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生誕150年、プフィッツナー、近代音楽に包囲されて、コンチェルト... [before 2005]

1920年代のベルリン... 今、振り返ってみると、何だかファンタジーに思えて来る。第一次世界大戦の敗戦(1918)によって、ドイツは、政治も経済もズタボロ(びっくりするようなインフレ!)、かつ迷走(の先に、ナチスの政権掌握... )しまくりな状態ながら、驚くほど自由な文化が花開き、それをまた人々が享受し、ますます刺激的な表現が生まれるという、ヴァイマル文化!バウハウスの建築家やデザイナーたちが生み出す、フューチャリスティックな風景。新即物主義の画家たちが描く、エグい画面。人を喰ったような『三文オペラ』(1928)。ディストピアを描く映画『メトロポリス』(1827)。表現主義のダークさ、ダダイズムのイっちゃった観、ジャズが一世を風靡し、キャバレーが活況を呈し、それ以前には考えられないほどエキセントリックで、キッチュで、享楽的で... 裏を返せば、ズタボロのリアルから逃避するようで、また旧来の価値観がズタボロになったからこそ、人々は解き放たれ、輝いた1920年代のベルリンなのだろう。しかし、けして人々は楽観視していない... どんなに享楽的であっても、常に闇を孕むヴァイマル文化。その後を襲うナチズムの恐怖は、その闇に予告されていたのかも... ということで、そんなベルリンにて、飄々とロマン主義を響かせていた生誕150年、プフィッツナーに注目!
フォルカー・バンフィールドのピアノ、ヴェルナー・アンドレアス・アルベルトの指揮、ミュンヒェン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、プフィッツナーのピアノ協奏曲(cpo/999 045-2)と、サシュコ・ガヴリーロフのヴァイオリン、ヴェルナー・アンドレアス・アルベルトの指揮、バンベルク交響楽団の演奏で、プフィッツナーのヴァイオリン協奏曲(cpo/999 079-2)を聴く。


国破れて、ロマン主義が生まれ変わる?ブランニューなピアノ協奏曲!

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アルザス地方の中心都市、シュトラスブルク(現在のフランス領、ストラスブール)のオーケストラとオペラを音楽監督として率い、音楽院の教授も務めていたプフィッツナーだったが、1919年、ヴェルサイユ条約(第一次大戦、連合国とドイツの間で結ばれた講和条約)の締結により、アルザス=ロレーヌ地方がフランスに割譲されると、シュトラスブルクを離れ、ひとまずミュヒェンから程近いアマー湖畔の保養地、ショーンドルフ・アム・アンマーゼーに移る。そこから、一シーズン、ミュンヒェン・フィルの指揮台に立った後、1920年、51歳の時、ベルリン芸術アカデミーの作曲科の教授に就任。シュトラスブルクに移る前、1897年から1908年まで、プフィッツナーが名声を獲得する30代を過ごしたベルリンへと戻る。が、かつてのベルリンの姿を知るプフィッツナーにとって、帝国の首都から共和国の首都となった、新時代の気分に包まれるベルリンの姿は、どんな風に映っていただろうか?移って間もない、1921年に作曲された、カンタータ『ドイツ精神について』には、古き良きドイツの過去への思慕が漂い、アンチ・モダンの保守派、最後のロマン主義者、プフィッツナーにとっても敗戦であったことを感じさせる音楽に聴こえた。そして、その翌年、1922年に作曲された、ピアノ協奏曲を聴くのだけれど...
いやー、最後のロマン主義者、揺ぎ無し!グリーグのコンチェルトを思わせる、輝かしくダイナミックな始まりに圧倒される!そこから、滔々とロマンティックの大河が流れだし、ラフマニノフのように流麗... まるで、目障りな近代音楽を押し流そうとでもするかのように堂々たる音楽を繰り出す。続く、2楽章(track.2)は、思い掛けなく軽やかで朗らか!ベートーヴェンのコンチェルトを思い出させるようなピアノの心地良いパルスに導かれ始まり、それがオーケストラ全体に伝播し、擬古典主義を匂わす?さすがのプフィッツナーも、近代音楽に包囲されれば、多少の影響もあったか?緩叙楽章、3楽章(track.3)では、ミステリアスなハープがポロンポロンと印象的に爪弾かれて、「シェヘラザード」が一瞬過り、ドイツとは一味違うロマンティシズムに彩られ... しっとりとピアノが響き出せば、マイケル・ナイマンのようなリリカルさを湛え... 何だろう、プフィッツナーのロマン主義には、ある種の純真が感じられ、そのあたりが、イギリス音楽が持つ瑞々しさと通じるのかもしれない。それにしても、美しい響き。から一転、終楽章(track.4)は、春が訪れたかのような浮き立つ気分に包まれて、輝き出す音楽!いや、生まれ変わったようにキラキラし始めるロマン主義。てか、何だ、このブランニュー感... 惹き込まれる。
というピアノ協奏曲を弾く、ドイツのベテラン、バンフィールド。まず、その手堅いタッチが、しっかりとプフィッツナーの音楽を捉えて、一音一音に重みを感じながら、明晰さを失わず、絶妙に軽やかさも生み出すから、巧み。その巧みさが、最後のロマン主義者、プフィッツナーの、20世紀におけるロマン主義の在り方というか、開き直りのブランニュー感を清々しく引き立てる!そんなバンフィールドのピアノを、また手堅くサポートする、ドイツのマエストロ、アルベルトの指揮、ミュンヒェン・フィルの実直な演奏... ドイツらしい深みと、その深みから澄んだサウンドを沸き上がらせて、下手にロマンティックなあたりを強調するのではなく、プフィッツナーの音楽のありのままを丁寧に響かせる。ソロが輝いてのコンチェルトではあるけれど、オーケストラもいい味を醸してのピアノ協奏曲... この作品の素敵さをそこはかとなしに引き出す。いや、保守、アンチ・モダンの重苦しさを軽やかに裏切る素敵さ!プフィッツナーのピアノ協奏曲は、隠れた佳曲。

