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生誕150年、プフィッツナー、過去を想う、『ドイツ精神について』。 [2008]

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2月は、すっかりメモリアル月間です。生誕200年のグヴィ(1819-98)、オッフェンバック(1819-80)に続き、生誕150年のプフィッツナー(1869-1949)に注目しております。さて、最後のロマン主義者、プフィッツナー... 頑なにモダニズムを遠ざけ、徹底して保守的態度を取ったことで、やがて20世紀の闇に呑まれ、翻弄され、不本意な評価に留まる現在。もし、その誕生が、半世紀、早かったのなら、この人のクラシックにおける位置付けは大きく変わった気がする。その作曲家としての技量は間違いなく確かなものがあって、それが、20世紀ではなく、19世紀だったなら、極めて斬新で、時代の前衛を突っ走って、次々に革新を起こして行ったかもしれない。しかし、19世紀も半ばを過ぎて生まれて来てしまったがために、ロマン主義者として、革新ではなく、保守に回らなくてはならなかった定め... プフィッツナーは、最後のロマン主義者なのではなく、遅過ぎたロマン主義者なのかもしれない。遅過ぎたから、そのロマン主義的な態度が悪目立ちしてしまう気がする。そんな作品のひとつと言えようか?第一次世界大戦、ドイツ革命、ドイツの敗戦、間もない頃に書かれた作品に注目してみる。
ということで、インゴ・メッツマッハーが率いたベルリン・ドイツ交響楽団の演奏、ソルヴェイグ・クリンゲルボルン(ソプラノ)、ナタリー・シュトゥッツマン(メッゾ・ソプラノ)、クリストファー・ベントリス(テノール)、ロベルト・ホル(バス)、ベルリン放送合唱団の歌で、プフィッツナーのカンタータ『ドイツ精神について』(PHOENIX Edition/PE 145)。まず、そのタイトルのインパクトが凄い...

