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交響曲の父の教会での仕事... ラメンタティオーネ、ラ・パッシオーネ、 [2018]

四旬節、教会ソナタ教会コンチェルトと聴いて来たので、次は教会交響曲!
なのですが、ソナタやコンチェルトに比べると、ちょっと影の薄い教会交響曲(という概念自体が、実は心許無いところもあったり... )。というのも、ソナタやコンチェルトから遅れて確立された交響曲でして、確立される18世紀には、ソナタやコンチェルトにあった"教会"と"室内"の線引きは薄れつつあって... となると、交響曲もまたしかり... もはや、"教会"をことさら強調することはまでもなく、教会に相応しい作品は教会で演奏されていた。例えば、モーツァルトの「ジュピター」なども、教会で演奏されたとのこと... いや、絶対音楽=交響曲の神々しさは、教会こそ相応しい気もして来る。一方で、教会っぽさにつながる対位法、フーガを際立たせたり、グレゴリオ聖歌をモチーフにしたり、緩急緩急の4楽章構成による教会ソナタの作法に倣ったりと、単に交響曲であるだけでない、教会交響曲としての性格付けが為された作品が、わざわざ教会交響曲として銘打たれずとも、いろいろ作曲されていた。例えば、交響曲の父、ハイドン!キリストの受難を記念する日、聖金曜日に演奏されたと考えられる49番、「受難」... その後の聖週間に演奏されたと考えられる26番、「ラメンタティオーネ」...
ということで、ジョヴァンニ・アントニーニの指揮、バーゼル室内管弦楽団の演奏で、26番、「ラメンタティオーネ」(Alpha/Alpha 678)と、トーマス・ファイ率いる、ハイデルベルク交響楽団の演奏で、49番、「受難」(hänssler/98.236)の2タイトルを聴く。


聖週間のハイドン、「ラメンタティオーネ」、嘆きにも味わい...

