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モニューシュコ、生誕200年、ポーランドの魂を籠めて、幽霊屋敷。 [2012]

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昨日、7月26日は、幽霊の日でした。何でだろ?と、調べてみたら、歌舞伎の『四谷怪談』が初演(1825)された日なんだって... 普段、オペラとかでワイワイしている身からしますと、ちょっとテンションの上がる由来じゃないですか。そうか、劇場に因むのですか、幽霊の日... ということで、一日遅れ、幽霊の日に捧ぐ、本当に怖い幽霊の出て来るオペラ、ベスト3... 第3位、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』!悪いヤツを懲らしめる騎士長の幽霊は、ちょっとお岩さんに通じるものがあるような... 第2位、ブリテンの『ねじの回転』!ウーン、さすがはスピリチュアル大国、イギリスだけに、幽霊の描き方がリアル... そして、第1位、プロコフィエフの『炎の天使』!わけがわからんこその不気味さ、でもって、ラップ現象を楽譜に書き込んだプロコフィエフの本気度たるや!なんて、選んでみたのですが、オペラに幽霊ってあんま出て来ないのですよね。悪魔とか魔女ならわんさか出て来るのに... このヨーロッパにおける幽霊への態度って、ちょっと興味深いなと思う。というあたりは、さて置きまして、今年、生誕200年を迎えるポーランドの作曲家、モニューシュコのオペラ『幽霊屋敷』を聴く。
ヤツェク・カプシスクの指揮、ポーランド国立歌劇場、本場、ポーランドの実力派歌手を揃えての、モニユーシュコのオペラ『幽霊屋敷』(EMI/5 57489 2)。えーっと、それで、ですね、幽霊屋敷なのですが、幽霊、出て来ません。けど、出て来ない分、楽しい!

