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没後250年、ポルポラ、飛躍のローマ、『ジェルマニアのジェルマニコ』! [2018]

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2018年は、ポルポラ・イヤー!そう、かのヘンデルを追い詰めたポルポラの没後250年... てか、ポルポラというと、やっぱりヘンデルのライヴァルというイメージ。モーツァルトに対するサリエリみたいな... 主役の引き立て役的な... けど、実際に両者がライヴァル関係にあったのは、ポルポラがヘンデルのいるロンドンにやって来た1733年から1736年までのわずか3年間。ポルポラの82年にも及ぶ長い人生からすれば、ほんの一瞬なのかもしれない。バッハ(1685-1750)が生まれた翌年、1686年、ナポリで生まれ、モーツァルト(1756-91)が最初のイタリア旅行に出る前年、1768年にナポリで世を去ったポルポラ。その間、イタリア各地を行き来し、ロンドンはもちろん、ウィーン、ドレスデンでも仕事をした旺盛な人生を振り返ると、一所に留まれない性格が見て取れるのかもしれない。裏を返せば、流浪の人生... しかし、その流浪があって、ナポリ楽派のオペラをヨーロッパ中に紹介することになるわけで... いや、音楽史にとって、ポルポラの流浪こそ、新たな時代を切り拓く鍵... 改めてバロックから古典主義へのうつろいを考える時、ポルポラの流浪は、大きな意味を持つように思う。
さて、前回は、ヴェネツィアでのポルポラ、オスペダーレ=孤児院付属音楽学校のために書かれた作品を聴いたのだけれど、ポルポラと言えば、やっぱりオペラ!ヤン・トマシュ・アダムス率いるカペラ・クラコヴィエンシスの演奏、マックス・エマヌエル・ツェンチッチ(カウンターテナー)のタイトルロールで、ポルポラのオペラ『ジェルマニアのジェルマニコ』(DECCA/4831523)を聴く。

