SSブログ

ロマン主義を古典美に昇華する、シュポーア、『最後の審判』。 [2014]

83294.jpg
さて、桜、見て来ました!でもって、何だかフワァーっとしてしまう(って、飲んではいませんよ... )。いや、桜には、ある種の陶酔を引き出す、何かがあるような気がする。とかく、情緒やら、その精神性について語られることの多い桜だけれど、実際に、その姿を前にすると、理屈抜きの多幸感に包まれるようで... 桜の下のドンチャン騒ぎも、日本人に限らず、桜に熱狂してしまうあたりも、桜という木が持つ某かの力を感じてしまう。そもそも、木が丸ごと花だらけって、ちょっと尋常じゃない... ほんのり桜色とかで、巧みにごまかされているけれど、桜という花木は、どこか超現実的な気がしてしまう。ぱっと散ってしまうところも、夢幻を見るようで、超現実感を際立たせるし... 何よりも、その中毒性たるや!何だかんだで、毎年に見に行っている... 毎年、同じなのに... 美しいものを愛でる、というのは、当たり前にしても、桜には、それ以上の何かがあるのかも?そんなことをふと思った平成最後の桜、花見(って、桜じゃなくて、梅だけど... )の扉書きに因む新元号、令和の発表もあり、いつもより、桜パワーが効いて、よりフワァーっとしてしまったか?いやいやいや、気を引き締めて行かねば!まだまだ四旬節期間中(思ったより長い印象... )であります。ということで、ガツンと気を引き締めるために、カタストロフ...
前々回、アイブラーに続いての終末オラトリオ... フリーダー・ベルニウス率いる、シュトゥットガルト室内合唱団、ヨハンナ・ヴィンケル(ソプラノ)、ソフィー・ハームセン(アルト)、アンドレアス・ヴェラー(テノール)、コンスタンティン・ヴォルフ(バス)、そして、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の演奏で、シュポーアのオラトリオ『最後の審判』(Carus/83.294)を聴く。