スタニスワフ・モニューシュコ(1819-72)。
今から200年前、ベラルーシの首都、ミンスクの近郊、ウベリで生まれたモニューシュコ。当時はロシア帝国領で、モニューシュコが生まれる26年前まではポーランドだったウベリ(ポーランド語ではウビェル... )。で、ポーランド系の地主貴族、シュラフタの家に生まれたモニューシュコは、恵まれた環境で育ち、母親から音楽の手解きを受けるようになると、早くから才能を見せ、1827年、モニューシュコが8歳の時に、より充実した音楽教育を受けられるよう、一家は、ポーランドの首都、ワルシャワへと移る(ポーランド分割により、19世紀、ポーランドは独立を失っていたが、ワルシャワを中心とした、かつての王国の一部が、ロシア皇帝を国王とし、ロシアの属国として存続していた... )。そして、ワルシャワの著名なオルガニスト、フレイエルに師事。さらに、1837年には、ベルリンへと赴き、ジングアカデミーの指揮者、ルンゲンハーゲン(メンデルスゾーンと、ジングアカデミーのポストを争い獲得した... )にも師事。ベルリンでは、ポーランドのロマン派を代表する詩人、ミツキェヴィチの詩による歌曲を出版し、ポーランドで好評を得る。1840年、帰国すると、リトアニア(ポーランドは、分割される以前、リトアニアと合同していた... )の首都、ビリニュスの聖ヨハネ教会のオルガニストのポストを得る。ビリニュスでは、教会音楽ばかりでなく、劇場やオーケストラの指揮もこなし、積極的に自作も発表。そうした作品は、ロシア帝国の首都、サンクト・ペテルブルクでも取り上げられるようになり、グリンカやダルゴムイシスキーら、ロシアの作曲家たちと交流(ビリニュスでは、後にロシア五人組のひとりとなる、リトアニア出身のキュイに音楽理論を教えている... )。その頃、モニューシュコは、後に代表作となるオペラ『ハルカ』を作曲(1848年、演奏会形式で初演、1854年、劇場でも上演... )。が、ビリニュスでは、クウォリティを保って上演することが難しく、ワルシャワでの上演を目指す。そのために、大改訂を行い、1857年にはワルシャワへと戻り、翌、1858年、ワルシャワのオペラハウス、テアトル・ヴィエルキ(=ポーランド国立歌劇場)での上演に漕ぎ着け、大成功!これが切っ掛けとなり、テアトル・ヴィエルキの指揮者に就任したモニューシュコは、一躍、ポーランド楽壇の顔に... そうして作曲された、『幽霊屋敷』!
ポーランド分割前、古き良きポーランドを舞台に、戦争帰りの独身主義のシュラフタの兄弟、ステファンとズビグニェフが、"幽霊屋敷"と噂される館に住む美しい姉妹、ハンナとヤドヴィカと結ばれるまでのひと騒動を描く楽しいオペラ... ちなみに、"幽霊屋敷"とは、この館に住む一族が、美女の家系で、必ず夫が見つかるがために、貰い手のいない娘たちが、嫉妬から、そう呼んだのが始まり... で、それを、2組のカップルを邪魔したい面々がいろいろ利用して、さあ大変!というあたりを、充実した音楽で描き出すモニューシュコ... ヴェルディ(1813-1901)と同世代らしい活気に溢れる音楽を展開しながら、フランス・オペラからの影響もあって、コーラスの扱い方や、軽妙にして流麗な音楽は実に魅力的。いや、作曲家の円熟期の作品だけに、どこを切っても隙が無い。隙が無いというより、全てのナンバーが見事にひとつにつなげられ、際立ったアリアで聴き手を一気に惹き込むのではなく、丁寧に音楽をつないで、確かなドラマの流れを生み出す技量の高さに驚かされる。19世紀のポーランドの作曲家というと、どうしてもショパンばかりになりがちだけれど、いやいやいや、モニューシュコもなかなかです。もちろん、アリアでも魅了... 4幕の幕開け、ハンナが歌うコロラトゥーラに彩られた堂々たるアリア(disk.2, track.12)は、ヴァイオリンのオブリガードがアクセントを加え、表情に富み、ポーランド風(ポーランド女子の本懐を歌い上げるだけに!)も過りつつ、聴き入るばかり。で、そのポーランド風... 国民楽派ならではの、フォークロワなテイストもこのオペラの大いなる魅力!4幕、フィナーレ、冒頭での力強いコーラス(disk.2, track.14)、続く、マズルカ(disk.2, track.15)の何て魅惑的なこと!ポーランド万歳!これだから国民楽派はたまらない...
さて、『幽霊屋敷』が初演されたのは、1865年。それは、シュラフタたちがロシア帝国に対して起こした一月蜂起(1863)の2年後。ポーランドを主張するオペラは、政治的に極めてデリケートな問題を抱えていた。主役である2つのカップルは、愛国を高らかに歌うし、ラヴ・コメとはいえ、シュラフタ階級を描くわけで... それがまた丁寧に描かれ、古き良きポーランドの要素を見事に拾い集めているのだとか... そうしたこともあって、『幽霊屋敷』は初演から3回目の公演を以って上演禁止となる。モニューシュコも、そのあたりは考えていたのだろう、必ずしも派手にポーランド風な音楽をガツンガツンと展開することは無い。それは、ロシア帝国への忖度だったか?しかし、音楽の端々からは常にポーランドが感じられ、かえって、取って付けでは無いポーランドが、全体から香り立つような感覚が生まれ、同時期に作曲されていたスメタナの『売られた花嫁』(チェコにおける国民楽派オペラの傑作... )などと比べると、より有機的にポーランドを表現できているように感じられる。このあたりに、国民楽派、モニューシュコの、より成熟した音楽性を見出せるようにも思う。ウーン、侮れない...
そんなモニューシュコ、『幽霊屋敷』の真価を問う、カプシスクが指揮する、ポーランド国立歌劇場。それは、オール・ポーランドの本懐とでも言いましょうか、並々ならぬ作曲家への、作品への思い入れのようなものをひしひしと感じさせられるもので、熱い!けど、けして勢い任せではなく、丁寧であって、ますます作曲家の技量、作品の魅力を引き立てていて、見事。そして、ポーランドの実力派の歌手たち!ポーランドを代表するオペラだけに、餅は餅屋... その揺ぎ無い歌唱は、このオペラの魅力を余すことなく引き出していて... 特に、女性陣の東欧ならではの深みのある歌声は、魅惑的。そして、重唱の多い『幽霊屋敷』、その息の合ったアンサンブルが織り成すドラマに惹き込まれる。で、圧巻なのが、ポーランド国立歌劇場の合唱団!軽快で、パワフルで、表情に富み、魅了されずにいられない。しかし、名作である。ポーランド語がネックとなり、世界各地で取り上げられるレパートリーにはなり難いわけだけれど、ウーン、勿体ない!スメタナの『売られた花嫁』、ドヴォルザークの『ルサルカ』に比肩する、国民楽派の名作オペラだよ、これは...

STANISŁAW MONIUSZKO
THE HAUNTED MANOR
SOLISTS, CHORUS AND ORCHESTRA OF THE TEATR WIELKI JACEK KASPSZYK

モニューシュコ : オペラ 『幽霊屋敷』

ミチェニク : アダム・クルシェフスキ(バリトン)
ハンナ : イヴォナ・ホッサ(ソプラノ)
ヤドヴィカ : アンナ・ルバンスカ(メッゾ・ソプラノ)
ダマズィ : クシシュトフ・シュミト(テノール)
ステファン : ダリウシュ・スタフラ(テノール)
ズビグニェフ : ピオトル・ノヴァツキ(バス)
チェシニコーヴァ : ステファニア・トツィスカ(メッゾ・ソプラノ)
マチェイ : ズビグニェフ・マツィアス(バリトン)
スコウーバ : ロムアルト・テサロヴィチ(バス)
マルタ : アグニェシュカ・ズヴィエルコ(メッゾ・ソプラノ)
グジェシ : ヤツェク・パロル(バリチン)
老女 : ステファニア・トツィスカ(メッゾ・ソプラノ)
ポーランド国立歌劇場合唱団

ヤツェク・カプシスク/ポーランド国立歌劇場管弦楽団

EMI/5 57489 2




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