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ロマン主義の深化、そして、その先へ... リスト、『キリスト』。 [before 2005]

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ノートルダム大聖堂が、まさか、焼け落ちるとは... 音楽史から見つめれば、ゴシック期の音楽の中心であり、まさにノートルダム楽派を生んだ場所。それだけに、当blog的にも、その喪失感はただならず(ニュースの映像、まともに見られず... )。また、修復工事中の失火ということで、何とも遣る瀬無い思いでいっぱいに... 振り返れば、度重なるテロ、暴動と、パリには、破壊のイメージが付き纏う昨今、再び、かつての"花の都"の芳しさを取り戻してくれることを、切に願うばかりです。しかし、再建案を公募って... 一度、破壊されている、フランス革命以前のノートルダム大聖堂の姿を取り戻す絶好のチャンスじゃない?フランス人って、時々、わからなくなることがある。ルノーの寄生体質もそうだけど、世界を圧倒するブランド力を持ちながら、活かし切らない... あるいは左派気質か?世界が垂涎の歴史や伝統の重みを、変に軽んじるところ、あるような... いや、もっとドンと構えて輝いて欲しい!我々にとってのフランス先輩は、永遠に「おフランス」なんだから!アッレー!!!
は、さて置き、四旬節、様々な教会音楽を聴いて参りました。そして、本日、イエスの受難の日、聖金曜日!クライマックスです。ということで、総決算の大作... ジェイムズ・コンロンの指揮、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団の演奏、ベニタ・ヴァレンテ(ソプラノ)、マルヤーナ・リポフシェク(メッゾ・ソプラノ)、ペーテル・リンドロース(テノール)、トム・クラウゼ(バリトン)、スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団の歌で、リストのオラトリオ『キリスト』(apex/2564 61167 2)を聴く。

