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アメリカ、帰って来たアンファン・テリヴル、アンタイル。 [2019]

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7月4日は、アメリカ独立記念日。ということで、当blogでは、アメリカの音楽を聴く日、みたいな流れができつつあるような... 昨年は、バーンスタインのミサを聴きました。一昨年は、バーンスタインのホワイトハウス・カンタータを聴きました。というのも、やっぱり、あの御方(白いお家でつぶやかずにいられない、アッメリカン・ファーストでお馴染み... )と向き合わざるを得なくなって、良くも悪くも、改めて「アメリカ」という存在を見つめ直したくなったからかも... いや、豪放磊落、シンプルなようで、けして一筋縄に行かないのがアメリカ(まさにトランプ現象がそれを象徴... )。音楽においては、長らく極めて素朴な状態(アメリカにおける「古楽」の時代... )が続いた後、20世紀に入っての急展開!アメリカの音楽は、ヨーロッパにある歴史の重石が無い分、間違いなく自由度に長けており、その捉われない姿勢(あの閣下とも通じるのかも... )は、度々、ヨーロッパを驚かせる急展開を生む原動力に... そして、ヨーロッパを驚かせた作曲家のひとり、アンタイルに注目してみようと思う。
1924年、『バレエ・メカニーク』でパリっ子たちを騒然とさせた後、アメリカに帰っての交響曲... ヨン・ストゥールゴールズとBBCフィルハーモニックによるアンタイルのシリーズ、第2弾、3番の交響曲、「アメリカン」(CHANDOS/CHAN 10982)を聴く。

1922年、21歳のアンタイル(1900-59)は、アメリカからヨーロッパへと渡る。そして、ヴァイマル文化が花開いたベルリンを拠点とすると、モダニズム上等の自由闊達なベルリンの気分に乗り、「飛行機ソナタ」、「ジャズ・ソナタ」と、マシーン・エイジ、ジャズ・エイジを象徴するような作品を次々に作曲。そうした作品を引っ提げて、1923年にはパリのシャンゼリゼ劇場でリサイタルを敢行、パリの音楽シーンを騒然とさせる。そうして付けられた"アンファン・テリヴル(恐るべきこども)"の異名!そして、1924年、伝説の作品、『バレエ・メカニーク』のプロジェクトが動き出す。画家のレジェ(1881-1955)による映画に、アンタイルが自動演奏ピアノによる機械仕掛けの音楽を合わせるという、画期的な作品になる予定だったが、当時の技術的限界により断念... が、1926年、音楽作品として『バレエ・メカニーク』がパリで初演されると、大成功!アンタイルは、押しも押されぬモダニストとしてヨーロッパで名声を獲得。それを肩書に、母国、アメリカでも活動を開始。文字通り、大西洋を股に掛けて、活躍。が、1930年代に入ると、全体主義がヨーロッパを覆い始め、ナチスが政権を掌握した1933年、アンタイルはアメリカへと帰国。そして、旅に出た... アメリカ中をドライヴし、アメリカの様々な表情をつぶさに見つめ、やがてひとつの交響曲にまとめる。それが、ここで聴く、3番の交響曲、「アメリカン」(track.2-5)。
1936年に作曲が始まり、1941年に完成した「アメリカン」。『バレエ・メカニーク』からは10年以上が過ぎ、"アンファン・テリヴル"も大人になりました。とにかくハっちゃけてた『バレエ・メカニーク』からすると、ちょっと拍子抜けしてしまうものの、お行儀良く、ヨーロッパ流の交響曲を構築して来るなんてことはしないアンタイル。アメリカ中をドライヴして撮り溜めたスナップを巧みに音楽に落とし込んで、ロード・ムーヴィーっぽい仕上がり... ニューヨークを映し出す1楽章、アレグロ(track.2)は、コープランド調のモダンなファンファーレで幕を開け、都市のリアルを洒脱にすくい上げたサティの『パラード』(1917)を思わせる気分があって、ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」(1928)を思わせる展開の速さがあって、バーンスタインを予感させる軽快なリズムに彩られながら、近代都市のスピーディーさと、摩天楼が織り成すキュビスティックな表情、そこを行き交う都会の喧騒を絶妙に響かせる。一転、2楽章(track.3)、アンダンテは、フランス、スペイン、そして、アフリカと、様々な文化が交錯するニューオリンズの雰囲気をしっとりとまとめつつ、マーラー風のコラージュで、街の表情を活写して見せる。水辺の街のまったりとした空気感に包まれ、夜を思わせる静かな遠景に、どこからともなくジャジーでヴィンテージなメロディーが聴こえて来れば、ニューオリンズに迷い込んだよう。ウーン、魅惑的... 惹き込まれる!
さて、「アメリカン」は、アンタイルがハリウッドで映画の仕事を始めた年に書き始められている。だからか、どこか映像的?3楽章(track.4)に至っては、セシル・B・デミル監督の映画『大平原』(1939)のために書き、ボツになった音楽を転用。大陸横断鉄道の建設を背景とした西部劇のための音楽は、ポポポポ、ポポポポ、ポポポポと、蒸気機関車が疾走する様子がそこはかと無しに織り込まれ、西部劇らしいキャッチーさも効いて、活劇っぽく盛り上げる!で、おもしろいのは、そこにシベリウスの5番の交響曲の終楽章のフレーズが繰り返し割って入って、単なる活劇に終わらない緊張感をもたらす。何だろう?このザッピング感... アイヴズとまでは行かないものの、興味深いイメージの錯綜を孕む「アメリカン」。終楽章(track.5)では、ショスタコーヴィチ風で、キッチュで、何だか人を喰ったように音楽を掻き回してみせながら、最後はハリウッド調の勇壮さ、煌びやかさを放ってフィナーレ!いやはや、何でもあり... けど、この、ごった煮感こそが、アメリカ"合衆国"の真実なのだろうなァ。スラップスティックで、キャッチーで、落ち着きが無い「アメリカン」に、いろいろ腑に落ちるものがある。で、聴き終えてみれば、『バレエ・メカニーク』のハっちゃけ感は、まだまだ健在だと言えるのかもしれない。
という、アンタイルを聴かせてくれる、ストゥールゴールズ、BBCフィル。フィンランドのマエストロに、イギリスのオーケストラで、アメリカの"アンファン・テリヴル"?一見、不思議な取り合わせにも思えるのだけれど、いやいやいや... 何でも、アンタイルは、アメリカに帰って交響曲を書くにあたり、シベリウスを意識していたようで(「アメリカン」3楽章で、シベリウスの5番が引用されている通り... )、そういう点で、フィンランドのマエストロとの相性は良い?かどうかはともかく、北欧らしい瑞々しい音楽性が、アンタイルでも効いていて... ほとんど多様式主義なんじゃ?というくらい様々な要素を編み込んで来るアンタイルの音楽の、その要素ひとつひとつを丁寧に鳴らして、ちょっとしたフレーズも瑞々しく響かせるストゥールゴールズ... それらが束となれば、思いの外、ヴィヴィット!また、シベリウスの伝統国とも言えるイギリス... BBCフィルも、首席客演指揮者、ストゥールゴールズにしっかり応えて、アンタイルの色彩的なおもしろさをさり気なく引き立てる。だから、「アメリカン」のロード・ムーヴィーっぽさは強調されるのかも... 一見、チープにも思える"アンファン・テリヴル"の音楽に、北欧的な感性で以って、アメリカの多様な情感を息衝かせる好演、魅了される。

