジョン・アダムズ(任期 : 1797-1801)と、その息子、第6代、ジョン・"クインジー"・アダムズ(任期 : 1825-29)。へぇ~ 親子で大統領をやってたんだ。と、これを機に知る。というくらい、父の影に隠れてしまっている息子... 同じ名前であるがために、余計にすっぽりと隠れてしまう。けど、親子なら、まだね... これが、他人だったら、きっちりと"曖昧さ回避"されなくてはならないわけでして... というのが、アメリカの現代音楽の作曲家、ジョン・アダムズ!前回、聴いたのは、1953年生まれ、アラスカのジョン・"ルーサー"・アダムズ... で、今回、聴くのは、1947年生まれ、カリフォルニアのジョン・"クーリッジ"・アダムズ。
ということで、リーラ・ジョセフォヴィッツのヴァイオリン、ション・ノヴァーチェクのピアノで、ロード・ムーヴィーズ、ニコラス・ホッジズ、ロルフ・ハインドのピアノで、ハレルヤ・ジャンクションなど、ジョン・"クーリッジ"・アダムズによる室内楽、ピアノ作品を集めたアルバム、"ROAD MOVIES"(NONESUCH/7559-79699-2)を聴く。いや、爽快感をもたらしてくれる音楽!

ともにポスト・ミニマル世代で、ミニマル進化系の作風だから、混同されてしまうことすらある、2人のジョン・アダムズ(またこれが同世代なんだわ... )。けれど、"ルーサー"と"クーリッジ"の音楽には、確かな個性の違いを見出すことができる。アラスカで生きる"ルーサー"の音楽には、大いなる自然がはっきりと感じられ、カリフォルニアで生活する"クーリッジ"の音楽には、ウェスト・コースト・サウンドを意識させるところがあり、何より、そのリズミカルな音楽には、カリフォルニアの軽快な都市の気分がしっかりと刻印されている。それから、"クーリッジ"の音楽を特徴付けるものに、過去への憧憬のようなものがあるように思う。オラトリオの復活、オペラへの傾倒、自作オペラの交響曲への改作、室内交響曲、弦楽四重奏曲、協奏曲、現代音楽の世界に身を置きながら、クラシック定番のフォーマットを用いることにやぶさかでなく、ここで聴く、ロード・ムーヴィーズ(track.1-3)は、そのタイトルのいかにも現代的、スタイリッシュなイメージの一方で、ピアノ伴奏のヴァイオリンが奏でる、3楽章(急緩急)構成の古典的なヴァイオリン・ソナタを思わせる形が特徴的... もちろん、音楽自体は19世紀のヴィルトゥオーゾたちが弾いたヴァイオリン・ソナタとは一線を画すわけだけれど、思いの外、古典的なのが印象的。しかし、その古典的な在り方の中に、巧みに現代を表現して来るのが"クーリッジ"の大いなる魅力であって...
作曲家曰く、「ロード・ムーヴィーズ」というタイトルは、気紛れで付けたらしい。しかし、そこには、明らかに移動する感覚が介在し、音楽は、心地良く風を切って進む。そんなロード・ムーヴィーズの1楽章、リラクシッド・グルーヴは、聴く者に、ハイウェイを疾走するようなイメージを喚起する。小気味良いピアノによるパルスは、タイヤから伝わる振動だろうか?あるいは、どんどん後ろへと流れ去って行くセンター・ラインだろうか?ミニマル・ミュージックの作法に則って、均質なリズムを刻み、その均質さが、聴く者にスピードを感じさせ、そこに乗っかって来るヴァイオリン... フレーズを巧みに織り成し、音楽に表情を付けて行く。そんなヴァイオリンが見せてくれるのは、流れて行く景色だろうか?ガードレール、標識、照明、遠くの木々、流れて行く雲、規則的に並ぶハイウェイの設備と、より大きな風景を器用に描き出す。やがて、2楽章、メディテイティヴ(track.2)に移ると、車は、田舎道へと出る... そんなイメージだろうか?緩叙楽章にあたるメディテイティヴ=瞑想的では、スピードから解放され、視野は一気に広がるようで、何より、長閑!そこから再びスピードが戻って来る終楽章、40%スウィング(track.3)... スウィングだけに、ジャズっぽさを纏いつつ、あくまでスピーディー!このジャズでスピーディーなあたりが、アメリカのハイウェイであることを意識させる。それでいて、ジャズっぽさが、このドライヴを小粋なものにする。という3楽章、古典的な急緩急の展開が、まさにムーヴィーズ、3つのシーンを以って、より旅する感覚が強調されワクワクする。で、このムーヴィーズには、どんなドラマがあるのだろうか?想像すると、またワクワクする。
続いて取り上げられるのが、2台のピアノによるハレルヤ・ジャンクション(track.4-6)。で、これがまた、カリフォルニアとネバダの州境近くにあるハイウェイのジャンクション(その近くに、"クーリッジ"の別荘があるらしい... )でして、ロード・ムーヴィーズはまだ続いているかのよう... 2台のピアノは、澄んだ響きのパルスを放ち、輝きに充ちた音楽を繰り出す。ハレルヤ・ジャンクションは、モハーヴェ砂漠の中にポツンとあるのだけれど、まさに砂漠の、晴れ渡る空の下、太陽の光を反射させた車が、次々に流れて行くような、最初のパート(track.4)。続くパート(track.5)は、響きが少し影を帯び、重厚感を増し、ロマンティック?ピアノという楽器のゴージャスさを引き出して... 乾いた砂漠の風景に、もうひとつ表情を加えるよう。そして、最後のパート(track.6)では、蒸気機関車が走るような力強さがあって、ドラマティック。そのドラマティックさは、やがて酔っぱらったようにリズムが崩れ、ここでもまたジャズっぽさが味を加え、聴き手を引き込む。いや、ロード・ムーヴィーズとつなげて聴くおもしろさ、間違いなくある。この2つの作品を聴いていると、アメリカの西部を旅しているよう...
で、その演奏なのだけれど、まず印象に残るのが、ロード・ムーヴィーズ(track.1-3)でヴァイオリンを弾く、ジョセフォヴィッツ。彼女、特有の、濃い表情とでも言おうか、重みのある響きが、明快な"クーリッジ"の音楽に、台本を書き込むようで、まさにロード・ムーヴィーズ、映画的な流れを生み出し、魅了される。一方、ハレルヤ・ジャンクション(track.4-6)でピアノを聴かせてくれるホッジズとハインドのタッチは、心が洗われるようにクリアなタッチ!ミニマリスティックな音楽の魅力を存分に引き出す。一方で、最後、ジャズっぽくリズムが動くあたりは、しっかりと遊び、透明感とドラマティックさを自在に行き来し、絶妙。ハレルヤ・ジャンクションの後では、チャイニーズ・ゲート(track.7)、アメカン・バーサーク(track.8)、フリジアン・ゲート(track.9)を、それぞれソロ(前の2曲がホッジズ、最後の1曲トがハインド... )で弾くのだけれど、彼らのクリアなタッチはまたさらに活き、どちらも本当に美しく、魅了されるばかり... いや、"ルーサー"を聴いての"クーリッジ"は、その小気味良さが際立ち、気持ち良い!この夏の暑さを忘れさせてくれる気持ち良さ。

