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いろいろあって、ローマ、修道院にて... ベートーヴェンと向き合うリスト、 [2014]

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1月も終わりが見えて参りました。てか、早い!何だか、お正月がもの凄い勢い遠ざかっている感じ... いや、2019年は、まだ始まったばかりだけれど、平成は刻一刻とその終わりへと歩みを進めているわけで、始まったばかりなのに、終わりに向かうという、不思議な感覚。こんな感覚、もう二度と体験できないだろうなァ。そうした中、トランスクリプションに注目しております。中世の聖歌を弦楽四重奏で奏でると、まるでミニマル・ミュージックのように響き... ラヴェルのピアノ作品、クープランのクラヴサン曲集をアコーディオンで奏でると、時代を越えて通底するフランスらしさが浮かび上がり... ドメニコ・スカルラッティの鍵盤楽器のソナタをヴァイオリンで奏でれば、先進的だったドメニコの音楽に古風な表情が見て取れて... 奏でる楽器を変えることで生まれるケミストリーのおもしろさ!そして、演奏家たちのトランスクリプションの妙に感心。いや、トランスクリプションは刺激的。時代が改まろうという中で聴くからか、余計に変容することが刺激的に感じられる?のかも...
さて、トランスクリプションの"古典"を取り上げたいと思います。リストによるベートーヴェン!異才、ユーリ・マルティノフがピリオドのピアノで弾くリスト版のベートーヴェンの交響曲のシリーズから、「英雄」と8番(Zig-Zag Territoires/ZZT 336)を聴く。