ANTHEIL: SYMPHONIES NOS 3 AND 6, ETC. - BBC Philharmonic/Storgårds

アンタイル : アーキペラゴ(ルンバ)
アンタイル : 交響曲 第3番 「アメリカン」
アンタイル : ホット・タイム・ダンス
アンタイル : 交響曲 第6番 「ドロクロワに基づく」
アンタイル : 薔薇の精のワルツ

ヨン・ストゥールゴールズ/BBCフィルハーモニック

CHANDOS/CHAN 10982



さて、「アメリカン」ばかりではありません、ストゥールゴールズ、BBCフィルによるアンタイルのシリーズ、第2弾。もうひとつ、第二次大戦後から程ない1948年に完成した、6番の交響曲、「ドラクロワに基づく」(track.7-9)も取り上げられる。で、ドラクロワの何に基づくかというと、七月革命を描いた代表作のひとつ、『民衆を率いる自由の女神』。あのドラマティックな大作、これぞロマン主義な画面から、アンタイルは、革命そのものをフィーチャーする。だから、どこかショスタコーヴィチ風で、ソヴィエト復帰後のプロコフィエフの5番の交響曲を思わせるテイストがあって、アメリカにおける社会主義リアリズム?ドラクロワの時代、19世紀に還ってロマンティックになるのではなく、20世紀のリアルな革命に迫るようでいて、終楽章(track.9)では、そのリアルさを戯画化してもみせて、本家、ソヴィエトの社会主義リアリズムとは一線を画して、革命礼賛でもないのか... それは、ソヴィエトが席巻する時代、革命の対岸にあったアメリカの、ニュース映画が映し出す革命像だろうか?
という交響曲の前後に取り上げられる小品がまたおもしろい。幕開けのアーキペラゴ(track.1)は、アメリカに帰国する前、1931年、南仏で作曲されたアンタイル流ラテン・ミュージック。いや、これがあからさまにミヨー風で、カラフル!それから、1948年、ボストン・ポップスのために作曲されたホット・タイム・ダンス(track.6)は、「アメリカン」の終楽章(track.5)の転用というか、ロシアから持って来た?このテーマ... 最後は、1946年の映画『薔薇の精』のために作曲された薔薇の精のワルツ(track.10)。で、これ、アンタイル流のラ・ヴァルスです。って、現代からすると、盗作疑惑とか言われそう... そういう点でも、"アンファン・テリヴル"だった?いや、このカメレオンっぷり、やっぱタダモノでない、アンタイル。




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