ルイ・シュポーア(1784-1859)。
1784年、モーツァルトが、ピアニストとしてウィーンの音楽シーンを席巻し、サリエリは、パリ、オペラ座にて、オペラ『ダナオスの娘たち』を大成功させた頃、ドイツ、ブラウンシュヴァイク(バロック期、ドイツ・オペラの拠点だった!)で、医者を父に生まれたシュポーア。父は、フルートを吹く音楽愛好家で、母は、ピアニストであったことから、早くから音楽に触れ、間もなくヴァイオリンを学び始めると、才能の片鱗を見せ、ブラウンシュヴァイクの宮廷のヴァイオリニストたちに師事。1799年、15歳で、宮廷室内楽奏者に... 1802年、ブラウンシュヴァイク・ヴォルフェンビュッテル公の支援で、ロシア、サンクト・ペテルブルクで活躍していたヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、エックの下へ、一年間、留学。帰国した、次の年、1804年、ライプツィヒでソロ・デビュー(1804)を果たし、大成功!一躍、若きヴィルトゥオーゾとして、注目を浴びることに... 1805年には、ゴータの宮廷のコンサート・マスターに就任。シュポーアは、ここで、ハープ奏者、ドレッテ・シャイトラー(両親が、ゴータの宮廷歌手だった... )と出会い、1806年に結婚。ヴァイオリンとハープによるシュポーア夫妻のデュオは評判を呼び、その後、ヨーロッパ各地でコンサートを開いている。1812年、シュポーアは、音楽の都、ウィーンへと移り、アン・デア・ウィーン劇場の指揮者(1813-15)を務め、作曲家としても活躍。オペラ『ファウスト』を作曲(1813年に作曲されるものの、劇場運営を巡る権力闘争に巻き込まれ、ウィーンでは上演できず、1816年、ウェーバーの指揮によってプラハで初演... )したりと、ヴァイオリンだけでない、より幅のある創作活動を展開。その後、フランクフルトのオペラハウスの指揮者(1817-19)を経て、1822年、ヘッセン選帝侯の宮廷楽長に就任(ウェーバーの推薦による... )。以後、宮廷のあったカッセルを拠点とした。というカッセルで作曲、初演されたのが、オラトリオ『最後の審判』(1826)。
聖書に綴られる最後の審判をオラトリオとしたこの作品、前半に終末への警告とキリストによる救済を描き、後半、一気に最後の審判からその後の新しい世界までを描く二部構成... 穏やかに訴え掛ける第1部(track.1-9)に対し、終末のドラマティックさと、その後の神々しい世界を感動的に歌い上げる第2部(track.10-19)のコントラストが絶妙で、充実した音楽を聴かせる。同じ内容のアイブラーの『四終』(1810)を思い起こすと、19世紀の音楽の深化が窺えて、なかなか感慨深い。で、聖書の世界が風格を以って堂々と展開され、メンデルスゾーンのオラトリオを予感させるかのよう。いや、メンデメスゾーンの傑作の源流を聴く思いがして... ハイドンアイブラー―シュポーア―メンデルスゾーンという、ドイツ語によるオラトリオの大きな流れを見出せて、実に興味深い。その始まり、力強い序曲は、ベートーヴェン(シュポーアは、ウィーン時代、ベートーヴェンと親交を結んでいる... )風で、思いの外、古典主義。この感覚は、第1部全体を貫き、バロック以来の保守的=教会音楽というスタイルを踏襲して、聖書の世界を真摯に響かせる。もちろんそれは18世紀の古典派の音楽とは明らかに異なるスケール感を見せ、19世紀流の荘厳さで彩るのだけれど、これが、独特... 端正(=古典美)にして、雄大(ロマン主義的... )、そうして強調されるオラトリオらしさ!安易にロマン主義へと走らず、19世紀のスケールを活かしながら、最後の審判へと至る情景をしなやかに古典美へと昇華する巧みさは、プレ・メンデルスゾーンと言えそう。
そこから、劇的な第2部(track.10-19)へ!ロマン主義的な表情も巧みに用い、シンフォニアの後のバスが歌うアリオーソとレチタティーヴォ(track.11)は、ウェーバーのオペラのようなドラマティックさがあって、最後の審判の緊張感を高める。また、コーラスが歌う「大バビロンが倒れた」(track.15)の、まさにカタストロフを歌うパワフルさは、圧巻!オーケストラが激しいサウンドで炊き付ける中、鋭く歌うコーラスは、第2部の山場。とはいえ、劇画調の激しさに陥ることは一切無く、徹底して、品位を保って来るのがシュポーアの音楽の特徴(このあたりも、やっぱりプレ・メンデルスゾーン... )。解り易く恐がらせる、こども騙し的カタストロフではなく、壮麗さを大事に聖書の世界を描き切るパノラマ的な音楽は、パワフルにして、スペイシー... で、そんな審判が終わると、美しいソロの四重唱(track.16)が聴こえて来て、その澄んだハーモニーに、息を呑む。まさに、嵐の後の静けさ... そこに、コーラスが加わり、音楽にやさしさが溢れ出す。いや、何て甘美なのだろう... このあたりには、ブラームスのドイツ・レクイエム(1868)さえ思い起こさせる。で、その穏やかな中に、やがて神々しいコーラスが立ち現れる。最後のコーラス(track.19)は、教会音楽らしいフーガを織り成し、輝かしくフィナーレを迎える。で、このオラトリオの凄いところは、フィナーレに至る全てが流れるように展開して行くところ。壮麗な音楽が切れ目無く続いて行く姿は、ワーグナーを準備するかのよう。そのあたり、シュポーアの音楽はただならない。
という、シュポーアの『最後の審判』を、ベルニウス+シュトゥットガルト室内合唱団で聴くのだけれど、さすがです。ベルニウスらしい、端正でナチュラルな仕上がり... 最後の審判という、極めてエモーショナルな場面も、淡々と向き合い、シュポーアのオラトリオの古典美を丁寧にすくい上げる。なればこそ、作品の壮麗さが活きて来て、より深い音楽が響いて来るよう... そんなベルニウスに応える、シュトゥットガルト室内合唱団がまたすばらしい!クリアであることはもちろんのこと、そこから見事なスケール感を聴かせて、雄大ですらあって... いや「室内」であることを忘れさせるような広がりに、圧倒される。清廉にして雄大であるという驚くべきコーラスは、ちょっとただならない。そこに加わる4人のソリスト、やわらかく上品なヴィンケルのソプラノ、艶やかなソフィー・ハームセンのアルト、明るく清らかなヴェラーのテノール、温か味を感じさせるヴォルフのバス... それぞれに癖の無い歌声が印象的で、コーラスとも相性が良く、絶妙なアンサンブルを織り成す。要所、要所で歌われる、四重唱は、忘れ難いものがある。そして、忘れてならないのが、ドイツ・カンマーフィルの演奏!「室内」である強みを活かした切れ味の鋭さと、遠くまで見通せそうな明晰さが、このオラトリオの古典美をまた一段と引き上げていて、すばらしい。そうして輝き出すシュポーアの音楽... 惹き込まれます。

Louis Spohr: The Last Judgment
Kammerchor Stuttgart ・ Frieder Bernius


シュポーア : オラトリオ 『最後の審判』

ヨハンナ・ヴィンケル(ソプラノ)
ソフィー・ハームセン(アルト)
アンドレアス・ヴェラー(テノール)
コンスタンティン・ヴォルフ(バス)
シュトゥットガルト室内合唱団
フリーダー・ベルニウス/ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン


Carus/83.294




nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。