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春と呼ばずにいられない... ベートーヴェンの「春」。 [2010]

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四旬節、ならばと、がっつり教会音楽と向き合い中... が、四旬節(2019年の四旬節は、3月6日から4月18日まで... )って、思いの外、長い!いや、がっつり向き合ってこそ感じられる長さかも... イエスが、磔刑に処せられる前、40日間に渡って、荒れ野で修行をしたことに因む四旬節。この期間は、華美なものは控えましょう、ということで、かつて、オペラの上演が停止されたりと、音楽的楽しみは抑制されていた... のだけれど、聖書を題材とするオラトリオが発展!そもそも旧約聖書はスペクタキュラーであって、新約聖書はドラマティック!そのあたりを掻き立てれば、音楽的な楽しみは十分に確保できた?そう、18世紀のオラトリオは、まるでオペラのようだった!って、やっぱり当時の音楽ファンも、四旬節は、長いと感じていたのかもしれない。思い掛けなく魅力的なオラトリオが多いのも、そうしたあたりが反映されているように感じる。てか、今、身を以って感じております。そして、こういう体感って、大事かも... 大事なのだけれど、オラトリオも、少し、飽きた?で、今日は、四旬節を休憩(キリスト教徒じゃないから、大したヘタレです... )。教会の外へと出て、春を感じてみたい!
そこで、たっぷりと春を感じさせる音楽... ピリオドのヴァイオリンの名手、ヒロ・クロサキと、リンダ・ニコルソンのピリオドのピアノによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集から、Vol.2、4番と、5番、「春」を収録した1枚(ACCENT/ACC 24212)を聴く。