JOHN ADAMS ROAD MOVIES

ジョン・クーリッジ・アダムズ : ロード・ムーヴィーズ **
ジョン・クーリッジ・アダムズ : ハレルヤ・ジャンクション **
ジョン・クーリッジ・アダムズ : チャイニーズ・ゲート *
ジョン・クーリッジ・アダムズ : アルリカン・バーサーク *
ジョン・クーリッジ・アダムズ : フリジアン・ゲート *

リーラ・ジョセフォヴィッツ(ヴァイオリン) *
ション・ノヴァーチェク(ピアノ) *
ニコラス・ホッジズ(ピアノ) *
ロルフ・ハインド(ピアノ) *

NONESUCH/7559-79699-2



さて、アメリカ現代音楽界を代表する2人のジョン・アダムズ... 以後、その紛らわしさを避けるため、ジョン・"ルーサー"・アダムズ、ジョン・"クーリッジ"・アダムズと、ミドルネームをきちんと表記すべきなのですよね、"ルーサー"の存在が、よりポピュラーになりつつある21世紀... というところから、もう一歩踏み出して、2人の音楽性を特徴付ける、それぞれが拠点とするアラスカとカリフォルニアを、それぞれの名前に加えると、より2人の個性を反映させて、それぞれを引き立てることができるような気がするのです。
アダムズ・オブ・アラスカ、アダムズ・オブ・カリフォルニア、
何か、中世の作曲家みたいで、ちょっとカッコよさげじゃない?
どうでしょう?




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