SSブログ

ロッシーニのナポリ時代、オペラ・セリア、集大成、『セミラーミデ』! [2013]

8660340.jpg
冬らしく、寒くなって参りました。すると、年の瀬なんだな、という気分になって来ます。そうして、2018年が過ぎゆくのを噛み締める... こんな年、早く終わっちまえ(って、未だにそう思わせることが、日本で、世界で、起こるのだよね... ため息... )!と、思い続けて、年の瀬に至って、それだけのことがあった2018年を、今は、噛み締めるような感覚もあるのかなと... いや、これが年の瀬の心境なんだろうなと... 先日、流行語大賞、「そだねー」に決まりましたが、この語を生んだ2月のピョンチャンが、もんの凄く遠く感じられる(そもそも、かの国が、遠くに感じられる。そして、遠い国に、遠い目しか向けられない... 今... )。いや、まさに、この遠さにこそ、ありとあらゆることが押し寄せて来て、うわーっとなっていた2018年を思い知らされる。なればこそ、「そだねー」の語が、沁みる。女子カーリング日本チームを銅メダルに導いた、ネガティヴを断ち切るための「そだねー」は、流行語というより、2018年を呑み込むための、魔法の言葉に思えて来る。まさに、今、求められる言葉... そだねー、そだったよねー、と、2018年を振り返れば、よりポジティヴに2019年へと踏み出せそうな気がして来る。
さて、先月後半から、絶賛、メモリアル巡礼中の当blog... 再び、2018年の顔、没後150年のロッシーニへと還る。アントニオ・フォリアーニの指揮、ヴィルトゥオージ・ブルネンシスの演奏、アレクサンドリナ・ペンダチャンスカ(ソプラノ)のタイトルロールで、ロッシーニのオペラ『セミラーミデ』(NAXOS/8.660340)、ドイツ、ヴィルトバートのロッシーニ音楽祭のライヴ盤で聴く。