Alpha678.jpg
まずは、23番、「ラメンタティオーネ」(track.5-7)。エステルハージ侯爵家に仕え(1761)、楽長にも昇進(1766)し、仕事も板に付いた頃か、1768年(あるいは1769年... )に書かれた交響曲は、イタリア語の嘆きを意味する、「ラメンタティオーネ」という副題を持ち、キリストの受難の後の嘆きを表現する交響曲。で、嘆きだけに、短調で、エモーショナル!何と言っても、ハイドンの疾風怒濤期を告げる交響曲!1楽章(track.5)の、力強い疾走感からして、まさしくシュトルム・ウント・ドランク!古典主義の明朗さ、軽快さをかなぐり捨てて、荒ぶる音楽は、どこか、対抗宗教改革の時代のバロック・スピリットを呼び覚ますようで、音楽によって信仰に導く、ある種の解り易さが籠められていたか?また、具体的に、1楽章と2楽章では、グレゴリオ聖歌が引用され、特に、2楽章、アンダンテ(track.6)のコラールを思わせるシンプルなメロディーは、教会の典礼の厳かな雰囲気を醸し出し... 一方で、素朴なファゴットによって歌われるそのメロディーを聴いていると、どこかルター派の教会カンタータを思い起こさせもし... ハプスブルク帝国の大地主、エステルハージ侯爵家は、もちろんカトリックだけれど、ルター派的な気の置けなさが漂い、いい意味でローカル。このあたりにエステルハージ侯爵家のカラーも見出せるのかも... いや、個性的な交響曲が多いハイドンにして、ここでは"教会"という個性がしっかり活きている!それが、いつもの交響曲とは一味違う表情を生んで、時に熱く、時に素朴で、嘆きにも味わいがあり、魅力的。
さて、ハイドンの生誕300年にあたる2032年に向けて、ハイドンの交響曲、全曲録音に挑むアントニーニのプロジェクト、第6弾となるこのアルバム、もう3曲、ハイドンの交響曲が収録されておりまして... エステルハージ侯爵家に仕え始めた年、1761年に作曲された3番(track.1-4)。23番、「ラメンタティオーネ」が作曲される少し前、1765年に作曲された30番、「アレルヤ」(track.13-15)。そして、音楽の都、パリでの人気が、いよいよ以って凄いことになる頃、1784年に作曲された79番(track.8-12)と、実にヴァラエティに富んだラインナップ。で、この1枚に、シンフォニスト・ハイドンの歩みが、見事に収まっていて、聴き応え十分!でもって、この第6弾のテーマが、プレインチャント、単旋律聖歌を用いた交響曲... 少し乱暴な言い方をするならば教会交響曲集?23番、「ラメンタティオーネ」のみならず、最後に取り上げられる30番、「アレルヤ」では、そのタイトルの通り、グレゴリオ聖歌のアレルヤが1楽章(track.13)で引用される。また、3番の終楽章(track.4)では、対位法をきっちりと織り成して、教会風。それに対して、79番は、舞踏組曲(教会ソナタに対する室内ソナタのスタイル... )を思わせる展開(ダンサブル!)で、教会交響曲集の精進落としみたいな感じ?そうした遊びが、おもしろい。てか、ハイドンの交響曲こそ遊びの宝庫... 教会交響曲にしても、おもしろさはしっかり詰まっている。
で、そのおもしろさを、きっちり響かせて来るアントニーニ!この人ならではの息衝く音楽作りは、ハイドンの遊びを存分に引き出して、何気ない瞬間におもしろさがこぼれ出し、時に驚かされ、ワクワクさせられる。けして有名な番号の交響曲が取り上げられるわけではないのだけれど、理屈抜きで楽しめる。で、本領発揮は、やっぱりシュトルム・ウント・ドランクの荒ぶりっぷり!23番、「ラメンタティオーネ」(track.5-7)のドラマティックさは、圧巻!一音一音が放つ圧が、凄い... そんなアントニーニに応える、ピリオド仕様のバーゼル室内管の演奏も見事!アントニーニを首席客演指揮者に迎えているだけに、呼吸はぴったり。その一糸乱れぬアンサンブルは、アントニーニの音楽性を存分に活かし切り、躍動。一方で、これまで、このアントニーニのプロジェクトを担って来た、アントニーニが率いるピリオド・アンサンブル、イル・ジャルディーノ・アルモニコとは違った落ち着きも感じられ、より古典主義の端正さを醸し出せている気がする。という点で、アントニーニのプロジェクト、これから、より深化を見せる?そんなことを期待してしまう、充実の第6弾。

LAMENTATIONE Giovanni Antonini / Kammerorchester Basel

ハイドン : 交響曲 第3番 ト長調 Hob.I-3
ハイドン : 交響曲 第26番 ニ短調 「ラメンタティオーネ」 Hob.I-26
ハイドン : 交響曲 第79番 ヘ長調 Hob.I-79
ハイドン : 交響曲 第30番 ハ長調 「アレルヤ」 Hob.I-30

