SSブログ

没後250年、ポルポラ、ヴェネツィア、麗しきオスペダーレの魅惑... [2008]

83264.jpg
さぁ、12月ですよ。もうすぐ、2018年が終わってしまう!ということで、2018年にメモリアルを迎える作曲家を駆け込みで追っております。で、没後250年、ヴェラチーニに続いての、同じく没後250年、ポルポラ(1686-1768)に注目!いや、2018年にメモリアルを迎える作曲家で、最も注目したかった存在かもしれない... 18世紀、ヨーロッパを席巻したナポリ楽派、その先鞭を付けた存在とも言えるポルポラだけに、音楽史における重要性は、バッハを遥かに越えている(音楽におけるバッハの重要性は計り知れない一方で、"音楽史"から見つめるバッハは、哀しくなるほどローカル... )。ブレイク目前のナポリから、ルネサンス以来のヨーロッパの音楽シーンの中心にして、音楽史上最大のオペラ都市へと乗り込み、かのヴィヴァルディを追い落すほどの活躍を見せ、ナポリ楽派のオペラがヴェネツィア楽派のオペラに取って代わるという、オペラ史における大転換を画した大家。その余勢を駆って進出したロンドンでは、ヘンデルと熾烈な競争を繰り広げ、イタリア・オペラの一大ブームを築くわけだけれど、せっかくのメモリアル、オペラ以外のポルポラの仕事に注目してみようかなと...
ということで、ペーター・コップ率いるヴォーカル・コンサート・ドレスデンのコーラスで、ポルポラ、ハッセ、ガルッピによる、ヴェネツィアのオスペダーレ=孤児院付属音楽学校のための作品を集めた"Le Grazie Veneziane"(Carus/83.264)を聴く。

