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没後200年、コジェルフ。 [2012]

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クラシックで、チェコというと、スメタナ(1824-84)の『我が祖国』に始まる国民楽派のイメージが強い... そして、ドヴォルザーク(1841-1904)の「新世界」に、ヤナーチェク(1854-1928)のシンフォニエッタ... 定番の人気作品が並ぶわけだけれど、それ以前については、あまり触れられることは無い。が、音楽史を丁寧に見つめたならば、チェコの音楽のピークは、国民楽派の面々が生まれる前、18世紀だったのではないか?と思わせる情景が浮かび上がって来る。18世紀、古典主義の時代、ハイドン、モーツァルトのすぐ傍で、ハイドン、モーツァルトと肩を並べて活躍したチェコ出身の作曲家たち。ナポリ楽派の華麗さは無いにしても、ナポリ楽派を凌ぐほどの作曲家をヨーロッパ中に送り出した、驚くべき地、チェコ。18世紀のイギリスの音楽学者、チャールズ・バーニー(1726-1814)は、チェコを「ヨーロッパのコンセルヴァトワール」と評したほど... この史実、今、あまり伝えられていないことが、もどかしい... ということで、国民楽派以前のチェコ出身の作曲家に注目してみる!
ヤロスラフ・ティエル率いる、ヴロツワフ・バロック管弦楽団の演奏で、今年、没後200年を迎えたコジェルフから、レイハ、ヴォジーシェクと、古典主義からロマン主義へとうつろう時代の、チェコ出身の作曲家による交響曲(CD accord/ACD 148)を聴く。

レオポルト・コジェルフ(1747-1818)。
モーツァルトが生まれる9年前、プラハから北へ10Kmほど行った町、ヴェルヴァリの靴職人の家に生まれたコジェルフ。多くのチェコ出身の作曲家同様、チェコの全てのこどもたちを対象としたチェコ独自の音楽教育(当時、都市部から農村部まで、チェコの小学校では、読み書きと同様に音楽も教えていた... )の恩恵に預かったコジェルフ。しっかりと基礎的な音楽を、地元、ヴェルヴァリで身に付けた後、プラハに出て、すでに音楽家として活躍を始めていた従兄、ヤン・アントニーン・コジェルフ(1738-1814)の下で本格的に音楽を学ぶ。その後、プラハを拠点としていたピアニストで作曲家、デュシェック(1731-99)の学校でも学び、1771年にバレエのための音楽を作曲し、作曲家デビューを果たす。以後、1778年まで、プラハにて地道に経験を積んだ後、いざハプスブルク帝国の首都、ウィーンへ!まずはピアニストとして成功すると、ピアノ教師としても名声を博し、間もなくハプスブルク家の皇族たちを教えるまでに... このコネクションにより、宮廷音楽教師の地位を得る。さらに、自らの作品の出版を切っ掛けに、楽譜出版社を立ち上げ、成功(モーツァルトの作品も手掛けている... )。そして、モーツァルトが世を去った翌年、1792年には、宮廷楽長に就任し、楽壇の頂点に上り詰める。
という、コジェルフの交響曲を聴くのだけれど、ここで聴くハ長調の交響曲(track.1-4)は、1780年代に作曲された作品で、1787年に、自らの楽譜出版社から6つの交響曲のセットとして、2つに分けて出版された後半の3つ(Op.24)の1曲目にあたるもの... それはまさにウィーン古典派の全盛期の交響曲!ハイドンに負けない堂々たる序奏で始まる1楽章には、疾風怒濤の記憶が残るようなところもあるのだけれど、旧時代の荒ぶる表情に、次なる時代の鬼才、ベートーヴェンを予感させる感覚もあって、なかなか興味深く... 続く、2楽章、ポコ・アダージョ(track.2)では、一転、モーツァルトを思わせる愉悦に包まれて、麗しい!3楽章のメヌエット(track.3)では、アンシャン・レジームの豪奢さに彩られて、古き良き時代が輝いている!そして、終楽章(track.4)... まさしくモーツァルト風!なのだけれど、よくよく聴いてみれば、モーツァルトよりも無駄無く音楽を構築できていて、実に軽快!この軽快さが、モーツァルトっぽさにつながるのだけれど、モーツァルトの交響曲では、絶対にこの軽快さは味わえないのだよね... いや、モーツァルトを向こうに回して名声を得ていただけはある、充実した音楽!才能犇めくウィーン古典派だけれど、コジェルフという存在も、もっともっと注目されていいはず...
そんなコジェルフの後で、2人のチェコ出身の作曲家の交響曲が取り上げられるのだけれど、これがまた興味深い!ベートーヴェンと同い年で、まさにベートーヴェン世代、ベートーヴェンの同僚でもあったレイハ(1770-1836)と、シューベルトの6つ年上、ポスト古典主義世代、ヴォジーシェク(1791-1825)の交響曲... まず、1800年、パリで書かれたというレイハの変ホ長調の交響曲(track.5-8)は、ベートーヴェンの時代が到来したことを告げる堂々たるサウンドを響かせて、「英雄」(1804)を予感させる大胆さも見受けられ、コジェルフからは格段にスケールが大きくなっていることに感心。続く、ヴォジーシェクのニ長調の交響曲(track.9-12)は、1823年の作品。ということで、ベートーヴェン的な剛健さがありながら、さらにその先へと歩みを進めている音楽が展開されていて... よりメロディックで、民俗調なところもあり、ロマン主義の時代の到来を意識させられる。何より、ダイナミック!コジェルフからすると、隔世の感すらある。そして、そこが、おもしろい!古典主義からロマン主義へ、その進化の歩みが見事に提示され、今さらながらに交響曲はこんな風に成長して行ったのだなと感慨深い。で、その成長を雄弁に響かせるチェコ出身の作曲家たちの力量にも感心してしまう。
しかし、それぞれに魅力的な交響曲である。で、その魅力を、さらに増して響かせるティエル+ヴロツワフ・バロック管の演奏がすばらしい!いや、3つの交響曲、活き活きと響かせて、今となっては有名どころの陰に隠れてしまった音楽を、有名どころに引けを取らない魅力を、堂々と繰り出して、惹き込んで来る。また、3つの交響曲のそれぞれの時代の空気感を巧みに引き立たせ、古典主義からロマン主義へとうつろう時代を、ホップ・ステップ・ジャンプ!と聴かせてくれるから、おもしろい。ピリオド・オーケストラで、異なる時代を縦断することはそう簡単な話しではないと思うのだけれど、ごく当たり前のようにホップ・ステップ・ジャンプ!を体験させてくれるから、彼らの柔軟性には恐れ入る。それにしても、チェコが凄い... このアルバムがいろいろ楽しいのは、18世紀、チェコの音楽教育の地力の凄さの一言に尽きる。

KOŽELUH ・ REJCHA ・ VORÍŠEK
WROCŁAW BAROQUE ORCHESTRA / THIEL


コジェルフ : 交響曲 ハ長調 Op.24-1
レイハ : 交響曲 変ホ長調 Op.41
ヴォジーシェク : 交響曲 ニ長調

ヤロスワフ・ティエル/ヴロツワフ・バロック管弦楽団

CD accord/ACD 148




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