ジョヴァンニ・アントニーニ/バーゼル室内管弦楽団

Alpha/Alpha 678




聖金曜日のハイドン、「ラ・パッシオーネ」、迸る感情の魅惑。

98236
教会で演奏されたハイドンの交響曲の代表といえば、やっぱり49番、「受難」(track.5-8)。そのタイトルの通り、キリストの受難を記念する日、聖金曜日のために書かれた作品。で、23番、「ラメンタティオーネ」と同じ頃、1768年の作曲。そして、より教会交響曲らしいと言うべきか、教会ソナタの作法に倣い、緩急緩急の4楽章構成。1楽章、アダージョ(track.5)の荘重さは、まさに"教会"。いや、四旬節の山場、聖金曜日の重々しさに包まれ、キリストの受難の苦しみを、切々と表現して、キリスト教徒でなくとも、神妙に成らざるを得ない音楽。否応無しに引き込まれる。一転、2楽章、アレグロ・ディ・モルト(track.6)では、引き込む力が鮮やかに反転し、悲しみや、怒りが、一気に爆発!それは、23番、「ラメンタティオーネ」以上にドラマティックで、ハイドンが、シュトルム・ウント・ドランクのギアをさらに踏み込んだことを感じさせる音楽。いやー、パワフル、ドドドドドっと、怒涛の展開がたまらない。続く、3楽章のメヌエット(track.7)は、本来なら上品な舞曲となるところだけれど、ここでも受難の重々しさは効いていて、どこか葬送行進曲を思わせる。それがまた、魅力的だったり... そして、終楽章(track.8)は、疾風のように短調の音楽が走り出し... この疾走感がたまらない!これぞ、ハイドンの疾風怒濤期の醍醐味。スピードを保ってのセンチメンタル... もはや、魅惑的ですらある。てか、教会交響曲だったことを忘れそう。でもって、そういう音楽が、聖金曜日の教会に響いていたとは... エステルハージ侯爵家の教会は、エモい。
さて、ファイ+ハイデルベルク響によるハイドンの交響曲の全曲録音のシリーズ、Vol.6にあたるこのアルバム、49番、「受難」の前には、1771年頃に作曲されたと思われる52番(track.1-4)が、後には、1767年に作曲されたと思われる58番(track.9-10)が取り上げられる。でもって、番号が全て作曲順に振られているわけではないハイドンの交響曲、52番、49番、58番の順で聴くと、シンフォニスト・ハイドンの歩みを逆に辿ることに... まさしく、シュトルム・ウント・ドランクの、52番と49番のインパクトのある音楽が続いた後で、ある意味、極めてハイドン的な、58番が繰り出される。いや、ハイドンの交響曲は、3番からしてハイドンらしさが溢れていた。三つ子の魂百まで、じゃないけれど、ハイドンと言われて思い描けるサウンドは、すでに3番からある。ならば、疾風怒濤期、前夜、58番にも... で、その古典主義ならではの、明朗で、端正な音楽に触れてしまうと、その後の疾風怒濤期が、異様に感じられて... この荒ぶる感覚は、バロック回帰。で、後に作曲されたものの方が古風に感じられるアベコベ感!そのあたりを際立たせる曲の並びに撹乱される。けど、この撹乱こそが18世紀の真実。その真実が創り出すコントラストを捉えて、何気ないシリーズの1枚をより刺激的なものとしている。
という刺激的なハイドンを聴かせてくれた、ファイ+ハイデルベルク響。ファイならではの大胆なアプローチが、交響曲の父、パパ・ハイドンを大いに躍動させ... 特に、疾風怒濤期の52番と49番では、存分に暴れ切って、スリリングな音楽を展開。教科書的な古典主義を聴かせる58番でも、けして教科書に終わらないハイドンのウィットを丁寧にすくい上げ、また魅力的な音楽を展開する。そんなファイに応えるハイデルベルク響も、ピリオド+モダンのハイブリットならではの鋭さと安定感で以って、アグレッシヴかつ雄弁にハイドンを響かせる。ハイドンの時代に迫りながらも、ハイドンが綴った音楽のおもしろさとニュートラルに向き合い、現代的な感覚で18世紀を蘇生させる。そうしたあたりに、ファイ+ハイデルベルク響らしさを、改めて再確認させられる。のだけれど、2014年、ファイは不慮の事故で頭部を損傷。全曲録音は停止。そして、昨年、コンサートマスター、スピルナーの指揮により、シリーズは再開されるものの... つまり、ファイは、当分、戻っては来られないということか... ピリオド+モダンのハイブリットを用い、ハイドンばかりでなく、真新しい音楽を創造して来たファイだけに、本当に悔やまれる。一日も早く指揮台に戻って来てくれることを祈るばかり...

Joseph Haydn: Symphonies 49 ・ 52 ・ 58

ハイドン : 交響曲 第52番 ハ短調 Hob.I-52
ハイドン : 交響曲 第49番 ヘ短調 Hob.I-49 「受難」
ハイドン : 交響曲 第58番 ヘ長調 Hob.I-58

トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団

hänssler/98.236




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