19世紀を代表するピアノのヴィルトゥオーゾ、リスト(1811-86)は、自らのステージを彩るために、多くのトランスクリプションを残している。ロッシーニ、マイアベーア、ベッリーニ、ドニゼッティ、ヴェルディ、ワーグナー、グノーなど、リストが生きた時代、一世を風靡した作曲家たちによるメロディーを、リストならではの華麗なる超絶技巧を以って、煌びやかにアレンジ、聴衆を沸かせていた。そうした需要に応えるためのトランスクリプションの一方で、二次創作とも言える、作曲家としての力量を示すトランスクリプションも様々に残している。パガニーニによる大練習曲は、その代表作であり... 新ドイツ楽派の旗手として、バッハと向き合ったものも異彩を放ち... また、カトリックの信仰に傾倒したリストは、グレゴリオ聖歌を様々に引用しており、トランスクリプションがある種の祈りになり得ているところが、なかなか興味深い。また、ハンガリー狂詩曲など、ピアノからオーケストラへという編曲も多く手掛けており、そのトランスクリプションは、実にヴァラエティに富んでいる。そうしたリストのトランスクリプションにおいて、若干、地味ながら、確かな音楽を聴かせてくれるのが、交響曲をピアノに落とし込むというもの... 若きスターとして一世を風靡していた頃、大いに刺激を受けた、友人、ベルリオーズの幻想交響曲を編曲(1833)したのを皮切りに、ベートーヴェンの「運命」、「田園」、それから7番をピアノ用に編曲(1837)。「英雄」の2楽章、葬送行進曲(1843)も編曲している。が、より本格的に取り組むのが、ローマ時代(1861-69)。
宮廷楽長として、新ドイツ楽派の旗手として、新しい音楽への模索紹介に情熱を燃やしたヴァイマル時代(1848-59)を経て、1861年、50歳になったリストが、その本拠地としたローマ。リストにとってのローマは、ある種の約束の地だった気がする。カトリックの信仰に篤かったリストにとって、聖都、ローマは、まさに聖地であり、ローマにやって来る2年前、長男を亡くしたリストにとって、ローマは慰めの地でもあったろう。それだけではない、カロリーネ・ツー・ザイン・ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人との結婚の許可(つまり、侯爵夫人の離婚のお墨付きを教皇庁からもらう... )を得て、長年、望んだ、結婚を叶えるはず(驚くほどに複雑に入り組んでしまった2人を取り巻く人々の利害のため、結局、結婚は断念... )だった地であり、1865年には出家し、形ばかりではあったものの、聖職者にもなった地。何より、抵抗勢力の煩わしさから逃げるようにヴァイマルを離れたリストにとって、作曲に集中できる地でもあった。1863年には、さらに集中するため、ローマの城壁の外にある、静かなマドンナ・デ・ロザリオ修道院の一室に居を移し、そこで、改めてベートーヴェンの交響曲と向き合う。今度は、全9曲の編曲に取り組み、翌、1864年までに、一気に仕上げられる。いやそれは、ちょっと籠り行(楽聖が残した聖典のリスト流の写経?)にも思えて来たり... で、そのトランスクリプションには、宗教に通じる実直さがあるのかも...
さて、ここで聴くのは、「英雄」(disc.1)と、8番(disc.2)... ドラマティックで、ロマンティックでもあり、リストと相性が良さそうな「英雄」に、第九を前にベートーヴェンの円熟が軽快に繰り出される8番と、好対照な組み合わせ。絶妙なコントラストが効いていて、互いを引き立て合うかのよう。その1曲目、「英雄」。リストという視点から捉える、交響詩的な性格が浮かび上がり、より重々しく響くのか... 2楽章の葬送行進曲(disc.1, track.2)は、見事にリストのカラーを放ち、どことなく劇画風で、物々しい。これは、ローマの物々しさでもあるのかもしれない。ドイツ―オーストリアの葬送の感覚とは一味違う、古代から続くローマの厚みが、じわっと沁み出して、やがて大きく盛り上がれば、古代の豪奢な葬列を思わせて、フーガが壮麗に繰り出されれば、ローマの大伽藍の巨大な空間に立たされるようで、オリジナルでは一味違う迫力が広がる。さすがリスト!ベートーヴェンの交響曲であることを忘れて聴き入ってしまう。そこから、ベートーヴェンらしい勢いをそのままに表現した3楽章、スケルツォ(disc.1, track.3)が続き、リストに負けず劇画調の終楽章(disc.1, track.4)では、交響曲にして異色の変奏曲のスタイルが、見事にヴィルトゥオーゾ、リストの感性に合致、圧巻のフィナーレへ!オリジナルのすばらしさを大切にしながら、ピアノという楽器の魅力をしっかりと盛り込む編曲は、実直にして魅惑的でもある。
そして、8番(disc.2)。ヴィルトゥオーゾ、リストらしい煌びやかさを纏って、また印象的。ベートーヴェンの8番は、古き良き18世紀の古典主義へと帰るような、ある種のシンプルさを見せるわけだけれど、リストはそのシンプルさを巧みに利用して、自らのヴィルトゥオージティを盛り込み、より色彩的な音楽を織り成す。で、より色彩的になって、グラマラスに響いて、時として印象主義を予感させるような、モダニスティックに聴こえるところもあるから刺激的!まさに二次創作なのかもしれない。それでいて、オリジナルを作曲する以上に、濃密な音楽に至っている気がするからおもしろい。ベートーヴェンという最高の素材を前に、腕を鳴らすリスト。宮廷楽長を務めたヴァイマルとは違う、何の制約も無い、修道院の一室で、音楽に没頭する姿が目に浮かぶようでもあり、そんな無邪気さが、何だか愛おしく感じられる。ヴァイマルからローマへ、いろいろあってのトランスクリプション... リストは、このトランスクリプションから、創造のパワーをもらっていたのかもしれない。
というトランスクリプションを、編曲がなされた頃に制作された、1867年製、ブリュートナーで弾くマルティノフ。いや、ベートーヴェンの交響曲を、それから半世紀経て、リストが編曲したもので、その頃のピアノで聴くという、何だか焦点が合わせづらいような、ピリオドの打ち方なのだけれど、しっかりと、そのおもしろさを引き出して来る、マルティノフによるリスト版のベートーヴェンの交響曲のシリーズ... ピリオドのピアノならではの個性を活かしつつ、19世紀も半ばを過ぎて、すっかり重厚感を増したピアノの響きを存分に繰って、リストならではのテイストをしっかりと鳴らす。で、1867年製、ブリュートナーの重みのあるサウンドが印象的で、そこからジューシーな響きを引き出すマルティノフのタッチも見事。残響にファンタジーが漂い、絶対音楽である交響曲に、リスト流のポエジーが引き立ち、力強くも魅惑的な音楽を織り成す。

BEETHOVEN / LISZT: SYMPHONIES NOS. 3 & 8 - YURY MARTYNOV

ベートーヴェン : 交響曲 第3番 変ホ長調 「英雄」 Op.55 〔編曲 : リスト〕
ベートーヴェン : 交響曲 第8番 ヘ長調 Op.93 〔編曲 : リスト〕

ユーリ・マルティノフ(ピアノ : 1867年製、ブリュートナー)

Zig-Zag Territoires/ZZT 336




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