ベートーヴェンの5番のヴァイオリン・ソナタ、「春」(track.4-7)。この作品の麗らかさは、まさしく春!クラシックにおいて、最も春を感じさせる音楽なのでは?とすら思うのだけれど、ベートーヴェンは、特に春を意識して作曲したわけではなく、「春」というタイトルは、実は、後世によるもの... なんて聞いてしまうと、ちょっとがっかりしてしまうのだけれど、この音楽に触れて、「春」と呼ばずにいられない気持ち、凄くよくわかる!もう、のっけから、得も言えず春!1楽章の出だし、提示されるテーマの、麗らかさたるや... ヴァイオリンならではの流麗さ、歌心を持った楽器の特性を解き放つような、突き抜けて明朗な感覚に触れると、時に慄きすら覚えてしまう。ベートーヴェンというと、やっぱり厳めしい表情をした肖像のイメージというのか、「英雄」「運命」のマッシヴさに集約される。だから、ライトでメロディアスな「春」に触れると、戸惑う。一方で、ベートーヴェンという存在を改めて見つめれば、掴み所が無いところも... ある時は典型的な古典主義であって、ある時はロマン主義へと踏み出していて、"ベートーヴェン"という個性を強く感じながらも、丁寧にその音楽を掘り下げれば、18世紀から19世紀へとうつろう時代の過渡的な姿が浮かび上がって来る。で、「春」はどっちか?その朗らかさは、間違いなく18世紀!だけれど、朗らかさから繰り出される何とも言えないメローなあたりは、19世紀的な感性がすでに息衝いていて... この18世紀的な気分の中で19世紀が機能し始めるのが、凄いところ。またそれが春っぽさを際立たせて、しなやかにベートーヴェンらしさから逸脱させるおもしろいさ... 改めて聴く「春」は、とても希有に感じられる。18世紀の気分と、19世紀の感覚が高い次元で融合し、ベートーヴェンらしくないけれど、ベートーヴェンでなければ至れない境地が示される驚くべき音楽。いや、これって、凄い!という「春」が作曲されるのが、1801年。ベートーヴェン、31歳の時。難聴に悩まされ、音楽家として絶望の淵を彷徨っていた頃... 翌、1802年には、有名なハイリゲンシュタットの遺書も書いている。そんな背景を知ると、その圧倒的な春の佇まいが、また感慨深いものになる。
そして、この5番、「春」には、対を成す作品がある。同じ年に作曲された、4番(track.1-3)。予定では、4番と「春」はセットとして出版される予定だったが、印刷の行き違いがあって、4番が先に出版され、「春」は、翌、1802年に出版されることになる。で、「春」の前に、その4番が取り上げられるのだけれど、長調の「春」に対して、短調の4番。1楽章の悲劇的な音楽は、「月光」(1801)や「熱情」(1805)といった、ベートーヴェンらしさが花開くピアノ・ソナタを思わせ、2楽章(track.2)では、変奏曲を思わせる独特な佇まい(変奏曲というのは、ベートーヴェンらしさの裏テーマ... )を見せ、終楽章(track.3)では、「英雄」(1805)に通じるキャッチーさがあって、19世紀を迎え、ベートーヴェンがどういう方向へと進もうとしていたかが、この4番に示されるようで興味深い。そして、「春」とともに、セットとして聴いてみると、また興味深い。麗しい「春」に対し、ヴァイオリンは躍動し、ドラマティックに音楽を推進させ、よりロマン主義的な性格を見出せる4番。そのドラマティックなあたりに、ベートーヴェンらしさが確認でき、「春」を先に聴いてしまうと、ホっとさせられる感覚もある。で、ホっとしてみて、また新たに「春」のただならなさを再確認したり... セットとなるはずだった4番と「春」だけれど、新しい時代を告げる4番の後で、時代感覚を超越する「春」を持って来たベートーヴェンって、やっぱりタダモノでは無かったなと... そんな2つのヴァイオリン・ソナタの後には、『フィガロの結婚』の「もし伯爵様が踊るなら」による12の変奏曲(track.8)と、6つのドイツ舞曲(track.9)が取り上げられるのだけれど、これがまたウィットを効かせる!伯爵様が踊るなら、6つのドイツ舞曲という展開... 圧倒的なソナタの後で、ブレイクを仕掛けるクロサキの妙。けして気難しいばかりでなかったベートーヴェンの洒脱さというか、より砕けた姿がこの2曲に示され、また違ったベクトルで魅了される。
そんな、クロサキによるベートーヴェン。ピリオドならではの澄んだヴァイオリンの音色と、その音色を以ってしての、ストイックなアプローチ... 2つのソナタでは、作品をシャキっとさせる緊張感を生んで、ベートーヴェンが綴った音符をより克明に穿ち、クール!特に、「春」(track.4-7)の、キュっと締まった佇まいが、見事!ただただ陽気の良い春ではなく、三寒四温、刻々と表情を変える春の、リアルなうつろう感覚をシャープに表現していて、何とも言えず、新鮮。いや、聴き知った名曲のはずが、真新しい... まさに、春を迎える、初々しさを味わうかのよう。一方、『フィガロの結婚』の「もし伯爵様が踊るなら」による12の変奏曲(track.8)では、器用なフィガロを、ヴァイオリンで演じるような表情の豊かさも見せ、惹き込まれる。でもって、表情は豊かでも、その音色は常に澄んでいて... そういう透明感があってこそ、変奏曲という性格が活きて来て、作品のおもしろさも引き立てる。という、シャープなクロサキを、味わいを以ってサポートするニコルソンのピリオドのピアノ(1797年頃製、ヨハン・シャンツ)も素敵。鋭いヴァイオリンに、ホンワカとした色彩を纏わせて、絶妙。伴奏ばかりでなく、ヴァイオリンの相手役を担うようなところでは、その味わいのある響きを以って、きっちりヴァイオリンと渡り合い、音楽をより盛り上げる。そうして、クロサキによる世界をまた芳しく膨らませて、素敵。

Beethoven ・ Complete Violin Sonatas Vol.2

ベートーヴェン : ヴァイオリン・ソナタ 第4番 イ短調 Op.23
ベートーヴェン : ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 「春」 Op.24
ベートーヴェン : モーツァルトの『フィガロの結婚』、「もし伯爵様が踊るなら」による12の変奏曲 WoO 40
ベートーヴェン : 6つのドイツ舞曲 WoO 42

ヒロ・クロサキ(ヴァイオリン)
リンダ・ニコルソン(ピアノ : 1797年頃製、ヨハン・シャンツ)

ACCENT/ACC 24212




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