18世紀、音楽におけるモードの発信基地として、ヨーロッパ中に大きな影響を与えたナポリだけれど、そこに至るには、長い苦難の歴史があった。16世紀、スペインの支配下に置かれ、植民地のような地位に転落したナポリ王国。暗愚なスペインの支配は、ナポリの街を疲弊させ、さらに17世紀に入ると、ヴェスビオ山の噴火、それに伴う地震、さらには大飢饉まであって、最悪の事態に... そうして迎えた18世紀は、スペイン継承戦争(1701-14)で幕を開け、スペインからの解放というナポリの悲願も絡み、スペイン(ブルボン家)とオーストリア(ハプスブルク家)がせめぎ合う場所となった。だから、オペラを誕生させたフィレンツェや、豪華、宮廷が乱立する聖都、ローマ、様々な革新を生んだアカデミックな音楽都市、ボローニャ、ルネサンス以来のヨーロッパの音楽センター、ヴェネツィアには遠く及ばず、極めてローカルな位置に甘んじるしかなかった。それでも、ナポリでは4つの音楽院が運営され、地道な教育活動は次第にレベルを上げ、ヨーロッパを席巻するナポリ楽派が形成されて行く。その第1世代とも言える存在が、ポルポラ(1686-1768)。1696年、10歳でポヴェリ・ディ・ジェズ・クリスト音楽院に入学。その後、10年間、みっちりと音楽を学び、1706年に卒業。1707年、オーストリアがナポリを占領すると、ポルポラは、オーストリアとのコネクションを得て、1708年、最初のオペラ、『アグリッピナ』を、ナポリの王宮で上演。1714年には、ウィーンの宮廷からも委嘱を受け、『アリアンナとテーゼオ』を作曲。となると、その作曲人生は、順風満帆のように思えるのだけれど、ナポリの音楽シーンの中心は、ベテランたちが占め、若手が活躍できる機会は少なかった。そこで、オペラが解禁されて間もない、ローマに活路を見出す。1718年の『エジプトの女王、ベレニーチェ』を皮切りに、コンスタントにローマのためのオペラを作曲。それは、1726年、ヴェネツィアに拠点を移してからも続き... そして、1732年、ローマで初演されたのが、ここで聴く、『ジェルマニアのジェルマニコ』。
古代ローマの将軍、ゲルマニクス=ジェルマニコのゲルマニア遠征を描くストーリーは、奇しくも、この後、ライヴァルとなるヘンデルもオペラ化(1737)... ヘンデルの方は、ゲルマニクスの宿敵、ゲルマン人の将軍、アルミニウス=アルミニオを主役としているのが、おもしろい(よって、最後、ローマが敗走... )。で、ポルポラの方なのだけれど、ゲルマン人にしてローマ側の者あり、ゲルマン人に恋してしまうローマの隊長あり、ジェルマニコとアルミニオの対峙の裏で、愛憎入り乱れ、それを乗り越え、最後は大団円という典型的なオペラ・セリア。よって、醍醐味は、花火のように次々に打ち上げられる華麗なるアリアの数々... ローマ、カプラーニカ劇場での初演は、ジェルマニコを、当代一流のカストラート、ドメニコ・アンニバーリ(ヘンデルの『アルミニオ』でタイトルロールを歌っている!)が、アルミニオを、ポルポラの教え子、次世代スター、カッファレッリが歌っての豪華共演!で、当て書きの妙というのか、時にエキセントリックにも思える跳躍を盛り込んで、神々しさ(このオペラでは、まつろわぬ者の野生だろうか?)を放つカッファレッリ=アルミニオのアリアに対して、超絶技巧を用いながらも詩情が籠められるアンニバーリ=ジェルマニコのアリア... この2人のアリアを聴き比べると、ヨーロッパをあっと言わせたポルポラの教え子たちの凄さを思い知らされる。一方で、主役、アンニバーリ=ジェルマニコの揺ぎ無さが印象深く、ナポリ楽派のオペラ・セリアの雄弁さが見事に表れていて、聴き入ってしまう。もちろん、この2人のアリアばかりでなく、全てのナンバーが華麗で... いや、イタリア各地で人気を博し、間もなくロンドンにまでその名声が届く頃だけに、とにかくイケイケ!ナポリ楽派ならではの流麗さと、バロック・オペラならではのテンションが相俟って、息つく暇なく魅了されてしまう。そう、宝石箱やぁ~ であります。何と言うか見境なく華麗。華麗さが突き抜けている...
という、ポルポラのオペラを、タイトルロールを歌う、カウンタータナーのスター、ツェンチッチを中心に、21世紀に蘇らせるのだけれど... いやー、3枚組、アリア集とはわけが違う全曲盤なのだけれど、超豪華アリア集とすら言いたくなる、全てのナンバーを輝かせてしまう、華麗なる仕上がり!何だろう、この感覚... いや、歌手陣も、オーケストラも、時を越えて、ポルポラの、ナポリ楽派のアゲアゲな気分に乗せられてしまうのか、知らず知らずにテンションは高めで、自然と華々しくならざるを得ないような、そんな印象。なればこそ、ポルポラが作曲し、初演した頃の空気感が、ぱぁっと弾けるよう。とはいえ、当時、第一級の歌手たちが結集し、当て書きされたオペラだけに、けして簡単ではないポルポラの音楽でもあって... それを見事に歌い上げる現代の歌手たちの技量も大したもの... ツェンチッチを筆頭に、超絶技巧のコロラトゥーラをこなしながら、華麗であることに、一切、手を抜かない。だから、華麗さが迫力となって、聴く者に迫る!それを、さらに盛り上げるのが、アダムス率いるカペラ・クラコヴィエンシス!いつの間にやらピリオド大国、ポーランド... その絶好調っぷりを存分に知らしめてくれるご機嫌な演奏は、パワフルで、勢いがあって、ナポリ楽派ならではの美麗さもしっかり押さえて、歌手陣にまったく引けを取らない。というより、挑むようなところもあって、エキサイティング!アリア集では見えて来ない、ポルポラのオペラの実像を捉えて、そのドヤ顔な音楽を十二分に楽しませてくれる。

PORPORA GERMANICO IN GERMANIA
CENCIC • LEZHNEVA • SANCHO • NESI • IDRISOVA • BENNANI
CAPELLA CRACOVIENSIS • ADAMUS


ポルポラ : オペラ 『ジェルマニアのジェルマニコ』

ジェルマニコ : マックス・エマヌエル・ツェンチッチ(カウンターテナー)
アルミニオ : メアリー・エレン・ネージ(メッゾ・ソプラノ)
ロズモンダ : ディリアラ・イドリソヴァ(ソプラノ)
チェチーナ : ハスナー・ベンナーニ(ソプラノ)
エルシンダ : ユリア・レージネヴァ(ソプラノ)
セジェステ : フアン・サンチョ(テノール)

ヤン・トマシュ・アダムス/カペラ・クラコヴィエンシス管弦楽団

DECCA/483 1523




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