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ザルツブルク、宮廷オルガニスト、モーツァルトのありのまま! [2006]

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映画『アマデウス』に登場するサリエリは、モーツァルトへの妬み、嫉みを内に抱える、何とも言い難いライヴァルとして登場する。その何とも言い難いドス黒さのようなものが、サリエリ=悪役像を増幅させてしまったか?一方で、より解り易く悪役として描かれていたのが、ザルツブルク大司教、コロレド伯、ヒエロニュムス。モーツァルトがその才能を発揮しようとすると、邪魔をして来る意地悪な存在... なのだけれど、改めて、この人物に注目してみると、また違ったイメージが見えて来る。例えば、見事にヴァイオリンを弾いたとか、宮廷劇場を創設したとか、よくよく丁寧に見つめると、モーツァルトに対しても、けして邪険に扱ってはいなかった(一度、離職したモーツァルトが、再就職を願った時には、以前の3倍の年俸で迎え入れた!)とか... ザルツブルク大司教の宮廷よりも、より大きな宮廷にポストが欲しい!あるいは、フリーランスとして活躍したい!というモーツァルトの視点に立つと、随分とブラックな雇い主のように映るものの、けして悪い君主ではなかったことが窺える。というより、啓蒙主義に傾倒し、聖界諸侯でありながら、より近代的で世俗的な統治を志した異例の人物だった。
そんな大司教について、ザルツブルクについて、少し詳しく見つめながら、大司教の宮廷楽士長、ミヒャエル・ハイドンの教会音楽集に続いての、大司教の宮廷オルガニスト、モーツァルトによる教会のための音楽に注目... マルティン・ハーゼルベック率いる、ウィーン・アカデミー管弦楽団の演奏で、モーツァルトの教会ソナタ全集(CAPRICCIO/C 71064)を聴く。