Hans Pfitzner ・ Piano Concerto op.31 ・ Banfield

プフィッツナー : ピアノ協奏曲 変ホ長調 Op.31

フォルカー・バンフィールド(ピアノ)
ヴェルナー・アンドレアス・アルベルト/ミュンヒェン・フィルハーモニー管弦楽団

cpo/999 045-2




ロマン主義も破れて一皮剥ける。擬ロマン主義?ヴァイオリン協奏曲。

9990792
アンチ・モダンのマニフェスト、オペラ『パレストリーナ』、過去への思慕を歌ったカンタータ『ドイツ精神について』を聴いて来てのプフィッツナーのコンチェルトは、何だかもの凄く清々しい!具体的な内容を含まない絶対音楽だから... というだけでない、新時代に突入し、最後のロマン主義者、プフィッツナーの心境にも、何か新しい風が吹き始めていたことを思わせる清々しさ... ということで、ピアノ協奏曲に続いて、その翌年、1923年に作曲されたヴァイオリン協奏曲(track.1-3)を聴くのだけれど、ピアノ協奏曲のブランニュー感からまた一歩踏み出して、ロマンティックでありながら、より幅のあるテイストが聴こえて来るのが、興味深い。例えば、始まりの1楽章、ヴァイオリンは、ブルッフの1番のヴァイオリン協奏曲を思わせる、王道のロマンティックなメロディーを歌い上げるのに対して、オーケストラは一味違い、近代音楽とまでは言わないけれど、ニールセンを思わせるような色彩感を放ち... さらに聴き進んで行けば、どことなくショスタコーヴィチを思わせるような表情も見受けられ... プフィッツナーにしては、スパイシー!おもしろいのが、2楽章(track.2)。静かなオーボエのソロに導かれ、ヴァイオリンそっちのけでオーケストラがジワジワと盛り上がり、まるでワーグナーの楽劇!いや、最後のロマン主義者の本懐といったところか... 一転、終楽章(track.3)では、しっかりとヴィルトゥオージティに彩られ、ヴァイオリンの魅力を存分に引き立てる。まさに古き良きヴァイオリン協奏曲!で、おもしろいのは、「古き良き」が突き抜けて、ロマン主義がファンタジーになっているところ。それは、ロマン主義が完全に終了した1945年に作曲されるコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲を予感させる感覚... 失われたロマン主義をドリーミンに蘇らせる、擬ロマン主義だったか?
というヴァイオリン協奏曲を弾く、ドイツの達人、ガヴリーロフ。ドイツの名門オーケストラのコンサート・マスターを歴任した実務派... かつ、近現代作品でも冴えた感性を聴かせる理知的なヴァイオリニスト... そのあたり、プフィッツナーでも存分に発揮されて、秀逸な演奏を繰り広げてくれる。で、何と言っても、力みの無いすっきりとしたサウンド!なればこそ、プフィッツナーの音楽が引き立てられる妙。ソリストとしての魅力、コンチェルトの醍醐味をしっかり堪能させてくれる一方で、厚かましいヴィルトゥオーゾにはけしてならないバランス感覚... 作品を大切にしようとするその姿勢が職人気質で、静かにクール。そんなガヴリーロフを、きっちりサポートするアルベルト、バンベルク響... 骨太なドイツらしい演奏で、プフィッツナーの音楽の様々な表情を存分に響かせて、作品のおもしろさを掘り起こす。しかし、プフィッツナーのヴァイオリン協奏曲もまた隠れた佳曲。
さて、ヴァイオリン協奏曲の後で、ヴァイオリン、チェロ、小オーケストラのための二重奏曲と、スケルツォの2作品が取り上げられるのだけれど、これがまた興味深い。まず、二重奏曲(track.4-6)... ナチスが政権を掌握した1930年代、そのナチスとつながりを持つも、生来の頑固さが徒となり、関係をこじらせ、引退を余儀なくされての、1937年の作品。チェロの存在(ベルガーのキリリとした演奏がすばらしい!)が、思いの外、全体に効いていて、独特の落ち着きに包まれる。それでいて、思いの外、折り目正しい音楽が織り成される。というあたり、ナチズムの芸術思潮か?その抑制的な在り様、ロマン主義ではないのかも...
一転、プフィッツナーがまだフランクフルトのホッホ音楽院で学んでいた頃、1888年の作品、スケルツォ(track.7)... ドヴォルザークを思わせるような躍動するスケルツォを繰り出して、真っ直ぐ!そんな音楽に触れてしまうと、何だか切なくなってしまう。その後の時代に抗う歩みと、抗った先にあったナチズムの不毛を知るだけに、その真っ直ぐが、感慨深い。

Hans Pfitzner ・ Violin Concerto op.34 / Duo / Scherzo

プフィッツナー : ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 Op.34 *
プフィッツナー : 二重奏曲 Op.43 〔ヴァイオリン、チェロ、小オーケストラのための〕 **
プフィッツナー : スケルツォ ハ短調

サシュコ・ガヴリーロフ(ヴァイオリン) *
ユリウス・ベルガー(チェロ) *
ヴェルナー・アンドレアス・アルベルト/バンベルク交響楽団

cpo/999 079-2




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