ロッシーニというと、『アルジェのイタリア女』(1813)や、『セヴィーリャの理髪師』(1816)、『チェネレントラ』(1817)などの、オペラ・ブッファのイメージがある。が、改めて、そのオペラ作家としての人生を振り返ってみれば、オペラ・セリアの方が、断然、多いことに気付かされる。18歳でのオペラ・デビュー(1810年、ヴェネツィアのサン・モイゼ劇場にて、ファルサ『結婚手形』... )から程なくして、スターダムに駆け上がって行くロッシーニ... 1815年、23歳の時には、ナポリ、サン・カルロ劇場の劇場支配人、バルバイアの招聘を受け、18世紀のヨーロッパのオペラ・シーンを牽引したナポリ楽派の本拠地に乗り込む。そこで出会ったのが、絶大な人気を誇るプリマ、コルブラン(バルバイアの愛人、でありながら、間もなくロッシーニと同棲するという、なかなか複雑な関係でして... )。悲劇を得意とする、ドラマティックで、気品に溢れる彼女の歌声が、ナポリでのロッシーニの方向性を決定付け、かつてナポリ楽派をブレイクさせる原動力となった、伝統のセリアへと傾倒、それが、ブッファ以上に当時のヨーロッパで熱狂的に迎えられることに(18世紀、セリアからブッファへという流れがあった一方で、19世紀に入ると、革命や戦争の厳しい現実を前にしてか、楽しいブッファから、シリアスなセリアへと回帰... )。やがて、バルバイアは、ウィーンのケルントナートーア劇場の劇場支配人のポストを得る(1821)と、ナポリ自慢の名プリマと若き巨匠をウィーンに呼び寄せ、大々的にロッシーニ・フェスティヴァル(1822)を開催し大成功させる(これにより、ベートーヴェンが割を喰うんだわ... )。このウィーンへの旅の途中、コルブランとロッシーニは結婚、ロッシーニ・フェスティヴァルの後、ロッシーニとバルバイアは袂を分かち、ロッシーニ夫妻はナポリには戻らず、ロッシーニの実家のあるボローニャへ... その郊外、カステナーゾの別荘で書かれたのが、ここで聴く、『セミラーミデ』...
ロッシーニの人気のブッファに比べれば、上演されることは極稀、だけれど、この作品は、ロッシーニ作品においても、オペラ史においても、ひとつの区切りとなる重要な作品であることは間違いない。ロッシーニのナポリ時代の集大成であり、今や妻となったコルブランのために書いた最後のオペラ(すでに衰えを見せていたコルブランの歌唱... 引退はすぐそこに迫っていた... )であり、パリに拠点を移す前に書かれた、ロッシーニ、イタリア時代、最後のオペラ... より大きな視点から俯瞰するならば、ナポリ楽派に入り婿したロッシーニによるナポリ楽派の総決算、古き良き18世紀に別れを告げる、フェアウェル・オペラとも言える作品... もちろん、ロッシーニが、それを意識していたかは、何とも言い難いけれど、この作品にただならず漂う集大成感は、他のロッシーニ作品には見出せないように思う。古典主義の時代の大家、ヴォルテールの戯曲『セミラミス』(1748)を原作とし、古代バビロニアを舞台に、夫を殺し、息子も殺め、王位を簒奪した伝説の女王(本来は、バビロニアではなくアッシリアの女王... )の顛末を、バロック以来のセリアとして、セレヴたちの愛憎渦巻く展開でもって描き出し、ナポリ楽派の伝統を受け継ぐ華麗さと、19世紀に入ってのスケール感を以って響かせる。いや、19世紀という器に盛り付けられた、バロックにまで遡っての古き良き時代の豪華盛り合わせ!その重みが生み出す風格は、軽快なロッシーニのイメージを超越する。例えば、この作品を代表するアリア、セミラーミデが、若い将軍、アルサーチェに思いを募らせて歌う「麗しい光が」(disc.2, track.2, 3)の、重厚にして華麗なる音楽... じっくりと情景を描きつつ、ギアが入ると、輝かしいばかりのコロラトゥーラが炸裂して、圧倒的な歌声で聴く者を魅了。その完成感たるや!ひとつのナンバーだけで、もはやオペラひとつ分くらいの満足度があるなんて言ったら言い過ぎ?(なればこそ、アリア集で人気のナンバーなのだよね... )。で、そういうナンバーが次々に繰り出されてしまうのが、この作品の凄さ...
ナポリでのロッシーニの創作は、けして伝統を踏襲するばかりでなく、様々な実験も試みていた。その結実とも言える作品が、重唱やアンサンブルを多用し、より有機的にドラマを紡ぎ出す『マホメット2世』(1820)。しかし、ナポリの聴衆は、その革新を受け付けなかった。そうして伝統に回帰した『セミラーミデ』... その中身は、まさに保守... なのだけれど、保守の枠組みの中で、やれることを徹底してやり切ったからこその凄味が、『セミラーミデ』を特別なオペラにしているように感じる。ナポリ楽派の伝統の重みを、ド直球、ドヤ顔で、客席に向かって放って来る凄味とでも言おうか... この上なく美麗であることが、ヘヴィー... いや、かえって挑戦的?でもって、ベートーヴェンが君臨していたウィーンを経験(「英雄」を聴いたロッシーニ!)したことも効いている気がする。美麗にしてヘヴィー、を支えるオーケストラ・サウンドの充実っぷりは、どことなしにドイツ―オーストリア的な印象も... このオーケストラ・サウンドがあって、ナンバー・オペラであっても、ドラマに厚みを生み、確かな聴き応えをもたらしている。1823年、新妻、コルブランのタイトルロールで、ヴェネツィア、フェニーチェ劇場で初演を迎えた『セミラーミデ』は、その後、各地で上演され、一世紀もの間、人気のレパートリーとして世界中のオペラハウスを賑わせたとのこと... 納得。保守の充実の安定感は、揺ぎ無い... そこにロッシーニ芸術の神髄を見た気がする。
で、この重みある作品を、ドイツ、ヴィルトバートのロッシーニ音楽祭のライヴ盤で聴くのだけれど、NAXOSから多くのロッシーニの全曲盤をリリースしている面々だけに、実にこなれたもので... というより、『セミラーミデ』の揺ぎ無さに巧みに乗っかって、見事なロッシーニを聴かせてくれるフォリアーニの指揮!ヴィルトゥオージ・ブルネンシスの演奏!ライヴ盤の生々しさ、演奏が進むに連れてノって来るところとか、惹き込まれる!で、何と言っても、歌手の充実っぷりが圧巻!セミラーミデを歌う、ペンダチャンスカ(ソプラノ)の見事な女王様っぷり、アルサーチェを歌う、ピッツォラート(コントラルト)の落ち着いた歌いっぷりは、特に光っていて、それぞれのアリアは聴き入るばかり... そして、2人の二重唱ともなったら、もう... いや、歌い手あってのナポリ楽派であって、それを受け継いだロッシーニのセリアだけに、2人のみならず、見事な歌手が揃って、聴き進むほどに、全体が発光するような感覚がたまらない。3枚組の長大さも、その全てが輝かしく、聴き入るばかり... しかし、この集大成感は、ただならない。年末に聴くと、余計に聴き応えを感じてしまう?って、この忙しい時に、3枚組と、じっくり向き合うなんて、何やってんだよ!?と思いながら、一度、聴き出してしまうと、離れられなくなる魔力がある。それだけ、ロッシーニも、意気込みを以って書いたのだろうな...

ROSSINI: Semiramide
Penda ・ Pizzolato ・ Regazzo ・ Osborn ・ Mastroni
Jokovic ・ Kavayas ・ Facciolà ・ Fogliani


ロッシーニ : オペラ 『セミラーミデ』

セミラーミデ : アレクサンドリナ・ペンダチャンスカ(ソプラノ)
アルサーチェ : マリアンナ・ピッツォラート(コントラルト)
アッスール : ロレンツォ・レガッツォ(バス)
イドレーノ : ジョン・オズボーン(テノール)
オローエ : アンドレア・マストローニ(バス)
アゼーマ : マリヤ・ジョコヴィッチ(ソプラノ)
ミトラーネ : ヴァシリス・カヴァヤス(テノール)
ニーノの亡霊 : ラファエーレ・ファッチョラ(バス)
ポズナン・カメラータ・バッハ合唱団

アントニーノ・フォリアーニ/ヴィルトゥオージ・ブルネンシス

NAXOS/8.660340




nice!(4)  コメント(0) 

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。