伝説的なピアノのヴィルトゥオーゾ、リスト(1811-86)。この人ほど、一筋縄には行かない音楽家はいないと思う。ピアノの神童として登場し、"ピアノの魔術師"と呼ばれ社会現象を巻き起こすスターに!そこから、ザクセン・ヴァイマル・アイゼナハ大公国の宮廷楽長に転身(1848)。1850年代、ヴァイマルをアヴァンギャルド(ワーグナーを積極的に紹介し、自身は交響詩を発明し、新ドイツ楽派の旗手に!)な音楽都市に変身させる... いや、単なるスターではなかったことを証明する、ヴァイマルでのその手腕、あまり注目されないのが残念。という、確かな成果を残したヴァイマルを去って、リストが向かったのは、聖都、ローマ!そして、出家(1865)するというから、リストの人生の道行は読めない。ピアノのヴィルトゥオーゾから、気鋭の指揮者にして作曲家として名声を博し、やがて教会へと行き着くという... 華やかにして充実した音楽生活(そこには、多くの女性たちとの浮名も... )の後に、フランス革命後、すでに勢いを失ってしまった教会音楽の世界に本格的に身を投じようというのだから、思い掛けない信仰の厚さを見出して、驚かされる。いや、なればこそ希代の音楽家、リストなのだろう。晩年の音楽を聴いていると、19世紀のスケールでは捉え切れないパースペクティヴ(俗世にいては描けない風景なのかもしれない... )を見せて、ハっとさせられる。そんなリストを象徴する大作が、オラトリオ『キリスト』。
まだヴァイマルにいた頃に構想され、ローマに移った翌年、1862年に作曲が始まり、出家した翌年、1866年に完成した『キリスト』。初演は、少し時間が開いての1873年、古巣、ヴァイマルにて。が、聴衆の反応は芳しくなく... というのも、カトリックのリスト、ラテン語の聖書を用い作曲しており、ルター派の街、ヴァイマルとは相性が悪かったか?それに、大作過ぎたこともあったかもしれない(初演では、作曲者の了解を得て、幾分、カットされた... )。いや、何と3枚組という長大さ!で、3部構成の『キリスト』は、第1部が「クリスマス・オラトリオ」(disc.1)、第2部が「公現の後で」(disc.2)、そして、第3部が「受難と復活」(disc.3)と、イエスの歩みを描くオラトリオの三部作と言っても過言ではないもの... なおかつ、いわゆるオラトリオ的に、聖書の文言を丁寧に歌い紡ぐのではなく、ヴァイマル時代に培った交響詩のテクニックをふんだんに用い、音楽のみによって話しを展開する場面も多々あり、それがまた、ガッツリと作曲されていて、例えば、第1部のイントロダクション(disc.1, track.1)なんて、17分!もはや序曲というより、完全に交響詩... オラトリオであったことを忘れてしまいそうになる規模。いや、イントロダクションに限らず、各パートを構成する、一曲、一曲が実に長い。よって、第1部と第2部は、それぞれ5曲のみ、第3部は4曲のみで構成され、聖書の詳細よりも、キリストの超越したイメージが絵画的に連ねられて行く。というあたり、改めて19世紀のオラトリオを鑑みれば、かなり異色と言わざるを得ない。
が、この異色性こそ、『キリスト』の特筆すべき点。というより、制限を一切設けずに、思いの丈を徹底して表現し切ったリスト... その我が道を突き抜けて生まれた音楽世界は、凄い。第1部、「クリスマス・オラトリオ」(disc.1)ならば、イエス誕生の喜ばしさが全体を包み、牧歌的で、やわらかで、どこか印象主義を予感させるところもあり、ドビュッシーの『聖セバスティアンの殉教』(1911)を思い出す。それでいて、3曲目、スターバト・マーテル・スペシオーザ(disc.1, track.3)では、ア・カペラのコーラスが、美しいハーモニーで彩り、ベルリオーズの『キリストの幼時』(1850)のフェイク古典風なテイストも見せる。で、『キリスト』を特徴付けるのが、このア・カペラ。長大なオラトリオは、壮大なスケールを誇りながらも、そこはかとなしにアルカイックで、どこか浮世離れした気分が漂う。続く、第2部、「公現の後で」(disc.2)では、そうしたトーンはより強まり、静かな佇まいの中、芳しい音楽が織り成され、フォーレのレクイエムを思わせるところも... 新ドイツ楽派の旗手、リストだけれど、この『キリスト』には、どこかフランス的な流麗さを見出せるような気がして、おもしろい。一転、第3部、「受難と復活」(disc.3)では、重々しさに包まれ、冒頭、バリトンが荘重に歌い始める姿は、ワーグナー風。受難だけに、それまでになくドラマティックな表情を見せ、2曲目、スターバト・マーテル・ドロローサ(disc.3, track.2)では、ヴェルディ流の熱さが迸り、また違ったテイストで魅了して来る。そして、最後、復活(disc.3, track.4)では、オルガンが壮麗に鳴り響く中、第九を思い出させる力強いコーラスがフーガを織り成して、教会音楽の伝統へと立ち返る。いや、コーラス、オーケストラ相俟って、華麗にして感動的なフィナーレ!そうしたあたり、またリストらしい...
という『キリスト』を、アメリカのマエストロ、コンロンの指揮で聴く(1985年のライヴ録音... )のだけれど、唸ってしまう。パリ・オペラ座の音楽監督を務めた実力者ながら、普段、あまり目立たないコンロン... いや、そういう人の方が実は才能があるのかも... 交響詩に、ア・カペラに、フランス的に、ワーグナー風に、ヴェルディ流に、19世紀のあらゆるものが一所に集まり、壮麗な音楽の大伽藍を築く異色のオラトリオを、見事に捌き切るその手腕に感服!また、解り易さも大事に、ひとつひとつの曲を響かせていて、全体が驚くほど風通しが良い。なればこそ、冗長なところが一切無く、充実したサウンドで、聴く者を呑み込んで行くよう。そのコンロンが率いた、ロッテルダム・フィルも、またすばらしい演奏を聴かせてくれて、瑞々しく、雄弁で、魅了されずにいられない。4人のソリストもすばらしく、コンロンの音楽性に見事にはまり、伸びやかな歌声で、リストの壮麗な世界に色を添える。で、圧巻なのが、スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団!オーケストラ伴奏に乗ってパワフルに歌い上げたかと思えば、ア・カペラで清廉な歌声も聴かせるその幅たるや... このオラトリオの最も困難なあたりを卒なくこなして、見事。そんな好パフォーマンスがリレーして、異色のオラトリオは、確かな輝きを放つ!いや、なんて凄い作品なのだろう。長大であることに説得力があり、圧倒して来る!

Liszt Christus

リスト : オラトリオ 『キリスト』

ベニタ・ヴァレンテ(ソプラノ)
マルヤーナ・リポフシェク(メッゾ・ソプラノ)
ペーテル・リンドロース(テノール)
トム・クラウゼ(バリトン)
スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団
ジェイムズ・コンロン/ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団

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