20世紀を迎え、じわりじわりと近代音楽が存在感を増し始める頃、1911年、最後のロマン主義者、プフィッツナーは、まるで自身のマニフェストのように、伝統こそが未来を切り拓く、オペラ『パレストリーナ』の台本を置き上げる。が、その2年後、1913年には、伝統を破壊し、不協和音と変拍子による恐るべき未来を示した『春の祭典』がパリで初演され、センセーションを巻き起こす。その時点で、伝統は未だ力を持ち、『春の祭典』の挑戦を盛大に攻撃し得たものの、翌、1914年に始まる第一次大戦が、音楽における状況を一変させる(その最中、1915年、『パレストリーナ』は完成され、1917年、戦時下、ミュンヒェンで初演されている... )。いや、音楽のみならず、ヨーロッパを、ドイツそのものを変えた。1918年、第一次大戦が終結する直前、ドイツ革命が起こり、帝政が崩壊。そして、ドイツは敗戦... 19世紀的な権威は完全に崩れ去ると、その反動のように次々に自由な表現が生まれ、音楽では、ジャズが席巻!近代音楽に慄いている場合でなくなる。一方、社会や経済は大いに混乱... 1919年、ヴェルサイユ条約が結ばれると、多額の賠償金の支払いにドイツ経済は極端なインフレに陥り、人々は困窮。普仏戦争(1870-71)でドイツが獲得したアルザス=ロレーヌ地方は、再びフランスに割譲され、アルザスの中心都市、シュトラスブルク(現在のストラスブール)の音楽界のトップにいたプフィッツナーは、1920年、ベルリンへと戻る。が、そこは、かつてのドイツ帝国の首都とは違う、ヴァイマル共和国の首都... 狂騒とジャズの1920年代の首都、ベルリン!プフィッツナーは、その変貌っぷりをどう見ただろうか?そして、1921年に完成され、翌、1922年、ベルリン・フィルによって初演されたのが、ここで聴く、カンタータ『ドイツ精神について』。
ドイツ・ロマン主義の詩人、アイヒェンドルフ(1788-1857)の詩を、オーケストラの伴奏で、時にオルガンも鳴り響く中、4人のソリストとコーラスによって歌われるカンタータ... 第1部、「人と自然」(disc.1)、第2部、「人生と歌」からなる2枚組、壮大な作品なのだけれど、やっぱりまず気になるのがそのタイトル。音楽のみならず政治的にも保守主義を是とし、反ユダヤ的態度を取り、やがてナチスとも関係を持ったプフィッツナーだけに、『ドイツ精神について』というタイトル、ドギツイものがある。が、原題の"Von deutscher Seele"を直訳すれば、「ドイツ人の魂から」、みたいな感じでして... 実際の音楽は、下手にナショナリズムを鼓舞しようなどせず、戦後の混乱と新しい文化の流入により隠されてしまった、本来、ドイツが持っている、ある種の無邪気さ、牧歌性を呼び覚まそうとするのか?マーラーの連作歌曲を思い起こさせるテイストがあるような... とはいえ、連作歌曲のように、ひとつひとつのナンバーは独立して置かれるのではなく、巧みにつなげられ、オラトリオを思わせる大きな流れを生み出す。一方で、オラトリオのようなストーリーがあるわけではなく、アイヒェンドルフによる詩の世界をひとつひとつ丁寧に響かせて、それぞれのナンバーの、ストーリーに縛られない自由な雰囲気も印象的。オペラ『パレストリーナ』の、ドラマをしっかりと紡ぎ出す音楽を聴いた後だと、余計にそう感じるのかも... より情緒的で、音楽的な魅力が明らかに増している。またそのことが、保守的であるはずのプフィッツナーの音楽に、より幅をもたせ、印象主義や象徴主義が滲み、時に表現主義に踏み込むようなところもあって、刺激的。それでいて、プフィッツナーの響きのバランス感覚が絶妙で、リヒャルト・シュトラウスのように肥大しないあたりが、実に魅力的!
で、この大作を聴かせてくれるのが、メッツマッハーが率いたベルリン・ドイツ響... この録音は、2007年、ドイツ統で、近現代音楽を得意とするドイツのマエストロ、メッツマッハーの指揮、ベルリン・ドイツ響の演奏で聴くのだけれど... この録音は、2007年、ドイツ統一の日(10月3日)のコンサートのライヴ... しかし、ドイツ統一の日という現代ドイツにおける重要な日に、反ユダヤのナチスと関係を持った作曲家の作品を取り上げることに、大変な批判もあったとのこと... うん、わかる。わかるけれど、"ドイツの魂から"聴こえて来る音楽は、そういう後ろ暗いものとはまた違う長閑さ(そのあたりに、この作曲家の隙があったのだろう... )が広がり... メッツマッハーは、そのあたりを強調したかったか?スコアを明晰に捉えて、瑞々しい音楽を丁寧に繰り広げ、良い時も、悪い時も、長いドイツの歴史が紡いで来た、特に、19世紀、ドイツ・ロマン主義が蓄積して来たナイーヴさ、無邪気さを、再び世に解き放つような感覚を見出せる。それが、何とも言えず瑞々しく、聴く者にやさしく語り掛けて来る。そんなマエストロに応えるベルリン・ドイツ響の、クリアかつちょっと仄暗いサウンドが、プフィッツナーの音楽をよく引き立てていて... ベルリン放送合唱団の表情に富む手堅いコーラスがすばらしく、アイヒェンドルフの世界、ドイツ・ロマン主義の気分を巧みに醸し出す。そして、魅惑的な4人の歌手たち!オペラとは違う歌曲ならではの繊細さ、色彩的なあたりを、丁寧に歌い上げ、詩情に溢れる音楽を織り成す。そうして、掘り起こされる、最後のロマン主義者、プフィッツナーの純真... 音楽に罪は無い(『ドイツ精神について』は、プロパガンダとは明らかに異なる!)とするなら、もう一度、チャンスをあげて欲しい佳作であることは間違いない。

PFITZNER VON DEUTSCHER SEELE

プフィッツナー : カンタータ 『ドイツ精神について』 Op.28

ソルヴェイグ・クリンゲルボルン(ソプラノ)
ナタリー・シュトゥッツマン(メッゾ・ソプラノ)
クリストファー・ベントリス(テノール)
ロベルト・ホル(バス)
ベルリン放送合唱団
インゴ・メッツマッハー/ベルリン・ドイツ交響楽団

PHOENIX Edition/PE 145




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