オペラの大家、ポルポラのもうひとつの顔が、優れた教育者... オペラで成功する以前、ナポリの音楽院で教師として名声を博し、ファリネッリ(1705-82)、カッファレッリ(1710-83)ら、スター・カストラートを育て、その教え子たちとともにヨーロッパを席巻して行ったという経緯がある(ナポリ楽派の席巻は、エリート教育とセットであったことが凄い!)。そんなポルポラは、ヴェネツィアに拠点を置くと、ヴェネツィアの音楽シーンを特徴付けるオスペダーレ=孤児院付属音楽学校の教師に招かれ、ナポリの音楽学校とはまた違った形で活躍している。ヴィヴァルディが長年務めた、ピエタ慈善院付属音楽学校での仕事、孤児の女の子たちを教育し、フィーリエ(娘たち)という卒業生で組織された合唱と器楽によるアンサンブルを率い、コンサート活動(言うなればバロック版宝塚、これが人気を集めた!そうしてオスペダーレの運営資金を稼ぐ... )を行う。を、ポルポラもまた担っていた。初めてヴェネツィアにやって来た頃、1726年から、ロンドンへと旅立つ1733年まで、インクラビリ慈善院で教え、1742年には、かつてヴィヴァルディが率いていたピエタ慈善院に大変な高給で迎えられ... さらに翌年には、オスペダレット慈善院へと移り、1747年まで務めている。そして、"Le Grazie Veneziane"で取り上げる1曲目は、1746年、このオスペダレット慈善院のために作曲された、デ・プロフンディス(track.1-9)。
2人のソプラノとアルト、そして女声コーラスによる音楽は、何とも言えずふんわりとしていて、ナポリ楽派ならではの麗しさにも彩られて、たおやか!女声のみによって生み出される均質な響きの効果は、間違いなくあり、どこか天国的で、バロック期の作品ではあるけれど、バロックのコントラストのきつい音楽とはまた一味違うのか... それでいて、ナポリ楽派のオペラの大家、ポルポラによる音楽だけに、ソロが歌うパートは、オペラのアリアを思わせて、デ・プロフンディス、詩篇「深き淵から」、旧約聖書の一節を歌いながらも、どこか世俗的な表情も浮かび、対抗宗教改革の残り香というのか、音楽の力で人々を再び信仰に引き戻そうとした頃を思い起こさせて、聴く者を引き込んで来る。例えば、2曲目、「あなたの耳を傾けてください」(track.2)... ソプラノがしっとりと歌い上げるメロディーは、オペラと見紛うばかりで、またそのメロディー、バロックを脱しつつあって、より耳に心地良く、やがてモーツァルトへとつながって行くことが感じられる。やはり、ナポリ楽派は、一歩、先を行っていた... 一方、最後の2つのコーラス(track.8, 9)では、詩篇の教会音楽らしい手堅い対位法が繰り出され、しっかりと締め括る。この、硬軟、巧みに織り込むバランス感覚が、ヴェネツィアっ子たちを虜に?いや、魅惑的。
というポルポラにも学んだ、ドイツ出身のナポリ楽派、ハッセ(1699-1783)が、1735年、インクラビリ慈善院で教えていた時の作品、ラウダーテ・プエリ(track.10-17)は、まさにモーツァルト!ポルポラよりも10年ほど遡った作品だけれど、ナポリ楽派ならではの明朗な音楽に触れれば、モーツァルトの音楽の原点を見出すようで... ポルポラ以上に女声のみのたおやかさを活かし、ロココの愉悦を含み、バロックには無い魅力で、聴く者を魅了して来る。そして、最後に取り上げられるのは、ヴェネツィアの作曲家、メンディカンティ慈善院で教えていたガルッピ(1706-85)の作品、ディキシット・ドミヌス(track.18-24)。"Le Grazie Veneziane"に収録されている3曲の中では最も新しい1750年の作品だけれど、どことなしにバロック的なリズム感が活きていて、ナポリとは異なるヴェネツィアのテイスト(ガルッピの師、ヴェネツィア楽派の巨匠、ロッティを思い起こす... )をそこはかとなしに感じさせてくれる。で、おもしろいのは、そのリズム感に、前古典派を思わせる表情も見受けられ、そうして生まれる歯切れの良さが何とも心地良い。で、ナポリ楽派に負けない魅力を放っている!
しかし、マニアックだなと... けれど、臆することなく挑んだ、コップ+ヴォーカル・コンサート・ドレスデン。そのマニアックさ、女声のみという特殊性を十分に活かし、18世紀、ヴェネツィアのフィーリエの活躍を、21世紀の今に蘇らせる。で、フィーリエ=娘たちを意識しながら歌っているのか?プロのこなれたハーモニーとは一味違う、イノセンスさを見せて、ちょっと不思議な感触がある。けしてアマチュアっぽいわけではないのだけれど、ひとりひとりがピュアな発声を心掛けるような印象があって、単に女声のみというだけでない芳しさが広がる。そんなコーラスと好対照なのが、3人のソロ... 可憐なスキアヴァ(ソプラノ)、しっとりとしたガッリ(ソプラノ)、奥深いロー・モナコ(アルト)、それぞれの歌声は、オペラを思わせるリリカルさがあって、コーラスとはまた違って聴き入ってしまう。そうした歌声を引き立てる、ドレスデナー・インストゥルメンタル・コンサートが、またいい味を醸していて... 手堅くも、やわらかさを備えたサウンドは、耳に心地良い。

Le Grazie Veneziane. Musica degli Ospedali – Music from the Ospedali

ポルポラ : デ・プロフンディス
ハッセ : ラウダーテ・プエリ
ガルッピ : ディキシット・ドミヌス

マリア・グラツィア・スキアヴォ(ソプラノ)
エマヌラ・ガッリ(ソプラノ)
ジョゼ・マリア・ロー・モナコ(アルト)
ヴォーカル・コンサート・ドレスデン(女声コーラス)
ペーター・コップ/ドレスデナー・インストゥルメンタル・コンサート

Carus/83.264




nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。