まだフランスもドイツもなかった頃、フランク王国の時代、7世紀の終わり、バイエルン公が、東方へのキリスト教の布教のために、ヴォルムスの司教、聖ルーペルトを招聘。その拠点に、現在のザルツブルクにあたる土地を寄進。聖ルーペルトは、そこに聖ペーター修道院を創設し、後のザルツブルクの礎を築く。そう、ザルツブルクは、中世前半、布教センターだった... このことが、ザルツブルクの司教座(798年に大司教座に昇格... )を、指導的な立場へと押し上げ、やがて"生得の教皇遣外使節"なる、教皇権が、直接、及び難い地域(アルプス以北... )に、教皇に代わって力を行使できる裏書きをローマからもらうほどに... さらに、神聖ローマ皇帝からは聖界諸侯としても引き立てられ、ザルツブルク大司教侯として君臨。その最後の大司教侯となったのが、異例の人物、コロレド伯、ヒエロニュムス(在位 : 1772-1812)。ザルツブルク大司教は、"諸侯"でありながら、聖職者でもあるため、選挙で選ばれるのがユニークなところ。なのだけれど、モーツァルト親子を手厚くサポートした大司教、シュラッテンバッハ伯、ジグムント3世(在位 : 1753-72)の逝去にともなって行われた選挙は、オーストリアの介入を受け、ハプスブルク帝国の副宰相の次男、グルク司教、コロレド伯、ヒエロニュムスが選出される(ザルツブルク大司教領の独立は、次第に難しくなって行き、1803年に消滅... )。新大司教は、ハプスブルク家の皇帝、ヨーゼフ2世(在位 : 1765-90)の啓蒙主義に心酔、中世以来の宗教国家に大変革をもたらす。
大司教でありながら、キリスト教に基づくそれまでの政治体制を見直し、教会の影響下にあった学校教育を改革、検閲を見直し、宗教的寛容令(ほんの半世紀前まで、大司教領内のプロテスタントは迫害されていた... )すら出し、1775年には宮廷劇場を創設、市民に娯楽を提供した。それは、音楽における政教分離?教会からの音楽の独立と捉えることができるのかもしれない。一方で、教会音楽は、ミサの短縮や、ドイツ語聖歌の導入、会衆により解り易く歌の内容を伝えるため、伴奏を排したりと、随分とラディカルな改革を推し進めた。このことが、宮廷の音楽家たちにとって活躍の場を狭める結果につながり、モーツァルトらは不満を抱いていたよう。けして、音楽に理解が無かったわけではなく(宮廷楽団に混じって、一緒にヴァイオリンを弾くこともあったという大司教!)、より近代的な音楽の在り方を模索したのがコロレド伯、ヒエロニュムスだったか... そんな大司教の視点に立つと、モーツァルトの態度は、また違ったものに映る。とはいえ、ウィーン育ちの大司教、音楽家といえばイタリア人であって、やたらイタリア人を雇いたがり、年俸の額を比べれば、ザルツブルクの音楽家たちを随分と下に見ていたことは事実。モーツァルトは1777年に大司教の宮廷を辞し、マンハイム経由でパリへと向かう。パリでは、パリ交響曲が成功したものの、就職活動はままならず、1779年、結局、ザルツブルクへと帰る。大司教は、宮廷オルガニストとしてモーツァルトを迎え入れるものの、もはやモーツァルトにとってザルツブルクはあまりに窮屈な場所... 1781年、とうとう大司教と派手にやり合って、解雇を獲得!広い世界へと羽ばたき出す。
という前、ザルツブルクでのモーツァルトを象徴する作品、教会ソナタ、全17曲を聴くのだけれど、「教会ソナタ」というと、緩急緩急による4楽章構成、厳めしくフーガを織り成して、教会っぽさを際立たせる。という型がすぐに思い浮かぶのだけれど、天真爛漫、モーツァルトだけに、型なんてお構い無し!ただ、教会での演奏ということで、全てにオルガンが加わるのが特徴的... 特徴的ではあるのだけれど、それ以上にモーツァルトらしく、飄々と自らの音楽を紡ぎ出してしまうから魅力的!つまり、ミサの合間に演奏する様々な器楽曲をひっくるめて、モーツァルトの教会ソナタとする。といった感じだろうか?1曲目、16番の教会ソナタは、1779年、ザルツブルクに復帰した年の作品... ということで、パリ、マンハイムの新しさ、豊かさを目の当たりにし、吸収して来ての、まるで交響曲のような音楽。いや、ミサの合間に、こんなにも華やかな、それもオルガンが加わってより華やかとなったシンフォニックな音楽が奏でられていたとは!かと思うと、7番(track.6)、1番(track.7)、15番(track.8)、9番(track.10)、6番(track.11)、11番(track.12)、13番(track.13)は、2挺のヴァイオリンにコントラバスとオルガンという異色の四重奏によるもので、おもしろい!オルガン、コントラバスの上で、2挺のヴァイオリンが、花やかに奏でられ、その明朗な音色は強調され、魅力的。また17番(track.16)は、オルガン協奏曲!オルガンの音色が前面で輝き出し、魅了されずにいられない。いや、モーツァルトがオルガン協奏曲を書いていたら... と思わせる音楽に、ワクワクさせられる。しかし、ヴァラエティに富んだ全17曲、どれも素敵です。
そんなモーツァルトの教会ソナタを、ハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管で聴くのだけれど、彼らならではの実直な演奏が、ヴァラエティに富んだモーツァルトの教会ソナタ、ひとつひとつの魅力を丁寧に響かせていて... 何より、ピリオド楽器の朴訥とした味わいをそのままに、やわらかさを保ったサウンドが、ザルツブルク時代のモーツァルトの微妙な気分をありのまま引き出すようで、印象的。一方で、ミサの合間に演奏された教会ソナタだけに、全17曲を並べて演奏するなんて想定外... ややもすると散漫になりかねない... ところを、扉となる1曲目に交響曲的な16番を持って来て、しっかりと盛り上げ、中間には、2挺のヴァイオリン、コントラバスとオルガンによる異色の四重奏による番号を並べ、最後は、オルガン協奏曲、17番(track.16)を置いてから、再び交響曲を思わせる14番(track.17)を持って来て、華やかに締める!全17曲に、巧みに流れを作り出して、組曲のようにまとめ上げて来るハーゼルベックの妙... けして、有名な作品ではないし、モーツァルトとしても気合十分で作曲した作品ではないだろうけれど、ありのままを捉えながら、ひとつの形にしてしまうハーゼルベック+ウィーン・アカデミー管は、大したもの。有名な交響曲を取り上げるより、実は難しい気がして来る。しかし、窮屈な教会においても、モーツァルトはモーツァルト!輝いている。

Mozart Church Sonatas VIENER ACADEMY MARTIN HASELBÖCK

モーツァルト : 教会ソナタ 第16番 ハ長調 K.329
モーツァルト : 教会ソナタ 第8番 イ長調 K.225
モーツァルト : 教会ソナタ 第2番 変ロ長調 K.68
モーツァルト : 教会ソナタ 第3番 ニ長調 K.69
モーツァルト : 教会ソナタ 第5番 ヘ長調 K.145
モーツァルト : 教会ソナタ 第7番 ヘ長調 K.224
モーツァルト : 教会ソナタ 第1番 変ホ長調 「イピスル・ソナタ」 K.67
モーツァルト : 教会ソナタ 第15番 ハ長調 K.328
モーツァルト : 教会ソナタ 第12番 ハ長調 K.263
モーツァルト : 教会ソナタ 第9番 ト長調 K.241
モーツァルト : 教会ソナタ 第6番 変ロ長調 K.212
モーツァルト : 教会ソナタ 第11番 ニ長調 K.245
モーツァルト : 教会ソナタ 第13番 ト長調 K.274
モーツァルト : 教会ソナタ 第4番 ニ長調 K.144
モーツァルト : 教会ソナタ 第10番 ヘ長調 K.244
モーツァルト : 教会ソナタ 第17番 ハ長調 K.336
モーツァルト : 教会ソナタ 第14番 ハ長調 K.278

マルティン・ハーゼルベック(オルガン)/ウィーン・アカデミー管弦楽団

CAPRICCIO/C 71064




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